適応課題と技術的課題の例を紹介。研修で適応課題にアプローチする方法
ビジネスでの課題解決を行う際に欠かせないのが、「適応課題」「技術的課題」という概念です。
適応課題とは、自分や組織の価値観や考え方に根ざしており、そのままの価値観では対応が難しいような課題のことです。
適応課題を解決するためには、自分や無意識に持っている価値観を変革したり、手放したりすることが求められます。
特に管理職がこれらの課題を克服すれば、リーダーシップを発揮できるようになり、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができるでしょう。
そこでこの記事では、主に管理職を中心に適応課題と技術歴課題の例を紹介し、研修でのアプローチ方法を解説します。ぜひビジネスでの課題解決を行う際の参考にしてみてください。
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適応課題とは
ビジネス場面で直面する課題には、「適応課題」と「技術的課題」の2つがあります。
このうち適応課題とは、自分や組織の価値観や考え方に根ざしており、そのままの価値観では対応が難しいような課題のことです。適応課題を解決するためには、自分が無意識に持っている価値観を変革したり、手放したりすることが求められます。
例えば管理職について言えば、「リーダーとしての心構え」「常に組織のために動く心がけ」などが適応課題の一例です。なお、抱えている課題が適応課題に当てはまるかどうかを確認するためには、以下のチェックリストも活用してみてください。チェックが多いほど、適応課題である可能性が高いです。
技術的課題とは
技術的課題とは、適応課題の対になる概念で、ある課題に対して、新たな知識やスキルを身につけることにより、特定の「正解」を導き出すことができる課題のことです。
技術的課題は知識の量や質を高めれば解決できる課題を指します。
例えば、企業における財務分析はやり方が定められていて、財務・分析に関する知識やスキルがあれば、誰でもできるようになります。
ただし、実際にビジネスの現場で発生する課題は適応課題と技術的課題の要素が混ざっていることが多く、「100%の適応課題」や「100%の技術的課題」は存在しないことに注意が必要です。
適応課題の例
適応課題の例としてはどのようなものがあるのでしょうか。
例えば、「課の方針に対する部下の提案や意見を傾聴することができない」という課題がある場合、適応課題の側面で捉えると、「『上司は方針を決め、ぶれてはならない存在である』という信念が働き、怖れや抵抗感が湧いているから」というような課題の仮説を立てることができます。
適応課題と技術的課題の違い
適応課題と技術的課題の違いは、主に両者の問題に対するアプローチの方法です。
例えば、先述した「課の方針に対する部下の提案や意見を傾聴することができない」という課題を技術的課題の側面で捉えると、「傾聴において重要な『共感』の概念理解がない」「傾聴の方法に習熟していない」という仮説が立てられます。
技術的課題はスキルを習得することで解決できます。
ですが、適応課題は社員自身の考え方や価値観を変えることが必要になります。
技術的課題は認知がしやすく、知識や技術を習得することで比較的早く解決することができます。一方で適応課題は言動や仕組みの背景に存在するため、認知がしにくいです。また、自分や組織に根付いた考え方を自覚し、変更していくため、課題解決に時間がかかるのが特徴です。
適応課題と技術的課題の両方の解決が大切
ビジネスシーンでの課題解決を行うためには、適応課題と技術的課題の両面から解決することが重要です。
例えば「1on1面談を行っているが、うまく相手の意見を引き出せない」という管理職にありがちな問題を考えてみましょう。この際、技術的課題と適応課題、それぞれのアプローチをまとめると以下のようになります。
技術的課題:傾聴スキルが足りないため、「うなづく」「オウム返し」などを学ぼう
適応課題:部下は上司の指示に従うべきだという価値観を変革しよう
技術的課題のみでアプローチしても、反対に適応課題のみでアプローチしてもうまくいきません。必ず両者をどちらもバランスよく意識して、問題を両側面から解決する必要があります。
適応課題4つの分類
ロナルド・A・ハイフェッツ氏らによると、適応課題は以下の4つのタイプがあるとされています。
- ギャップ型
- 対立型
- 抑圧型
- 回避型
ここからは、適応課題の4つのタイプについて解説します。
ギャップ型
ギャップ型の適応課題とは、大切にしている価値観と実際の行動にギャップが生じることで発生する適応課題のことです。
例えば、「部下に誠実に向き合いたい」という信念があったとします。しかし、現実には実務で忙しくなかなか1on1の時間を取れないなど、十分に部下と向き合えないケースも多いでしょう。こうした理想と現実とのギャップが原因となって発生するのが、ギャップ型の適応課題です。ギャップ型の適応課題を解決するためには、まず行動変革を阻害している要因を特定する必要があります。
対立型
対立型の適応課題とは、お互いのコミットメントが対立して発生する適応課題です。例えば営業部と製造部で利益が対立してしまうケースは珍しくありません。営業部は売上を少しでも多く出したいが、製造部では品質担保を重視したいといったケースです。
こうした対立によって発生する適応課題を解決するには、まず対立している両者が共通して目指すゴールを明確化するのが有効です。お互いに共通するゴールは何で、そのゴールに向けて何ができるのかを冷静に考える必要があります。
抑圧型
抑圧型の適応課題とは、「言いにくいことを言わない」という適応課題です。
例えば相手の問題点に気づいても、なかなか指摘しづらいケースは多いでしょう。特に管理職の場合、「部下の行動で気になる点があるけど、指摘するとモチベーションに響きそうで言いづらい」といったパターンがよくあります。最近ではハラスメントとして告発されることを懸念して、十分な指導ができない場合も多いです。
こうした抑圧型も、管理職を中心によく見られる適応課題です。
回避型
回避型の適応課題とは、目の前の損失や痛みを恐れて本質的な課題解決を回避してしまうような適応課題を指します。
例えば部署内でメンタル不調となってしまう部下が複数人発生するケースでは、部署内での仕事の進め方や業務量そのもの、さらには部署の雰囲気に問題が潜んでいることが多いです。しかし、そうした本質的な問題解決を後回しにして、「メンタルトレーニング講座を実施する」といった表面的な解決を図ってしまう場合があります。
回避型の適応課題も、ビジネスの現場には数多く潜んでいます。
適応課題の解決策
技術的課題と適応課題を解決する際には、それぞれ以下の図のように異なるアプローチが必要です。
ここでは特に適応課題の解決に焦点を絞って、適応課題を解決するためのアプローチを解説します。
内省の質を高める
適応課題を解決するためには、内省の質を高めるのが有効です。内省の質を向上させる上では、以下の「ALACTモデル」を活用するとよいでしょう。
- Action:行動する
- Look back on the Action:行動を振り返る
- Awareness of Essential Aspects:本質的な側面に気づく
- Creating Alternative Methods of Action:行動の選択肢を創出し拡大する
- Trial:試行する
出典:コルトハーヘン、F.著、武田信子監訳 『教師教育学』(2010)
この一連の5ステップを繰り返せば、行動が徐々に改善し、適応課題の解決に必要な考え方が身についていきます。
自分の行動について振り返り次につなげる「内省」を大切にしてみましょう。
「思考」「感情」「望み」に焦点をあてる
ビジネスシーンにおける行動の背景には、「思考」「感情」「望み」という3つの要素が隠れています。先程解説したALACTモデルの中の「本質的な気づき」を獲得するには、これらの要素に着目するのが有効です。
例えば管理職が「チーム内のディスカッションで意見が出ない」という課題を感じたとしましょう。このケースでは、例えばメンバー間に以下のような思考や感情、望みが考えられます。
- 思考:なるべく発言をしないで、周りの様子を観察しよう
- 感情:ディスカッションの空気が重く、発言しづらいな
- 望み:相手に意見を否定されたくないな
「発言が出ない」という行動一つとっても、こうした様々な背景が重なっていることが少なくありません。これらに焦点を当てれば、より本質的な気づきを得やすくなります。
自分自身の無意識なバイアスを認知する
適応課題を解決するためには、自分自身がとらわれている無意識のバイアスを認識するのも有効です。
多くの場合、適応課題の解決の足かせになっているのは本人の持つ価値観や考え方です。適応課題を解決するにはこうした信念体系を転換する必要がありますが、信念体系に影響されたままだと信念体系からの脱却はできません。
思い込みが発動する場面に気づき、思い込みを問い直す新たな行動を試すのが大切です。行動の結果、思い込みをこれからも持ち続ける必要があるのか検証していきましょう。
変容が必要であることを意識する
そもそも変容の必要性を認識していないと、信念体系を変革することはできません。無意識のうちにとらわれている信念体系を転換するためには、変容が必要であることを意識するのが重要です。
例えば管理職の持つ「部下は上司の指示へ忠実に従うべきだ」という考えの変革を目指す場合、管理職自身がこの考えを変革させる必要性を認識していなければ、こうした考え方からの脱却は容易ではありません。変容の必要性を実感させるような研修プログラムを考えるのが大切です。
心理的安全性を高める
心理的安全性とは、「この組織では何を言っても受け止めてもらえる」という安心感のことです。心理的安全性が高い組織では、意見交換やコミュニケーションが活発になるため、意思決定の質が高くなるといった効果があります。
適応課題を解決するためには、行動変容のための試行錯誤を重ね、周囲からのフィードバックを得る必要があります。そのため、心理的安全性を高めるのも、適応課題を解決する上では重要です。「失敗しても責められない」と感じる心理的安全性の高い組織では柔軟に行動変容を試せるため、適応課題の解決もしやすいのです。
管理職層の適応課題へのアプローチが重要
適応課題を特に抱えがちなのが、管理職の世代です。自分がこれまで育ってきた環境に影響されたり、自身の持つ成功体験にとらわれたりして、なかなか自分の価値観から脱却できないことがあります。
そのため、管理職層の抱える適応課題へのアプローチは特に重要です。例えば、「業務を円滑に進めるには、すべて自分でやった方が早い」と認識している管理職は部下に任せるべきプレイング業務をやってしまい、部下の成長の機会を奪いがちだとします。
ここでは、「自分のやり方が正しく、自分が業務をした方がうまくいく」という価値観をいったん手放し、「部下の成長のためには、自分がやりたくなるところを我慢し部下に任せ、自分はモニタリングに徹するべきだ」という新たな価値観を身につける必要があるでしょう。
研修で適応課題を解決した事例
適応課題を解決するためには、無意識のうちにとらわれてしまっている信念体系へアプローチするのが有効です。研修で適応課題を解決した事例を3つ紹介いたします。
東急株式会社の事例
東急株式会社では、自社や自組織の目指す姿と社員自身が大切にする価値観との調和を目指して、主に部長や部長候補群を対象とした研修を実施しました。
2022年8月〜12月にかけて実施した「東急アカデミー」では4ヶ月間のプログラムを組み、東急株式会社のパーパスや目指す方向性について理解を深めてもらったあと、それを戦略立案につなげるワークショップに取り組んでもらいました。その結果、東急株式会社全体としてのビジョンに適応した意思決定や変革ができる人材が育ち、価値創造ができるリーダーの育成に成功した事例です。
詳しくは、以下のページでご確認いただけます。
経営人材の鍵は、矛盾を両立するインサイドアウトのリーダーシップ(東急株式会社)
適応課題を自覚するための課長研修
通信・情報業界のA社では、業界構造全体が大きく変革するなかで、顧客の個別課題を解決するこれまでの姿勢から脱却し、社会全体に対する価値創造へと考え方を抜本的に転換する必要がありました。
そこで、「両利きの経営」を掲げ、知と技術の探索と進化を目指した適応課題の解決に取り組んだのがこの事例です。
管理職を中心に、まずは自身のマネジメントスタイルを振り返り、自身の内面や組織の内面に目を向けてもらいました。その後、自身の適応課題を把握して、自分らしさと組織らしさを統合する方法を伝えました。その結果、現場と経営をつなぐハブとなる課長職の効果的な育成が実現しています。
プレーヤーからマネージャーへの意識転換研修
サービス業界のB社では、継続的な成果を上げるため現場力の強化を掲げていましたが、その一方でプレーヤーとして振る舞う社員が増え、チームを牽引できるリーダーが育っていないという課題がありました。
そこでこの事例では、組織の価値創出へつながるリーダーの育成を目指し、以下のゴール設定を行いました。
- プレーヤーからマネジメント側へと視点を転換する
- 部下育成を強化して、組織の成果につながるリーダーとなるためのスキルや考え方を学ぶ
リーダーとして活躍するための素質をまずは適応課題として解決し、さらに技術的課題からのアプローチも交えながら学習設計を行った事例です。
詳しくは、以下のページでご確認いただけます。
部下育成の強化と組織成果につなげるリーダー育成 施策事例
アルーでは適応課題の解決を支援します
人材育成を専門に手掛けているアルーでは、豊富な研修実施の実績があります。
課題解決やリーダー、管理職の育成でお困りの場合は、ぜひアルーにお任せください。アルーでは、ビジネスシーンで発生する様々な問題に対して、技術的課題と適応課題の両面から効果的な課題解決ができます。
特に適応課題については、最後の事例で紹介したように幅広いアプローチが可能です。お客様の適応課題に応じた最適な解決方法をご提案いたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。
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