海外駐在社員によくある異文化コミュニケーションの失敗例と解決策
異文化コミュニケーションとは、自分とは異なる価値観や環境で育った方と行うやり取りのことを指します。
海外拠点に駐在員として派遣されたり、社内に外国人社員が増えたりと、異文化コミュニケーションはビジネスの場で無くてはならないものとなりました。
今回は外国人との異文化コミュニケーションに重点を置いて、失敗例とその解決策をご紹介します。
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異文化コミュニケーションはなぜ必要なのか
海外に進出する日本企業が増えるにつれて、異文化コミュニケーションが重要視されるようになってきました。異文化コミュニケーションとは、自分自身とは異なる考え方や価値観や背景、歴史を持っている状態の人同士のコミュニケーションのことです。言語が異なるだけでなく、表情やしぐさといったノンバーバルコミュニケーションの面でも様々な違いがあることが特徴です。
なぜ今、異文化コミュニケーションが必要とされているのでしょうか。その理由について詳しく見ていきましょう。
グローバル化する社会に企業として適応するため
グローバル化する社会において、「異文化コミュニケーション」の力を上手に活用できるかどうかが収益に大きくつながってきます。
「異文化コミュニケーション」がうまくいかないと、日本人社員と外国人社員、もしくは日本人社員と外国人顧客の間でうまくコミュニケーションが図れない可能性があります。その結果、信頼関係が築けず業務が滞る、売上が上がらないなどの問題が発生します。
企業としての収益を十分に出すためには、社員の異文化コミュニケーション力を伸ばし、グローバル化された社会に適応するための武器の一つにしていく必要があります。
異文化コミュニケーション力はグローバル人材に必須
世界で活躍するグローバル人材になるためには、異文化コミュニケーション力は必須の時代になりました。
出身国・言語・文化・価値観すべてが異なる人材と接することになったとき、社員はどのような壁に直面するのでしょうか。海外の文化に接することの少ない日本人社員の場合、日本の常識と異なる価値観に驚き戸惑ったり、どうすれば相手に失礼にならないのか迷ったりするでしょう。また、指示した内容と異なる行動をされて憤りを感じることもあるかもしれません。その時に異文化コミュニケーション力があれば、価値観が異なる人材の背景を想像し、正しい選択をできるようになるでしょう。
異文化コミュニケーション力は、ビジネスをスムーズに進めるために身につけておくべき能力の一つといえます。
監修者からひとこと |
職場での異文化コミュニケーション失敗例から学ぶ!
外国人と接する仕事においては、相手が自分と同じ価値観を持っていると決めつけないようにすることと、相手の文化の背景を理解することがなによりも重要です。
なんとなく発した言葉が、信頼を失うことにつながる可能性もあります。
職場における異文化コミュニケーションの失敗例と解決策をご紹介します。海外駐在員がどのようなトラブルに見舞われる可能性があるのか知り、解決策を社員に伝えられるようにしましょう。
【失敗例】残業を依頼したら不満そうな顔をされた
インドにある日本企業の例です。現地での重要な商談のため、朝までに見積を作成する必要がありました。そのためには現地のスタッフに残業をしてもらう必要があります。残業を依頼したところ、「今日は家族と食事を取る日です。残業はできません。」と断られてしまいました。仕事への熱意が低いと感じたため、「この仕事の重要性が分かっていないのか。」と叱りました。現地スタッフは残業をすることになりましたが、不満そうな表情でした。
解決策:家庭や宗教を仕事より優先する文化があることを知る
日本人は仕事の時間に優先度をおき、現地スタッフは家庭の時間に優先度をおいた例です。インド人スタッフが残業を断ったのは仕事への熱意が低いからではなく、文化の違いによるものだということを理解できていれば防げた事例でしょう。この場合、相手が大切にしていることへの理解を言葉で示した上で、この仕事が遂行されなかった場合の影響を具体的な言葉で示して説得する必要があります。現地スタッフが重要視していることを理解しようとしている姿勢をみせることが信用につながるでしょう。
【失敗例】業務依頼をしたら締め切りまでに成果物があがってこなかった、求めている水準ではなかった
お互いの締切意識に相違があった例です。
現地のスタッフに「できるだけ早くやって」と見積作成依頼をかけました。日本ではそう指示すれば部下が数時間で見積を出してくるので、同じくらいでできるだろうと考えていました。しかし、時間になっても提出されないため様子を聞きに行ったところ、「他の業務をしていたのでまだ取り掛かっていません」と平然とした答えが返ってきました。
解決策:5W2Hを明確にした指示を出し、成果物に期待する水準も伝える
日本人は曖昧な言葉を使いがちです。外国人とコミュニケーションをする際には、必要事項を明確に伝えるために5W2Hを意識しましょう。5W2Hとは、以下の頭文字を取ったもののことを指します。
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Who(誰が)
- What(何を)
- Why(なぜ)
- How(どうする)
今回の例でいうと、「できるだけ早くやってほしい=急ぎの仕事=数時間以内」という意図を読み取ってほしかったのですが、現地のスタッフには伝わりませんでした。読み取ってくれ、察してくれ、という態度をみせてしまうと現地のスタッフとしては「あなたの説明不足のせい」と感じてしまい、衝突が生まれてしまいます。
人によって捉え方の異なる言葉は使わず、「何時間後・何日後」と具体的なゴールを伝えることが重要です。
【失敗例】成果物が求めている水準ではなかったことが伝わらなかった
先ほどの失敗例に似たケースです。
現地のスタッフに分析レポートを依頼したところ、期待した水準を満たさない成果物が提出されました。
「このレベルか……仕方ない、いったん受け取るよ」という意図で「OK」と伝えたところ、仕事を完了したと思った現地スタッフは席に戻り、別の仕事に取り掛かってしまいました。
解決策:曖昧なコミュニケーション「ハイコンテクスト」を避ける
日本であれば、あなたが口で「OK」と言っても、満足していない表情や声のトーンなどによって「本当は満足していない」ということが相手にきちんと伝わる可能性があります。このように、曖昧な言葉で暗黙の了解を前提とするコミュニケーション方法のことを「ハイコンテクスト」と言います。
逆に、言語が重要視され明確でわかりやすいコミュニケーション方法は「ローコンテクスト」です。
日本はハイコンテクストな文化に位置付けられるため、どうしても曖昧な言葉を使いがちです。
しかし、ローコンテクストの文化圏のスタッフはあなたの「OK」という言葉のみを受け取り、満足していると解釈する可能性があるでしょう。こうした認識違いを避けるために、ハイコンテクスト・ローコンテクスト文化の違いを知っておくことも大切です。この違いを意識した上で、異文化圏では、「どこまで求めているか」の具体的な水準まで伝える必要があります。
【失敗例】顧客がアポイントの時間通りに現れなかった
アポイントの重要性に相違が生じた例です。
現地ニーズのヒアリングのために現地企業の技術マネージャーにアポイントメントを取ったところ、1カ月後にアポイントが取れました。しかし、アポイントメントの時刻に訪問したところ、技術マネージャーは不在で、急遽別の営業担当にヒアリングを行うことになってしまいました。
技術部門の担当ではなかったため、満足のいくヒアリングを行うことができず、必要だった詳細情報を得ることができませんでした。
解決策:当日までに何度も連絡し、重要なアポイントであることを意識付ける
時間を柔軟に捉える文化圏の企業訪問であれば、1カ月後のアポイントメントはかなり先のことであるため、先方は忘れてしまったり他の予定を優先させてしまったりする可能性があります。当日を迎える前に何度も電話でフォローし、商談機会があること、この機会が重要であることを意識付けることが必要です。
【失敗例】海外拠点の社員が顧客との商談において、時間内に重要事項をヒアリングできていなかった
現地人の営業担当からある日系企業との商談の結果について報告を受けました。すると商談で確認すべき事項がほとんど確認できていないことがわかりました。
なぜ確認できなかったのかと聞いたところ、「商談は盛り上がりましたが、時間が足りませんでした」と答えが返ってきました。
解決策:時間感覚の違いがあることを伝え、アジェンダ作成などを指導する
日本人と外国人では、文化圏によって時間の捉え方が異なることがあります。
この場合、営業担当は時間を柔軟に捉える文化圏であり、商談時間を柔軟に変えられると思い込んでいました。その一方で顧客である日本人は時間を柔軟に捉えず、時間になったので商談時間を終了にしたのかもしれません。
当日を迎える前に事前打ち合わせをして、日本人の時間感覚を伝えた上で、アジェンダを共有し、時間内での進め方を指導することで防げた失敗でしょう。
相手の持ち時間は変えられないという前提を理解してもらえれば、現地の営業担当者も効率よく商談を進められるようになります。
【失敗例】日本語特有の表現で困らせてしまった
日本にいた頃は、部下が作成した資料の表現が分かりづらかったときに「もう少し表現が柔らかいと分かりやすい」のようにアドバイスをしていました。現地スタッフに同じようにアドバイスをしたところ、「どこをどうすればいいのですか」と相手を困らせてしまいました。
解決策:言語ごとの「表現方法」まで理解する
フィードバックには、悪い点を指摘することで改善意欲を高める「ネガティブフィードバック」という方法があります。
ネガティブフィードバックはさらに直接的な方法と間接的な方法の二つに分けられます。今回の例では、間接的ネガティブフィードバックを行ったために、部下に意図が伝わらなかったのです。
間接的ネガティブフィードバックとは、「やや」「もう少し」など和らげる表現を用いて指摘するフィードバック方法です。一方、直接的ネガティブフィードバックとは「この部分ができていなかった」「目標を達成できていなかった」など単刀直入に指摘することです。
日本では間接的ネガティブフィードバックが主流ですが、直接的ネガティブフィードバックが文化の国では何を指摘されたのかわからないと思われてしまいます。
相手の文化圏に合わせて直接的に指摘をすることで、現地スタッフとの信頼関係を構築しビジネスをスムーズに進めていくことができるでしょう。
【失敗例】ミスに対する態度の違いが理解できなかった
資料作成が遅れているため作成状況を聞いたところ、「資料制作についてレクチャーしてくれる予定だったAさんが休みなので、やっていません。」と言われました。平然とした態度だったため、「締め切り日が近いから間に合わない、なぜ早く言わないのか」と叱りました。しかし、本人は謝ることなく「Aさんは体調不良なので仕方がないと思います。」などと言って話が噛み合いませんでした。
解決策:日本だけの基準に固執しない
もし日本人のみが働く企業で今回のケースが発生したら、「なぜ資料作成をしていないのかを聞かれたらまずは謝ってから状況を説明すべき」と考える方が多いでしょう。しかしそれは、日本ならではの基準です。
日本以外の文化圏では、
「Aさんが急に休んだのが悪いのになぜ私が叱られるのか」
「正直に状況説明したのになぜ怒っているのか」
などと感じてしまい、うまく理解してくれないことも多いです。
このように日本とは異なる文化圏、例えば中国に関しては「自分自身のメンツを守るため」に謝罪をしない傾向があります。中国は、メンツを重んじる文化を持つ国であり、幼い頃から意識して暮らしています。さらに謝罪は非常に大きな意味を持ち、“謝罪”=自分の非を認めることになり、すべての責任を負う必要が出てきます。そのため、中国人は自分の認識している事実のみを伝え、謝罪の言葉を口にしないことが多くあるのです。
そういった異なる文化圏の外国人がいることを認識していれば、謝罪がなかったことへの怒りを抑え、こちらも事実のみで対応できるでしょう。
【失敗例】食文化の違いを理解できていなかった
ある日本企業では、インド人のスタッフを雇うことになり、歓迎会を開くことになりました。日本人のスタッフに人気の焼肉店で開催することにして当日を迎えたところ、インド人のスタッフは「ベジタリアンなのでお肉は食べられない」と困った顔をしました。
解決策:仕事だけではなく日常生活の文化の違いも知る
インド人は国民の6割程度がベジタリアンだと言われています。特に牛肉を食べないことが多いため、歓迎会を設定する前に「食べられない食品はないか」を確認しておけば防げた失敗でしょう。
宗教上の理由で食べられない食品がある方や、ベジタリアンやヴィーガンといった肉を食べないポリシーを持つ方が多くいます。
仕事上の付き合いであっても、日常生活における文化の違いにも興味を持ち理解をすることが異文化コミュニケーションです。外国人スタッフを雇用する場合や、海外へ駐在する際は、その国の宗教や価値観を事前に学ぶことが重要です。
【失敗例】時間感覚の違いを知らなかった
あるアジア企業の例では、毎日9時から実施している朝の会議に現地のスタッフが遅刻してきました。日本人は全員遅刻せず参加するのですが、現地スタッフは何度も遅刻します。
その理由を聞いたところ、「会議があることは分かっていたが、朝食の場で家族に買い物を頼まれてそれを優先したら遅刻した」と答えました。
解決策:Pタイム型とMタイム型の違いを知る
時間に対する考え方には、「ポリクロニックタイム=Pタイム」と「モノクロニックタイム=Mタイム」という2つの考え方があります。
「ポリクロニックタイム=Pタイム」は、アジアや南米・アフリカ・アラブ圏でみられる考え方で、同時に物事が流れていく中で、その都度状況に合わせて対応していくという感覚をもっています。既に決まっていた朝礼の時間よりも、家族との時間を優先して会議に遅刻したことがその例です。
アメリカ・カナダ・北欧圏では「モノクロニックタイム=Mタイム」という、スケジュールを重視して一つひとつの物事を処理していこうという感覚が中心です。一般的なビジネスライクはこちらであり、日本でもMタイムが一般的です。
Pタイムの文化圏で仕事をする場合は、そういう考え方があるということも理解し、その上で「朝の会議は重要だから、遅刻はしないでほしい」など、相手にも理解をしてもらうための対話を行うようにしましょう。
監修者からひとこと 現地社員のジョブディスクリプションで、限定的で抽象度が高いハイコンテクストな記載をしたため、期待していた仕事をアサインできなかったことがあります。 異文化コミュニケーションは対人コミュニケーションが基本ですが、ハイコンテクストな文化である日本人の場合、話し言葉だけでなく書き言葉でもローコンテクストで伝えないと、相手には伝わらないことがあります。 |
異文化コミュニケーション力強化のための研修
異なる文化背景を持つ外国人と働く上では、日本と海外の文化の違いを理解することが求められます。
アルー株式会社のeラーニングプログラムでは、言語コミュニケーション、非言語コミュニケーション、時間感覚などの観点から文化の違いを理解し、外国人と良好な関係を築くためのコミュニケーションを学ぶことができます。
具体的にどのようなことを学ぶことができるのか、詳しく見ていきましょう。
▼アルーの「日本人向け異文化コミュニケーションeラーニングプログラム」はこちら
▼アルーの「駐在員向け異文化コミュニケーション研修」はこちら
日本と海外の文化・価値観の違いを理解できる
日本と海外の文化の違いや目に見える・見えない文化の違いをeラーニングや研修を通して体系的に学ぶことができます。
海外派遣社員として海外に赴任する社員の多くが最初にぶつかる壁は価値観の違いです。価値観や文化の違いを知っているかどうかで、ビジネスの進度に大きく影響が出るでしょう。
また、
- 海外派遣社員として海外に赴任するのか
- 海外出張やオンライン会議をメインとして外国人と働くのか
- 外国人部下をマネジメントするのか
といった立場によって、学ぶべき知識は異なります。アルーの異文化コミュニケーションeラーニングプログラムや集合研修プログラムを組み合わせることで効率的かつ効果的に文化や価値観の違いを学ぶことができます。
外国人との非言語/言語コミュニケーションを理解できる
日本人にとって実質的にNOという意味合いでいった「OK」であっても、文化圏によってはそのままの意味で捉えられてしまうケースがあります。
前述した日本のハイコンテクスト文化が原因ですが、アイコンタクトなどの非言語コミュニケーションの使い方にも注意が必要です。
一例として、「人が話をしているときは、顔をそらさずしっかり相手の目を見なさい」と教えられていた外国人社員がいたとします。この外国人社員は、日本人上司が叱責している間も反省を示すためにしっかりと目を見て聞いていました。しかし、上司はそれが反抗的な態度に感じて更に怒ってしまい、お互いに不快な気持ちになりました。
このように、文化によるコミュニケーションの違いを理解していないと、アイコンタクトだけでも思いがけない誤解を招いてしまうことがあります。
文化圏によって捉え方の異なるケースがあるのだと学ぶことによって、どう言えばいいのか、どう行動したらいいのか、など細かく理解することができます。
アルーのeラーニングや集合研修プログラムでは、言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションの両方を学ぶことができるので、外国人との信頼関係の構築に役立つでしょう。
外国人特有の時間感覚や信頼関係構築のポイントを理解できる
日本では決めたスケジュール通りに進める時間感覚が一般的ですが、文化によって時間感覚には違いがあります。
アルーのeラーニングプログラムでは、日本人と外国人の間で発生しがちな認識のずれを具体例を用いて解説しています。解決法も紹介しているため、外国人と働く日本人社員にとってすぐに役立つ内容となっています。現地でのビジネスをスムーズに進めるためには、信頼関係の構築が非常に重要になるでしょう。外国人特有の時間感覚や考え方の違いを知ることで、すれ違いを解消し信頼関係を築くきっかけになるはずです。
監修者からひとこと |
まとめ
今回は異文化コミュニケーションの失敗例と解決策を中心に紹介しました。
仕事をスムーズに進めるためには、異文化コミュニケーションの理解が非常に重要です。
紹介したアルーのeラーニング、集合研修プログラムでは、上場企業の海外現地法人300社以上(2019年11月時点)で実績のある研修プログラムです。特にeラーニングは一つのコンテンツも15分程度にまとまっており、通勤や移動時間などの隙間時間で学習できることも特徴の一つです。
また、外国人部下のマネジメントや、日系企業で働く外国人向けのeラーニングプログラムや集合研修プログラムも豊富に取り揃えているので、人事担当者の方はぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
異文化コミュニケーション以外にも、駐在員向けの集合研修やオンライン研修も実施しています。お客さまの課題や社員の傾向に合わせてカスタマイズできますので、お気軽にお問い合わせください。
▼駐在員向け異文化コミュニケーション研修の資料はこちらからダウンロードできます。
▼eラーニングプログラムの資料はこちらからダウンロードできます。