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人材育成の課題10パターンと優先順位付け・打ち手選定の実務ガイド

「人材育成の課題」というと、業務多忙、指導力不足、効果測定が困難といった様々な課題が思い浮かぶのではないでしょうか。ただ、それらを並べただけでは「自社では何から手を付けるべきか」の答えは出ません。

本記事では、10個のよくある課題の整理から、インパクト×実行難易度による優先順位付けフレーム、5つの育成手法の比較、行動変容と3か月後測定の設計思想までを解説します。

この記事でわかること

  • 人材育成でよくある課題10パターンと、それぞれの発生原因
  • 「インパクト×実行難易度」で自社の課題に優先順位を付ける方法
  • 課題タイプ別の解決手法(OJT/OFF-JT/eラーニング/コーチング/1on1)の選び方
  • 「わかる」で終わらせず「できる」まで定着させる打ち手の設計と成果の可視化

人材育成でよくある課題10パターンと発生原因

人材育成の課題は「現場側で起きるもの」と「制度・仕組み側で起きるもの」に大別できます。両者は独立ではなく連鎖するため、うまくいっていない兆候だけでなく原因を捉えることが優先順位付けの前提になります。

現場側で起きる5つの課題

現場側では、日々のマネジメントと業務のなかで多くの課題が発生します。「育成に時間が割けない」「教える側のスキルが足りない」といった、管理職・OJTトレーナーが実感する困りごとが中心です。

#

課題

主な兆候

発生原因

1

業務が多忙で育成時間が確保できない

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)設計が場当たり的、1on1が頻繁にキャンセルされる

プレイングマネージャー的状況、業務配分の見直し不足

2

指導者のスキル不足

教え方が属人的、フィードバックが感情的

OJTトレーナーの育成不足、指導原則の未共有

3

育成目標が曖昧

「一人前」の定義が人によって違う

スキル要件の未定義、期待役割の未言語化

4

部下との信頼関係不足

1on1で本音が出ない、指導が響かない

心理的安全性の欠如、対話設計の不在

5

世代間ギャップ

Z世代への指導が空回りする

価値観の理解不足、モチベーション設計の画一化

制度・仕組み側で起きる5つの課題

もう一方の制度・仕組み側の課題は、育成体系や評価制度、研修設計といった構造レベルで起きます。現場の頑張りではカバーしきれない領域です。

#

課題

主な兆候

発生原因

6

育成体系が経営戦略と連動していない

研修カタログはあるが、戦略との紐付けが説明できない

中期経営計画とスキルマップ、育成計画の分断

7

効果測定ができない

「やって終わり」で経営層に成果を報告できない

KPI(重要業績評価指標)未設計、行動変容の観測点がない

8

評価制度と連動していない

研修受講が評価に反映されない

育成と評価の運用主管が分離

9

階層別施策に偏りがある

新入社員研修は充実しているが中堅・管理職が薄い

対象階層ごとの成長課題の未整理

10

リスキリング・DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応遅れ

全社的に学び直し機会がない

業務変化のスピードに育成が追いつかない

課題が連鎖する構造

ここで挙げた10個の課題は独立して起こるものではなく、それぞれがお互いに原因となり、別の課題へと連鎖します。しかも連鎖は一本の直線ループではなく、主体ごとに別々のループが並行して回っています。ここでは3つの主体別ループに分けて整理します。

①現場側の管理職で起きるループ

「業務多忙(課題1)→ 指導者スキル不足(課題2)→ 部下が育たない → 任せられない → 業務多忙(課題1)」というループです。プレイングマネージャー的状況から抜け出せない管理職ほど、このループに強く縛られています。

②現場側の若手・中堅で起きるループ

「受け身の姿勢 → 与えられた目標・業務に閉じる → 成長実感がわかない → 目の前の業務に120%取り組もうとしない →受け身の姿勢」というループです。「主体性の不足」を若手個人の資質と捉えると打ち手を誤ります。若手個人の力でこのループから抜け出すのは難しいため、組織としての対応が必要です。

③人事側で起きるループ

「育成目標が曖昧(課題3)→ 効果測定ができない(課題7)→ 経営層への説明不能 → 予算削減 → 単発施策のみの実行 → 育成目標が曖昧(課題3)」というループです。「予算がつかないから単発施策しか打てず、単発施策だから成果が出ず、成果が出ないから予算がつかない」という構造に陥りやすいです。

重要なのは、ある課題が見えているとき(例: 若手が成長実感を持てず、モチベーションを下げている)に、若手本人に起こっていることだけでなく、周囲の環境(上司側・人事側)で起こっていることにも目を向けることです。 若手のモチベーション低下は、上司側のループ①と人事側のループ③に同時に影響を受けている、というシステム的な視点が優先順位付けの土台になります。

ここで挙げた10の課題に取り組む際には、「どのループのつながりを解きほぐせば連鎖が止まるか」という視点で優先順位を付ける必要があります。

【階層別】人材育成の課題

10個の課題のうち、どれが顕在化しやすいかは階層によって大きく異なります。一律の施策では現場から不満が出るため、階層別に課題の重心を捉え直します。

階層

顕在化しやすい課題

効きやすい打ち手

新入社員・若手

目標が曖昧 / 世代間ギャップ / 主体性不足

マインドセット研修 + OJTトレーナー育成 + 1on1の定着

中堅社員

伸び悩み / 後輩指導力の不足 / モチベーション低下

内省型ワークショップ + 越境学習 + 選抜育成

管理職

プレイヤーからの脱却が困難 / マネジメントスキル不足 / 部下との信頼関係が不足

内面変容型研修 + コーチング + 3か月後行動測定

経営幹部候補

経営視点の不足 / 変革推進力の不足 / 事業構想力の不足

ケースメソッド + アクションラーニング + 経営者との対話機会

新入社員・若手の課題

新入社員の主体性を引き出すには、自主性を「重荷」と感じさせず日常業務に自然に組み込む設計が必要です。近年の新入社員は「目立ちたくない」「平均化・埋没を選びやすい」傾向が指摘されており、抽象的に「主体性を持て」と伝えるだけでは行動に結び付きません。1on1とOJTトレーナー育成をセットで整備し、指導が属人化しない仕組みを作ることが実務上の起点になります。
新入社員・若手の課題について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:新入社員によくある12の課題例と育成方法【最新レポートから読み解く】

中堅社員の課題

中堅社員向けの個別最適な育成設計を欠かすと、後年の管理職層への昇格時に問題が顕在化します。中堅社員は階層別研修の谷間に落ちやすい層で、新入社員研修は手厚く、管理職研修は明確な一方、中堅は「日常業務で成長するはず」と放置されがちです。伸び悩みの兆候が見えた時点で、内省型ワークショップや越境学習など、日常業務では得にくい機会を設計しておく必要があります。
中堅社員の課題について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:中堅社員の伸び悩みが起こる要因とは|解決策と育成成功のポイント

管理職の課題

管理職の最頻出課題はプレイヤーから脱却できないことです。研修で覚えた知識を現場で使うことができないケースが散見されます。研修設計を「わかる」で止めず、3か月後の行動測定まで組み込むことが不可欠です。
管理職研修について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:管理職研修の目的と内容は?研修の種類とおすすめカリキュラムをご紹介【事例あり】

経営幹部候補の課題

経営幹部候補には、部門最適の思考から全社最適・事業構想への視座転換が求められます。座学だけでは獲得しにくく、実在の経営課題に取り組むアクションラーニングと、経営層との対話機会の設計がセットで必要です。
経営幹部候補の育成について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:幹部候補の育成方法とは?選抜方法や人事が知っておくべきポイント

課題の優先順位付け方法

ここでは意思決定フレームとして「インパクト×実行難易度マトリクス」を使います。

インパクト×実行難易度マトリクス

各課題を「事業へのインパクト(経営成果への影響度)」と「実行難易度(投入コスト・期間・関係者調整の重さ)」の2軸で評価し、4象限に配置します。

象限

インパクト

実行難易度

取り扱い

A: 最優先

今期中に着手 — 予算・工数を最初に確保

B: 戦略投資

中期計画に組み込む — 段階的着手、経営層との合意が必須

C: 短期改善

並行で回す — 現場改善レベルで小さく着手

D: 保留

今期は着手しない — 明示的に「やらない」と決める

マトリクス記入手順

  1. 10個の課題を1枚のシートに書き出す(自社の現状に応じて追加・削除する)
  2. インパクトを「経営指標への影響」で3段階評価(高・中・低)— 例: 離職率、生産性、顧客満足度への寄与
  3. 実行難易度をで3段階評価— 例: 予算・期間・関係者調整
  4. 4象限に配置し、A象限から順に着手計画を作る
  5. D象限は「今期はやらない」と明示的に意思決定する

このマトリクスを 上司との合意形成の場に持ち込むことで、意思決定と社内決裁がスムーズに進むでしょう。「なぜこの課題を今期やるのか」「なぜあの課題を後回しにするのか」を、経営層が納得する形で説明できるからです。人材育成の予算獲得が難しい理由の多くは、この意思決定ロジックの不在にあります。

🔗おすすめ資料:新入社員育成計画書テンプレート

課題別の解決策と手法選定

課題が特定できたら、次は打ち手の選定です。ここで「eラーニングが流行っているから」「1on1がトレンドだから」といった理由で選ぶと、課題と手法がずれて形骸化します。手法は中立に比較し、課題タイプごとに選定します。

5つの育成手法の比較

手法

得意領域

デメリット

向く課題タイプ

OJT

実務スキルの習得、暗黙知の伝承

指導者に依存する、標準化が困難

業務スキル・実務判断力

OFF-JT

(集合研修)

体系知識の獲得、同期の連帯

現場転移が起きにくい

マインドセット変容、階層別役割理解

eラーニング

反復学習、自分のペース

動機付けの維持が難しい、深い対話ができない

知識インプット、コンプライアンス

コーチング

内省と行動変容、個別最適

コストが高い、効果測定が困難

管理職・幹部の意識変容

1on1

信頼関係の構築、日常の軌道修正

上司のスキルに依存

信頼関係、モチベーション、キャリア支援

課題タイプ別の選定フローチャート

  • 知識インプット系(制度理解、業務手順)→ eラーニング + 確認テスト

  • スキル習得系(実務判断、対人スキル)→ OJT + OFF-JT のブレンド

  • マインドセット変容系(階層役割、当事者意識)→ OFF-JT + 3か月後行動測定

  • 信頼関係・モチベーション系 → 1on1 + 上司のコーチングスキル育成

  • 個別最適・幹部育成系 → コーチング + アクションラーニング

1on1について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:1on1とは?話すことの例や意味がないと言われないための進め方

行動変容と成果の可視化を叶える方法

人材育成の投資対効果を経営層に説明するには、行動変容と成果の可視化が不可欠です。

「わかる」で終わらせない設計思想

育成施策の直後のアンケートで満足度が高くても、3か月後に現場行動が変わっていなければ、投資は成果につながっていません。研修設計の起点は「受講後にどの行動が、どの頻度で、どの質で発揮されているか」を先に定義することです。研修コンテンツは、その行動を発揮できる状態に持っていくための手段にすぎません。
弊社アルーは行動変容と成果測定を組み込んだ「階層別研修」を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。
階層別研修

3か月後測定と行動指標

行動変容を測るには、以下の3点を研修設計時に決めておきます。

  • 観測する行動(例:部下との1on1で本人の言葉を引き出す質問を3つ以上使う)

  • 観測方法(自己評価 / 上司評価 / 部下からの360度評価)

  • 観測タイミング(研修直後・3か月後の2回測定が基本)

3か月後測定を組み込むと、単なる満足度ではなく「投資が現場に定着したか」を経営層に報告できます。
研修効果測定について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:研修効果測定のやり方とは?4段階評価モデルや具体的な指標を解説

カークパトリック4段階との対応

効果測定の代表的なフレームである「カークパトリック4段階評価」との対応で整理すると次の通りです。

レベル

評価対象

観測方法

Level 1 反応

受講直後の満足度・理解度

研修終了時アンケート

Level 2 学習

知識・スキルの習得

確認テスト、ロールプレイ評価

Level 3 行動

現場での行動変容

3か月後の自己/上司/360度評価

Level 4 成果

事業成果への寄与

KPI(離職率、生産性、顧客満足度)の推移

多くの企業はLevel1で止まっており、Level3まで到達している企業は少数です。Level3の観測を組み込むだけでも、経営層への説明力が大きく変わります。

人材育成の課題解決に取り組んだ企業事例

大手情報通信業の管理職層に対して、360度サーベイによる客観的な課題抽出を起点に、カスタマイズしたソリューションを提供し、行動レベル(Level 3)までの効果測定と KGI である360度スコアのモニタリングまでを一気通貫で設計した事例を紹介します。「毎年同じ管理職研修を回している」という形骸化に陥らず、サーベイ結果を起点に打ち手を毎年アップデートする運用に転換した事例です。

大手情報通信業における管理職の課題抽出と行動定着

規模・対象者

大手情報通信業の管理職層 100名超を対象に、マネジメント強化プログラムとして実施しました。

課題

「毎年管理職研修は実施しているが、受講者から見た内容と、現場で実際に発揮すべきマネジメント行動との間にズレがある」という課題が顕在化していました。研修満足度は一定水準を保っていた一方、経営から見たマネジメントの質の向上実感が薄く、Level 1 の指標だけでは投資対効果を説明できない状態でした。何を鍛えるべきかを客観データに基づいて特定することから始める必要がありました。

実施した施策

360度サーベイを起点にした3ステップで設計しました。

  1. まず全対象者に360度サーベイを実施し、上司・同僚・部下からの多面評価によってマネジメント上の課題を客観的に抽出
  2. 抽出された課題群を集約し、そのうち組織パフォーマンスに直結し、かつ変容余地が大きい領域に絞ってカスタマイズされた研修プログラムを設計(メンバーの声を活かす対話型マネジメント、部下の自律を引き出す関わり方等)
  3. 研修後は Level 1(満足度)・Level 2(学習)に加えて Level 3(現場での行動変容)までを測定し、その上でKGIである360度サーベイのスコアを継続モニタリングする

単発の集合研修ではなく「サーベイ→設計→実践→再サーベイ」の循環運用として組み立てた点がポイントです。

成果

受講者からは、「これまでの上位下達のやり方だけではなく、チームメンバーの声を活かしていくマネジメントも両立することが大事だと気づいた」「自分が上司から受けてきたマネジメントスタイルを是としていたが、それだけでは不足していることがわかった」といった声が確認できました。自分のマネジメントスタイルを客観視した上で、新しいマネジメントスタイルも取り入れて試行錯誤する姿勢を持てていることが確認できた点が、Level3の行動変容の兆しとして観測されています。360度スコアは継続モニタリング中です。

設計のポイント

「経営や現場が感じているマネジメント課題は何か」を先入観や単年の勘で決めず、360度サーベイという客観データから抽出したことが最大のポイントです。抽出課題に応じて研修内容をカスタマイズすることで、「今年もあの管理職研修か」という形骸化を制度的に防ぎました。加えて Level 3 と KGI(360度スコア)を接続することで、「研修を実施した」ではなく「マネジメント行動が変わり、それがサーベイスコアに現れているか」で投資対効果を語れる状態を構築しています。

まとめ

よくある人材育成の課題を解決するには、本記事で紹介した以下のフレームを活用しましょう。

  • 課題の特定:現場側5課題 + 制度側5課題 = 10パターンで自社を診断
  • 優先順位付け:インパクト×実行難易度マトリクスで4象限に配置、D象限は明示的にやらない
  • 打ち手選定:OJT/OFF-JT/eラーニング/コーチング/1on1 を比較、課題タイプで選定
  • 成果の可視化:カークパトリック Level 3(行動変容)を3か月後測定で観測

このフレームをそのまま上司・経営層への説明資料に転用できる粒度で持ち帰り、次の一手を決めていただくのが本記事のゴールです。組織の規模・業種・文化によって最適解は異なるため、自社の文脈に落とし込むフェーズでは、設計思想を共有できるパートナーとの対話が有効です。

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よくある質問(FAQ)

Q

人材育成の課題は、まずどれから手を付ければ良いですか?

A

記事内で紹介した「インパクト×実行難易度マトリクス」で10個の課題を4象限に配置し、A象限(高インパクト・低難易度)から着手するのが基本です。多くの企業では「OJTトレーナー育成」「1on1の型化」「管理職の役割再定義」がA象限に入りやすい傾向があります。

Q

研修の効果測定はどこまでやるべきですか?

A

最低限、カークパトリック Level 3(行動変容)を測定することを推奨します。研修直後の満足度(Level 1)だけでは経営層への説明力が弱く、投資継続の合意形成が難しくなるためです。3か月後の自己評価と上司評価の2軸測定から始めるのが現実的です。

Q

eラーニングとコーチング、どちらを優先すべきですか?

A

課題タイプで決まります。知識インプット系(制度理解、業務手順)はeラーニング、内省と行動変容が必要な管理職・幹部の意識変容にはコーチングが向きます。

Q

中堅社員の育成が薄くなりがちなのはなぜですか?

A

「日常業務で自然に育つはず」という前提が置かれやすいためです。しかし中堅期の伸び悩みを放置すると、次の管理職昇格タイミングで一気に問題が顕在化します。内省型ワークショップや越境学習など、日常業務では得にくい機会の設計が有効です。

アルー株式会社
アルー株式会社
20年以上、企業向けに人材育成コンサルティングや研修を提供してきた。新入社員・管理職といった階層別研修や、海外駐在員やグローバルリーダーなどのグローバル人材育成、DX人材育成に強みを持つ。その実績は取引企業総数1400社以上、海外現地法人取引社数400社以上に及ぶ。京都大学経営管理大学院との産学連携など、独自の研究活動も精力的に行っている。
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