アンダーマイニング効果とは?原因や具体例、防ぐ方法を詳しく解説
インセンティブや表彰制度などの外発的報酬を設けることは、社員のモチベーションを高める方法の一つです。しかし、過度に外発的な報酬を設けてしまうと、内発的な興味や意欲が減退する「アンダーマイニング効果」が発生してしまいます。本記事では、アンダーマイニング効果が発生する原因や具体例、発生を防ぐ対策を解説します。
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アンダーマイニング効果とは
アンダーマイニング効果とは、本来内発的に動機づけられていた行動が、外発的な報酬や言動などによって内発的動機づけが損なわれ、「報酬がないとやる気が出ない」「やらされている」という心理状態に陥ることです。
「アンダーマイニング」の語源は「undermine(弱体化させる)」という英単語です。
アンダーマイニング効果は心理学用語であり、「楽しくゲームをやっていた人に対して、ゲームの報酬を与えはじめると途端にやる気が減少する」という実験によって提唱されました。
ビジネスの現場では、ノルマの設定や過度な成果主義などによって、アンダーマイニング効果が発生しやすいといわれています。
外発的動機づけと内発的動機づけ
アンダーマイニング効果を理解するためには、外発的動機づけと内発的動機づけについて理解しておく必要があります。
外発的動機づけとは、他者から与えられる報酬や評価によって行動が駆り立てられることです。例えば、「目的の報酬を得たい」「もっと評価されたい」「罰を避けたい」などが外発的動機づけにあたります。一方、内発的動機づけとは、自分自身の好奇心や探究心、関心や向上心といった内部要因によって行動が駆り立てられることです。例えば、「もっとうまくなりたい」「好きなことを追求したい」などが内発的動機づけにあたります。
ビジネスの現場では、適度な外発的動機づけを与えつつも、仕事へのやりがいや誇りなどの内発的動機を育むことが大切です。
エンハンシング効果との違い
エンハンシング効果とは、外発的動機づけによって内発的動機づけがさらに高まることです。
例えば、内発的動機づけによって行っていた行動が評価され、昇給した場合に、仕事へのやりがいや意欲がより一層高まるなどが挙げられます。つまり、エンハンシング効果とアンダーマイニング効果は、外発的動機づけが内発的動機づけに与える影響が正反対といえるでしょう。
アンダーマイニング効果が発生する原因
アンダーマイニング効果が発生する原因には、下記のようなものが挙げられます。
- 目的が「やりがい」から「報酬」に変わってしまう
- 自己決定感が低下してしまう
- ノルマや締切がある
それぞれの原因について、詳しく解説していきます。
目的が「やりがい」から「報酬」に変わってしまう
もともと使命感ややりがいを感じて自発的に取り組んでいた仕事や活動に、金銭的な報酬を与えてしまうと、徐々に「報酬を得るために行動する」という外発的動機づけに移行してしまう可能性があります。つまり、行動の目的が「仕事へのやりがい」から「報酬を得ること」に変わってしまい、仕事への意欲が減退してしまう恐れがあるのです。
自己決定感が低下してしまう
外発的動機づけによる自己決定感の低下が、アンダーマイニング効果が発生する原因の一つです。
内発的動機づけは、自分自身の興味や関心、価値観に基づいて自発的に行動するため、自然と自己決定感が高まります。一方、外発的動機づけは、他者からの評価や報酬が目的となってしまうため、自己決定感が低下し、「人にやらされている」という感覚を覚え始めてしまいます。その結果、本来の自分らしさや自発性が損なわれ、仕事への意欲や満足感が減退してしまいます。
ノルマや締切がある
「ノルマや締め切りを守らなければいけない」という思いは、外発的動機づけに基づくものであり、内発的動機づけを損なう可能性が高いです。ノルマや締め切りに追われることで、一時的にはパフォーマンスが上がるかもしれません。しかし、外発的動機づけは持続しづらく、いずれはモチベーションが低下してしまうでしょう。その結果、本来持っていた仕事への興味や関心、やりがいが失われ、パフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があります。
職場で発生するアンダーマイニング効果の具体例
ここでは、職場で発生しやすいアンダーマイニング効果の具体例を2つ紹介します。
- 上司からの言動
- 報酬への依存
それぞれの具体例について、詳しく解説します。
上司からの言動
上司の言動次第で、部下の内発的動機づけが損なわれ、アンダーマイニング効果が発生することがあります。
例えば、ある営業チームでは、部下たちは自主的にお客様との関係を深め、長期的な信頼関係を築くことにやりがいを感じていました。営業成績だけではなく、顧客満足度や長期的なビジネス関係を大切にしていたからこそ、高い内発的動機づけを維持できていました。しかし、上司が成績向上を狙い、「毎日の営業成績を細かく報告させ、毎月トップの営業マンに月間MVP賞を与える」という新しい評価制度を導入しました。この結果、部下たちは毎日成績ばかりを意識して営業活動を行うようになりました。顧客との長期的な信頼関係よりも、「短期的な数字を上げること」を重視するようになり、仕事へのモチベーションが低下してしまいました。
報酬への依存
報酬への依存は、職場でアンダーマイニング効果を引き起こす典型的な事例です。
例えば、営業部の社員が営業成績トップの賞の獲得を目指して働いているケースが考えられます。
当初、社員は顧客との良好な関係構築や、営業プロセスそのものにやりがいを感じながら働いていたかもしれません。しかし、賞の獲得に固執するあまり、行動の目的が「営業の質を高めること」から「賞を獲得すること」にすり替わってしまいます。そして、もし賞を獲得できなかった場合、「自分の努力が正当に評価されなかった」と感じ、仕事への意欲が大きく低下してしまうでしょう。
このように過度な報酬への依存は、本来の仕事の意義を見失わせ、内発的動機づけを大きく損ねてしまいます。
監修者からひと言 金銭などのインセンティブや賞の授与単体だけでは、報酬への依存に陥ってしまいがちです。一方で、大きな会場で盛大に表彰されたり、行動やプロセスを評価されていることが伝わる仕掛けをしたりすることで、「私もあの場に立ちたい」「私もあの人のようになりたい」といった内発的動機づけを生み出すこともあります。報酬単体に目を向けず、内発的動機づけも喚起できる仕掛けとセットで考えると効果的です。 |
アンダーマイニング効果が企業に与える影響
アンダーマイニング効果が企業に与える影響は、下記の通りです。
- 離職率が増加する
- 生産性が低下する
- 人間関係が悪化する
- モチベーションが上がりづらくなる
それぞれの影響について、詳しく見ていきましょう。
離職率が増加する
アンダーマイニング効果により、本来の仕事へのやりがいや誇りといった内発的動機づけが損なわれると、社員は「この仕事を続ける意義があるのか」と疑問を抱き始めます。さらに、外発的動機づけが優先されるようになると、「もっと報酬が高い仕事をしたい」「自分の頑張りを正当に評価してくれる会社に移りたい」といった理由から、転職を視野に入れるようになるでしょう。結果的に、優秀な人材の離職が増加し、企業にとって大きな損失となります。
生産性が低下する
厳しいノルマや締め切りがある職場では、社員の内発的動機づけが損なわれる可能性があり、生産性が低下しやすくなります。また、ノルマを達成すること自体が目的化してしまい、それ以上の成果を出そうとしない社員が増える可能性があります。その結果、本来持っていた仕事への興味や関心、やりがいが失われ、生産性に悪影響を及ぼしてしまうでしょう。
企業の生産性を向上させる取り組みについては、下記の記事で詳しく解説しています。
『生産性向上とは?企業ができる具体的な取り組み・補助金・成功事例を紹介』
人間関係が悪化する
インセンティブや表彰制度などで成果に応じた報酬を与えることは、社員のモチベーションを高める効果があるでしょう。しかし、過度なインセンティブや表彰制度は、社員間の格差を生み、人間関係を悪化させるリスクがあります。
具体的には、高い評価を得た同僚に対して嫉妬の感情を抱いたり、逆に自分より低い評価の同僚を見下したりするようになるかもしれません。その結果、本来チームで協力して取り組むべき仕事において、足の引っ張り合いが起こり、人間関係がさらに悪化してしまうでしょう。
モチベーションが上がりづらくなる
アンダーマイニング効果が一度発生してしまうと、社員のモチベーションを回復させることは容易ではありません。
モチベーションを高めるために、外発的動機づけとなる報酬を高く設定しても、仕事へのやりがいや誇りといった内発的動機づけが失われている状態では、根本的な解決にはならないでしょう。そのため、金銭的な報酬だけでなく、仕事の意義や価値を再認識させ、内発的動機づけを高める施策が必要です。
社員のモチベーションを上げる方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
『モチベーションを上げる11の方法。企業が心がけるべきポイントも解説』
監修者からひと言 アンダーマイニング効果は上記のようなネガティブインパクトを企業に与えます。そのため、安易に外発的動機づけの施策を実行しないよう注意が必要です。もし何かしらの課題があり、その対策として外発的動機づけの施策案が出た場合は、内発的動機づけも両立するとしたら何が必要か?と問いかけてみましょう。 |
アンダーマイニング効果の発生を防ぐ対策
アンダーマイニング効果の発生を防ぐ対策には、下記のようなものが効果的です。
- 金銭の報酬ではなく行動や努力を褒める
- 金銭以外の報酬を設定する
- 段階的な目標を設定する
- 管理職研修を実施する
各対策について、詳しく見ていきましょう。
金銭の報酬ではなく行動や努力を褒める
アンダーマイニング効果の発生を防ぐには、金銭的な報酬だけに頼るのではなく、結果に至るまでの行動や努力を褒めて、モチベーションを高めましょう。具体的には、目標達成までにどのような工夫をしたのか、どんな困難を乗り越えたのかといった過程に着目し、具体的にフィードバックすることで、社員の内発的動機づけを高められます。また、社員の頑張りを個別に褒めるだけでなく、会議の場など人前で褒めることも効果的です。自分の努力が多くの人に認められていると実感できれば、仕事へのやりがいや誇りが一層高まります。
金銭以外の報酬を設定する
金銭的な報酬だけでは、より楽に稼ごうとする心理が働いたり、一定の金額に満足してしまったりなど、さらなる成長が見込めなくなる可能性があります。そのため、福利厚生などの金銭以外の報酬設定がおすすめです。
例えば、一定の成果を上げた社員に対し、リフレッシュ休暇やサンクス休暇などの付与が考えられます。
また、その社員が「やりたい」と感じている業務にトライできる機会を与えるなど、個々の社員に合わせた報酬も有効でしょう。
このように金銭以外の報酬をバランス良く組み合わせることで、社員のモチベーションを維持・向上させつつ、アンダーマイニング効果の発生を防げるでしょう。
段階的な目標を設定する
社員に対して、いきなり高い目標を設定してしまうと、強制感を感じてしまい、アンダーマイニング効果が発生しやすくなります。そこで、目標を段階的に設定し、少しずつレベルアップしていきましょう。
例えば、営業部の目標設定であれば、初めは前年比110%、次に120%、最終的に130%というように、段階的に目標を引き上げていきます。そうすることで、社員は着実に成長を実感でき、達成感を得やすくなります。
管理職研修を実施する
管理職は、部下の内発的動機づけに大きな影響を与える立場にあるため、研修によって適切なマネジメントスキルを身につける必要があります。
管理職研修では、管理職として必要なスキルや心構えなどを幅広く学べます。アンダーマイニング効果に関わってくる、部下の内発的動機づけを高めるコミュニケーションスキルや、適切な目標設定の方法なども学べるでしょう。
研修によって部下を適切にマネジメントできるようになれば、アンダーマイニング効果の発生を未然に防ぎ、部署全体のパフォーマンス向上につなげられます。
管理職研修の目的やカリキュラムについては、下記の記事で詳しく解説しています。
『管理職研修の目的と内容は?研修の種類とおすすめカリキュラムをご紹介【事例あり】』
監修者からひと言 アンダーマイニング効果の発生を防ぐ対策の1つに「行動や努力を褒める」ことがあります。ここで重要なことは、どのような行動や努力が組織内で期待されているかを言語化し、社員全員がその行動を認識していることです。特に、何かしらの行動を表彰するようなケースの場合、あるべき行動や努力が共通認識されていない状態で「行動や努力を褒める」と、人によっては褒められるが人によっては褒められないなどの差が出てしまう可能性があります。褒めることによる効果が薄まることがありますので、注意が必要です。 |
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管理職には、自分自身の内発的な動機に基づいて行動を起こす、「インサイドアウト」の姿勢が求められます。アルーの管理職研修では、インサイドアウトのリーダーシップを身につけるためにマインド面・スキル面の両方で変革を促せる内容になっています。徹底した演習を通じて管理職に必要なスタンスを定着できるプログラムとなっているため、管理職が不用意にアンダーマイニング効果を発生させてしまうことを防ぐことができます。部下の内発的動機づけを意識した指導ができるようになるでしょう。
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評価者研修は、メンバーのパフォーマンスやポテンシャルを公正に評価するスキルを磨く研修です。
アンダーマイニング効果の発生を防ぐためには、管理職が部下の内発的動機づけを理解し、それに基づいた目標設定を行うことが重要です。
アルーの評価者研修では、公正な評価スキルだけでなく、部下のやる気を引き出す目標設定のコツも学べます。研修で身につけたスキルを活用し、部下の内発的動機づけに基づいた目標を設定できれば、部下の持続的な成長を促せるでしょう。
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昨今では、若手社員の仕事に対する価値観が変化してきており、今まで通りの育成方法では対応しづらくなってきています。また、外国人部下や年上部下など、多様なメンバーをマネジメントする必要がある場面も多いです。
こうした現代の多様性に対応するには、部下の内発的動機づけを引き出す育成力が必要です。アルーの部下育成力研修では、部下のやる気を高め、持続的な成長を促すスキルを体系的に学べます。研修で身につけた知識とスキルを活用することで、部下一人ひとりの特性に合わせた効果的な育成が可能になります。
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まとめ
本記事では、アンダーマイニング効果が発生する原因や具体例、発生を防ぐ対策を解説しました。
アンダーマイニング効果とは、外発的な報酬などによって内発的動機づけが損なわれ、本来の意欲や関心が低下してしまうことです。アンダーマイニング効果が発生すると、離職率増加や生産性低下など、企業にとって大きな影響を及ぼしてしまいます。アンダーマイニング効果の発生を防ぐには、金銭的報酬だけでなく社員の行動や努力を褒めたり、管理職を中心に研修を実施したりといった施策が効果的です。本記事を参考に、アンダーマイニング効果の発生を防ぎましょう。