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できるリーダーが実践する“部下の叱り方”とは?叱り方のコツ、上手な叱り方・やってはいけない叱り方の具体例、研修事例を解説
ダイバーシティ&インクルージョン推進や働き方改革、ハラスメント防止など、社員が働きやすい多様な環境を整え、個人を尊重することが当たり前になっています。それ自体は非常に喜ばしいことですし、今後も推進し続ける必要があります。
ですが一方で、管理職のコミュニケーションについてのお悩みが増えています。そんなお悩みのひとつが、管理職がメンバーに“配慮”し、部下指導ができないという課題です。新入社員や若手社員はもちろん、最近では年上部下をもつ管理職も増えています。そんな多様なメンバーをまとめ、成長させるためには、「叱ること」が重要な手段のひとつとなります。
本記事では、そんな管理職に必須のコミュニケーションのひとつである、「叱る」について取り上げ、正しい叱り方や、やってはいけない叱り方、叱り方のコツ、研修事例をご紹介します。
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目次[非表示]
叱るとは何か ~叱る目的~
「叱る」とは実際にどのような行為なのでしょうか。
ビジネスにおいて叱るとは、おもに部下の言動によって部下自身を含めた誰かに悪影響を与えたり、上司である自分が指示したとおりに動いてくれなかったときに、あえて厳しく注意を促すことを指します。その目的は、相手をより良い方向へ導くために何が良くないのかを「気づかせ」、さらには「成長を促す」ことです。
「叱る」と「怒る」の違い
「叱る」とよく比較される言葉に、「怒る」があります。
「叱る」と「怒る」は以下の2つの観点で違いがあります。
- 目的があるか
- 公の立場かどうか
目的があるか
「叱る」には、相手を正しい方向に導き成長を促すという目的があります。相手の“できていない点”や“改善すべき点”を指摘し、今後に活かして成長してもらいたいと思って叱ります。ですので「叱る」という行為は、叱る側と叱られる側の相互理解がないと成立しません。
一方で「怒る」には目的がなく、ただ自分の感情をぶつけるだけの行為です。簡単に言ってしまうと、怒りを爆発させてスッキリしたいだけなので、相手の理解は必要ありません。自分のために怒ります。
公の立場かどうか
「叱る」という行為は、公の立場から発せられます。前述のとおり、「叱る」目的は相手の成長を促すためです。これは、経営者や管理職からの強い価値観の表明であるといえます。この価値観から発せられるメッセージは、社員にとって「何が大事」かを強く伝えることを意味します。公の立場から発せられる「叱る」に込められたメッセージは、企業の強みの根幹になる首尾一貫した“価値観の習慣”(企業文化)となり、社員の考え方や行動に大きな影響を及ぼします。
一方で「怒る」は私の立場から発せられます。これが続くと社員は委縮したり反発し、個人や組織に対してマイナスの影響が生まれます。
叱れないことの弊害とは ~叱ることが苦手な管理職が増えている~
管理職には、チームや組織で成果を上げるために、コミュニケーションの手段のひとつとして「叱る」ことが求められます。
皆さんの職場にも、
- 叱りたいけど後で何を言われるか分からないから叱れない
- 個人を尊重しないといけないので、どこまで正していいか分からない
- 叱っても部下はなかなか変わらないし、自分も嫌な気分になるのでできれば叱りたくない
など、「ものわかりのいい上司」になってしまっている方がいるのではないでしょうか。
- 管理職の考えを理解しようとしてくれない新入社員
- 自分のキャリアだけを考えて周りが見えなくなっている若手社員
- 会社になじまない中途社員
- 態度だけは大きい年上の部下
- どう話しかけていいかわからない外国籍社員
など、管理職は多様な部下と人間関係を構築しつつ、成果を上げなくてはいけません。叱ることは、決してハラスメントではありません。部下の良くない思考や言動をただし、成長を促すための効果的な手段です。実際に、大人になってからの成長の2割が「叱るフィードバック」によるものだといわれています。叱ることで組織をまとめ成果を上げるスキルは、管理職のコミュニケーションスキルとして必須のものです。叱り方を知り、より効果的におこなうことで、相手や組織の行動や考えをよい方向に変化させていくことができます。
逆に叱れなければそれができない、ということです。近年では、叱られないことで成長実感がもてず、かえって若手社員が退職してしまうケースもあります。正しい叱り方の習得は、管理職がぜひ身につけたいスキルといえます。
一方で、叱ることは非常に難しく、デリケートな気遣いが求められます。叱り方を間違えて信頼関係にひびが入ってしまうと、修復することは至難の業です。そこで、部下の成長を加速させる叱り方のスキルを習得させたいと、リーダーや管理職を対象とした研修のなかに「叱り方」のプログラムを入れることが増えています。
上手な叱り方の具体例
相手の成長を促すために上手に「叱る」ためのポイントは大きく3つあります。
「WHY」と「WHAT」を伝える
日常のビジネスコミュニケーションでも同じことがいえますが、「なぜ」の部分を明確に示すことは非常に重要です。自分がなぜ叱られているのか分からないと、相互理解が生まれることはありません。なぜ叱られるかの因果関係を明確にすることが最初のステップです。
そしてダメだと指摘する部分を明確にします。このときのコツは、改善につながりやすいように「叱る」ポイントを1つに絞ることです。いくつも指摘したくなる気持ちはよくわかりますが、指摘される部分が増えれば増えるほど叱られている側は混乱し、気分が落ち込むだけで改善につなげられません。
たとえば、朝遅刻した社員を叱るケースだと、「WHY」は遅刻したことで周囲に迷惑がかかったからです。そして、「WHAT」が多くなりがちです。
- 寝坊しない対策ができていなかったこと
- 遅刻しそうだと分かったときに連絡をしなかったこと
- 反省する態度が周囲に伝わらなかったこと
など、あれもこれも指摘したくなります。
ですが、叱るときには事前に指摘する部分をしっかりと整理して、線ではなく、あえて点で叱ることが大切です。
叱る対象を部下にしない
叱ることでより良くしたいのは、部下の人格的な部分ではありません。部下の言動をより良くすることが目的です。適切ではなかった言動を自覚させるように「WHAT」を伝えることが大切です。
たとえば、遅刻しそうなときに事前連絡をせず周囲の予定を狂わせてしまったことが、叱るべき言動です。ここで、そもそも遅刻をすること自体が信じられない、のような人格につながる話をしてしまうと、モチベーションの低下やハラスメントにつながってしまいます。
場所とタイミングを考慮する
叱るときには、「人前で叱らない」ようにすることが重要です。
相手の成長を促すために叱っているのに、人前で叱ってしまうと、叱られている側は“恥をかかされた”と感じてしまいます。とくに外国籍社員は、価値観や文化が違うので注意が必要です。ただ、「叱る」行為は公の立場から発せられます。社員として「何が大事」を強く伝える場でもありますので、周りのメンバーにもメッセージを伝えたい場合には、あえてみんなのいる前で叱る場合もあります。
また、叱るタイミングは、叱るべき事象が起こってすぐのタイミングが良いといわれています。タイムリーであればあるほど叱る効果が高まりますし、問題解決にスムーズに進めます。ただし、感情をぶつけてしまいそうなときには叱る側が冷静になり、叱るポイントを整理できるまで時間を空けることは有効です。
やってはいけない叱り方の具体例5選
「叱る」という行為は、一歩間違えればハラスメントと受け取られる恐れがあります。また、一時的にモチベーションを下げるだけでなく、叱りすぎれば部下が無気力になることもあります。
叱ることが逆効果にならないよう、ここからはやってはいけない叱り方を5つご紹介します。
感情を表に出しすぎない
叱るときには、つい早口になったり、声が大きくなったりします。また、いつもよりも乱暴な口調になることもあります。怒っている、という感情を伝えることは必要ですが、それが脅しとなり、部下を委縮させてしまわないように注意が必要です。
他者と比較する/他者を引き合いに出す
「〇〇さんはできるのに、あなたはできていない」のように、他者と比較しても、叱っている相手に気持ちが伝わることはありません。逆に、恥をかかされた感覚になり、叱った内容を受け入れてもらえなくなります。また、同様に「〇〇さんも言っていたけど」のように、他者を引き合いに出すこともNGです。叱るときは自分の言葉で伝えることが大切です。
具体的な改善を伝えない
「イマイチ」「もっと丁寧に」「レベルが低い」「もっと自分で考えないと駄目」など、抽象的な言葉で伝えたとしても、相手はどうしていいかわかりません。抽象的になればなるほど、人によって受け取り方が異なり、部下が自分の判断で動けなくなってしまいます。どの部分をどう改善してほしいのか具体的に伝えることが重要です。
否定ばかりしない
いくら具体的な言動についてとはいえ、駄目なところばかり並べて叱られると、部下は「とにかく自分は駄目なんだ」と考えてしまいます。褒められる部分にも目を向け、フォローすることも大切です。また、あれもこれも指摘しても部下は混乱します。とくにやってはいけないのが、過去の出来事にまでさかのぼることです。今起きたことにのみ焦点を当て短く叱ることを意識すると否定ばかりが並ばないようになります。
自分の価値観や意見を押しつけない
一方的に決めつけてしまうと、信頼関係が大きく崩れる原因となります。上司が現場で起こったことのすべてを正しく把握しているわけではありません。叱られている側にも言い分はありますし、上司が間違っていることもあります。また、「自分は過去こうだった」「自分はこうやって成功してきた」のような価値観の押しつけもNGです。自分の話をするのであれば、自分の失敗体験を話したほうが、相手は話を聞いてくれます。
叱り方のコツ ~4ステップで叱る~
こからは、実際に叱るときのコツをご紹介します。叱り方には基本となる4つのステップがあります。このステップを意識するだけで叱られた側の叱られた後の態度やモチベーション、行動が大きく変わります。
<叱り方の4つのステップ>
- 事実ベースで話す
- 感情を言葉で伝える
- 望ましい行動を伝える
- メリットや今後の期待を伝える
事実ベースで話す
たとえば会議に遅刻したときに、「これからは遅刻しないように!」といきなり要求をぶつけてしまうことがあります。まずは遅刻したことや遅れることへの報告がなかったことなど、事実を話し、その結果会議の進行にどんな支障が出たか相手との合意を得るところから始めます。このステップを通じて大切なことが、自分の意思を短く的確に伝えることです。
感情を言葉で伝える
管理職が感情をおもてに出すことをネガティブに捉える風潮がありますが、感情を伝えることは実はとても重要です。今自分は怒っている、がっかりしている、悲しんでいるなど、そのときに感じている感情を率直に伝えることで、叱る側も落ち着きますし、叱られる側も話を聞く姿勢になります。
望ましい行動を伝える
「叱る」行為の先には相手の成長がないといけません。すいません、と謝罪の言葉を言われても何の解決にもなりませんので、改善して欲しい行動、望ましい行動を端的に伝えます。このステップ全体にいえることですが、端的に伝えることで自分の意思がより伝わりやすくなります。叱る側から一方的に改善行動を伝える場合もありますが、「どう思う?」と相手の考えを聞いて、その考えに対してフィードバックしたほうが相手の成長につながります。
メリットや今後の期待を伝える
自分が変化することで得られるメリットや成長、周囲へのポジティブな影響を伝えることで、実際にやってみよう、という気持ちにさせることができます。「将来こんな仕事をしてほしいと思っている」など今後の期待を伝えることも有効です。叱ることをきっかけに行動を変え、成長を促していきましょう。自分のために叱ってくれていることが理解されれば、信頼関係が強固になります。
愛のある叱り方ができるリーダー、管理職になるためには
叱るためには、これまでご紹介してきたスキルがまず必要ですが、そもそも部下から「あなたに言われたくない」と思われていたら、叱られた側が行動を変えることはほとんどありません。これは、日ごろのおこないが部下を叱るに足りるほどの説得力があるか、という問題です。部下は思っている以上に上司の一挙手一投足を観察しています。
魔法の杖はありませんので、こうしたらいいという明確な答えはありませんが、管理職は仕事に対するスタンスや資質を常に問われていると意識しなくてはいけません。ただ、完璧である必要はありませんし、欠点がないということはありえません。組織のなかで管理職に求められていることと、今の自分の実態との折り合いをうまくつけて、自分らしい管理職を目指しましょう。
部下指導スキルを身につけるならアルーにお任せください。
部下指導スキルを身につけさせる研修は、ぜひアルーへお任せください。人材育成を手掛けているアルーでは、部下指導スキルを伸ばすための研修プログラムを数多くご用意しています。
どんなに優れた管理職であっても、愛のある叱り方ができなければ部下の成長を支援することはできません。アルーの提供するプログラムは、演習中心でスキルとマインドセットの両面にアプローチできることが特長です。指導方法や叱り方のノウハウはもちろん、指導の際の心構えや考え方など、マインド面での成長を徹底的に引き出します。
アルーの提供する部下指導力研修は、以下のページからご覧ください。
部下育成力研修
アルーの部下コミュニケーション研修事例
アルーでは、これまでにさまざまな企業で部下とのコミュニケーションスキルを磨く研修を実施してまいりました。ここからは、それらの中から特に参考となる事例を3つピックアップして紹介します。
部下コミュニケーション研修の具体的な流れやプログラムについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
帝人株式会社 リーダーシップ研修事例
帝人株式会社様では、人事制度の見直しにより設けられた「AS職」という新たな管理職の職掌で、期待役割に見合ったスキルや意識を開発・醸成する必要がありました。そこで、リーダーシップと指導育成力を身につけるための新任AS職研修を実施しています。
本研修プログラムでは、部下との信頼関係を構築する方法や、部下指導に役立つフレームワークなどを体系的に学んでもらいました。研修のまとめとしてアクションプランを設定し、短い研修期間ながらも現場での実践を意識させたことがポイントです。
研修後には、これまで暗黙知とされていた指導スキルが共通言語化され、研修ゴールとして設定していた期待行動・意識の発現率も68%から95%へ向上しました。
本事例の詳細は、以下のページからご覧いただけます。
【帝人株式会社研修導入事例】現場管理者としての リーダーシップを強化する 「新任AS職研修」
▼事例資料をメールで受け取る
Wismettacグループ マネージャー研修事例
Wismettacグループ様では、上場後の新たなビジネス展開を加速する中で、自己流のマネジメントを共通言語に基づく最新のマネジメント手法へアップデートしたいという課題がありました。そこで、部下の成長支援を実現するための仕事アサインを行う方法を学ぶ研修を実施しています。
本研修では、部下の成長につながる業務アサイン方法を学んでもらうだけでなく、業務アサインの際の伝え方や、アサイン後のフォロー方法まで細かく学んでもらったことがポイントです。研修後には「部下の成長支援」という視点を持った業務アサインができるようになり、現場からも「まさに困っていた内容だったのでとても参考になった」といった声が上がりました。
本事例の詳細は、以下のページからご確認ください。
【Wismettacグループ研修導入事例】多様な「個」の特性や能力を活かし、部下の成長を支援するマネージャー育成
▼事例資料をメールで受け取る
コスモ石油株式会社 新任ライン長研修事例
コスモ石油株式会社様では、組織変更に伴って、会社の将来的なキーパーソンであるライン長に役割認識を深めてもらいたいという課題がありました。そこで、新任ライン長約30名を対象とした研修を実施して、部下指導のノウハウを学んでもらっています。
本事例では、「他責から自責」をスローガンに掲げ、部下指導の際のマインドセットにも重点的にアプローチしたことがポイントです。
研修後には、ライン長の間に「伝わったことがすべて」という意識が浸透し、現場での研修に役立っています。
本事例についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
【コスモ石油株式会社研修導入事例】信じて任せる。 人をマネジメントする 新任ライン長研修の意義とは。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、管理職に必須のコミュニケーションのひとつである、「叱る」について取り上げ、正しい叱り方や、やってはいけない叱り方、叱り方のコツ、研修事例をご紹介しました。
多様な人材の活躍、ハラスメントの防止、働きやすい環境の整備などが進んでいる昨今、部下指導に悩む管理職は非常に増えています。とくに“叱る”という行為については、部下以上に上司が緊張してしまい、二の足を踏んでしまいがちです。ですが、それを放置してしまうと、かえって部下の成長を阻害し、エンゲージメントを下げてしまう可能性もあります。
ぜひ上司を対象とした研修を実施して、部下指導や叱るために必要なスキルや心構えを習得してもらいましょう。アルーの部下指導力研修は、以下のページからご覧いただけます。
部下指導力研修
この記事の内容を参考に、効果的な部下指導を実現していきましょう。