
デザイン思考とは?意味や特徴、思考のプロセス、研修事例を解説
- 会社の認知度をあげたい
- チームメンバーの作業を効率化したい
- 顧客の満足度を向上させたい
など、これらは会社員なら必ず聞くような言葉であり、会社員となったからには全員が取り組まなければならないテーマです。とても大きなテーマですが、やりたいことは、今をより良い状態にしたいというシンプルなもので、だからこそ、各自でなにが出来るかを考えたり、努力することが求められます。
しかし、このような抽象的な願望では、それを言われた方はなにをどこから手をつければ良いか迷ってしまいます。なぜならこういった願望は、いくらそれに応えて良い状態に出来たとしても、その先には更に良いものがあったり、またその逆にどんなに問題をつぶしても、そこからまた新たな問題が生まれ、なんらかの問題が残ってしまうなど、決して完全な終わりを迎えることがない願望だからです。
完全な終わりがない、完成形がないということは、ここに絶対的な正解がないという意味です。「これが正解」という答えがないため、アイデアを出しても、そのどれもが正解のように思えるし、どれもがいまいちに思えるからです。
これと同じように、いろんな事情が複雑に絡み合った問題で、何か対策を考えた時も、全く効果がないわけではないが完全には解決しないという意味で、何をどこまからどこまで手をつけるべきかを迷います。
誰かが「ここまでやれば良いよ」と最初から決めてくれれば簡単なのですが、なにをどこまでやるべきか、自分自身で考えないといけない問題が、身の回りにはたくさんあります。
解決策として絶対的な正解がないような永遠のテーマ、さまざまな事情が入り込んだ複雑な問題に取り組む際は、まずは状況を良く観察すること、そして現状に囚われない柔軟な発想が必要です。
本記事のテーマはデザイン思考です。
とても大きなテーマや複雑な問題について考える時こそ力を発揮する思考法です。
▼合わせて知りたい思考スキル3選
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デザイン思考とは
デザイン思考とは、デザイナーがデザインを依頼してくる顧客のニーズを汲み取り、その顧客が満足する最適なアウトプットをする一連の工程から、考え方と手順を形式化した思考法です。
デザイナーと聞くと、イラストや図を描くのが上手だったり、とても独創的なアウトプットができる人たちという印象があります。しかし、そうした技術をプロフェッショナルとして価値のあるものに昇華させているのは、顧客が求めているものを形にする思考力です。
デザイン思考の特徴
デザイン思考は、前述した顧客が求めているものを形にする思考力に注目し、それを手順化した思考法です。
デザイン思考の特徴的な部分に、観察と試作品(プロトタイプ)作成があります。これはまさにデザイナーが、顧客との対話からニーズを聞き出し、試作品からデザインの方向性がニーズと一致しているかを確認するという仕事の中でおこなう手順の一部です。
相手本位で考え、試作を用いて検証することで、より本質を掴み着実に問題解決というゴールに向かって前進することができます。
デザイン思考とロジカルシンキングやクリティカルシンキングとの違い
問題解決のための思考法には、ほかにも「ロジカルシンキング」や「クリティカルシンキング」があります。ロジカルシンキングは、情報を整理し、論旨を明確にする思考法で、クリティカルシンキングは、物事の前提や論点、結論に対して、「本当にそのとおりなのか?」という批判的な着眼点を持って考える思考法です。
これらの思考法とデザイン思考の最大の違いは「相手本位」であるかどうかです。デザイン思考は、相手の立場に立ち、観察し、共感し、解決策を考えていく、「人間中心」のデザインプロセスであるといえます。
なお、ロジカルシンキングもクリティカルシンキングも、ビジネスパーソンの問題解決力を高める重要な思考法です。以下の記事からそれぞれ詳しく知っていただけます。
▼ロジカルシンキングの手法や鍛え方が具体的に分かる記事はこちら
ロジカルシンキングとは?メリットや基本的な考え方・鍛え方について紹介
▼クリティカルシンキングのトレーニング方法が具体的に分かる記事はこちら
クリティカルシンキングとは?トレーニング方法や身につけるメリットを解説
デザイン思考の5つのステップ
デザイン思考には大きく5つのステップがあります。観察、問題定義、創造、プロトタイピング、検証の5つです。この5つのステップを順番におこない、最後の検証まで行ったら、その結果を元にまたより本質的な深掘りをしたり、最初の観察ではとらえられていなかった部分にフォーカスし、一連のデザイン思考のステップを繰り返します。
<デザイン思考5つのステップ>
- 観察
- 問題定義
- 創造
- プロトタイピング
- 検証
※思考が続く場合は、検証結果を前提に、また観察からやってみる
ステップ1:観察 〜当事者と感覚を共にする〜
デザイン思考は、まず思考する対象を観察するところから始まります。
たとえば、会社に新しく配属される新人の教育プログラムをより良いものにしたいというテーマがあったとします。これについて考える場合、これまでおこなわれている教育プログラム、それを受ける新人、教える側の先輩社員や外部講師などを観察します。
そしてそこにはどのような背景があり、現在どういった状態になっていて、それぞれの関係者がどんな感情を持っているかまで注目します。
ここで大切なのは、そこにいる当事者の気持ちになって、背景や現状を理解することです。これをデザイン思考では「共感」という言葉で表します。
この共感は、顧客の主張や意見に賛成する、同調するという意味ではなく、嬉しいや悲しいといった感情を一緒にする、同じものを見たら同じように感じるという意味です。共感できるようになるまで観察をすることで、問題の本質が徐々に見えてきます。
ステップ2:問題定義 〜あいまいな問題を明確にする~
次のステップは問題定義です。とらえどころがない大きなテーマや、関係者の思惑や状況が複雑に関係しているものは、当事者でもなにが問題なのかわからなかったり、人によって問題ととらえる部分が異なります。そのため、解決策やその先の方向性を考える前に、問題がなにかを定義することが必要です。
たとえば、前述の新人のための教育プログラムについて観察した結果、周りの人たちから見て、教育した効果があまり感じられないといった状況が見えてきたとします。この観察結果から教育プログラムが新人の能力と釣り合っていないという問題を定義することができます。
ここでの問題定義はあくまで仮説で構いません。その問題が本質を捉えているか否かは、それ以降のステップで明らかにします。
ステップ3:創造 〜制約のない自由な発想〜
次はその問題に対し、自由な発想で解決策を考えます。ここでのポイントは自由なアイデアの発散と、実現性を踏まえたアイデアの収束です。
たとえば、教育プログラムが新人の能力と釣り合っていないという問題の場合、
- 教育プログラムをもっと簡単にする
- 新人の能力を問題に釣り合う分だけ引き上げる
という2つの方向性が考えられます。
このどちらかの方向性に則っていれば、実現性は一旦抜きにして思いついたものをどんどんあげていきます。ここで、最初から教育プログラムを作り直すなんて無理とか、新人の能力を事前に上げるなんて不可能といったことは考えません。アイデアに制約を設けずにひたすら創造していく。これがアイデアの発散です。
十分に発散したら、そこからは実現可能性、容易性、効果の測定可否などを考慮して、アイデアを絞り込んでいきます。これが実現性を踏まえたアイデアの収束です。
最初から実現可能という条件付きでアイデアを考えると、どうしてもこれまで繰り返してきたイメージを捨てることができません。まずは、なんでもありという前提で、とりあえず思いついたものを言葉にして出してみるというスタンスが大切です。
ステップ4&5:プロトタイピングと検証 〜形にしてみる&やってみる〜
デザイン思考の最も特徴的な要素が、プロトタイピングです。出てきたアイデアからプロトタイプとしてアイデアの一部を形にします。あくまでプロトタイプなので、アイデアを完成品にする必要はありません。
ここでのポイントはいかに時間をかけずにプロトタイプとして形にするかということです。ここでの目的は問題定義やアイデアの妥当性を確認することなので、プロトタイプ作成はすぐに終わらせ、それを使った次の検証ステップに素早く入ることが大切です。
頭の中だけで考えたもので、実際には実現できなかったり、役に立たないという意味で、机上の空論という言葉があります。考えるテーマが大きいほど、議論だけにとどまりなかなか行動に移せないため、机上の空論となりやすいのですが、デザイン思考ではプロトタイプ作成から検証を素早く行うことで、アイデアが有効か否かがわかるため、問題解決を少しでも前に進めることができます。
教育プログラムの問題で例をあげるならば、まずは一部分でも難易度を落とした教育プログラムを作り、それを新人でテストしてみるとか、予備知識強化として事前準備ができる別の教育プログラムを部分的に作り、新人に取り組んでもらうといった感じです。
難易度を下げた内容にしたり、予備知識を先にインプットすることで、新人の教育プログラムに対する理解度が高まれば、その改善のためのアイデアが有効であることが証明されます。
デザイン思考からおこなったひとつの取り組みで問題が全て解決するわけではありませんが、そもそもこれをやれば大丈夫という絶対的な答えがない問題です。少しでも改善して事態を前に進めていくしか道がないことを考えると、デザイン思考こそ、大きなテーマや複雑な問題に対して向き合う時になくてはならない思考法なのです。
デザイン思考力向上研修ならアルーにお任せください
企業向けの人材育成を専門に手がけている「アルー株式会社」では、新入社員研修や階層別研修はもちろん、デザイン思考力向上のための研修のカリキュラムも多数提供しています。
集合研修とeラーニングを組み合わせたブレンディッドラーニングの取り組みも支援できます。
▼アルーの提供しているeラーニングシステム「etudes」については、こちらから詳しく知っていただけます。
etudes(エチュード)
社員のデザイン思考力が足りない、とひと口で言っても、現状や目指すゴールは企業様ごとに大きく異なります。アルーでは企業様ごとの現状に合わせたカスタマイズも可能です。
デザイン思考力向上研修の外部委託をご検討の場合は、ぜひアルーへお任せください。
アルーのデザイン思考力向上研修事例
ここからは、アルーで実際に実施したデザイン思考力向上研修を1つ具体的にご紹介します。
アルーでは、今回ご紹介する以外にも様々なデザイン思考力に関するカリキュラムをご用意しています。研修によって自社の課題を解決したいとお悩みの方は、ぜひご相談ください。
デザイン思考力向上研修
デザイン思考力を向上させるために若手~中堅社員に向けて実施した1日間の研修事例です。演習を通じて実践的にデザイン思考を習得できるプログラムです。
▼テーマ
デザイン思考力向上研修
▼ねらい
これから様々場面で活躍する技術者になるため、デザイン思考の学習をとおしてコンセプチュアルスキル(概念化能力)を向上させる
▼内容
① オリエンテーション
トレーナーから、デザイン思考の概要と必要性を説明し、これからの仕事のために技術者としてどんな能力を身につけるべきか理解してもらいます。
② 観察:Observation
デザイン思考における「観察」の目的と観察手法について解説します。また理解を深めるため、ショートワークでデザイン思考の「観察」を実際におこないます。
③ 発想:Ideation
制約を置かない自由なアイデアと、そこから発想を膨らませる方法を学習します。
④ プロトタイピング:Prototyping
デザイン思考の肝であるプロトタイピングの重要性を学習します。ワークではアイデアを実際の形にするプロトタイピングから発表までを行います。
⑤ まとめ
研修内容の振り返りと、実際の仕事でデザイン思考を活用することをイメージし、具体的なアクションでわからないところをトレーナーが補足します。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、デザイン思考をテーマに、デザイン思考の意味や特徴、思考のプロセス、研修事例を解説しました。
デザイン思考力を高めることで、正解のない大きな問題に立ち向かい、問題解決に向けて一歩ずつ前進する力を得ることができます。変化が急で激しい現代社会において、デザイン思考はビジネスパーソンに必須の思考力です。
本記事を参考に、社員のデザイン思考力を高める取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。