海外拠点で理念浸透を進める7つのポイント。失敗する理由も解説
経営理念や企業理念は、企業にとっては欠かすことのできない要素です。
その理念を社内に浸透させ、従業員の価値観や方向性を統一させてパフォーマンスの向上を図りたいと考える企業は多くいます。
しかし、海外拠点でも日本拠点と同じように進めて良いのか、気になる企業も少なくないのではないでしょうか。
この記事では、海外拠点で理念浸透を推進するための7つのポイントをはじめ、海外における理念浸透の課題や理念浸透の活動に必要なことなどを解説します。
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そもそも理念とは?
理念とは、企業が掲げるミッションやビジョン、バリューなどのことであり、それぞれ意味や要素は異なります。
「ミッション」は事業の目的や存在意義、使命などを指し、「ビジョン」は将来的に成し遂げたいことや望ましい状態を示したものです。
「バリュー」は、スタイルともいわれており、組織として大切にしている価値観や考え方、行動を指します。
これらの理念を掲げることで、企業の方向性が決まり、それに向かって進む道しるべになるため、理念を掲げることは会社を運営するためには必要不可欠です。
理念浸透の必要性
理念浸透とは、上述した理念を社内全体に浸透させることをいいます。
従業員や消費者に長く愛される企業であるためには、理念浸透は欠かすことができない要素です。
企業理念や経営理念を社内全体に浸透させることで、従業員の価値観や方向性は統一され、パフォーマンスの向上が期待できます。
また、ネガティブな影響を与える企業風土の改善を図る企業文化の形成もできるため、理念浸透は大切な要素だといえるでしょう。
海外拠点での理念浸透の課題
理念浸透は企業文化の形成や方向性の決定において大切なことですが、海外拠点での理念浸透に課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。
ここでは、海外拠点で理念浸透を行おうとしても失敗してしまう原因や、課題についてご紹介します。
そもそも理念がない
理念浸透の課題として、そもそも理念というものが企業側ではっきりしておらず、形骸化していることが挙げられます。
理念があっても、経営陣・管理職もどのように行動すれば良いのか、きちんと理解ができていない場合も、理念が形骸化している状況といえるでしょう。
このような場合は、企業理念の見直しから行っていきましょう。
ミッション・ビジョン・バリューの明文化、そして社長を含めた経営陣・管理職へのすり合わせを行うことで、理念の再構築をするようにしましょう。
また、日本本社にある理念を海外現地法人でそのまま使用している企業も多いと思います。ただ、機能別組織やマトリクス組織になっている場合や同じ国でも販社機能、製造機能、管理機能で現地法人が成り立っている場合など、各国または各エリアで求められている機能別の理念を用意する企業もあります。本社理念を全世界共通としつつも、各機能毎にミッション・ビジョンを作ることも選択肢に含め、検討してみましょう。
単なる翻訳になっており、行動として表れていない
理念はあるが、現地語に翻訳されているのみで、現地語では分かりにくい表現になってしまっていたり、戦略や組織マネジメントに組み込まれていないなど、ルール化されておらず、理念が定着しなかったりというのも、よくある課題です。
このような場合は、抽象的な言葉を使っていないか、現地の社員にも伝わるような翻訳になっているかの確認を行うことや、理念を中心として戦略や組織マネジメントを行い、どのような行動をすればよいか研修などで伝えることによって、理念浸透を進めることができるでしょう。
日本企業ならではの考え方になっている
海外拠点での理念が、日本企業ならではの考え方になっており、現地のスタッフにはなかなか定着しない、というのもよくある課題です。
例えば、「日本の○○といった社会問題に貢献する」「日本ナンバー1の企業として行動する」などの理念では、現地では馴染みがなく、当事者意識も湧きにくくなってしまいます。
このような場合は、国が違ったとしても、企業が大切にしたいことや目指す姿が変わらないよう、一貫した理念を作る、または現地の考えにあわせた海外拠点の理念を作ることが大切です。
駐在員の交代や任期の問題
海外拠点での理念浸透においてよくある失敗として、駐在任期が終わり、駐在員のトップが交代することによって、方針が大きく変わってしまったり、理念浸透施策の引継ぎが上手く行えず、頓挫してしまったりすることが挙げられます。
このような場合は、理念に沿った経営戦略・組織マネジメントを行うなど、理念を基にした行動ができるような仕組みづくりが大切になってくるでしょう。
海外拠点での理念浸透における7つのポイント
海外拠点での理念浸透がなかなか進まないなど、よくある課題や失敗例についてご紹介いたしました。
では、海外拠点での理念浸透は、どのような点に注意して進めれば良いのでしょうか。
ここでは、アルーが考える、海外拠点での理念浸透における7つのポイントについてご紹介します。
ミッション・ビジョン・バリューの定義の見直しをする
そもそも、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の定義が日本と海外では異なる場合があります。
そのため、日本と同様に考えてしまうと企業が間違った方向に進みかねません。
海外でのバリューは概ね日本と同様ですが、ミッションは誰に何を提供するか(WHAT)を指し、ビジョンは使命を達成することを目指している場所(WHERE)です。
まず、日本本社のミッション・ビジョン・バリューの定義を確認し、その後に海外現地法人や海外現地での一般的なミッション・ビジョン・バリューの定義と照らし合わせる必要があります。
その上で、自社にとって「理念」とは何のことを指しているのかを把握し、経営陣から一般社員までの認識をすり合わせましょう。
誰に、何を、どう届けるかが同じであれば、日本本社と海外拠点のMVVが同じでも理念は浸透しやすいです。ですが、日本本社と海外拠点で誰に、何を、どう届けるかが異なることもあるでしょう。
例えば、アルーの日本本社のミッション・ビジョン・バリューとシンガポール法人のミッション・ビジョン・バリューは異なります。
このように、日本と海外拠点でMVVの見直しをしなければならないケースもありますので、自社の状況にあわせて判断しましょう。
人事制度・ジョブディスクリプションの見直し
ジョブディスクリプション(JD)とは、個人の職務内容を詳しく記述した文書「職務記述書」のことであり、ジョブの期待や役割を明確にすることで会社が期待する職務を遂行させてパフォーマンスの向上を図ることをいいます。
ジョブディスクリプションについて詳しくは、以下の記事で解説しています。
『【テンプレート付き】ジョブディスクリプションの意味と書き方』
ジョブディスクリプションを作成することで、人材育成の効率化や業務への集中力向上、リスク回避など、さまざまなメリットを得られます。
また、海外現地法人のマネジメントにおいてジョブディスクリプションと人事制度を連動させることで、目標設定、評価、能力開発、理念浸透に一貫性を持たせることができます。
また一般的に、日本と海外では給与体系が異なります。日本は年功序列や、終身雇用を前提とした、人に仕事をアサインする形ですが、海外では仕事に人をアサインするジョブ型雇用が主流です。そのため、ジョブディスクリプションが必要になります。
日系企業がやりがちなこととして、日本の人事制度をベースに一部改訂して海外現地法人の人事制度を作っているケースがありますが、それはあまりおすすめできません。
理念浸透のためには、MVVとジョブディスクリプションを関連させて、人事制度を設計する必要があります。
既にジョブディスクリプションがあり、人事制度と連動しているのに理念浸透がうまくいかない場合は、中期経営計画やビジョンが変わるタイミングでジョブ・バリューを見直してみましょう。
見直したジョブ・バリューを入れてジョブディスクリプションを作り直すことで、理念浸透につながります。
形骸化しないための仕組みづくり
形骸化とは、内容や意義、定義などを失い、形だけが残った状態のことを指します。
経営理念や企業理念においても、その重要性が理解されていなければ、形骸化してしまう可能性があります。
また、経営理念や企業理念などを作成しても定義した基準以下の行動を行ってしまえば、経営理念や企業理念を作成した意味がなく、形骸化につながってしまうかもしれません。
こういった形骸化を回避するためにも、経営責任者の考えや想いの共有などを行い、会社全体として同じ方向性で行動することが大切といえるでしょう。
また、以下で解説する4つのポイントも形骸化を回避するためには必要な要素です。
経営層のコミットメント
経営層のコミットメントは非常に重要です。
「理念浸透は部長以下がやれば良い」というように経営層が他人事として捉えていると、理念浸透が失敗する可能性が高くなります。
そうならないためにも、役職者も含めた経営層が腹をくくり、コミットする必要があります。
アルーでは、経営層への理念浸透の支援として「経営層のミッション・ビジョン・バリュー策定プロジェクト」を行いました。
「経営層のMVV策定プロジェクト」を行った企業の課題として、
- 経営トップ以外が本音を話さない
- 日本人駐在員でも自分事として捉えることなく、トップの発言に迎合する
- 日本人とナショナルスタッフがいる場合は、自分の意見を言うことなく日本人の意見に迎合する
- 経営層のコミットメントがなく、結果的に経営トップの考えがミッション・ビジョン・バリューになる
というようなものがありました。
施策内容としては、1~3ヶ月の間でミッション策定を行いました。
具体的には、ミッション創造ワークショップなどを行ない、
- 経営層のコミットメント
- TOP以外、何を話しても安全な場であることを保障するために現状の役員以上のチームの関係性を吐露する(場合によってはトップの孤立化)
- 個人個人が置かれている立場を関係者が理解する
- 表面的な違いを認めつつも根底にある価値観をすり合わせる
- ミッションは、最終的にはTOPが決定する
などのポイントをおさえて進めて行きました。
その後、3ヶ月間でビジョン・バリュー策定を行いました。
具体的には、
- バリュー創造ワークショップ
- 未来のシナリオを描く
などを行い、
- 何を話しても安全な場であることを保障する
- ビジョン策定のプロセスには、現場のキーパーソンを巻き込む
- ナショナルスタッフからは仕事の話だけではなくプライベートな話も引き出す
- 自分たちの言葉で語り合う
などのポイントをおさえて実施いたしました。
社員の共感を得て組織に浸透させる仕組み
社員の共感を得て、組織に浸透させる仕組みも重要な要素の一つです。
そのためには、理念伝道者の育成が欠かせません。
理念伝道者の育成の際には、まず理念を既に理解している社員を選抜しましょう。その上で、会社として理念伝道者にはどんな役割を期待しているのかを言語化します。。
また、理念浸透におけるKPIの設定と測定手段を事前に準備しておくと良いでしょう。
そうすることで、グループの総合力を高めながら長期ビジョンを達成し、企業価値を高めることが望めます。
ただし、国によって文化は異なるため、それぞれの国と文化に適した進め方が重要といえます。
大手メーカーの事例
ここで、大手メーカーの事例をご紹介します。
この企業では、新中期経営計画に沿った自発的な発想と行動が生まれる組織に変革することを目指し、理念浸透を図りました。
ミッション・ビジョン・バリューを策定したのち、支社長と本部長などの役職者が新中期経営計画の共創と部門間の役割認識の統一を図って「何を浸透させるか」を決めました。その後、アクションプラン策定や浸透プラン策定などを通じて「どのように浸透させるか」を決めました。
最後に、現地社員に対し中期経営企画の浸透と体現を促し、実行スキルの習得と他部門のネットワーキング構築を行いました。
WHAT(何を浸透させるか)、HOW(どのように浸透させるか)までは役職者がコミットし、実際の理念浸透は海外現地の一般スタッフまで含めて行なったことがポイントです。
人事制度・組織マネジメントの見直し
人事制度や組織マネジメントの見直しも大切な要素の一つです。
目標設定や評価、昇降格の制度を見直し、理念浸透を図れる環境づくりをすると良いでしょう。
具体的には、バリューからコンピテンシーの目標を設定し、その設定したコンピテンシーの測定方法を明確にして客観的に評価します。
そして、一部の企業では、パフォーマンスが高くても理念を体現しない役職者よりも、パフォーマンスは平均的だが、理念を体現し組織へ浸透する役職者がプロモーションされやすい人事制度にしていることもあります。
人材開発と継続的なフォロー
理念浸透を行う上では、理念について理解するだけでなく行動変容が求められています。
研修だけでは行動は変わらないため、「学習定着」や「行動化」、「行動の定着」といった研修後のアプローチが非常に重要といえます。
また、研修後に学習定着から行動変容へ促進するには、ワークプレースラーニング(職場内学習)も大切です。
これらを意識しながら継続的なフォローをしていくことで、行動変容を推進することができるでしょう。
理念浸透活動で必要なこと
上記では、海外拠点での理念浸透でのポイントを事例を含めてご紹介しました。
ここでは、海外のみならず、日本国内でも理念浸透を進めていくためのポイントを3つご紹介します。
経営陣・管理職が理念を理解し、手本となって行動する
海外拠点で理念浸透が進まない理由として、そもそも理念が無かったり、日本人社員や経営陣・管理職も理念を理解していないことが挙げられます。
また、理念を言い渡されていても、経営陣や管理職が理念と反する行動を取っていては、部下も理念に沿って行動しようとは思えません。
経営理念・行動方針を作っても、「忙しいから」「この案件は特別だから」などといって、行動方針と違った行いを放置していると、それが新しい基準となってしまいます。
まずは、社長を含む経営陣・管理職が理念をしっかりと理解し、お手本となるような行動をしましょう。
管理職が理念を理解していることによって、理念に沿った人材育成にもつながるため、理念浸透を効率的に行うことができるでしょう。
理念に沿った制度を整える
理念に沿った評価制度を整えることも、理念浸透活動において必要なことです。
理念に沿った行動や目標達成を積極的に評価することで、社員のモチベーションアップにもつながります。
定量的な評価はもちろんのこと、理念実現へ向けた取り組み・言動があったかなど、定性的な評価も含めて評価できる体制を作りましょう。
新人研修や、海外拠点のナショナルスタッフ研修において、理念教育を組み込むこともおすすめです。
理念を知ることで、理念に沿った目標設定ができるようになり、結果として社員の評価につながるような仕組みづくりをすることができます。
理念が伝わる表現になっているかを確認する
理念は、国内・海外問わず、全ての人に伝わる表現・内容にする必要があります。
抽象的過ぎる表現を使っていたり、海外拠点に対してただの直訳を展開したりすると、社員に正しく理念が伝わりません。
経営者自身の心境の変化や経験、社会の流れの変化からの影響など、理念を作るに至ったストーリーを併せて伝えることも大切です。
海外での理念浸透はナショナルスタッフ幹部候補を起点として進めていくのが良い
海外での理念浸透は、現地で働くナショナルスタッフの幹部候補を起点として進めていくことをおすすめします。
マネージャー候補、ディレクター・ジェネラルマネージャー候補に研修を行う際は、ビジネス目標・組織目標から考えることが重要です。
組織の目標・会社のビジョン・行動指針と照らし合わせて現在のパフォーマンスを確認することで、目標とのギャップを洗い出しやすくなります。
理念に沿った人材育成は理念浸透につながり、ナショナルスタッフの目標の明確化の助けとなるでしょう。また、研修企画の設計もスムーズに進めることが可能になります。
ナショナルスタッフの育成に関しては、以下の記事でも解説していますので、併せてご確認ください。
アルーのナショナルスタッフ育成のプログラム例
アルーでは、ナショナルスタッフのリーダーとなる方向けの、育成プログラムを提供しています。
これまでに、ナショナルスタッフ15,000人以上の育成を支援してきました。その80%はマネージャー層の育成となっています。
ここでは、アルーが行っているナショナルスタッフ育成のプログラム例をご紹介します。
マネジャー候補の集合型育成:ベーシックコース
マネージャー候補のナショナルスタッフ向けにはベーシックコースをおすすめします。2回~3回の連動性のある集合型研修で、幹部候補に必要な経営基礎知識とスタンスを習得することを目指します。
- 企業理念理解
- ビジネススキル取得
- リージョナル視点の獲得
- リーダーシップ開発とマネジメント実行力の獲得
といった、4つの流れを中心とした研修を行います。
部長候補の集合型育成:インターミディエートコース
部長候補向けのインターミディエートコースでは、ディレクター、ジェネラルマネージャ―候補に対し、6ヶ月~1年かけて、アクションラーニング形式で実施します。習得している経営スキルを活用し、部門の課題設定から解決・実行を行います。
目的 |
行うこと |
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Training1 |
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現場での情報収集 上長・他部署ヒアリング 課題設定 |
Training2 |
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課題設定の再見直し 解決策の立案 計画と実行 |
Training3 |
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残り年度内での実行プランの継続実行 |
経営幹部の個別育成:アドバンスコース
アドバンスコースでは、経営幹部候補に向け、管理職に必要な部門を超えた連携業務と変革への参画を通じて事業実行力を備えた幹部候補を育成します。
- 経営幹部候補者の特定
- 個人別の育成計画作成
- 社内外のアドバイザーをつけたキャリア開発の投資と機会提供
- 半年~1年半の実行、開発状況のモニタリング
- 成果発表、昇進・昇格検討
といった流れで行われます。
具体的な全体像の例は、以下の通りです。
海外での理念浸透・ナショナルスタッフ育成ならアルーへ
海外拠点での理念浸透についてご紹介しました。理念浸透は、ナショナルスタッフを起点として行っていくことをおすすめしております。
ナショナルスタッフ育成において、理念浸透の場を設けることによって、より目標設定がしやすくなり、海外拠点の社員全員が理念に向かって業務を進めることができるようになるでしょう。
アルーでは、海外での理念浸透プログラムをご用意しております。理念浸透が海外拠点任せになってしまっていたり、理念が行動に反映されていなかったりというお悩みを持つ方は、ぜひ一度アルーにご相談ください。
▼アルーの海外理念浸透プログラムに関しては、以下の資料で詳しく紹介しております。
▼また、こちらのページでも詳細をご覧いただけます。
アルーでは、海外駐在経験の豊富なプロフェッショナルチームが、グローバル戦略を実現するための組織作り・人材育成をお手伝いいたします。
アルーのナショナルスタッフ育成については、以下のページも併せてご確認ください。