管理職の傾聴力を高める育成方法とは?傾聴力を高めるメリットと目的
私達を取り巻く事業環境は昔よりずっと変動性が高く、多くの複雑な要因が互いに影響を及ぼし合っています。そんな環境の中で、管理職においても従来のマネジメント観やリーダーシップを見直し、自己変革を行う必要があります。今回は、今の時代、管理職に必要な「傾聴力」についてまとめていきます。
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管理職に必要な傾聴力とは?
「聴く」という行為は、管理職が日頃部下に対して行っているコミュニケーションの要です。部下の話に深く耳を傾け理解することで、部下の自律を促進することにもつながります。
傾聴力は、管理職にとって必須のビジネススキルともいえるでしょう。
傾聴とは
傾聴とは、相手の言うことに対して善悪・優劣・好き嫌いといった自分の価値観を交えて判断せず、ありのままを受け止めて聴くコミュニケーションスキルです。
心理カウンセリングの場で使われている技法という印象が強いですが、経済産業省が掲げた「人生100年時代の社会人基礎力」内「チームで働く力」の項目の1つにも挙げられており、ビジネスの場でも有効なスキルとして注目を集めています。
積極的傾聴(アクティブリスニング)とは
聴き手が能動的に話し手へ働きかけることで、より深い理解を得る方法を積極的傾聴(アクティブリスニング)と呼びます。
アメリカの心理学者カール・ロジャーズが提唱したもので、ロジャーズが行ったカウンセリングの中で効果が高かった3つの要素を含む傾聴であるとされています。
その要素とは、次の3つになります。
- 共感的理解:話を聴く時に相手の立場に立って、共感しながら理解しようとする
- 無条件の肯定的関心:相手の話に対して、善悪・優劣・好き嫌いなど自分の価値観や判断を交えずに受容して聴く
- 自己一致:聴き手が話し手と自分自身に対し、矛盾のない態度でいること。話がわかりにくいときはわかりにくいと正直に伝え、真意を確認する
相手の話をただ受動的に聴き入れるだけではなく、必要に応じて言い換えたり質問するといった働きかけをしながら聴いていきます。
傾聴の目的
主たる目的は、積極的に相手の話に耳を傾け、真意を捉えて深いレベルで理解することです。
そのためには、相手の話す理屈を理解しようとする姿勢が重要です。傾聴がうまくいけば、相手への理解が深まりより良い関係を築くことができるようになります。
傾聴が使用されるビジネスシーン
実際に傾聴の使用が予測されるビジネスシーンは、次の場合です。
- 営業:傾聴を通じてクライアントの本音を引き出すことで、クライアントが抱える問題や願望に寄り添った提案が可能になります。
- マネジメント:傾聴を行うことで、人が多数になると生じがちなコミュニケーションのズレの改善や、上司・部下の意思疎通が円滑になることが期待できます。
その他、上司が部下の悩みや相談を聞くなど、育成の場でも傾聴を行うことで相手の成長を促す効果があります。
管理職が傾聴力を高めることで得られる効果
管理職が自身の傾聴力を高めることで、チームメンバーに与える影響は大きいといえるでしょう。
具体的な効果について、次から解説していきます。
心理的安全性あるチームの基盤ができる
心理的安全性とは、自分の考えや疑問、懸念などを率直に発言するのを不安なく行える環境をいいます。傾聴によって、話し手の理屈を理解しようとすることで、話し手は自分の解釈や価値観、気持ちを安心して話すことができます。
まず管理職が傾聴力を高めることによって、チームの心理的安全性を作る上で重要な役割を果たすことになります。
部下自身が問題解決の主体となれる
管理職の傾聴によって、部下は自分の解釈や考え・気持ちを安心して話せるため、対話を通して自分の考えや問題に対する解決方法を整理することができます。
自分自身で問題解決の方法を決定できるため、日常的に仕事の舵取りを主体的に行えるようになります。
自分自身が問題解決の主体となることで、日常的な仕事に主体性が生まれるほか、キャリア自律も期待できるでしょう。
管理職が傾聴力を高めるための育成方法
管理職にとって重要な傾聴力を高めるには、研修を重ねるだけでなく実際に自分の職場で実践し、うまく行かなかった点を振り返って次に活かすといった過程が求められます。
ここでは、管理職が傾聴力を高めるための育成方法について詳しく解説します。
適応課題と技術的課題の両方にアプローチする
管理職が傾聴力を高めるためには、適応課題と技術的課題の両方の側面からアプローチする必要があります。
適応課題とは、自分自身の価値観や周囲との関係性を変える必要のある問題で、技術的課題は解決策が分かっていて、知識やスキルを身につければ解決できる問題のことです。
適応課題の側面から捉えると、傾聴がうまく行えないのは管理職の内面の問題やこれまでの考え方が影響しているからだと考えられます。例えば、管理職に「上司はチームの方針を決める役割があり、考えがぶれてはならない存在である」という信念があると、相手の話に素直に耳を傾けるのに怖れや抵抗感が湧いてくる場合があります。
こういった場合、従来の信念を「上司はみんなの意見を聴きながら、メンバーが力を出せる方針を立てる存在である」と捉え直すことが必要になります。
また、技術的課題の側面で捉えると、傾聴において重要な「共感」の概念への理解がなく、「オウム返し」などの具体的な手法が身についていない場合は、これらを研修等で学び、実践を重ねていかなければなりません。
研修設計の際は、適応課題へのアプローチが抜けてしまうことが多いです。適応課題を解決するためには、無意識にある自分の中の信念や価値観を研修やコーチングなどで言語化して自覚してもらい、必要であればその変革を促す必要があります。講師や他の受講者と対話する機会を研修に組み込むようにしましょう。
話の聴き方を習得してもらう
話の聴き方において大切なのは、聴き手の話し手に対する受容的態度や話への共感、傾聴です。聴き手の表情や仕草などの非言語メッセージや、相手への言葉がけが話し手に対して影響を与えます。
聴き方を学ぶには、受講者の学習経験を踏まえて集合研修で座学やロールプレイを設計し、何度も練習する必要があります。さらに、研修で学んだことを実際に使用してみなければ身につきません。職場で実践してみてその都度PDCAを回し、学んだことを強化していくことが重要になります。
管理職が学ぶべき非言語コミュニケーションについて詳しくは以下のページをご覧ください。
『非言語コミュニケーションとは?重要性やビジネスでの活用例を解説』
相手への返し方を習得してもらう
話に対する相手への返し方では、発話に関する自己統制や相手にメッセージを伝える、または不明点を質問するといったスキルが大切です。傾聴で相手の話への理解を深めるには、自分の考えや経験などの話したいことをコントロールする必要があるためです。
相手への返し方を身につけるには、話の聴き方と同様に集合研修で概要を学んで練習した後、職場で実践して経験を積んでいきます。
傾聴できているかの判断ができるようになってもらう
管理職が傾聴ができているかどうか、部下から率直なフィードバックをもらうことが難しい場合も多いでしょう。そのため、管理職は相手の様子を見て自分で判断する必要があります。
傾聴できているか自己判断できるようになるためには、集合研修で次のような経験を積みます。
- まず自分が「聴いてもらう」ということを経験する
- 自分が聴いてもらうことで、傾聴の効果を体感する
- 傾聴してもらったことによる話し手の変化を言語化して整理する
さらに職場で傾聴を実践し、その都度自己判定して振り返ります。
傾聴力を試す具体的な例
あなたは普段、話を聴く時に傾聴できているでしょうか。ここでは、ビジネスで日常的にみられるシーンを具体例として挙げます。話を傍聴して、あなたの傾聴力を試してみてください。
また、人事部の方は自分の会社の管理職はどういう反応を返すことが多いか、考えてみましょう。
例①Aさんの話を傾聴してください
あなたは人事部で働くベテラン社員です。ある日社員食堂で新卒4年目のAさんとばったり出会い、一緒に食事することになりました。
Aさんはジョブローテで3ヶ月前に異動したばかりで、見たところ元気がありません。Aさんの異動先は「仕事の基準が高い部署、成長間違いなし」といわれている部署です。あなたも人事に来る前はAさんの現在の部署で大きく成長した経験があり、その経験に感謝しているとともに、今でも部署のメンバーとは関わりがあります。
Aさんに対して仕事の調子を尋ねたあなたに、Aさんは次のように話しました。
「今の部署は、自分に合ってないような気がするんです。何をやってもダメだしばかりで、異動して上司から褒められたことは一度もないんじゃないでしょうか。異動前の職場では先輩がいる中でも自分の意見が通っていたので、やりがいもあったんです。でも今の部署では自分の意見はほとんど通らなくて『相手の話をよく聞け』と言われるばかりです。きちんと聞いているのにどうしてけなされるのかもわからないし……。」
この発言を聞いて、あなたはAさんにどのように答えるでしょうか。
解説
傾聴しているといえる応答の例は、次のようになります。
「何をやってもダメだしばかりだと辛いだろうね……。意見も通らないし、自分が思ってもないことでけなされているように感じて、今の部署で続けるのが難しそうだと考えてるの?」
Aさんが大変に感じている理由をさらに掘り下げて聞いたり、ダメだしの理由を考えさせるような質問をするのは傾聴ではありません。Aさんが抱えている問題を解決しようとする働きかけになります。
また、Aさんの話を聞いて自分の時はどうだったかという経験を話したり、アドバイスをするのも傾聴にあたりません。
Aさんが話したことは、部署の人が聞くと「勘違い」であり、もしかすると事実ではないかもしれません。しかし、Aさんの理屈をまずそのまま理解しようとする応答が傾聴の姿勢です。
例②Bさんの話を傾聴してください
あなたは研修企画を設計するコンサルタントで、クライアント先の人事部社員であるBさんと打ち合わせを行っています。Bさんとの打ち合わせの中で、期待に沿った提案ができている手応えを感じられましたが、最終打ち合わせで確認した際に次のような発言が出ました。
「私自身はいい企画だと思っているのですが、上司が納得するかどうか今一つ確信がもてないのです。新しいことを積極的に進めようという社風ではないので…」
あなたはBさんの話を聴いて、どのように応答すればさらに信頼を得られるでしょうか。
解説
Bさんが話を続けやすいのは、次のような応答になります。
「決済者の方が納得されるか確信をもてず、この企画をご提案なさるかどうか決めかねていらっしゃるのですか?」
傾聴でBさんの話す理屈を理解しようとする態度を示すことで、Bさんは自分の解釈や価値観、感情を安心して話せるようになるため、本音で話すことができるようになります。また、Bさんが自己決定することへの尊重を感じられるため、信頼感を得やすくなるでしょう。
決済者の方に直接説明するという提案や、さらに資料を用意するなどの対応はBさんの問題を解決しようとする姿勢であり、傾聴しているとはいえません。
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まとめ
傾聴力は、管理職に必須のビジネススキルです。傾聴力を高めることで、チームの心理的安全性の基盤を作ることに役立つほか、傾聴によって部下自身が問題解決の主体になれるため、部下育成にもメリットがあります。
管理職が傾聴力を高めるためには、適応課題と技術的課題の両方からアプローチしていく必要があります。話の聴き方、相手への返し方、傾聴できているかの自己判断などの技術は集合研修で学び、その後職場で実践してPDCAサイクルを回していきます。
適応課題に関しては、自分の内面を論理的に探索し、無意識化で思考・行動の前提になっている価値観や信念を自覚することが必要です。
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