生産性向上とは?企業ができる具体的な取り組み・補助金・成功事例を紹介
企業経営において生産性向上は極めて重要な課題となっています。 生産性向上により、限られたリソースの中でも、より多くの付加価値を生み出すことができます。
単に作業工程を効率化するだけでなく、 人材活用、業務フロー、企業文化など、さまざまな施策を講じる必要があります。
本記事では、企業の生産性向上に効果的な取り組み・活用できる補助金・成功事例を解説します。
▼社員の生産性向上に役立つ研修3選
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生産性向上とは?
生産性向上とは、限られたリソースを有効活用し、投入した労力やコストに対して、より大きな利益を生み出すことです。
具体的には、下記のようなものが生産性向上に挙げられます。
- 社員一人あたりの売上や利益を向上させる
- 同じ人的リソースでより多くの製品やサービスを提供する
- 必要な投資額を減らし、同水準の収益を維持する
- 無駄な業務を省き、本来の価値創造に注力できるようにする
多くの企業で人手不足が課題となるなか、生産性向上は重要な対策となっています。
生産性の種類
生産性の種類には、大きく下記3つがあります。
種類 |
説明 |
測定方法 |
評価基準 |
物的労働生産性 |
単位労働投入量当たりの生産量を示す指標 |
社員1人当たりの付加価値額や売上高 |
物的労働生産性が高い方が少ない労働投入で多くの生産ができている |
付加価値労働生産性 |
社員1人当たりの付加価値(粗利)を示す指標 |
社員1人当たりの付加価値額 |
付加価値労働生産性が高い方が効率的に付加価値を生み出せている |
全要素生産性(TFP) |
労働と資本以外の要因による生産量の変化を示す指標 |
労働・資本投入量で説明できない生産量の変化分 |
全要素生産性(TFP)が上昇すれば同じ投入量でより多くの生産ができている |
企業は事業の特性に合わせて上記3つの指標を活用し、生産性向上に取り組むことが重要です。
生産性向上と業務効率化の違い
生産性向上は、単に業務を効率化するだけでなく、「成果」や「付加価値」の向上を重視しています。つまり、同じコスト、人員、時間などで、より大きな成果を生み出すことが目的です。
一方、業務効率化は、既存の業務プロセスに焦点を当て、ムリ・ムダ・ムラのある工程を改善し、より効率的に行うことを目的としています。つまり、同じ成果を生み出すために必要なコスト、人員、時間などを削減することが目的です。
生産性向上と業務効率化の違いをまとめると下記の通りです。
項目 |
生産性向上 |
業務効率化 |
目的 |
同じコスト、人員、時間などで、より大きな成果を生み出すこと |
同じ成果を生み出すために必要なコスト、人員、時間などを削減すること |
焦点 |
「成果」や「付加価値」の向上を重視 |
既存の業務プロセスに焦点を当て、ムリ・ムダ・ムラのある工程を改善 |
生産性向上でよくある課題
生産性向上に取り組む企業によくある課題が、「職場に暗黙のルールがあり、変革を促しづらい」、「現状維持バイアスが強く、新しい方法やツールが受け入れられない」という2点です。生産性向上のためには業務の進め方やコミュニケーションの取り方を変えた方がよいと気付いている社員がいたとしても、なかなかそれを言い出せないケースはよくあるのではないでしょうか。
例えば、「上司はメールを見ないため、部下はメールした後に必ず電話しなければいけない」というような暗黙のルールがある場合が当てはまります。上司に対し「電話がなくてもメールをみてほしい」と提案できればよいですが、職場の心理的安全性が保たれていないと部下から上司に指摘をするのは難しいでしょう。結果として、生産性の低いコミュニケーションが続いてしまうのです。
また、メンバーの現状維持バイアスが強く、新しい手法やツールの導入に抵抗があるケースも、生産性向上施策がうまく進みづらいです。
このような課題を解決していくためには、組織文化の変革と社員の意識改革が必要です。
企業の生産性を向上させる効果的な取り組み
ここからは、企業の生産性を向上させる効果的な取り組みについてご紹介します。
企業の生産性を向上させる効果的な取り組みは、下記の通りです。
- 生産性向上の「範囲」と「目標」を決める
- 日常的に業務の必要性ややり方を問い直す
- 現状維持バイアスを取り除く
- 心理的安全性を向上させる
- ITツールを導入しデジタル化を推進する
- 適切な人材配置を行う
- 社員研修の実施
生産性向上の「範囲」と「目標」を決める
まず、生産性向上の範囲を決めていきます。会社全体の生産性を向上させるのか、特定の部門やチームに限定するのか、それとも個人レベルなのかを明確にしましょう。
例えば、会社全体の生産性向上であれば、全社を挙げての取り組みが必要です。一方、特定の部門であれば、部門の業務に特化した対策を立てられます。個人レベルであれば、個人の業務に焦点を当てます。
次に、生産性向上の目標を具体的に設定します。いつまでに、どの業務を、どの程度改善させるのかを数値化して設定していきます。
具体例としては、「半年以内に、販売管理コストを15%削減する」などが挙げられます。
生産性向上の範囲と目標を明確にすることで、具体的な施策を立てやすくなり、効果的に進めることができます。
日常的に業務の必要性ややり方を問い直す
日常業務を当たり前にこなすだけではなく、業務の必要性ややり方を問い、向き合うことも重要です。
具体的には、業務一つひとつに対して下記のような「問い」を行います。
問い |
確認事項 |
その業務は必要か? |
付加価値の確認 |
やり方は最適か? |
コストの妥当性 |
「問い」を行い判断がつかなければ、同じリソースで質を上げたり、同じ結果で作業時間を減らしたりなどの工夫が必要です。
単純な「問い」だけではなく、下記のように「問い」を具体的にすることで解像度を上げることができます。
- この仕事(会議)で、どの目標達成にどのくらい貢献しますか?
- この仕事の担当者は〇〇さんが最適ですか?それはなぜですか?
- この仕事は内製でやるべきですか?外注でもいいですか?
問いを具体的にしていくことで、より生産性向上に向けた施策を立てやすくなります。
現状維持バイアスを取り除く
現状維持バイアスとは、人間が変化を嫌い、現状を維持しようとすることです。生産性向上のためには、現状維持バイアスを取り除いていかなければいけません。
現状維持バイアスを取り除くには、「回数」と「インパクト」が必要です。つまり、変化を促す機会を繰り返し設け、変化のインパクトを実感させることが効果的です。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
変化を促す取り組み |
内容・効果 |
メンバー同士で相互に業務を見る機会を設ける |
お互いの業務を理解し合うことで、現状に満足せず変化を求める気持ちが芽生える |
管理職が率先して行動を変える |
管理職自らが新しい取り組みを実践し、その姿勢を部下に見せる |
このように、繰り返し変化を促す機会を設け、変化のインパクトを実感させることで、現状維持バイアスを取り除くことができます。
心理的安全性を向上させる
心理的安全性の向上も生産性向上につながります。
心理的安全性とは、職場環境において、自分の意見や提案をオープンに言える状況であることです。
心理的安全性が保たれている職場であれば、意見や提案もしやすく生産性向上につながります。
しかし、上司や同僚に意見や提案をしづらい環境では、生産性向上は進みません。たとえば、「連絡をチャットで済ませたいが、○○さんがチャットを見ないのでいちいち電話しなければいけない」と思っていたとしても、相手に指摘したり上司に相談したりするのが憚られる環境では、生産性向上は進まないでしょう。
このような状況を打開するためには、上司やメンバー間の信頼関係を構築することが重要です。
具体的には以下のような取り組みが有効です。
- 上司とメンバーの1on1ミーティングを定期的に実施し、コミュニケーションを密にする
- チーム会議の前にアイスブレイクを行い、雰囲気を和らげる
- 上司がメンバーの意見を積極的に求め、批判しない姿勢を示す
- メンバー同士で気兼ねなく意見交換できる機会を設ける
心理的安全性が高まれば、誰もが自由に発言でき、生産性を阻害する要因を共有しやすくなります。
心理的安全性については、以下の記事で詳しく解説しています。
『心理的安全性とは?高める方法や人事が行うべき施策について』
ITツールを導入しデジタル化を推進する
ITツールを導入しデジタル化を推進することも、企業の生産性向上に効果的です。
具体的には、下記のような取り組みが有効です。
取り組み |
結果 |
ペーパーレス化によるコスト削減 |
紙の使用量削減により、印刷コスト、保管スペースコストを削減 |
業務の自動化・効率化 |
RPA(Robotic Process Automation)などのツールを活用し、定型的な入力作業や承認フローを自動化 |
デジタル化に対する社員の理解を深め、段階的に推進していくことが重要です。
適切な人材配置を行う
生産性向上には、適切な人材配置を行うことも重要です。適切な人材配置を行うことで、各部門のパフォーマンスが向上し、組織全体の生産性向上につながります。
適切な人材配置を行うためには、社員一人ひとりの保有する資格、スキル、業務経験を把握し、各部門の人員計画を練る必要があります。
また、定期的に社員の適正をチェックし、必要に応じて異動やジョブローテーションを実施することも生産性向上に向けた人事施策として有効です。
社員研修の実施
社員研修を実施することも、生産性向上に効果的です。
研修によって社員一人ひとりのスキルアップを図ることで、業務の質や効率性が高まり、企業全体の生産性向上につながります。
研修を通じて、以下のようなスキルを社員に身につけさせることができます。
- 最新の業務知識や技術
- コミュニケーション能力や問題解決力など業務遂行に必要な汎用的なスキル
これらを習得している社員が増えることで、組織内の連携が円滑になり、よりレベルの高い業務ができるようになります。
生産性向上に活用できる補助金・助成金
ここからは、生産性向上に活用できる補助金・助成金についてご紹介します。
生産性向上に活用できる補助金・助成金は、下記の通りです。
- ものづくり補助金
- 持続化補助金
- IT導入補助金
ものづくり補助金
ものづくり補助金とは、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の略称で、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援するための補助金制度です。
革新的なサービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善に向けた設備投資などが支援の対象です。
ものづくり補助金の補助上限額と補助率は以下のとおりです。
- 補助上限額:グリーン枠(温室効果ガス排出削減取組)は5,000万円、グローバル展開型は4,000万円
- 補助率:1/2~⅔
参考:ものづくり補助金
持続化補助金
経済産業省が運営する持続化補助金は、生産性向上に向けた設備投資などを支援する補助金制度です。
補助対象の経費としては、販路開拓に必要なチラシ・パンフレット、ホームページやウェブ広告、店舗の改装、展示会の出展、新商品の開発費用などです。
持続化補助金の補助上限額と補助率は以下のとおりです。
- 補助上限額:50万~200万円
- 補助率:2/3(赤字事業者は3/4)
参考:小規模事業者持続化補助金
IT導入補助金
IT導入補助金とは、企業がITツールを活用して生産性を向上させる取り組みに対して、国が費用の一部を補助する制度です。
具体的には、生産管理システム、営業支援システム、Web会議ツールなどDX化・セキュリティ対策に応じた導入費用が支援されます。
補助金を利用することで、ITツール導入の初期投資を抑えることができ、生産性向上に向けた施策をスムーズに始めることができます。
IT導入補助金の補助上限額と補助率は以下のとおりです。
- 補助上限額:最大450万円
- 補助率:1/2~⅘
参考:IT導入補助金2024
生産性向上を行うメリット
ここからは、企業が生産性向上を行うメリットについてご紹介します。
企業が生産性向上を行うメリットは、下記の通りです。
- コスト削減
- 企業競争力の向上
- 人手不足の課題解決
- 社員従業員満足度の向上
コスト削減
生産性向上は、企業のコスト削減につながります。生産性が向上すると、同じ労働力や資源を使ってより多くの成果を生み出すことができ、労働力や原材料などの購入コストを削減することができます。
また、生産プロセスの効率化により、無駄な作業や遅延が減少し、時間の節約ができるようになります。
このように生産性向上は、直接的なコスト削減効果が期待できます。
企業競争力の向上
生産性向上により、企業競争力を強化することができます。
生産性が上がると、無駄な業務プロセスを排除し、リソースを有効活用できるようになります。その結果、コストを抑えながらも高品質な製品やサービスを顧客に提供することができるようになり、競合他社に対する優位性が生まれます。
また、生産性向上により、重要なコア業務に人員やリソースを使えるようになります。コア業務の質が高まれば、顧客にとってより価値の高い製品・サービスを提供できるため、顧客満足度が向上し、持続的な企業競争力の向上につながります。
人手不足の課題解決
生産性向上により人手不足の課題も解決できます。
近年では、少子高齢化などに起因する人手不足が多くの企業で課題となっています。
そのため、RPAなどの自動化ツールを導入して生産性を向上していくことが重要です。自動化ツールを導入すれば、ルーティン化している業務も人手を介さずに処理することができ、人手不足の課題を乗り越えることができます。
人手不足は短期的な取り組みで解決できる課題ではないため、企業の将来のためにも生産性向上に取り組む必要があります。
従業員満足度が高まる
従業員の満足度が高まることは、生産性向上の大きなメリットの1つです。
生産性が向上すれば、無駄な作業が省けるため、残業時間を削減することができます。残業時間が削減できれば、仕事と私生活を両立しやすくなり、ワークライフバランスが改善できます。
ワークライフバランスの実現は、政府が推進する「働き方改革」の重要な柱です。 働き方改革は、長時間労働の是正や、多様で柔軟な働き方の実現を目指しており、企業の生産性向上はこの取り組みを後押しすることができます。
アルーが支援した生産性向上の成功事例
アルーでは、これまでにさまざまな企業で生産性向上の実現に向けた施策を支援してまいりました。ここでは、今まで支援してきた成功事例から3つの事例をご紹介します。
旭化成株式会社 会議の生産性向上施策例
旭化成株式会社様では、会議実施の頻度が高く、会議時間の長さも課題でした。
施策以前に社員アンケートを実施した結果、事業本部の6割以上の社員が週に20時間以上(週に2〜3回程度)会議を行っており、会議の7割程度が情報共有のための会議だということがわかりました。
そこで、会議の生産性向上を高めることが働き方改革の一環になると考え、アルーの研修を実施しました。
研修は、主に会議主催者(主に管理職)を対象に、下記内容を2回に分けて実施しました。
- ファシリテーションスキルの習得
- 会議の課題・原因・解決策の検討
- 行動計画の立案
- 会議作法の習得
2回の研修を実施した結果、下記のように会議にかける時間を削減することができました。
- 第1回目の研修後には、会議に関わる時間が平均して58分/人/週削減
- 第2回目の研修後には、会議に関わる時間が平均して53分/人/週削減
はじめは研修に積極的になれなかったという声もありましたが、「研修の効果が出る面白さを実感した」、「受講した意義をすごく感じている」との声を頂きました。
本事例の詳細は、以下のページからご覧いただけます。
サービス業A社 役職者向けプロジェクトマネジメント・海外ファシリテーション力強化研修事例
A社では、外部環境が大きく変化する中、経営理念の刷新を行い一人ひとりが仕事を見つめなおし、考え抜くことが必要と考えていました。
そこで、マネジメント層に対して、プロジェクトを推進するための基礎的な知識・スキルを習得する研修をアルーで企画・実施しました。
研修の内容は以下の通りです。
- プロジェクトマネジメントについて
- アクションプランの検討・実践
- アクションプランの振り返り
- 会議ファシリテーションについて
事前に研修内容の資料を展開することで、研修当日の演習がスムーズに行えるという工夫をしています。また、研修で学んだことを実践してもらい、講師からフィードバックを受けるという流れによって、効果をより実感していただけました。
受講者からは、「知っていることとできることは違うということを実感できた」「ミーティングを有意義なものに変え、屈託ない意見を出し合っていくためにもファシリテーションのスキルは必要だと感じた」という声を頂けました。
本事例の詳細は、以下のページからご覧いただけます。
役職者向けプロジェクトマネジメント・海外ファシリテーション力強化 施策事例
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まとめ
本記事では、企業の生産性向上に効果的な取り組み・活用できる補助金・成功事例を解説しました。
生産性向上は、企業の競争力を高め、コストを削減し、従業員の満足度上昇にもつながります。
具体的には、下記の施策がおすすめです。
- 業務の必要性ややり方を日常的に問い直す
- 現状維持バイアスを取り除く
- 心理的安全性を高める
- ITツールを導入しデジタル化を推進する
- 適切な人材配置を行う
- 社員研修を実施する
生産性を向上させることができれば、コスト削減や企業競争力の強化など数多くのメリットがあります。
本記事で紹介した補助金制度などもうまく活用しながら、生産性向上の施策を進めていきましょう。