人材開発支援助成金とは?条件やいくらもらえるのかをわかりやすく解説
人材育成に使える助成金として、「人材開発支援助成金」という名前を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。
人材開発支援助成金は厚生労働省が提供している助成金で、人材育成に必要なさまざまな費用に対して助成を受けることができます。この記事では、人材育成助成金のコース一覧や支給条件、支給金額などをわかりやすく解説します。
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人材開発支援助成金とは?
人材開発支援助成金は、職業開発計画に沿って職業訓練を実施する企業を支援する制度です。人材育成にはさまざまな助成金がありますが、人材開発支援助成金は中でも幅広い企業を対象としています。
人材開発支援助成金には7つのコースが用意されており、支給対象や支給金額が異なります。
参考:『人材開発支援助成金|厚生労働省』
人材開発支援助成金のコース一覧
人材開発支援助成金には、以下の7つのコースが存在します。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
それぞれのコースで、対象とする企業や支給対象となる教育内容、支給金額などが異なります。人材開発支援助成金における7つのコースについて詳しく見ていきましょう。
人材育成支援コース
人材育成支援コースは、職務に関連する知識や技能を習得させる訓練や、厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練などを対象とするコースです。人材開発支援助成金の中でも特に幅広い範囲をカバーしているコースであるため、支給対象となる企業も多いでしょう。人材育成支援コースは、以下の3つに分かれています。
- 人材育成訓練……職務に関連するOff-JTを10時間以上行った場合に支給
- 認定実習併用職業訓練……中核人材を育成するためのOJT訓練に対して支給
- 有期実習型訓練……正社員化を目的として、OJTとOff-JTを組み合わせた訓練に対して支給
業務に関する幅広い訓練が対象となりますが、OJTの場合は厚生労働大臣の認定が必要なため注意しましょう。また、業務に直接関連しない内容を学ぶ研修は、助成対象となりません。
教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースは、主に有給で行われる教育訓練制度を対象とするコースです。具体的には、以下の2つの制度が支給対象となります。
- 教育訓練休暇制度……3年間に5日以上の取得が可能な有給の休暇制度に対して支給
- 長期教育訓練休暇制度……1年間に120日以上の取得が可能な長期訓練休暇制度に対して支給
- 教育訓練短時間勤務等制度……教育訓練を受けるために、所定労働時間を短縮した場合に支給
それぞれの制度について、就業規則や適用期間、教育訓練の実施主体などに細かな制限が設けられています。また、OJTや業務命令によって受講させる訓練、研究会や視察旅行などは支給対象とならないため注意が必要です。
人への投資促進コース
人への投資促進コースは、以下のようなケースで助成が受けられるコースです。
- デジタル人材や高度人材を育成するための訓練
- 公募型研修のような、労働者が自発的に行う訓練
- eラーニングなどを活用した、サブスクリプション型の訓練
デジタル人材や高度人材を育成する場合だけでなく、公募型研修やeラーニングなど、自律学習を促進する制度を幅広くカバーしているのが特徴です。LMSを導入したeラーニングの実施を検討している場合は、ぜひ人への投資促進コースを利用できないか検討してみましょう。
eラーニングについては、以下の記事で詳しく解説しています。
『【簡単解説】eラーニングとは?企業研修で活用するメリット・デメリット』
事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業立ち上げやDX化に必要な知識や技能の習得を行う訓練に対して助成されるコースです。具体的には、以下の要件があります。
- Off-JTであること(企業の事業活動とは区別された教育であること)
- 実訓練時間が10時間以上であること
- 以下のいずれかに当てはまる訓練であること
- 事業展開にあたり、新たな分野で必要な専門知識やスキルを習得させる
- 事業展開は行わないが、デジタル化やDX化、グリーン化などを進めるのに関連した専門知識やスキルを習得させる
新たな商品・サービスを製造する場合や、新たな分野へ進出する場合には事業展開とみなされるため、事業展開等リスキリング支援コースが利用しやすいです。また、デジタル化やDX化、グリーン化を進めるためにも役立てられます。他コースと同様に賃金助成と経費助成がありますが、eラーニングの場合には賃金助成の対象外となります。
建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースは、職業能力開発促進法で規定されている「指導員」による認定職業訓練に対して支給されるコースです。普通課程や短期過程、高度職業訓練、指導員訓練など、幅広い種類があります。
対象となる訓練内容は幅広く、例えば普通課程であれば金属加工や木材加工、機械整備や建築外装などがあります。普通課程の場合、訓練期間はいずれも1年間です。短期課程であれば原則として6ヶ月以下の訓練を行います。
建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースは、1日1時間以上の技能実習に対して支給されるコースです。前述した建設労働者認定訓練コースは基本的に認定訓練のみが対象ですが、建設労働者技能実習コースの場合は中小企業が自ら行う教育訓練も支給対象となります。
具体的な支給対象としては、以下のようなものが考えられます。
- 建設工事で必要なスキルを習得するための実習
- 登録基幹技能者講習
- 安全衛生教育
- 建設機械施工・土木施工管理・建築施工管理・電気通信工事施工管理などの技術検定に関する講習
障害者職業能力開発コース
障害者職業能力開発コースは、障害者に職業遂行能力を習得させるための施設運営に対して支給されるコースです。一定の教育訓練を継続的に実施する施設を設置したり運営したりする場合、それらにかかる費用の一部が助成されます。
本コースで対象となるのは以下の通りです。
- 身体障害者
- 知的障害者
- 精神障害者
- 発達障害者
- 高次脳機能障害のある者
- 難治性疾患を有する者
このコースで助成金を受け取るためには、障害者の能力開発に対する知見を有し、教育訓練に関する事業の運営経験をおおむね5年以上有している必要があります。教育訓練の期間は6ヶ月以上2年以内で、規定されている訓練時間の標準は1日5〜6時間です。
人材開発支援助成金の受給条件
人材開発支援助成金を受給するためには、以下のような条件を満たす必要があります。
- 職業能力開発推進者を選任
- 事業内職業能力開発計画を労働局提出
- 訓練計画書に則して訓練を実施
- 訓練対象者が訓練時間数の8割以上受けている
- 訓練終了後2ヶ月以内に労働局に支給申請
- 審査後に助成金を受給
人材開発支援助成金を受給するための条件を解説します。
職業能力開発推進者を選任
助成金を受け取るためには、まず職業能力開発推進者を選任する必要があります。職業能力開発推進者とは、社員のスキルアップを企画・実行する担当者です。事業で必要なスキルを習得させるための計画を策定したり、企業内でスキルアップに関する相談対応や指導を実施したりします。
助成金には、職業能力開発推進者の選任が必須です。事業所内で適任な人材がいる場合には事業所内から、それ以外の場合は本社や共同事業所内から選任しましょう。
事業内職業能力開発計画を労働局提出
次に、事業内職業能力開発計画を労働局へ提出する必要があります。
事業内職業能力開発計画とは、社員のスキルアップを効率的に行うために定める計画のことです。具体的な職業訓練の内容や、職業能力を評価するための指標などを記載します。時間に余裕を持って事業内職業能力開発計画を作成し、労働局へ提出しましょう。
訓練計画書に則して訓練を実施
事業内職業能力開発計画を作成したら、訓練計画書に則して訓練を実施します。
訓練対象者が訓練時間数の8割以上受けている
助成金を受給するためには、原則として訓練対象者が訓練時間の8割以上の時間を受講する必要があります。これを下回ってしまった場合、助成金を受け取れないことがあるため注意が必要です。ただし、例外として障害者職業能力開発コースでは、訓練時間の8割未満の受講でも条件付きで運営費助成を受け取ることができます。
訓練終了後2ヶ月以内に労働局に支給申請
訓練が終了したら、2ヶ月以内に労働局へ支給申請を行います。支給申請を行う際に提出する主な書類は以下の通りです。
- 支給要件確認申立書
- 支払い時方法・受取人住所届
- 支給申請書
これらの書類フォーマットは厚生労働省からダウンロードできます。また、2023年度から電子申請も可能になりました。なお、申請を行う時期は新年度が始まる前の2月〜3月が多いので、時間に余裕を持って用意を進めておきましょう。
審査後に助成金を受給
申請後、審査を通過すると助成金が支給されます。支給申請を行ってから実際に助成金が振り込まれるまでの期間は、おおよそ2週間〜6ヶ月です。
人材開発支援助成金ではいくらもらえるのか?
人材開発支援助成金は、コースによって助成の仕組みが異なります。ここからはコースごとに、支援金額を見ていきましょう。なお、助成率や助成金額は随時変更される可能性があるため、最新情報は厚生労働省のサイトをご確認ください。
人材育成支援コース
人材育成支援コースの助成率や助成金額は以下の通りです。
経費助成 |
賃金助成 |
OJT実施助成 |
|
人材育成訓練 |
45%〜70% |
760円 |
- |
認定実習併用職業訓練 |
45% |
20万円 |
|
有期実習型訓練 |
60%〜70% |
10万円 |
(カッコ内は中小企業以外への助成率・助成金額)
なお、賃金要件または資格等手当要件が設けられており、それらの条件を満たすと15%ほどの割増分を追加で受給することができます。なお、1人あたりの支給上限額は以下の通りです(カッコ内は大企業)。
- 10時間以上100時間未満……15万円(10万円)
- 100時間以上200時間未満……30万円(20万円)
- 200時間以上……50万円(30万円)
教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースにおける助成金額は以下の通りです。教育訓練休暇制度と長期教育訓練休暇制度、教育訓練短時間勤務等制度で、助成金額が分かれています。
経費助成 |
賃金助成 |
|||
教育訓練休暇制度 |
300,000円 |
- |
||
長期教育訓練休暇制度 |
200,000円 |
6,000円 |
||
教育訓練短時間勤務等制 |
200,000円 |
- |
なお賃金助成の場合は、150日分が助成上限です。また、1事業所あたりの助成上限額は2,500万円となっています。
人への投資促進コース
人への投資促進コースにおける助成率や助成金額は以下の表の通りです。
経費助成 |
賃金助成 |
OJT実施助成 |
|
高度デジタル人材訓練 |
75% |
960円 |
- |
成長分野等人材訓練練 |
75% |
960円 |
- |
情報技術分野認定実習併用職業訓練 |
60% |
760円 |
20万円 |
長期教育訓練休暇等制度 |
20万円 |
6000円 |
- |
自発的職業能力開発訓練 |
30% |
- |
- |
定額制訓練 |
45% |
- |
- |
(カッコ内は中小企業以外への助成率・助成金額)
なお、スキルレベルや雇用形態によって助成率や助成金額は異なります。詳しくは、厚生労働省による以下のページをご覧ください。
参考:人材開発支援助成金|厚生労働省
事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースの助成率や助成金額は以下の通りです。
経費助成 |
賃金助成 |
|||
事業展開等リスキリング支援コース |
75% |
960円 |
なお、経費助成の限度額は1人につき以下の通り定められています(カッコ内は大企業)。
- 10時間以上100時間未満……30万円(20万円)
- 100時間以上200時間未満……40万円(25万円)
- 200時間以上……50万円(30万円)
また、賃金助成の限度時間は1人1訓練あたり1,200時間、年間受給の限度額は1億円です。
建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースにも、他のコースと同様に経費助成と賃金助成が用意されています。経費助成の割合は、支給対象となる経費の6分の1です。上限規定はなく、100円未満は切り捨てで計算します。賃金助成は、支給対象となる労働者1人あたり3,800円です。
例えば50万円の経費がかかる訓練を実施し、経費助成を選んだ場合、支給額は50万円×1/6で83,300円が支給されます。10人の労働者に認定訓練を実施し、賃金助成を選んだ場合、支給額は3,800×10で38,000円です。
建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースも、経費助成と賃金助成の2通りがあり、それぞれで助成金額が異なります。
経費助成の場合、助成率は以下の通りです。
- 雇用保険の被保険者数が20人以下……70%
- 雇用保険の被保険者数が21人以上の場合は以下の2通り
- 35歳未満の労働者……70%
- 35歳以上の労働者……45%
なお、1つの技能実習あたり、1人につき10万円が限度となっています。
賃金助成の場合の助成額は以下の通りです。
- 雇用保険の被保険者数が20人以下……8550円
- 雇用保険の被保険者数が21人以下……7600円
ただし、建設キャリアアップシステム技能者情報登録者を対象とする場合や、賃金向上助成・資格等手当助成がある場合は、受給額が上乗せされます。
障害者職業能力開発コース
障害者職業能力開発コースの受給額は、1人あたりの施設運営費に基づいて算出されます。具体的な助成率は以下の通りです。
- 重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者などを対象とする場合……80%
- それ以外の障害者を対象とする場合……75%
ただし、訓練時間の8割以上を受講しなかった労働者に対しては、受講した訓練時間の割合に応じて減額が行われます。また、重度障害者などが就職した場合、1人あたり10万円が支給されます。
人材開発支援助成金のメリット
人材開発支援助成金を支給するメリットとしては、社員の生産性向上や、研修に関する企業側の負担軽減が挙げられます。人材開発支援助成金を活用する2つのメリットを解説します。
社員の生産性が向上する
人材開発支援助成金を活用した研修を実施すれば、社員の生産性が向上します。
人材開発支援助成金を利用することで、これまで予算の都合で実施できなかった教育を実施できるようになります。結果として社員の能力が向上し、生産性向上につながるのです。
特に、人材開発支援助成金ではDXやデジタル化を推進する人材の育成を想定したコースが充実しています。こうした人材の育成に関しては、例えば人への投資促進コースも活用でき、事業展開等リスキリングコースを利用できる可能性もあります。社内のDX化やデジタル化を推進することは、生産性の向上に直結するでしょう。
DX人材の育成については、以下の記事で詳しく解説しています。
『【事例あり】DX人材の育成を成功させる5つのコツ』
研修や訓練における企業側の負担が少なくなる
研修や訓練における企業側の負担が少なくなるのも、人材開発支援助成金を活用するメリットです。
教育を実施する際には、会場の確保や講師の手配などにさまざまな費用が必要です。また、有給の研修実施に踏み切れない企業も多いでしょう。人材開発支援助成金を活用すれば、教育に関わる金銭的なコストを大きく軽減できます。また、サブスクリプション型のツールに対する助成も用意されているため、ツール導入時のコストカットも可能です。
人材開発支援助成金のデメリット
人材開発支援助成金は幅広い企業が支給対象となる一方で、研修終了後でないと受給できなかったり、支給される条件が細かく決まっていたりといったデメリットも存在します。また、期限を過ぎると受給できない点も注意が必要です。
人材開発支援助成金のデメリットを解説します。
研修終了後に支給される
人材開発支援助成金のデメリットとしては、研修終了後に支給される点が挙げられます。
前述したように、助成金を受け取るためには事業内職業能力開発計画の提出や訓練の実施、申請書の提出など、さまざまなステップが必要です。そのため、施策のスタートから助成金の受給までに2年以上の時間を要することも少なくありません。また、申請書の提出から受給までに半年以上の時間を要したというケースもあります。
受給までに時間がかかってしまうのは、人材開発支援助成金のデメリットといえるでしょう。
支給される条件が決まっている
支給される条件が決まっている点も、人材開発支援助成金のデメリットです。
人材開発支援助成金は、コースごとに受給条件が非常に細かく設定されています。例えば人材育成支援コースにおけるOJTは厚生労働大臣の認定が必要で、事業所の規模によっては一部のコースを受給できない場合もあります。また、事業に直接関連するスキル以外は支給対象とならないことが多いです。支給条件を満たさない場合は、厚生労働省のキャリアアップ助成金や、東京都のスキルアップ助成金など、別の助成金の活用を検討してみましょう。
期限を過ぎると受給できない
人材開発支援助成金は、期限を過ぎると受給できません。
人材開発支援助成金を受け取るための書類提出には、それぞれ期限があります。当然ながら、提出期限を過ぎてしまった場合には一切助成金を受け取ることができません。受給のための書類は煩雑なものも多いため、期限に余裕を持って準備を進めておきましょう。
まとめ
人材開発支援助成金について、それぞれのコースの内容や助成率、助成金額などを細かく解説しました。
人材開発助成金は対象とする範囲が幅広いため、多くの企業が受給対象となる可能性が高い助成金です。職務内容に関連する教育全般はもちろん、DX化やデジタル化を進めるためのスキルアップにも大いに活用できます。ぜひこの記事の内容を参考に人材開発支援助成金に対する理解を深め、助成金を活用した効果的な人材育成を進めていってください。