OJTシートとは|メリットや書き方のポイントを紹介
効果的にOJTを実施するために用いられることの多いOJTシート。OJTを通じて身につけてもらいたい内容を一括で管理するとともに、トレーナーと新入社員間のコミュニケーションを促進する上で重要な役割を果たす存在です。今回はOJTシートの概要やメリット、書き方のポイントなどを解説します。
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そもそもOJTとは
OJTとは、「On the Job Training」の略称で、企業が従業員の教育を行うために実施する教育の1つです。OJTによる教育を受ける社員は、上司や先輩社員のサポートを受けながら、実際の業務をこなす中で必要な知識を身につけていきます。厚生労働省の調査では「OJTを重視する」「OJTを重視するに近い」と回答した企業の割合が70%を超えており、OJTは多くの企業において人材育成の要となっていることが伺えます。
OJTは、新入社員が戦力として自走できるようになるまでをサポートする重要な存在です。最近では、業務を離れて行うOff-JTとOJTを組み合わせて実施する企業も増えており、OJTを取り巻くトレンドは日々変化しています。
OJTに役立つOJTシートとは
OJTは研修実施側の負担を軽減し、実務に必要な知識を効率的に身につけられるというメリットがあります。しかしその一方で、OJTを実施したものの思うように成果が上がらなかった、あるいはOJTを実施しているつもりだったが実態はただの放置となってしまっていた、といった失敗事例もあとを絶ちません。
OJTを成功させるためには、OJTを通じて身につけてもらいたい内容を明確にした上で、目標達成に至るプロセスをはっきりさせる必要があります。そこでおすすめなのが、OJTの目標や達成度を管理するために使われるOJTシートの活用です。OJTシートを用いることで、OJTを通じて身につけるべき内容や進捗状況を効率的に管理できます。
OJTシートの種類
OJTシートには、大きく分けると「育成計画シート」と「コミュニケーションシート」の2種類が存在します。どちらもOJTの目標や達成度を記録しておくために使われるシートで、OJTの進捗状況や教育内容を一目で把握するのに役立つことが特徴です。また、OJTシートを用いれば、OJTトレーナーと新入社員が現在の状況や目標を共有できるといった効果もあります。OJTシートの種類について見ていきましょう。
育成計画シート
育成計画シートとは、OJTの目標を設定したり、進捗状況を管理したりするために使われるシートです。主にOJTの担当者が育成計画を策定するのに使います。
育成計画シートを用いる際は、OJTの全体像を一目で把握できるよう、必要な情報をもれなく、明確に記入しておくことが重要です。例えば以下の内容を記載するとよいでしょう。
- OJT全体のスケジュール
- OJTを通じて身につけてもらいたい能力やあるべき人物像
- 最終目標に到達するまでのマイルストーン
- OJTで経験してもらう業務内容
OJTを実施する際はこの育成計画シートに沿って進めていくことになりますが、あくまでも育成計画シートに記載されているスケジュールは暫定的なものです。実際には、業務に取り組んでもらうときの様子を見ながらトレーナーが適宜、OJTのペースや内容を調整していきましょう。
コミュニケーションシート
OJTを実施する際には、トレーナーとなる上司や先輩社員と新入社員との緊密な連携が欠かせません。コミュニケーションシートは、トレーナーと新入社員がOJTに関する疑問や悩みを解決するために用いられるシートです。コミュニケーションシートを通じて新入社員はOJTで実施した業務内容と、OJTで身につけた知識やスキルを振り返ることができます。コミュニケーションシートに記載するべき具体的な内容は以下の通りです。
- OJTで担当した業務の内容
- 業務の際に上手くいった点
- 業務の際に発生した疑問点や相談
- OJT担当者に重点的に指導してもらいたい内容
- OJT担当者からのフィードバック
OJTシートを使用する目的
OJTの際にOJTシートを利用する目的は、主に2つあります。
1つ目は、OJTの目標と達成度を的確に管理するという点です。OJTは、闇雲に実施しても上手くいきません。事前に綿密な計画を立てた上で、難易度の低い業務から高い業務へと徐々にステップアップしていくことが重要です。育成計画シートを活用すれば、OJTの計画と進捗状況を一目で把握できます。
2つ目は、OJTのトレーナーと新入社員の間のつながりを強化するという点です。新入社員がOJTシートを通じて実践した内容を振り返り、トレーナーがそこにフィードバックを記入する、というサイクルを繰り返すことで、業務の実践のときに感じた率直な内容をお互いに伝えられるようになります。
OJTシートを使用するメリット
OJTを実施する際にOJTシートを導入する企業が増えてきています。それでは、OJTシートを活用するメリットとしてはどのようなものが考えられるのでしょうか。
OJTシートを活用することで、新入社員は目標と現実とのギャップを一目で把握できるようになります。また、モチベーションの維持や認識の共有といった効果も期待できます。OJTシートを利用するメリットについて見ていきましょう。
目標と現状のギャップを一目で把握できる
OJTシートを活用するメリットの1つに、目標と現実とのギャップを的確に把握できるという点が挙げられます。OJTシートには、OJTを通じて新入社員に身につけてもらいたい内容がリストアップされています。
OJT実施時には、育成計画シートに記載された内容と実際の進捗状況を照らし合わせることで、現状がOJTの最終的なゴールからどれほど離れているのかを一目で把握できるのです。先述した育成計画シートを活用することはもちろん、企業によっては、現状分析シートなどを導入し、さらに細かくOJTの進捗状況を記録する場合もあります。
モチベーションを維持しやすくなる
OJTは一過性の取り組みではありません。数週間から数ヶ月、長い場合は年単位で行われます。中には途中からOJTの内容がマンネリ化してしまったというケースもあるでしょう。せっかくOJTを実施しても、双方のモチベーションが低下してしまっては十分な効果が得られません。長期に渡るOJTではモチベーションを維持することが必要不可欠です。
OJTシートを導入すれば、トレーナーと新入社員双方のモチベーション維持が可能です。例えばコミュニケーションシートに「その日にできるようになったこと」を蓄積してもらうことで、新入社員の自己効力感を高められます。
育成の計画を立てやすくなる
OJTが単なる放置となってしまわないようにするためには、OJTを実施する前にOJTのゴールや教育内容を明確にすることが重要です。OJTシートを導入すれば、育成の計画が立てやすくなるという効果も期待できます。
OJTシートを使ってOJTの計画を立てる際は、まずOJTの終了時にできるようになってほしい業務や実現してほしい人物像を明確にしましょう。その後、最終的なゴールから逆算しながら「そこに至るまでに必要なプロセスはなにか?」とマイルストーンを設定していきます。具体的なOJTの目的や内容、プロセスを事前に明確化することで、より質の高いOJTを実施できるのです。
教える側と教えてもらう側で認識を共有できる
新入社員が既に持っている知識やスキルが分からないままだと、指導する側もなにから教えればよいのか困ってしまいます。OJTを実施する際には、OJTのトレーナーと新入社員の間で認識を共有することが大切です。
OJTシートを導入すれば、教える側と教えてもらう側で「新入社員が持っている知識やスキル」「OJT研修の進捗状況」といった情報をお互いに共有できます。また、OJTシートにその日の疑問点などを記入してもらうようにすれば、「OJTトレーナーが忙しそうで質問を遠慮してしまい、疑問点が解消されなかった」といった事態を防げます。
OJTシートの書き方のポイント
OJTシートを導入する際には、育成計画シートとコミュニケーションシートそれぞれに、注意しておきたいポイントが存在します。
育成計画シートについては、計画を定期的にアップデートすることが重要です。大前提として、OJTでは新入社員一人ひとりのスキルや特性に合わせた、きめ細やかな教育を実施することが求められます。事前に立てた計画はあくまでも仮の予定に過ぎないため、OJTの実施状況を見ながら随時計画をアップデートしていきましょう。
コミュニケーションシートを活用する際には、シートの記入頻度をあらかじめ決めておくことがポイントです。シートが形骸化してしまわないよう、お互いが意識的に記入する必要があります。
OJTの失敗事例
OJTの失敗事例として、
- OJTが体系化されておらず、放置されてしまう
- 目標がなく、場当たり的な指導になってしまう
- 人事・経営層と現場にギャップがある
などが挙げられます。
OJTを行う際に、目的や計画を立てずに始めてしまうと、新入社員が放置されてしまうことにつながります。OJTをマニュアル化することや、OJTシートを使って育成計画を立てて進めていくことが大切です。
また、目標を人事や経営者のみで立ててしまうのも失敗につながります。新入社員ができることや必要なスキルを把握したうえで、目標や計画を立てていきましょう。
OJTシートを使用することで失敗は防げる
OJTでのよくある失敗は、OJTシートを使用することで防ぐことができます。
「育成計画シート」を利用することで、OJTの全体像を把握し、最終目標や今行うべきことをOJTトレーナーと新入社員の間で共有することができます。そうすることで、何をすべきかわからず放置してしまったり、目指す目標がわからず場当たり的な指導になったりといったケースが減るでしょう。
また、「コミュニケーションシート」を使うことによって、計画の振り返りをすることができます。コミュニケーションシートをOJTトレーナーと新入社員の間で使用することによって、新入社員の意見や要望を反映させることが可能になります。
これらのシートは、OJTトレーナーと新入社員のみならず、人事部や上司も確認し、把握しておくことが必要です。目標に対して未達であったり、OJTトレーナーが多忙でなかなか計画が進んでいない場合には、人事や上司からサポートをしていくことで、OJTの失敗を防ぐことができます。
人事・企業側でのOJTの基本的な進め方
OJTの進め方は業種や職種によって多種多様であり、「これを教えればよい」という決まりきった内容があるわけではありません。そのため、OJTによる教育の質を担保するためには、綿密なOJT計画を立てた上で研修を実施し、フィードバックを次の研修へ活かす、というPDCAサイクルを回すことが必要不可欠です。
まずはOJTを行う目標を明確にして、OJTを実施する際の計画書を用意しましょう。実際に業務を実施してもらったあとは、フィードバックを次のOJTへ活かすことも重要です。ここからは、中長期的なOJTのクオリティを向上させるために、まずは人事・企業側が行うべきOJTの基本的な進め方について見ていきましょう。
OJTトレーナーを選定する
OJTを進める際には、まずはOJTトレーナーを選定しましょう。新入社員とトレーナーのマッチングは、OJTのクオリティに影響を与える非常に重要な要素となるため、慎重に検討することが必要です。
一般的にOJTトレーナーは、基本的に入社から3年目から5年目程度の若手社員〜中堅社員に担当してもらうことが多いです。一方、ぜひOJTトレーナーを担ってもらいたいと考える人材はプレイヤーとしても優秀である場合が多く、日頃から多くの業務を抱えていることも少なくありません。トレーナー候補となる人材の普段の業務量を見ながら、適宜調整を加えていきましょう。場合によっては部門長やマネージャーとの面談を実施することも効果的です。
OJTトレーナーの選出の際は、以下の記事でOJTトレーナーに向いている人、向いていない人を解説していますので、こちらも併せてご確認ください。
『OJTトレーナーに向いていない人の特徴4つ。失敗しない選出方法と支援策』
企業側とOJTトレーナーとの間で認識のすり合わせをする
闇雲に「OJTを実施してください」と指示を出したとしても、OJTトレーナーはなにから教育をしてよいのか分からず困惑してしまいます。OJTのキーマンとなるOJTトレーナーの選定が終わったあとは、OJTトレーナーに対して「どのような内容を教育してほしいのか」「どのような人物を育成したいのか」といった目標を共有しましょう。
基本的には人事部とトレーナーとの間で面談を実施することになります。必要に応じて、部門長やマネージャーといった上長も交えながら、OJTの目標や運用方法のすり合わせをしていきましょう。ここでOJTトレーナーがOJTの全体像をしっかりと把握できるかどうかが、OJTの成功を左右します。
目標の達成度合いを測る目安を決める
OJTトレーナーとのすり合わせを実施したあとは、目標の達成度を測る目安を策定しましょう。OJTトレーナーとのすり合わせ時に実施したトレーナーやマネージャーとの面談を土台に、「なにを習得したらOJTの目標達成なのか」を明確化していきます。漠然としたOJTの目標から、具体的な業務に落とし込むのがこのプロセスです。具体的には、以下の内容を盛り込むとよいでしょう。
- 習得するスキルの一覧
- 定量評価の指標と具体的な数値
- 習得する工程表
目標をさらに具体化することで、双方のモチベーション向上が狙えます。特に営業系の職種でOJTを実施する際には、売上や顧客数といった具体的な数値目標を設定する場合も多いです。
中間計画の修正・改善を行う
OJTを実施する際には、中間計画を設けることがおすすめです。最終的な目標達成への足がかりとなる中間計画が策定されていることで、新入社員はOJTの進捗状況を振り返り、今後のOJTを改善できるようになります。
中間計画を見直す際には、あわせて中間面談を実施するとよいでしょう。トレーナーや新入社員はもちろん、部門長やマネージャーの3者を集め、以下のような内容について話し合います。
- OJTの最終目標に対する現在の進捗状況はどうか
- OJTの中で発生した疑問点や悩み事などはあるか
1ヶ月〜3ヶ月に1回程度の割合で面談を設けることで、残りのOJT期間をより有意義なものにできます。
目標が達成できているかを測る
OJT期間が終了したら、事前に設定した評価基準に基づいて、目標の達成度を測定しましょう。OJTを計画するときに作成したOJTの工程表や計画書と照らし合わせつつ、最終目標は達成できたか、できなかったとしたら何割ほど及ばなかったのかなどを洗い出していきます。
OJT終了後も、トレーナーと新入社員間での面談を実施することはもちろん、必要に応じて部門長やマネージャーを交えた面談を実施することがあります。ただ単に目標を達成できたか否かを測定するだけではなく、目標が達成できた場合は成功要因やさらなる改善点を考える、達成できなかった場合はなぜ達成できなかったのかを考えるなど、結果の分析も忘れないようにしましょう。
フィードバックして改善に役立てる
OJTの最後に、計測した目標達成の度合いをもとに、OJTの総合的なフィードバックを作成します。具体的には、以下の内容をフィードバックに盛り込むとよいでしょう。
- 定めた目標の達成度
- 目標達成できた場合は、成功要因やさらなる改善点
- 目標達成できなかった場合は、達成できなかった要因
- その他、全体的なOJTの分析事項など
人事部を通じてこれらのフィードバックを各部門に提供することで、現場での人材育成やプロセスの改善に活用ができます。
OJTトレーナー側の新入社員のOJTの進め方
OJTを行う目標を明確にする
OJTを実施する前に、OJT全体の目標を設定しましょう。まずは、OJTを通じて身につけてもらいたい具体的な能力をリストアップします。また、実務的なスキル以外にも、OJT研修を通じて身につけてもらいたいマインドや、実現してもらいたい人物像を書き出すことも重要です。
また、ここでの目標は企業側・人事側とも目標をすり合わせ、共有することが大切です。
その後、リストアップしたスキルや人物像を見ながら、それらを実現するために必要なステップに落とし込んでいきます。マイルストーンとなる小さな目標をいくつか設定することで、新入社員OJTトレーニーは無理なく目標達成を目指せるようになります。それぞれの小さな目標ごとに達成期限を設定して、きめ細やかな計画を策定していきましょう。
OJTを実施する際の計画書を用意する
OJTの目標を明確化させたあとは、OJTを具体的にどの順番で、どのようなスケジュールで実施するのかを示した計画書を用意します。最終的なゴールを達成するために必要なそれぞれの目標について、例えば以下のような内容を記入していきましょう。
- 目標の内容と、達成評価基準
- いつまでに達成するべき目標なのか
- 目標を達成することで、なにができるようになるのか
- 目標を達成したあと、次に取り組むべきことはなにか
計画書を記入する際には、「○月○日まで」といったように、できる限り具体的な内容を盛り込むようにしましょう。
OJTを実施する
OJTの計画や具体的な目標が定まったら、いよいよOJTを実施する段階に入ります。OJTトレーナーを新入社員OJTトレーニーに配属して、具体的な業務に取り組んでもらいましょう。いきなり業務を任せるのではなく、業務にあたる上で必要な知識を事前に手早く伝えてあげることがポイントです。また、実際の業務に対する取り組み状況を見ながら、随時与える業務内容やペースを調整していきましょう。
まとめ
OJT研修を実施する際に効果的なOJTシートの概要や、具体的なOJT実施のプロセスについて紹介しました。OJTは幅広い企業で用いられている人材育成手法ですが、実施方法を間違えてしまうとあまり効果を発揮しません。
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アルーが行っているOJTトレーナー研修については、以下のページをご確認ください。