異文化コミュニケーションとは?ビジネスの場で大切なこと・必要なこと7つのポイント
異文化コミュニケーションという言葉は、グローバル化が進む社会においてますますよく耳にするようになりました。
一方で、ビジネスを国際的に発展させようと考える企業にとって、避けて通れない課題でもあります。
この記事では異文化コミュニケーションについて、その歴史からビジネスの場で役立つ7つのポイントまで詳しく解説いたします。
より深く知るための『オススメ』お役立ち資料
目次[非表示]
ビジネスにおける異文化コミュニケーションとは?
異文化コミュニケーションとは、性別や年齢、出身国、商習慣が自分とは異なる相手とのコミュニケーションを指します。
多くの方にとって異文化コミュニケーション=外国人との交流を想像するかもしれませんが、実際には国籍の違いだけが異文化ではないのです。異なる環境や価値観を持つ相手と、言葉やボディーランゲージでやりとりをすることが異文化コミュニケーションです。
社会全体のグローバル化が進み、異文化コミュニケーションはビジネスの場においても多くの方が経験するものとなりました。
例えば、自社に海外出身の新入社員が入社したり、取引先が海外企業だったりといった場面では異文化コミュニケーション能力が求められます。
グローバル人材に必須の能力
今や業種や職種を問わず異文化交流の場面は訪れますが、中でも異文化コミュニケーション能力が必須なのは「グローバル人材」とされる社員です。
グローバル人材とは、国をまたいだビジネスにおいて活躍できるスキルを持つ人材です。ただ語学ができればいいというわけではなく、他国の文化への理解や国際的な視野を持っている人物がグローバル人材となり得ます。語学以外に求められる必須スキルとして、異文化コミュニケーションも含まれているのです。
これからグローバル人材になりたい方や、自社でグローバル人材を育成したいと考えている方は、改めて異文化コミュニケーションとは何かについて知っておくと良いでしょう。
異文化コミュニケーションの歴史
異文化コミュニケーションが学問の分野として確立されたのは1970年代に入ってからと言われています。
きっかけは、IBMの社員であったオランダ人のG・ホフステードが、国によって価値観や問題解決の方法が違うことに気づき、世界各国の支社で働く社員に対して実施した意識調査です。
この調査は、国籍が違うこと以外は「IBM社員」という似た属性を持つ人物に対して行われたことで、国民文化の違いだけを浮き彫りにするには非常に効果的な方法であったのです。
結果として、国籍による文化の違い=文化的性質によって思考や行動が変わることがわかりました。
ホフステードは、このように文化によって思考や行動の違いが顕著に見られる局面を「文化的次元」と名付け、以下の5つを提唱しました。
- 権力格差(をどれだけ容認するか)
- 個人主義 vs 集団主義
- 男性らしさ vs 女性らしさ(自己主張の強さが望ましいか)
- 不確実性の回避(不確実性の高いものを危険と捉えるか)
- 長期志向か、短期志向か
出典:G・ホフステード=G・J・ホフステード=ミンコフ 『多文化世界─違いを学び未来への道を探る』
このように、国籍による文化の違いは様々な面で思考や行動の違いとして表れます。グローバル環境で働く社員には、こういった違いを理解することが求められます。
監修者からひとこと |
異文化コミュニケーション力が必要な理由
異文化コミュニケーション力が求められる理由として、以下の2点が挙げられます。
- 日本国内の外国人労働者の増加
- 海外に進出したいと考える日本企業が多い
令和4年の厚労省の調査によると、外国人を雇用する事業所数及び外国人労働者数ともに、届出が義務化された平成 19 年以降、過去最高を更新しました。
参考:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和4年 10 月末現在)
国内で働いていたとしても、外国人とともに働く機会が増えていると言えるでしょう。
また、海外に進出したい、海外での事業展開をより拡大したいと考える企業もあります。
JETROが2022年に行った調査によると、既に海外拠点を持つ企業の内43.5%が「今後3年程度でさらに海外展開の拡大を図る」と回答しています。また、現在は海外拠点を持たない企業においても、「今後新たに進出したい」と回答した割合は40.9%に上ります。
参考:2022年度|ジェトロ海外ビジネス調査 日本企業の海外事業展開に関する アンケート調査
このように、ビジネスを行う上では国内外問わず、外国人との協働や取引が欠かせなくなってきています。そのため、異文化コミュニケーション力が広く求められるようになってきているのです。
監修者からひとこと |
異文化コミュニケーションの課題・失敗例と解決方法
それでは、実際のビジネスの場において起こりがちな異文化コミュニケーションの問題例とその解決方法を紹介していきます。
仕事の優先度が日本人と異なる
日本以外の国では、生活における「仕事」の優先度があまり高くない場合があります。異文化コミュニケーションがとれなかったことによる失敗例をみてみましょう。
- 日本企業のインド支社でのこと。仕事の途中で定時になり、インド人の社員が帰る準備を始めた。残業をして仕事を終わらせるように伝えたところ「今日は家族と食事をするので残業はしません」とはっきり断られた。「頼まれた仕事に責任感を持て」と叱り、強引に残業をさせた。
こちらのケースは、「日本では当たり前に優先される仕事が、海外では優先されなかった」という認識のずれによって起こった問題です。
残業を断るということは、仕事に対するやる気がない・仕事を軽視しているという風に考えて現地スタッフを責めてしまうというのは好ましくない対応です。きっとこの現地スタッフにとっての日本人駐在員に対するイメージは下がってしまうことでしょう。
解決策としてはまず、国の文化によって仕事よりも家族や宗教を大切にする場合があるということを理解することです。残業を依頼して断られた場合は、「やるのが当たり前だろう」といった文脈で責めるのではなく、本人が仕事よりも重要視しているものがあることを理解している姿勢を見せましょう。その上で、この仕事を今日終わらせないとどのような問題が起こるかといった具体的な説明をして説得をします。
コミュニケーションスタイルが日本人と異なる
日本文化で言うところの「察する」「空気を読む」というようなコミュニケーションスタイルは、世界共通ではありません。このことによる異文化コミュニケーションの失敗例をみてみましょう。
- 海外支社でのこと。業務時間中でありながら、現地スタッフである部下がスマホのSNSを眺めて遊んでいる様子が目に入った。業務に戻るべきだと自分で気づくだろうと思い、イライラした様子をあえて見せるようにしていたが一向にスマホをやめないので、「何をしているのか」と尋ねた。彼は「今日頼まれていた仕事は終わりました」と答え、平然としていた。
このようなことがあった際に、「なんて不真面目なんだ」と思ってしまうのは良くありません。なぜなら、こちらがイライラした態度を取るだけで直接注意をしなかったということは現地スタッフにとって「重要ではないから何も言わないのだ」と受け止められ、黙っている限り真剣に取り合ってもらえないためです。
このようなケースでは、相手に任せた仕事の重要性をきちんと言葉で伝えることが大切です。解決策としては、スマホを眺めているのが目に入ったら「終わったなら声をかけてください。成果物を確認したいので」と一言伝える、といったことを意識してみましょう。
ローコンテクスト問題
こちらもコミュニケーションの取り方の違いによる問題です。さっそく失敗例をみてみましょう。
- 日本企業の海外支社にて。現地スタッフに、エクセルで分析結果をレポートにまとめるよう指示をした。提出されたレポートに目を通したところ、あまり良い出来ではなかった。その意図が伝わるように呆れた表情でため息をつきながら「まあOK。受け取ります」と言ったところ、現地スタッフは嬉しそうに席に戻り次の業務に取り掛かっていた。
これが表題の「ローコンテクスト問題」の典型的なケースです。ローコンテクストとは、前提となる文化の違いや知識がなくても相手に伝わるシンプルかつ明快なコミュニケーションです。一方、ハイコンテクストとは暗黙の了解を前提とした行間を読むコミュニケーションであり、日本人はハイコンテクストに偏りがちと言えます。
先ほどの失敗例に戻りましょう。この場合、現地スタッフは「OK」と言われたからレポートのクオリティは十分なのだと思いました。
解決策は、求めるレベルに達していないものが提出された場合には「どこまで求めているのか」の水準を具体的に伝えることです。グローバルな職場で働く場合にはこのハイコンテクスト・ローコンテクストの違いをしっかり意識するよう心がけましょう。
時間や期限を守らない問題
こちらは、日本人にとっての異文化コミュニケーションのトラブルとして非常によくあるケースです。まずは失敗例をご紹介いたします。
- グローバルなビジネス展開を狙っている日本企業。さっそく現地のニーズをヒアリングするため、海外企業の技術部門のマネージャーに1ヶ月後のアポイントメントをとり、現地へと飛んだ。アポ当日、企業のオフィスに訪問したが約束の時間になっても担当者は現れず、別の営業担当者が対応することに。しかし、技術部門のマネージャーではないため聞きたかった詳細な情報はヒアリングすることができずに終わってしまった。
日本からわざわざ海外出張をして訪れたのに、担当者が現れず成果が得られなかったという問題です。まず、日本における時間や約束の概念は必ずしも他の国でも通用するというわけではありません。むしろ、日本よりも柔軟な考え方をする国の方が多いと言えます。
この失敗例では、1ヶ月後という遠い日程でアポイントメントをとってしまったことで先方が忘れてしまった、または別の予定を優先してしまったという可能性が考えられます。
解決策としては、アポ当日を迎える前に予定を確認するフォロー連絡を入れ、商談の機会があることを先方に意識付けることが必要です。日本企業同士では「不躾だ」などと考えてしまうかもしれませんが、異文化コミュニケーションにおいては相手と認識が合っていることを繰り返し確認することは決して失礼ではありません。
非言語コミュニケーションの受け取り方が異なる
異文化コミュニケーション不足によるトラブルは、言語のやりとりだけではありません。態度や姿勢といった非言語コミュニケーションの受け取り方の違いでも起こり得ます。 こちらも、失敗例を見てみましょう。
- グローバルな人材が働く日本企業でのこと。一人のインド人を含めた複数人のチームが、思うように成果を上げられず上司から注意を受けていた。インド人の社員は以前から「きちんと相手の目を見て話を聞きなさい」と教わっていたので、叱責する上司の目を見続けていた。他の日本人社員は反省の態度を示すためうつむいていたがインド人だけ顔を上げて上司と目を合わせていたため、逆に「その反抗的な態度はなんだ!」と怒られてしまった。どちらも不快な気持ちになり、仕事上の信頼関係が崩れてしまった。
この場合は、インド人の社員に日本の文化を説くのではなく、注意をする上司が異文化コミュニケーションを学ぶことが一番の解決策でしょう。
「反省の色が見えない」「態度で示せ」というような考え方は先ほど紹介したハイコンテクストなコミュニケーションであり、日本特有のものと言えます。これを正としてグローバルな人材に押し付けるのではなく、企業側が異文化コミュニケーションを学び、実践して意識をアップデートすることがベストです。
非言語コミュニケーションについて詳しくは以下のページをご覧ください。
『非言語コミュニケーションとは?重要性やビジネスでの活用例を解説』
上司に対する言葉遣い問題
こちらは、日本では当たり前とされている「礼儀」といった曖昧なルールを押し付けてしまうというケースです。失敗例をみてみましょう。
- グローバルな人材が働く日本企業でのこと。アメリカ人の部下に、年配の上司が仕事を依頼したがそれは彼の業務範囲内ではなかった。そのため、アメリカ人の社員は「その仕事はやりたくありません」とはっきりと告げた。すると上司は「目上の人間に対してその言葉遣いはなんだ!」と言って腹を立ててしまった。アメリカ人の社員は、なぜそこまで怒るのか理解できない様子だった。
特に英語圏では、自分の意思をシンプルにはっきり伝えることが当たり前の文化です。一方日本語では、ストレートに伝えるのはマナー違反という考え方があります。
異文化コミュニケーションがきちんと定着している職場なら、今回の失敗例のようなことがあってもアメリカ人の社員が伝えたかった内容をきちんと汲み取って、納得をしたり逆に説得をすることができるでしょう。本人に、相手を傷つけ失礼をはたらこうという意図があったわけではないことを理解し、はっきり意思を伝えるのが当たり前だという文化を尊重することが大切です。
監修者からひとこと |
異文化コミュニケーションにおいて大切なこと・必要なこと
日本特有の文化を「常識」と思い込み、それに外れた行動・言動をする相手を「非常識」と決めつけてしまう態度が原因で異文化の相手とのコミュニケーションがうまくいかないケースが多くあります。
また、日本では当たり前、と考え、異なる文化圏での思考や行動が想像できなかったことが原因となることもあります。
異文化コミュニケーションを円滑に行うには、まず自分自身の言動や考え方に日本文化が影響を与えていることを認識する必要があります。
文化は「メガネ」にたとえることができます。メガネを日常的に使用している場合、メガネを通して見た世界が当たり前の世界であり、自分がメガネをかけていることを意識する瞬間はほとんどありません。そのため、自分が「自国の文化」というメガネをかけていることを忘れてしまい、メガネ越しに見える世界が全ての人に共通で見えている世界だと勘違いしてしまうのです。
そこで、まずは自分が「自国の文化」というメガネをかけていることを認識し、そのメガネを意図的に外す必要があります。そうすることで、相手のことを客観的に理解して対応することができます。
この原則を踏まえて、異文化コミュニケーションにおいて意識すべき7つの点をご紹介します。
グローバル環境でぶつかる壁を知る
異文化について何も知らず、自分自身がかけている「メガネ」の存在にも気づかないままグローバル環境に身をおいてしまうと、先ほどご紹介したような失敗例が続いてしまうことでしょう。あのようなトラブルや衝突がグローバル環境でぶつかる「壁」です。
文化の違いを知る、と言いつつ、そもそもその「文化」とはなんなのかを考えてみましょう。
この場合の文化とは、芸術や食べ物、音楽のことではなく、暮らし方や感情の抑え方、コミュニケーションの仕方といった集団における固有のルールを指します。
生まれ育った国の文化は、あまりにも身近な存在であり、常識として根付いているため意識していないことがほとんどです。ところが、文化背景の異なる方と接することで私たちの常識が常識ではない場面に直面します。その時に、自分の文化を物差しにして相手と接して「常識」として押し付けたり拒絶をしたりするのではなく、客観的に違いを知って相手と接することが必要になります。これが異文化コミュニケーションが成功している状態です。
目に見える・見えない違いを意識する
自分と他者との間には、目に見える違いと見えない違いがあります。
- 見える違い…… 言語・外見・生活習慣 など
- 見えない違い…… 人生における優先順位・善悪の基準・価値観 など
この見えない違いがあることに気づき、意識できるようにすることが第一歩です。
続いて、相手の判断基準がどのようなものなのかを探します。
外国人社員の発言に対して言葉だけを受け取って腹を立てたり悪く評価したりしてはいけません。発言は「目に見える違い」であり、そこに隠れた「目に見えない違い」をきちんと考える必要があります。文化背景の異なる相手の判断基準を探すためには、自分から相手の文化に歩み寄る姿勢を持つことが重要です。
最後は、判断基準を知った上で自分の振る舞いを「選ぶ」ことです。
そのためには自分の振る舞いを認識しましょう。外国人社員に対して日本特有のハイコンテクストである「できるだけ早くこの仕事をして」と依頼してしまっていないでしょうか。
それでは、「できるだけ、ということは今はまだできないから後回しにしよう」と考える文化圏もあります。より正確に業務最優先を伝えるには「◯時までに」や「他の業務は後回しにして先にこれをやって」と伝えるべきです。
定期的に自分の言動を振り返り、第三者の視点で「こう言われたらどう思うだろうか」を考えましょう。すぐにできるようになることではなく、意識して自分自身で訓練することが大切です。
日本人のコミュニケーションを客観視する
これまで意識したことがなかった、日本では常識となっている「日本特有のコミュニケーション」を客観視してみましょう。
- 文化の違いを考慮せずに決めつけて話してしまう
日本では文化の同質性が高いため、良い/悪いの共有認識ができていることを前提としてコミュニケーションが始まることが多いです。
しかし、海外ではその前提は通用しません。最初から良い/悪いを決めつけて話してしまうことで以下のようなコミュニケーションの齟齬が発生します。
【例】
仕事でのミスに対して「まずは反省の言葉だ、言い訳はするな」と叱責する
→相手は「話を聞いてもらえなかった、自分の意見は尊重されない」と思ってしまう
- 指示が曖昧で具体性に欠ける
先ほどの失敗例で「ハイコンテクスト・ローコンテクスト問題」を取り上げましたが、日本ではハイコンテクストである暗黙の了解のコミュニケーションが多く行われています。
それをそのまま海外でやってしまうと、指示が曖昧でわかりにくいと捉えられてしまいます。
【例】
部下に対して「例の件、よろしく頼むよ。君に任せたからな」と声をかけ、仕事を依頼したことにする
→相手は一体どこまで自分の権限で判断して良いのか迷ってしまう
コミュニケーションスタイルの違いを理解する
「ハイコンテクスト・ローコンテクスト問題」はまさに、コミュニケーションスタイルの違いと言えます。この違いをさらに詳しく掘り下げていきましょう。
コンテクストとは、文脈や背景を指す英単語です。コミュニケーションがコンテクストに依存する度合いが高ければハイコンテクスト文化、低ければローコンテクスト文化となります。
- ハイコンテクスト文化
送り手のメッセージが抽象的で、受け手はそのメッセージから推測する内容が多くなります。
【例】
「あの件の準備はできていますか」「はい、(資料を)あちらに置いておきました」
日本は典型的なハイコンテクスト文化なので、上記のようなやりとりは職場でも多く行われているでしょう。
その他のハイコンテクスト文化の特徴は以下です。
- 生活習慣や文化背景、経験に共通する部分が多い文化圏である
- 言葉以外の表現(アイコンタクト、態度など)への依存が大きい
- あえて明確な表現を避ける …等
- ローコンテクスト文化
送り手のメッセージが具体的で、受け手はそのメッセージを推測する必要が少ないコミュニケーションです。
【例】
「昨日届いたB社の契約書のコピーを私の机に置いてください」「はい、課長の机のレターケースに入れておきました」
アメリカなどの多民族国家では特にローコンテクストなやりとりが主流となっています。
ローコンテクスト文化の特徴は以下です。
- 宗教や先祖の歴史的背景が多岐に渡る文化圏である
- 言葉への依存が大きい
- 発言そのものが、当人の主張する意味を表す
- 自身の考えや意思を相手に「明確に伝える」能力を示すことが、コミュニケーションをとる上で不可欠 …等
時間感覚の違いを理解する
文化圏によって時間感覚が違うということを理解することも大切です。
時間の感覚は、大きく分けて「予定通りに進める」と「柔軟に予定を変えていく」という2パターンがあります。
予定通りに進める、直線的な時間感覚は締め切りを重視しスケジュール通りに進めることを優先します。会議の時間や待ち合わせの時間にも遅刻しないように心がけます。
日本文化は、この直線的な時間感覚が強いとされています。
一方で、柔軟な時間感覚は、締め切りよりも同時に進行するタスクを重視します。プロジェクトは流動的であり、やや場当たり的に作業を進めます。柔軟性を重視するため、時間ちょうどに集まったり、締め切りまでに資料を仕上げるといったことはあまり優先しません。
このような時間感覚の差は、日常生活を進める上での天候や交通状況といった要素がどれだけ固定されているかによって生まれると考えられます。そのため、時間に遅れたからといって「適当な人だ」「時間にルーズな人だ」などと決めつけて判断してはいけません。
信頼関係の築き方の違いを理解する
ビジネスにおいて信頼関係の構築は重要です。文化圏が異なると、信頼関係を築くプロセスにも違いがあることを理解しておきましょう。
信頼関係の築き方は大きく分けて2つあります。「頭で信頼する・タスクベース」と「心で信頼する・関係ベース」です。
タスクベースは、ビジネスに関連した活動によって信頼関係が築かれます。特徴的なのは、人間関係もビジネスライクで案件によってくっついたり離れたりできるという点です。良い仕事をすればするほど、頼れる人だと認識され、信頼が深まります。
一方、関係ベースでは一緒に食事をしたりコーヒーを飲んだりといったプライベートな時間で信頼関係が築かれます。仕事の出来は信頼関係の構築に大きく関係しないのです。個人的な時間を過ごして相手を深く知ることで、信頼されるようになります。
タスクベースはアメリカや欧州で多く見られ、関係ベースはサウジアラビアやインドに多いようです。
日本も、どちらかというと関係ベースで信頼関係が構築される文化圏でしょう。
非言語的コミュニケーションの違いを理解する
言葉以外の目つきや表情、態度といった「非言語的コミュニケーション」は、どの国でも、どの文化圏でも行われています。しかし、同じ身ぶりでも受け取られ方が違うということは知っておきましょう。
まずは、非言語的コミュニケーションを軽んじないことです。自分の振る舞いが人に影響を与えていることを意識しましょう。
日本人と外国人の非言語的コミュニケーションでよくあるのが、アイコンタクトについての考え方の違いです。
日本人にとっては、相手と一対一で話している時でも、相手の目を長く見続けることは失礼にあたるため時々目を逸らします。しかしそれは異なる文化圏においては「こちらの目を見ないということは、自信がないのか」という風に捉えられてしまうことがあるのです。
逆に日本人にとって外国人と話している時長く目を見つめられると、「なぜそのように睨むのだろう」と萎縮してしまいます。
相手の文化圏では普通のことであることを事前に理解していれば、非言語的コミュニケーションを誤って受け取ってしまうことは無くなるでしょう。
非言語コミュニケーションについて詳しくは以下のページをご覧ください。
『非言語コミュニケーションとは?重要性やビジネスでの活用例を解説』
監修者からひとこと 異文化を知る、異文化コミュニケーション力を向上させるために必要なことは、知識を習得することはもちろんですが、それ以上に異文化環境に身を置くことが重要です。四六時中異文化の方と接することによって、苦労やストレスを感じることがあります。ストレスを感じたときが最も自分が受け入れられない異なる価値観に直面しているため、その状況で自分がどういった言動をし、相手はどういう反応・結果になったかを何度も試行錯誤して経験値を稼ぐことが異文化コミュニケーションを高めることに繋がります。そのためには、一人で海外旅行に行く、一人で出張に行く、日本にある外国人コミュニティに参加するなど日本人がいない環境を自ら作ってみましょう。 |
異文化コミュニケーション以外に必要なスキル
異文化コミュニケーション能力が欠けていると、外国人とのコミュニケーションが機能不全となり、やりとりが困難になる事態に陥ります。ビジネスの場では、絶対に避けるべき状況です。
今後、グローバルなビジネスの場が増える可能性がある社会人は異文化コミュニケーションを学ぶべきと言えるでしょう。
しかし、異文化コミュニケーションの能力だけではグローバルなビジネスの場では活躍できません。
以下のようなスキルも身につけられるよう、多様な社員教育プログラムを用意しましょう。
- 異文化を理解する能力
- 異文化対応力
- 主体性・積極性
- コミュニケーション能力
- 課題発見力
- 自文化理解と日本人としてのアイデンティティ
- 他国への偏見の是正
異文化を理解する能力
異文化コミュニケーションとは、つまり「違い」を知ることです。
異文化コミュニケーション力を鍛えることで、今後他者との違いに気づいた時に、拒絶ではなく理解する能力を身につけることができます。
この能力によって外国人とのコミュニケーションが円滑になるのはもちろん、職場で自分と異なる性別や世代、異なる環境にいる社員との関係もより良好にすることができるでしょう。
自社で行っている異文化コミュニケーション研修が、文化・宗教・商習慣などを含む異文化知識に関する能力開発を行っているかチェックしてみてください。
異文化対応力
異文化対応力とは、様々な文化的背景を持つ人々を理解し、適切な行動をとれる力のことです。具体的には、以下のような力が該当します。
- 異なる文化の習慣や慣習を理解する能力
- 異文化に対してオープンな姿勢を持って接する能力
- 異文化と交流する際に適切な行動や態度を示す能力
- コミュニケーションの齟齬が生じたときに解決する能力
- 日本の商慣行を含めた日本文化を理解してもらう力
異文化対応力について詳しくは以下のページをご参照ください。
『異文化対応力とは?高めるために必要な要素と育成方法を解説』
主体性・積極性
受け身の姿勢ではなく主体性・積極性を持ってコミュニケーションを行うことも重要です。
日本国内の小さなコミュニティであれば通用する控えめな主張や態度は、グローバルな場では通用しないということも多くあります。会議や研修に参加した際に、一言も発言しないと存在価値がないと見なされることもあります。また、何か意見を話した際に相手から論破されたり、または相手の意見に対して臆して発言を控えることも時と場合によってはネガティブな印象を与えかねません。実際にそういった状況になった際に慌ててしまわないよう、自ら率先して発言する姿勢、たとえ拙い英語であったとしても意見を伝えようとする主体性を身につける必要があります。
このような主体性は、半日から1日間の異文化コミュニケーション研修だけでは醸成することが難しいのが現実です。5日間以上、朝から晩まで外国人と常に協働するような高密度の研修を用意する必要があります。
短期海外派遣型研修や短期留学などで実際に海外に行く手段もありますが、業務との兼ね合いなどで難しい場合もあると思います。そのような場合には、日本にいながらオンラインで朝から晩まで外国人と英語で協働し続けるようなプログラムもあります。詳しくは『短期オンライン海外研修』をご覧ください。
既に中長期の異文化コミュニケーション研修を実施している場合も、自社の研修でグローバル人材としての主体性・積極性を醸成することができるか、チェックしてみてください。
主体性がある人の特徴や主体性の身につけ方について詳しくは、以下のページをご参照ください。
『主体性とは?自主性との違いや主体性のある人の特徴・高める方法を紹介』
コミュニケーション能力
会議などの公のビジネスの場以外でも、異文化コミュニケーションが必要な場面があります。たとえば、ランチ、ティータイム、ディナーを共にするときです。そのような場面では、相手に興味・好奇心を向けてコミュニケーションをする必要があります。
相手に最大限の関心を向けることで、一問一答で終わらないコミュニケーションが可能です。また、相手がジョークとして話している際に、真に受けずにジョークとして受け取れるかどうかも、相手にとって話していて楽しいと見なされるかどうかに影響します。
研修では、会議などの公のビジネスの場での異文化コミュニケーション研修を行う企業が多いですが、カジュアルシーンでのトークを鍛える機会も自社が提供しているかどうかチェックしてみてください。
グローバルコミュニケーション力を鍛える研修について詳しくは、以下のページをご参照ください。
『グローバルコミュニケーション研修とは|内容や目的・効果的に行うコツ』
チームワーク力
異文化コミュニケーションに加え、「主体性」と「コミュニケーション能力」が身につけば、自ずと職場のチームワーク力もアップします。
チームワーク力とは自分の意見を主張するだけではなく、相手の意見をしっかり聞く「傾聴力」も含まれます。自分の思い込みや偏見を通さず、多くの意見を尊重し取り入れることで、組織内のチームとしての力も向上するでしょう。
また、マネジメント職として外国人を部下として持つ日本人には、この傾聴力を英語または現地語で、かつ異なる価値観を持つ相手に対して発揮することが求められます。相手の意見を引き出せるよう、最適な質問をすることが求められます。
英語で話すトレーニングは行っていても、英語で相手の意見を引き出す傾聴力を鍛える研修を行っている企業は少ないのではないでしょうか。傾聴するための英語での質問力向上の機会を用意しているかどうかチェックしてみてください。
グローバル環境でも求められる「傾聴力」について詳しくは、以下のページをご参照ください。
『傾聴力とは?コミュニケーションで活かすコツと鍛える方法をご紹介』
課題発見力
異なる文化背景を持つ相手と共に仕事をすると、日本では想像し難いような出来事がよく起こります。そのような場面に直面した際に、「ここは日系企業だから……」とか「日本では〇〇が当たり前なのに、なんでこの国では……」と考えてしまうようでは、異文化に対応できていないと言わざるを得ません。事実やその裏にある理由を知るために、バイアス(偏見)のフィルターを無くして自ら行動する力が求められます。
現地の方から偽りの情報や解釈が入った情報を受け取ることもあるため、事象を疑って事実を探しに行く力も求められるでしょう。その探り当てた事実が、日本人または日系企業からすると異常だと思うようなことがあっても、現地の習慣からすると問題ではないと捉えられていることもあります。
日本でも求められる課題発見力ではありますが、海外や異なる文化背景を持つ人と働く際には、より客観的に物事を見て、時には疑い、真の課題を発見する力が求められます。そのため、課題発見力がそもそも低いと思われる社員が海外業務を担うことがある場合は、課題発見力、課題解決力といったビジネススキルを習得することを推奨します。
アルー株式会社では、社員の課題発見力を高める「問題解決力研修」を提供しています。
▼詳しくは以下のリンクをご覧ください。
自文化理解と日本人としてのアイデンティティ
異文化を学ぶことで、「自分達にとってはこういう考え方が普通だけど、他の国では違うのだ」ということを知ることができます。ただ、異文化と比較するためには自国の文化も知っている必要があります。自国の文化や伝統も深く知ることで、どういった点が同じで、似ていて、違っているのかといった点を理解し受け止めることができます。どちらの文化が良い、悪いという判断をするわけではないということに留意しましょう。
また、海外の方から日本の文化について質問を受けた際に満足いく回答ができないと、「自分の国のこともわからないのか」と失望されかねません。
自国の文化を理解することは、日本人として海外の方と対等に会話することに繋がるだけでなく、日本人のアイデンティティをより確立させることにもつながります。
異文化研修は用意していても、日本の文化を理解するための研修を提供している企業はまだ多くないのではないでしょうか。自社が社員に対して、日本文化を理解し、海外の方と対等に会話できる能力を開発する機会を用意しているかチェックしてみてください。
アルー株式会社では、自国の文化を深く理解できる体感型日本文化研修「日本文化体験リベラルアーツ&チームビルディング」を提供しています。
▼詳しくは以下のリンクをご覧ください。
他国への偏見の是正
「自分は他の国に対して偏見なんかない」と言い切る人もいるかもしれません。しかし、本当の偏見とは、その多くが本人の気づかないところで発生しているものです。
異文化コミュニケーションを学ぶことによって、「自分は実はこの国に対してこんな偏見や誤った認識を持っていたんだ」ということに気づくことが、大きな第一歩です。
監修者からひとこと |
異文化コミュニケーションスキルの向上ならアルーにお任せください
異文化コミュニケーションは、ビジネスシーンにおいて今後もますます求められるスキルでありながら、全社員に向けて勉強会や研修を行うのは難しい分野でもあります。
社員に対して、正しく異文化コミュニケーションを学ばせるにはどうすればいいかお悩みの方はぜひアルー株式会社の研修プログラムをご検討ください。
さまざまな人材育成の実績を持つアルー株式会社では、駐在員やグローバル人材の育成のための異文化コミュニケーションスキル向上プログラムをご用意しています。
日本人向け異文化コミュニケーションeラーニングプログラム
この記事でご紹介した通り、異文化コミュニケーションを身につけるには意識すべき内容や知っておくべき知識が多岐にわたります。
アルー株式会社が提供する「日本人向け異文化コミュニケーションeラーニングプログラム」なら、必要な内容がオールインワンで受講できます。
- 今後外国人社員の雇用が増えるため、良好な関係を築きながら仕事を進めたい
- 外国人の文化的背景や価値観を知らないせいで発生するハラスメントやクレームを事前に防ぐための知識を備えたい
- 相手の価値観を尊重し理解しながら、わかりやすい話し方や受け取り方ができるようにしたい
このような課題を抱える企業様に多く選ばれているeラーニングプログラムです。
▼詳しくは『グローバルeラーニングプログラム』をご覧ください。
eラーニングではなく集合研修やオンライン研修で学びたい方もお気軽にお問い合わせください。お客さまの課題や社員の傾向に合わせた研修プログラムをご提案します。
外国人だけでなく、日本人同士のコミュニケーションスキル向上にも通ずる
異文化コミュニケーションを行なう上で重要な他者理解・尊重やコミュニケーションスキル、課題発見力といったスキルは、外国人とのコミュニケーションだけでなく、日本人同士のコミュニケーションや関係構築においても重要です。
同じ日本人でも、「なにを常識と考えるか」「どんな価値観を大切にしているのか」という点は人によって異なります。性別や年齢、立場などによって違いがあるため、日本人同士の関係構築でも他者理解や尊重、コミュニケーションスキル、課題発見力といったスキルは活かすことができます。
社員のコミュニケーションに課題を感じている場合は、他者理解を前提としたコミュニケーションを学べる外部研修がおすすめです。コミュニケーションのプロである講師から学ぶことで、バイアスを減らした上でコミュニケーション力向上を目指すことができます。
アルーのコミュニケーション研修について詳しくはこちらのページをご覧ください。
コミュニケーション研修
まとめ
ビジネスにおける異文化コミュニケーションについて、身につくスキルや実際の失敗例、大切なポイントを詳しく解説いたしました。
異文化コミュニケーションは実際に仕事をしながら身につけようとしても、理解が足りなかったことで相手を傷つけてしまったり、取り返しのつかないトラブルにつながってしまうこともあり得ます。
業務にあたる前に、自身の文化と、そのほかの文化圏の違いについて深く理解をしておくことが大切です。
ビジネスに特化した異文化コミュニケーションを学ぶなら、アルー株式会社の研修プログラムをご検討ください。
人材育成のノウハウを活かした教材で、異文化コミュニケーションに関わる課題を解決いたします。