HRBP(HRビジネスパートナー)とは?役割や人事・CHROとの違いなどを解説
AI技術の進歩やグローバル化の進展により、昨今のビジネス環境はますます変化の激しさを増しています。こうした中で注目されているのが、戦略人事のプロである「HRBP」という概念です。
人事部門がHRBPを担えるようになれば、経営戦略と人事戦略を密接に連動できるようになり、企業がスピーディーに動けるようになります。この記事では、HRBPの概要や役割、CHROとの違いなどを解説します。
目次[非表示]
- 1.HRBP(HRビジネスパートナー)とは?
- 2.HRBPが求められている背景
- 3.HRBPに必要なスキル
- 4.HRBP導入のポイント
- 5.HRBP導入の流れ
- 6.HRBPの導入企業例
- 7.アルーのHRBP研修事例
- 8.まとめ
HRBP(HRビジネスパートナー)とは?
HRBPとは、人事部門や人材開発面における経営者のパートナーのことです。経営者と同じ視点を持ちつつ、人材育成と経営の両面から企業の成長を牽引していきます。
従来の人事部とは異なり、経営層と同じ目線を持っているのがHRBPの大きな特徴です。企業の戦略的パートナーとして、人と組織のパフォーマンスを最大限に引き出すための戦略を立案し、実行します。
デイブ・ウルリッチのHRBPの定義
HRBPという概念は、アメリカのミシガンビジネススクール教授であるデイブ・ウルリッチ氏によって提唱されました。デイブ・ウルリッチは、著書『MBAの人材戦略』の中で、人事の役割として以下の3つを提唱しています。
- CoE(Center of Excellence)……人事の制度設計を行う
- HRBP(Human Resource Business Partner)……CoEが設計した制度を用いて現場の課題を解決する
- HR Ops(HR Operation Services)……給与計算などの定型業務を行う
HRBPは、ウルリッチ氏が提唱した人事部が果たすべき3つの役割のうちの1つです。給与計算など従来のオペレーション的な業務に加え、経営の視点を持ちながら現場の問題解決を行うことが求められます。
HRBPの目的・何をする役割か
HRBPの目的は、人と組織のパフォーマンスを最大限に引き出すことによって、業績向上を実現することです。
従来の人事部は、給与計算や労務管理、人材配置などの定型的な業務をこなすことが求められていました。しかし、VUCAとも呼ばれる外部環境の変化が激しい現在では、経営戦略と人事戦略を密接に連動させるスピード感が求められます。
人事部がHRBPの役割を果たすことにより、経営戦略を実現できるような人材育成がスムーズに進み、企業の競争力が向上するのです。
HRBPの役割を果たし、経営戦略の実現を目指す人事部のことを、「戦略人事」と呼びます。戦略人事について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
『戦略人事とは?必要な4つの役割やスキル、実現のためのポイントを紹介』
HRBPとCHROの違い
HRBPとよく似ている言葉に、CHROがあります。CHROは、人事部門のトップのことです。
HRBPとCHROはどちらも経営者に近い立場から人材戦略を担うという共通点がありますが、あくまでもHRBPは人事部門の一員である人事専門家として、経営者と人事の橋渡しの役割を果たすことで経営課題の解決を目指します。これに対し、CHROは経営者の1人として、経営課題を解決する点が大きな違いです。
経営層の一員として人事部門を率いるのがCHRO、人事のプロフェッショナルとして問題解決を行うのがHRBPであると覚えておきましょう。
CHROについては、以下の記事で詳しく紹介していますので、併せてご確認ください。
『CHRO(最高人事責任者)とは?役割や導入企業例を紹介』
HRBPと人事の違い
HRBPと従来の人事には、スタンスや役割に大きな違いがあります。
従来の日本企業における人事は、労務管理の側面が強いです。給与計算などの事務処理をミスなく行うことが重視されており、現場や経営層からは独立して扱われることも多かったでしょう。一方でHRBPは、人事のプロフェッショナルとして経営目標の達成を目指し、経営課題解決のための人事戦術を策定します。
従来の人事は規律の維持が重視される、いわば「守り」の人事です。一方でHRBPは、能動的に問題解決を目指す「攻め」のスタンスが重視されるという違いがあります。
HRBPが求められている背景
HRBPが初めて提唱されたウルリッチ氏の著書『MBAの人材戦略』は、1997年に発行されました。それでは、どうして現在HRBPという概念が注目を浴びているのでしょうか。
ここからは、HRBPが求められている背景を解説します。
社会環境の変化
HRBPが求められている一番の要因は、社会環境の変化です。
IT技術の発展やグローバル化は、社会のさまざまな側面でイノベーションをもたらしました。新型コロナウィルスの流行など世界規模で発生する未曾有の事態も起こりやすくなっており、現代のビジネス環境の変化はますます激しさを増しています。
外部環境が激しく変化する現代では、経営戦略を素早く実現するスピード感が必要です。そのためには、経営戦略と人材戦略を密接に連動させて課題解決を行うHRBPが役立ちます。環境が激しく変化する現代では、従来のオペレーション的な業務だけにとどまらず、経営課題の解決を人材の側面から担うHRBPの必要性が増しているのです。
人材獲得が難しくなっている
人材獲得が難しくなっているという事情も、HRBPの必要性を後押ししています。
少子高齢化が進行した現代の日本では、ほとんどの業界で働き手が不足しています。そのため、新卒・中途採用を問わず、人材の採用コストは増加傾向です。
こうした状況では、「既に企業に在籍している人材をいかに育成するか?」が企業の成長を大きく左右します。HRBPによって戦略的な人材開発を行えば、限られた人材のパフォーマンスを最大限に引き出して、企業の競争力を高めることができます。人材獲得が難しいという背景が、戦略的な人材開発を担えるHRBPの重要性を増加させているのです。
HRBPに必要なスキル
人事部がHRBPの役割を担うためには、どういったスキルが必要なのでしょうか。
経営の視点を持って問題解決にあたるHRBPには、課題解決力や経営スキルはもちろん、コミュニケーションスキルや人事に対する幅広い知識が必要です。ここからは、HRBPに必要なスキルを解説します。
経営スキル
経営層の視点を持って問題解決にあたるHRBPには、経営スキルも必要です。
HRBPに高い経営スキルがあれば、経営戦略の意図や背景、重要性などを読み取れるようになり、実効性の高い施策を立案することにつながります。
経営視点を持っているという点が、HRBPと従来の人事における最大の違いです。HRBPを実現する際には、経営スキルを重点的に伸ばすとよいでしょう。経営人材育成の方法や、ありがちな課題は以下の記事で詳しく解説しています。
『【研修事例あり】経営人材育成でぶつかる5つの壁と解決策』
コミュニケーションスキル
コミュニケーションスキルも、HRBPが身につけておくべきスキルの一つです。
HRBPが人事のプロフェッショナルとして経営課題を解決していくためには、社内の幅広い担当者と連携する必要があります。例えば、経営課題や人事戦略を議論するために、経営層とのコミュニケーションが欠かせません。人事戦略を遂行する際には、現場からの協力を引き出すため管理職や現場社員と信頼関係を構築する必要があるでしょう。
HRBPに高いコミュニケーションスキルがあれば、課題解決に向けたアプローチがスムーズに進むようになります。
コミュニケーションスキルを身につける方法や、身につける際のポイントは以下のブログ記事で解説しています。
『仕事で必要なコミュニケーション能力と鍛える方法』
人事に関する豊富な知見・経験
人事部門のプロフェッショナルであるHRBPには、人事に関する豊富な知見や経験が求められます。
人事はHRBP以外にも、幅広い業務をこなす必要があります。例えば労務管理や人材配置はもちろん、給与管理や組織開発なども業務の一環です。こうした部分に対する基礎知識がないと、経営課題を解決するための効果的な施策が実行できません。「どういった場面でどのような人事制度が有効なのか?」を知っておくなど、人事に関する知見を深めることが大切です。
戦略人事を担うために必要な能力を伸ばす人事研修の内容やテーマ例は以下のブログ記事で詳しく解説しています。
『人事研修とは?戦略人事を担うために必要な内容・テーマ例』
課題分析力
人事部門のプロフェッショナルであるHRBPには、人事に関する豊富な知見や経験が求められます。
人事はHRBP以外にも、幅広い業務をこなす必要があります。例えば労務管理や人材配置はもちろん、給与管理や組織開発なども業務の一環です。こうした部分に対する基礎知識がないと、経営課題を解決するための効果的な施策が実行できません。「どういった場面でどのような人事制度が有効なのか?」を知っておくなど、人事に関する知見を深めることが大切です。
戦略人事を担うために必要な能力を伸ばす人事研修の内容やテーマ例は以下のブログ記事で詳しく解説しています。
HRBP導入のポイント
HRBPを導入する際には、HRBPによって何を達成したのかを明確にしておくのが大切です。また、組織体制を整えたり、スモールスタートを心がけたりするのもよいでしょう。
HRBPを導入する際に意識しておきたいポイントを解説します。
HRBPの導入で何を達成したいのかを明確にする
HRBPを導入する際には、HRBPの導入で何を達成したいのかを明確にしてからスタートしましょう。
HRBPの目的を明確にしないまま施策をスタートさせると、HRBPを導入すること自体が目的化してしまいます。結果的に、何を実現するための組織なのかよくわからなくなってしまい、「効果が上がらないまま失敗してしまった」という事態になってしまうでしょう。HRBPを導入する前に、「自社の現状にどのような課題があるのか?」「課題解決に向け、HRBPにどのような役割を担ってもらうのか?」を明確にしておくのが大切です。
組織体制を整える
HRBPに必要な組織体制を整えておくというのも、HRBPを導入する際のポイントです。
HRBPを実現するためには、人事戦略に対する豊富な知識が求められます。そのため、現在の人事部が労務管理中心となっている場合には、そもそも人事機能の再定義が必要です。場合によっては、人員の補強から始める必要があるでしょう。
また、人事部が独立して動いており、現場の各部門や経営層との連携に不安があるケースも、組織体制の整備が必要です。HRBPを導入する前に各部門や経営層との連携を強化しておくと、スムーズにHRBPの施策が進みます。
部分導入から始める
HRBPを導入する際には、部分的な導入から始めてみましょう。
HRBPが役割を効果的に果たすためには、HRBPの役割と責任を組織全体で理解し、信頼関係を築くことが必要です。
信頼関係がない状態でいきなりHRBPを全社的に導入すると、基本的な人事としての動きしかできず、期待していた成果が得られない可能性が高いです。優先するべきテーマを決めたり、施策を実行する範囲を絞ったりして、スモールスタートを心がけてみてください。
経営層の受け入れ態勢やマインドセットを整える
HRBPを実現するためには、経営層の受け入れ態勢やマインドセットを整えることが欠かせません。
HRBPには経営視点が求められますが、バックグラウンドが経営層寄りの人材を登用してしまうと、経営者の意思を人事部に押し付けるだけになってしまいます。HRBPには経営層へ提言できるような人材を採用し、経営層と人事が対等な関係となるよう意識しましょう。
そのためには、経営層側の受け入れ態勢やマインドセットも重要です。経営層にHRBPの概念を理解してもらう機会を設けるなど、経営層側へのアプローチに力を入れましょう。
HRBP導入の流れ
HRBPを導入する際には、以下の4つのステップで進めていくのがおすすめです。
- 人事戦略を立てる
- 実行体制を検討する
- 部分的に導入する
- 問題解決力を高める
まずはHRBPを部分的に導入し、その後社内に拡大していくというステップを取ることで、スムーズにHRBPを浸透できます。社内にHRBPを導入する流れを解説します。
人事戦略を立てる
HRBPを導入する際には、まず人事戦略を立てるところから始めましょう。
人事戦略を明確にしておかないと、HRBPを導入すること自体が目的となってしまいます。まずは、自社の状況を分析し、どういった課題が存在するのかを特定するのが大切です。その後、今後の事業環境や経営戦略を踏まえながら、人材開発の方向性を決めていきます。
人事戦略を立てる際には、短期的な目標だけでなく2年後や3年後、さらには10年後なども見据えた中長期の計画を立てるのが大切です。
実行体制を検討する
人事戦略を立てたら、HRBPの実行体制を検討していきます。
例えば現在の人事部が労務中心の役割を果たしている場合、人事部に求められる役割を再定義する必要があります。また、HRBPを担える人材が人事部に在籍していない場合には、人員の拡充を行いましょう。
なおHRBPを導入する際には、人事部にHRBPの機能をもたせる場合と、HRBP部門を独立させる場合の2種類があります。現在の人事部の状況も踏まえながら、HRBPを独立させるかどうかを検討しましょう。
部分的に導入する
HRBPの実行体制が整い次第、部分的な導入を始めていきましょう。
いきなり全社的にHRBPを導入するのではなく、スモールスタートを心がけるのが大切です。HRBPの必要性が高いと判断した部門やテーマを中心に、HRBPの取り組みを実際に進めていきます。
部分的な導入の過程で、各部門とHRBPの間の信頼関係を構築するのが大切です。ここでHRBPを浸透させる基盤を形成しておけば、全社的に拡大していくときもスムーズになります。
問題解決力を高める
HRBPの部分的な導入が完了し、軌道に乗ってきたら問題解決力を高めていきます。
具体的には、部分的な運用を行う中で見えてきた改善点などをリストアップして、HRBPのブラッシュアップを進めていきましょう。効果的な問題解決ができるようになってきたら、徐々にHRBPが担う範囲を広げていきます。
継続的にHRBPの取り組みを改善できるよう、G-PDCAサイクルを回すのが大切です。
HRBPの導入企業例
HRBPを導入する際には、既にHRBPの運用に成功している企業の事例が参考になります。HRBPを導入している国内の企業はまだまだ少ないですが、ここではその中から参考になる事例を3つ厳選して紹介します。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは、人と組織の両面からアプローチを行うHRBPを実現するため、担当チームのマネージャーとのコミュニケーションを意識しています。
従来は、「マネージャーは孤独だ」という認識も強く、チーム内での成功事例や失敗事例が他チームと共有されることは稀でした。一方でHRBPを導入した後は、HRBPを起点としたマネージャー間でのコミュニケーションが活性化し、マネージャー間のサポートネットワークの形成に成功しました。
参考:“マネージャーは孤独”な認識を変えたい。メルカリ流プログラム「Manager Peer Learning Session」を実施!
株式会社ディー・エヌ・エー
株式会社ディー・エヌ・エーでは、各部門のパートナーとして事業を成長させる役割をHRBPが担っています。ディー・エヌ・エーでは、「企業別組合・年功序列・終身雇用」という旧来の日本的経営からの脱却を目指し、経営視点を持ったHRBPを積極的に推進しているのが特徴です。
具体的には、HRBPが各事業部に対してリファラル採用の強化や選考フローの整備を提言し、事業部の競争力強化を進めました。また、給与水準の見直しなどを通じて、環境整備も進めています。事業部出身だからこそできる役割を担っているのが特徴です。
参考:「人事から事業を強くする」を目指すDeNAの戦略人事とは【HRBP CRUNCH #01】 | 人事部から企業成長を応援するメディアHR NOTE
ラクスル株式会社
ラクスル株式会社では、採用や労務、評価制度や組織設計といった一連の人事業務に加え、HRBPにも取り組んでいます。
ラクスル株式会社では事業本部ごとにHRBPが配属されており、人事業務から販売費の管理などを担っています。人事部門が各部門の業績にしっかりと向き合い、経営視点を持って事業へコミットしているのが特徴です。また、人事が積極的に全社的なガバナンス設計やレイヤー定義に関与するなど、経営層とのコミュニケーションも重視しています。
参考:販管費の管理までも人事はやるべき、事業を深く理解することの必要性 | BizHint(ビズヒント)- クラウド活用と生産性向上の専門サイト
アルーのHRBP研修事例
人材育成のプロフェッショナルであるアルーでは、HRBPを実現するための研修を実施しています。
本研修事例では、戦略人事を実現するために必要な意識改革やHR戦略構築スキル、HR分析力などを強化することを目的に、全体で約7日間をかけて研修を実施しました。まずはビジネス戦略の理解とHRの課題特定に取り組み、その後の実践期間で課題解決に向けた戦略の遂行を行ってもらいました。その後、実行施策の評価や解決策の立案を実施し、今後に向けたアクションプランを策定してまとめています。
本事例についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページから資料をダウンロードできます。
まとめ
HRBPについて、HRBPの概要や目的、ポイントや導入の流れなどを幅広く解説しました。
ビジネス環境の変化が激しさを増している昨今では、人事戦略と経営戦略を密接に連動させるHRBPが必要不可欠です。また、採用コストの増加している昨今では、HRBPを積極的に活用しながら人材育成を行い、各事業部の抱える課題を解決する企業も増えてきています。
ぜひこの記事の内容を参考にHRBPの導入を積極的に進め、企業の競争力を強化していきましょう。