ダブルバインドとは?ビジネスの場での具体例・心理を解説
社員の中には、いわゆる「ダブルバインド」と呼ばれる状況を作り出し、周囲に不安な思いをさせてしまう人がいます。ダブルバインドは仕事に対するモチベーションや意思決定の質にも影響を及ぼしますし、場合によってはハラスメントにつながる可能性もあるため注意が必要です。
この記事では、ダブルバインドの定義やビジネスの場で起こる具体例、ダブルバインドを起こさないようにするための対策を解説します。
▼ダブルバインドを防ぐためのおすすめ研修3選
目次[非表示]
ダブルバインドとは?
ダブルバインドとは、二つの矛盾した情報や要求を受け取ることで、どちらの選択肢を選んでも不安感や罪悪感を覚えるような、心理的ストレスのかかる状態のことを指します。日本語では「二重拘束」とも訳される言葉で、もともとは米国の精神科医グレゴリー・ベイトソン氏によって提唱されました。
例えば、普段から「何かあったらすぐに相談して」と言ってくる上司に、いざ相談すると「それくらい自分で考えて」「何でもすぐに聞くな」などと言われる場合、ダブルバインドに該当します。
こうしたダブルバインドの状況が続くと社員は混乱し、仕事に対するモチベーションにも悪影響を及ぼすため注意が必要です。
ダブルバインドをする人の特徴・心理
ダブルバインドを行ってしまう上司の心理はどのようなものなのでしょうか。
ここからは、ダブルバインドをする人に共通する特徴や、ダブルバインドをする人によく見られる心理を解説します。
機嫌によって意見が変わる
ダブルバインドをしてしまう人の傾向として、機嫌によって意見が変わる点が挙げられます。
例えば機嫌がよい場合に指示を仰ぐと、「この仕事は〇〇君に任せるから、好きにやってみなさい」と言う一方で、機嫌が悪いときには「報告もなくどうして勝手に進めたの?」といった指示を出してしまうケースです。感情に支配された指示を出してしまう場合、意思決定に一貫性がなくなります。その結果、ときに矛盾する指示を出してしまい、部下をダブルバインドの状態にしてしまうのです。
自己顕示欲を満たしたい
自己顕示欲を満たしたいのも、ダブルバインドを行ってしまう人の心理の一つです。
上司の中には、自分の持っている権力や特定の立場を利用したいと考える人がいます。こうした社員は、他者へ矛盾した要求を押し付けることで、自己顕示欲を満たしたいと考えがちです。
意図的にダブルバインドの状況を作り出している場合、ハラスメントとみなされる可能性が特に高いです。意図的なダブルバインドが目立つ場合には、ストレスの多い職場環境になっていないか、上司のマインドセットはその役職に適しているか、などを再度チェックする必要があります。
責任を回避する傾向がある
ダブルバインドを行ってしまう人には、責任を回避する傾向があります。
例えば「自分で考えて行動してね」「常に私へ相談してね」という二つの矛盾した指示を出す状況を考えましょう。ダブルバインドを行う社員は、自分が判断できないような事柄を相談された場合には「自分で考えてねと言ったはず」と応じ、部下が自分で行動して失敗した場合には「相談してと言ったよね」と追求します。ダブルバインドを行うことによって、常に自分自身の責任を回避しているのです。
ダブルバインドを行う社員は、問題の解決や対処に取り組むよりも、責任を他者へ押し付けることを優先する傾向があります。こうした傾向は部下へ大きなストレスを与えるだけでなく、会社や組織全体のパフォーマンスに対して悪影響を及ぼします。
仕事で起こりやすいダブルバインドの具体例
ダブルバインドは、ビジネスでもたびたび発生します。ダブルバインドを防ぐためには、仕事で起こりやすいダブルバインドの例を理解することが大切です。
ここからは、ビジネスの現場でよく見られる典型的なダブルバインドの例を二つ解説します。
上司に相談するとき
例えば、上司が新入社員に対して、「わからないことがあったら何でも聞いて」「すぐに相談して」と言ったとしましょう。しかし、新入社員がいざ相談すると、上司は「それくらい自分で考えて」「何でもすぐに聞くな」と返答してしまいます。
これは、典型的なダブルバインドの例です。この場合、新入社員は以下の二つの状況の指示の間でダブルバインドに陥ることになります。
- わからないことは何でも上司に聞くべき
- 自分で考えて動くべき
こうした状況は新入社員にとって大きなストレスになり、仕事に対するモチベーションを失うきっかけにもなりかねません。
業務上でミスをしてしまったとき
業務を進める中で、何らかのミスをしてしまう場合もあるでしょう。ミスを上司に報告するとき、「何か言い分があるなら言え」と言われることもあるかもしれません。そこで、新入社員は素直にミスの原因や経緯を説明しました。すると、上司は「言い訳をするな」と返してしまったのです。
これも、ビジネスでよく見られるダブルバインドの典型例です。部下は、以下の二つの指示の間でダブルバインドに陥ります。
- ミスの原因や経緯を説明すべき
- 原因や経緯の説明は言い訳なので、すべきでない
こうした状況も、前述した例と同様に社員にとって大きなストレスとなり、上司に対して萎縮してしまう原因となります。
ダブルバインドによる悪影響
ダブルバインドには、さまざまな悪影響が存在します。ダブルバインドによって生まれる悪影響は、大きく以下の三つです。
- 部下が混乱してしまう
- チームパフォーマンスが低下する
- ハラスメントになってしまう可能性がある
ダブルバインドは部下を混乱させてチームパフォーマンスを落とすだけでなく、場合によってはハラスメントともみなされます。ダブルバインドによる悪影響を解説します。
部下が混乱してしまう
ダブルバインドが発生すると、部下が混乱する原因となります。
ダブルバインドは、部下へ矛盾する二つの指示が与えられる状況です。こうした状況が続くと、部下は上司を信用できなくなり、徐々に仕事やキャリアに関する相談をしなくなります。「職場に信頼できる上司がいない」と感じた部下は、徐々に職場に対するエンゲージメントを下げ、最終的には離職へ至ってしまうかもしれません。さらに、部下が上司を信用できなくなった結果、報連相などが滞ってしまう可能性も高いです。
部下とのコミュニケーションのコツについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
『管理職に必要なコミュニケーションスキルとは|コツやスキルの身につけ方を解説』
チームパフォーマンスが低下する
チームパフォーマンスが低下することも、ダブルバインドによる悪影響の一つです。
ダブルバインドが発生すると、チーム全体のコミュニケーション能力が低下します。業務に必要な情報共有が滞り、チーム全体のパフォーマンス低下につながりかねません。
また、ダブルバインドが常態化していると、上司からの指示の実効性が低下します。いくら上司から指示を出しても、部下は「どうせまた別の指示が出されて覆されるだろう」と考え、指示を実行に移さなくなってしまうのです。
ハラスメントになってしまう可能性がある
ダブルバインドは、ハラスメントとみなされる可能性もあります。
矛盾した二つの指示が与えられた場合、部下は精神的な苦痛を受ける可能性があります。こうした状況が続けば、ハラスメントとして問題となってしまうのも無理はありません。
また、ダブルバインドを行うような上司は、部下からすると信頼できないでしょう。職場に信頼できる上司がいなくなった場合、フォローが必要な場面でもフォローを求めづらくなってしまい、部下の精神的な苦痛はさらに増大してしまいます。
職場で起こるハラスメントについてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
『【2024年最新】職場で起こるハラスメントの種類一覧表。対策も解説』
企業でダブルバインドを発生させないための対策
ダブルバインドを発生させないためには、企業側の積極的な対策が必要です。具体的には、以下のような対策を講じるとよいでしょう。
- 上司・管理者に対して研修を実施
- メンター制度の導入
- 組織風土を見直す
- 相談窓口を設置
ここからは、企業でダブルバインドを発生させないために講じておきたい対策を解説します。
上司・管理者に対して研修を実施
ダブルバインドを発生させないためには、上司や管理職に対して研修を実施するのが大切です。
ダブルバインドを行ってしまう上司の中には、何がダブルバインドに該当するのかしっかりと認識できていない人も少なくありません。上司や管理職を対象とした研修を実施して、何がダブルバインドに該当するのか、なぜダブルバインドは問題となるのかを理解してもらいましょう。
管理職に必要なコミュニケーションスキルの具体例や、スキルの身につけ方は以下のページで詳しく解説しています。
『管理職に必要なコミュニケーションスキルとは|コツやスキルの身につけ方を解説』
メンター制度の導入
メンター制度を導入することも、職場でのダブルバインドを防ぐための対策の一つです。
メンターと社員が1対1で何でも相談できる環境を整えれば、万が一上司からのダブルバインドに苦しむことになった場合にも、メンターへ相談しやすくなります。メンターという第三者が積極的に関わることで、ダブルバインドが生まれづらい状況を作ることができるのです。
なお、メンター制度を導入する際には、メンターに対して適切なメンタリング方法を学んでもらう必要があります。
メンタリングの進め方や、効果的に実施するためのポイントは、以下の記事で詳しく解説しています。
『メンタリングとは?メリットや進め方、効果的に実施するポイントも解説』
組織風土を見直す
ダブルバインドを防ぐためには、組織風土を見直すのも重要です。
ダブルバインドが多発する場合、「上司の権力が絶対的である」「悪い上司の行動を許してしまう」といった職場風土が形成されている可能性があります。ダブルバインドを防ぐためには、こうした組織風土を改め、組織全体で適切な行動が守られるように促進することが大切です。組織全体の文化を健全で前向きなものへ改め、ダブルバインドの防止を図りましょう。
なお、組織風土を見直す際には、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の見直しや浸透に取り組むのも選択肢の一つです。
MVVの定義や浸透方法は、以下のページをご覧ください。
『【企業例つき】MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは?』
相談窓口を設置
ダブルバインドを防ぐ方法として、相談窓口を設置することも挙げられます。
相談窓口は、部下が上司との関係や職場環境について安心して相談できる場所です。上司によるダブルバインドは、なかなか部署内で相談しづらいことも多いでしょう。周囲の目を気にして、ダブルバインドを相談したいがなかなか口に出せないケースも少なくありません。
相談窓口があれば、部署内では言いづらいことも率直に相談できます。部署内のことや上司について気軽に相談できる窓口を設けて、上司のダブルバインドについて指摘する機会を作ることが大切です。
ダブルバインドを防ぐための施策ならアルーにお任せください
ダブルバインドを防ぐための施策なら、ぜひアルーへお任せください。
ダブルバインドを防ぐためには、上司側のコミュニケーション能力を高めることが大切です。人材育成を手掛けているアルーでは、ダブルバインドを防ぐための研修を数多くご用意しています。
ここからは、ダブルバインドを防ぐために有効なアルーの施策を三つ紹介します。
管理職研修
管理職研修は、管理職に求められるスキルセットやマインドセットについて幅広く学ぶことのできる研修です。
より複雑で曖昧性の高いVUCA時代では、管理職には高い変化適応力が求められています。アルーの管理職研修は、VUCA時代に必要な変化適応力を始めとした、時代に適したスキルやマインドを身につけられるのが特長です。ダブルバインドを防ぐために有効なコミュニケーション方法や部下との関わり方などを、豊富な演習も交えながら幅広く学ぶことができます。
アルーが提供している管理職研修の詳細は、以下のページからご確認ください。
管理職研修
▼サービス資料をメールで受け取る
ティーチング研修
ティーチング研修は、部下へ直接答えを提示しながら学んでもらう指導スタイルである「ティーチング」について幅広く学べる研修です。
ティーチングを行う際には、ティーチングの基本となる型や、ティーチングに必要な心構えなどを学ぶ必要があります。アルーのティーチング研修は演習を通じて学べるため、現場ですぐに実践できるティーチングスキルが身につくことが特長です。ケーススタディを通じて「部下への指示の出し方」「部下との関わり方」などを学べば、ダブルバインドを起こさないコミュニケーション方法が身につきます。
アルーのティーチング研修の詳細は、以下のページから確認いただけます。
ティーチング研修
コーチング研修
コーチング研修は、部下の気づきを促すアドバイスやフィードバック、質問を通じて能力を伸ばす指導スタイルである「コーチング」について学べる研修です。
コーチングを行う際には、部下のやる気を引き出すとともに、部下の成長につながるフィードバックや質問を投げかける必要があります。アルーのコーチング研修ではGROWモデルと呼ばれるモデルに基づいて、効果的な部下との関わり方について学べるのが特長です。状況別のシミュレーションも豊富に用意されており、現場ですぐに役立つコーチングスキルを効果的に定着させることができます。
アルーが提供しているコーチング研修についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
コーチング研修
▼サービス資料をメールで受け取る
まとめ
ダブルバインドについて、ダブルバインドの具体例や悪影響、ダブルバインドを行ってしまう人の心理などを解説しました。
ダブルバインドは部下のモチベーションを下げるばかりか、場合によってはハラスメントとみなされてしまう行為です。そのため、ダブルバインドが多発する場合には、職場風土の見直しや管理職を対象とした研修の実施などを検討する必要があります。
ぜひこの記事の内容を参考にしてダブルバインドに対する理解を深め、上司がダブルバインドを起こさないような企業風土を確立していきましょう。