サーバントリーダーシップとは?メリット・デメリットや10の特性
最近では、リーダーシップのスタイルの一つとして「サーバントリーダーシップ」という概念が注目を浴びています。しかし、サーバントリーダーシップの概要やメリットなどがいまいちピンとこない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、サーバントリーダーシップの概要やメリットやデメリット、特性などを詳しく解説します。サーバントリーダーシップについて理解を深めたい方は、ぜひ参考にしてください。
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サーバントリーダーシップとは?
サーバントリーダーシップとは、リーダーがメンバーへの奉仕を行うことで、メンバーの能力発揮を後押ししてチームを牽引していく、支援型のリーダーシップのことです。
従来の日本企業では、リーダーが逐一指示を出す「支配型リーダーシップ」が主流でした。しかし、近年はビジネス環境の変化の激しさを受け、社員の主体性を尊重するサーバントリーダーシップを採用する企業が増えています。
サーバントリーダーシップは、1970年にロバート・グリーンリーフが提唱した考え方です。その後、資生堂やスターバックスコーヒー、ダイエーなど幅広い企業で採用されています。
サーバントリーダーシップにおける理想のリーダー像とは
サーバントリーダーシップでは、メンバーへ奉仕を行いつつ、チームを導くリーダーが理想とされます。権威や威光、肩書きに頼ってメンバーをまとめようとするのではなく、リーダーの良心に従いながら、まずはメンバーへ奉仕することが重要です。
また、奉仕するだけで終わらせるだけでなく、組織の方向性を示すことも必要です。ときには愛情を持って部下の誤りを直しつつ、チーム全体が正しい方向へ進んでいけるよう後押しすることが求められます。
サーバントリーダーシップにおける部下の役割
サーバントリーダーシップでは、部下が主体的に行動することが重要です。
従来のリーダーシップでは、リーダーの指示を確実にこなすことが重視されていました。サーバントリーダーシップの場合は、指示をこなすことだけが部下の役割ではありません。必要に応じてリーダーに提言を行い、指示されていないことまで意識しながら、主体性を持って仕事に取り組む必要があります。
サーバントリーダーシップが重視される背景
サーバントリーダーシップが重視される背景として、VUCA時代の到来が挙げられます。
グローバル化やIT化が進展した現代のビジネス環境では、変化の激しさが増しています。新しい技術やビジネスモデルも次々と生まれており、現状維持だけでは時代に乗り遅れてしまうでしょう。こうした環境では、社員一人ひとりが高い主体性を持って仕事に取り組む必要があります。
サーバントリーダーシップは、メンバーの主体性に働きかけるリーダーシップです。サーバントリーダーシップを実践すれば、メンバーが主体性を持って働くことができ、変化に強い組織の形成につながるのです。
VUCAについては、以下の記事で詳しく解説しています。
『VUCAとは?求められる人材や対応する組織作りのポイント』
サーバントリーダーシップのメリット
サーバントリーダーシップの代表的なメリットは、以下の通りです。
- メンバーの主体性を尊重できる
- 明るい職場風土を醸成できる
- 職場の心理的安全性が向上する
サーバントリーダーシップでは、リーダーからの指示がなくても動けるようになる必要があります。その結果、メンバーに主体性が自然と身につき、組織の生産性向上につながるでしょう。またサーバントリーダーシップでは、リーダーからのプレッシャーや威圧感がありません。そのため、明るい職場風土の醸成や、心理的安全性の向上といった効果も期待できます。
心理的安全性については、以下の記事で詳しく解説しています。
『心理的安全性とは?高める方法や人事が行うべき施策について 』
サーバントリーダーシップのデメリット
サーバントリーダーシップには、いくつかデメリットも存在します。具体的には、以下のような点がデメリットとなるでしょう。
- 緊急性の高い案件への対応力が落ちる
- 組織の方向性を統一しづらくなる場合がある
サーバントリーダーシップでは、リーダーがメンバーへ命令する機会は少なくなります。その結果、緊急性の高い案件への対応力が必然的に落ちてしまうでしょう。また、メンバーの主体性が尊重される反面、メンバー同士で方向性がズレてしまいかねないというデメリットもあります。メンバー同士で対立が生じた場合には、リーダーが早めに介入し、大きなトラブルに発展することを防ぐことが大切です。
サーバントリーダーが持つ10の特性
理想的なサーバントリーダーは、以下の10つの特性を持っています。
- 傾聴
- 共感
- 癒やし
- 気づき
- 説得
- 概念化
- 先見力
- 執事役
- 人々の成長に関わる
- コミュニティづくり
サーバントリーダーが持つ10の特性について、それぞれ詳しく解説します。
傾聴
サーバントリーダーは、傾聴が得意です。
傾聴とは、相手の話している内容や事実といった表面的な事柄はもちろん、その背後にある感情や価値観まで想像力を働かせながら、相手の話に深く共鳴するスキルのことです。
サーバントリーダーシップは傾聴ができるため、相手の話に耳を傾けることができます。そのため、途中で部下の話を遮ってアドバイスしたり、説得したりすることがありません。部下の主体性が求められるサーバントリーダーシップにおいては、リーダーが部下の話や提案を傾聴する姿勢が求められます。
傾聴力については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
『傾聴力とは?コミュニケーションで活かすコツと鍛える方法をご紹介 』
共感
サーバントリーダーは、メンバーの気持ちに共感することができます。
共感は、相手の置かれている立場を理解した上で、相手の考えを理解して受け入れることです。高い共感力があれば、より効果的な傾聴を実践できるようになります。先入観を持たずに部下の話を受け入れ、部下に寄り添うことができるのです。リーダーが部下の気持ちに共感することで、部下は安心感を持って働くことができるようになります。
癒やし
サーバントリーダーは、メンバーに癒やしを与え、安心させることができるのが特徴です。
ビジネスにおける癒やしとは、相手の心の回復を助け、安心感を与えることです。サーバントリーダーは、部下の抱えている悩みの解決に向けて精神的なサポートを提供し、一緒に解決策を考えることができます。ミスをしてしまった際も、責めるのではなく癒やしを与え、モチベーションの低下を防ぐのです。
気づき
理想的なサーバントリーダーは、自分自身の強み弱みやチームやメンバーの変化に気づき、メンバーにも気づきを促すことができます。
「気づき」を正しく実践できれば、ビジネスで直面するさまざまな物事の本質を見極め、チームや部下にどういった変化が生じているのかを素早く把握できます。その結果、チームで発生した問題にいち早くサポートを提供できるようになるでしょう。そして、トラブルに直面したメンバーの精神的なケアも忘れずに行うことができます。
自分自身の強み弱みを客観的に把握して自己認識力を高めることで、組織内での自分の役割の把握に役立ち、自分の長所を活かしたメンバーのサポートも可能になります。
サーバントリーダーは、常に組織全体にアンテナを巡らせ、リーダーとして求められている行動を客観的に把握できるのです。
説得
サーバントリーダーは、命令を与えて組織を牽引するのではなく、メンバーとのコミュニケーションによって組織を牽引します。
リーダーの持つ権限や肩書きに頼らず、メンバーとコミュニケーションをとり、メンバーの同意を得ながら組織を導いていくことが特徴です。メンバーが納得した上で仕事に取り組むことができるため、主体性や生産性が向上するメリットがあります。
なお、説得を行う際には、必ずしも論理的な説得だけを行うわけではありません。チーム全体のビジョンや目的を共有した上で、ときにはメンバーのメンタルやモチベーションにも働きかけながら、メンバーからの納得を引き出します。
概念化
サーバントリーダーシップでは、概念化の能力も重要です。
概念化とは、異なるいくつかの事象から共通点を洗い出し、そこから教訓や法則を見つけることです。サーバントリーダーが組織を導く際には、メンバーの特徴や組織の役割などを概念化する必要があります。メンバーの特徴を概念化によって正しく把握することで、組織に対して最適な働きかけができるようになるのです。
先見力
サーバントリーダーには、先見力も求められます。
先見力とは、これまでに起こった出来事や現在の状況から、将来的に起こりそうなことを予測する能力のことです。最近ではビジネス環境の変化が激しくなっており、5年後や10年後の状況を想像することは難しくなっています。こうした状況でも正しく組織の舵取りができるよう、サーバントリーダーには高い先見力が求められるのです。状況を正確に予見することはもちろん、状況変化に合わせて素早く予測を立てる能力も求められます。
執事役
サーバントリーダーは、執事役のような存在である必要があります。
ビジネスにおける執事役とは、相手が成長できるようなサポートを提供し、信頼関係を構築することです。メンバーに対して、命令や指図ばかり行っていては、サーバントリーダーシップを実現できません。メンバーには献身的に接するとともに、メンバーの利益に貢献できるような働きかけを行うのが大切です。リーダーが執事役として献身的に接すれば、メンバーとの信頼関係が構築され、モチベーションや生産性の向上が期待できます。
人々の成長に関わる
サーバントリーダーは、人々の成長に関わる意識が必要です。
目の前の仕事で成果を上げることだけが、サーバントリーダーの役割ではありません。ビジネス上の関係から一歩踏み込んだ信頼関係を構築し、社員の持つポテンシャルや価値を最大限に引き出すような接し方を行う必要があります。キャリア構築や精神的なサポートも含め、メンバーの人間的な成長を促しましょう。成果だけを追い求めるのではなく、プロセスを重視する姿勢も大切です。
コミュニティづくり
コミュニティづくりも、サーバントリーダーに必要な特徴の一つです。
メンバーの成長につながるようなコミュニティをつくり、お互いに助け合いながら成長できる機会を提供しましょう。メンバーが自主的に学べるような環境が整っていれば、自律学習やキャリア自律を促進するきっかけになります。
さらに、コミュニティづくりを行うことは、メンバー同士のつながりを形成する際にも役立ちます。職種や業種を超えたネットワークが形成されれば、予想していなかったビジネスチャンスが生まれたり、協力関係が構築できたりします。
サーバントリーダーシップとその他のリーダーシップの違い
サーバントリーダーシップとその他のリーダーシップには、さまざまな違いが存在します。
ここからは、従来型のリーダーシップや変革型リーダーシップなどの代表的なリーダーシップを例に取り、サーバントリーダーシップとその他のリーダーシップの違いを解説します。
サーバントリーダーシップと従来型のリーダーシップ
サーバントリーダーシップと従来型のリーダーシップの最大の違いは、メンバーとの関わり方です。
従来型のリーダーシップでは、基本的にメンバーへ指示や命令を与え、組織全体を統率することが求められます。一方で、サーバントリーダーシップでは、メンバーへ細かく指示を出すことはありません。あくまでもメンバーの能力発揮をサポートする視点を持ち、メンバーへ奉仕的な関わり方をすることが重要です。
従来型のリーダーシップについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
『リーダーシップとは?種類やリーダーシップがある人の特徴、身につける方法』
サーバントリーダーシップと変革型リーダーシップ
変革型のリーダーシップとは、「自分を導く」ことを通じて周囲や環境を導くリーダーシップです。
変革型のリーダーシップでは、自己主導を元に組織の牽引を行います。自分の中にあるエネルギーを周囲へ発露することによって、組織全体を導いていくイメージです。一方、サーバントリーダーシップでは、自己主導しているかどうかは必ずしも重視されません。
定義からわかるように、必ずしも両者は対立する概念というわけではありません。自分の内なるエネルギーに基づきながら組織へ奉仕することで、サーバントリーダーシップと変革型のリーダーシップを両立させることもできます。
変革型のリーダーシップを身につける研修は、以下のページからご覧ください。
「変革型のリーダーシップ」研修
▼サービス資料をダウンロードする
サーバントリーダーシップとカリスマ型リーダーシップ
カリスマ型リーダーシップは、人々の心を強く引き付けるような、特別な魅力を持って組織を導いていくリーダーシップのスタイルです。
カリスマ型リーダーシップはもともと預言者や軍事的英雄に広く見られるリーダーシップで、組織に対して力強くビジョンを提示し、感情に強く働きかけながら牽引することが求められます。
サーバントリーダーシップは、カリスマ性とは対極の存在にあるリーダーシップです。メンバーへの支援を中心に能力発揮を支援するため、カリスマ型リーダーのように命令や指図を行いません。上からの視点で組織を牽引するのがカリスマ型リーダーシップ、下から組織を支援するのがサーバントリーダーシップであると理解しておきましょう。
サーバントリーダーシップとEQ型リーダーシップ
EQ型リーダーシップとは、感情への働きかけを重視したリーダーシップです。
EQ型リーダーは、自他の気持ちをうまくコントロールしながら、メンバーの想いやモチベーションといった感情レベルへ働きかけて組織を牽引します。
EQ型リーダーシップが感情面を中心に働きかけるのに対し、サーバントリーダーシップでは必ずしも感情面ばかりが重視されるわけではないという違いがあります。組織の方向性やビジョンを明確に示しながら、論理的な説得も交えるのがサーバントリーダーシップです。
サーバントリーダーシップ導入時のポイント
サーバントリーダーシップを導入する際には、以下のようなポイントを意識するのが大切です。
- 優しさと混同しない
- 経営陣をはじめとした意識改革が重要
- 組織改革が重要
- 研修実施が有効
サーバントリーダーシップを導入する際に気をつけておきたいポイントを解説します。
優しさと混同しない
サーバントリーダーシップを導入する際には、優しさと混同しないよう注意しましょう。
サーバントリーダーシップではメンバーに対する支援を積極的に提供します。そのため、「優しい」と思われる行動が、そのまま「サーバントリーダーシップを実践している」と受け止められがちです。
しかし、サーバントリーダーシップはあくまでもリーダーシップの一つであるため、組織を一つの方向へ牽引できなければ意味がありません。優しさの側面ばかりを重視するのではなく、リーダー的な行動を取れているかも確認しましょう。
経営陣をはじめとした意識改革が重要
サーバントリーダーシップを導入する際には、経営陣をはじめとした全社員の意識改革が必要です。
サーバントリーダーシップは、リーダーとしてのスタイルが従来型のリーダーシップと大きく異なります。そのため、サーバントリーダーシップを周知せずに導入した場合、「リーダーとしての役割を果たせていないのではないか」「主導権を部下に握られている」といった誤解をされがちです。
サーバントリーダーシップを導入する前に、サーバントリーダーシップの概念やメリットを共有するなど、意識改革を行いましょう。
社員の意識改革を行うための研修は、以下のページで詳しく解説しています。
『意識改革研修とは?社員の行動変容を実現させるポイントや事例を紹介』
組織改革が重要
組織改革を行うことも、サーバントリーダーシップを導入する際のポイントです。
例えば、経営層が積極的に現場の様子を視察する、営業職やコンサルタントの会議に出席するといった施策が有効です。上下の距離感を近づけることが、サーバントリーダーシップの効果的な実践につながります。1on1ミーティングを導入するなど、メンバーへのサポートを提供しやすくなる制度を構築するのも有効です。
1on1ミーティングの進め方やメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。
『1on1とは?目的や意味がないと言われる理由、効果を高めるポイントを紹介!』
研修実施が有効
現場の管理職にサーバントリーダーシップを求める場合には、サーバントリーダーシップの実践方法を教育すると効果的です。研修の実施を通じて、サーバントリーダーシップの概要や目的、メリットなどを伝えましょう。
具体的な研修プログラムとしては、サーバントリーダーシップを中心に学ぶリーダーシップ研修や、聴く力を磨く傾聴力研修などがおすすめです。また、メンバーの精神的なケアをサポートするために、レジリエンスについて学ぶ研修を実施するのもよいでしょう。
アルーのサーバントリーダーシップ導入事例
人材育成を手掛けているアルーでは、これまでにさまざまな企業でサーバントリーダーシップを導入するための施策を支援してまいりました。ここからはアルーがこれまでに支援した中から、サーバントリーダーシップに関する事例を2つ厳選して紹介します。
Wismettacグループ
Wismettacグループでは、多様な人材をマネジメントしていくために、サーバントリーダーシップを身につけさせる研修を実施しました。
研修ではメンバーの成長を後押しする方法について学んでもらいました。メンバーの成長につながる仕事のアサイン方法などを理解させ、サーバントリーダーシップに必要な成長支援の考え方を獲得してもらっています。
研修の結果、これまで主流だったタスクアサイン型のマネジメントから脱却し、「部下の成長を支援する」という視点の獲得に成功しました。
本事例の詳細は、以下のページからご覧いただけます。
【Wismettacグループ導入事例】多様な「個」の特性や能力を活かし、部下の成長を支援するマネージャー育成
▼事例資料をダウンロードする
コスモ石油株式会社様
コスモ石油株式会社様では、新任ライン長を対象とした研修の中で、サーバントリーダーシップについて学ぶ機会を設けました。
研修では「他責から自責」をスローガンに掲げ、メンバーの能力発揮を支援する方法を学んでもらっています。グループワークの際には、あえて技術系と事務系の社員を同じグループに配置するなど、ライン長同士のつながりが形成されるように工夫を行いました。
研修の結果、メンバーの生き方やキャリアプランも含めて支援する、サーバントリーダーシップの視点獲得に成功した事例です。
本事例の詳細は、以下のページから詳しくご覧いただけます。
コスモ石油株式会社 人材育成研修 導入事例
サーバントリーダーシップならアルーにお任せください
サーバントリーダーシップを身につける研修なら、ぜひアルーへお任せください。
アルーでは、サーバントリーダーシップを実現するための研修プログラムをご用意しています。研修の企画段階から丁寧に伴走させていただくため、お客様のニーズに合わせて研修プログラムをカスタマイズすることが可能です。
また、eラーニングを活用したブレンディッドラーニングの実施や、オンライン研修の実施にも柔軟に対応させていただきます。
サーバントリーダーシップを身につけるのに役立つアルーの研修は、以下のページから詳しくご覧ください。
共創型のリーダーシップ
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まとめ
サーバントリーダーシップの概要やメリット、デメリットやポイントを解説しました。
組織に多様性が求められる中、リーダーはこれまでにない役回りが求められています。中でもサーバントリーダーシップは、メンバーに主体性や積極性が求められる現代のビジネス環境と相性が良いリーダーシップです。サーバントリーダーシップを導入する際には、ぜひこの記事で解説したさまざまなポイントを意識しながら、社員の能力育成に取り組んでみてください。