※本文内、敬称略
-御社の事業内容を教えてください
兼田 日東電工株式会社は1918年に創業し、「新しい発想でお客様の価値創造に貢献します。」という経営理念のもと、Nittoグループがこれまでの歴史で培ってきた高分子合成・加工技術をベースとした基幹技術の根幹や企業文化に加えて、そこから生まれる多様な事業領域や強い知的財産権、さらに幅ひろい業界にわたって製品を提供しています。そして、持続的な成長を実現し長期にわたって企業価値を向上させ続けるために、事業領域を拡大しており、エレクトロニクス業界、自動車住宅建インフラ環境、医療など、様々な領域でグローバルに提供して事業を展開しています。
-お2人の所属している部署と、部署の役割を教えてください
岡 Nittoには、HR部門として人財本部があり、その人財本部の中には、3つの部、戦略企画部、人財マネジメント部、DE&I推進部があります。戦略企画部は、当社単体ではなく、Nittoグループ全体の人財に関わることを統括しており、人事戦略の企画と、戦略に基づいた取り組みの実行、そして人財育成までグローバルでの人財マネジメントを担っています。私は、その戦略企画部の部長として、これらの施策の統括をしています。
兼田 私は、その戦略企画部の中の企画育成グループに所属しています。企画育成グループでは、人財に関する企画・育成、つまり研修や育成だけでなく人的資本経営や組織開発など幅広く行っています。
課題・背景
グローバル展開に伴い、グローバル人財の早期育成に取り組みはじめた
-グローバル人財の早期育成を行った背景と目的を教えてください
兼田 当社は、グローバルでビジネス展開を進めており、従業員数も2万8000人を超えています。日本と海外とで比較すると海外の従業員比率が高いため、日本国内の市場だけでなく海外でもビジネスを推進していく必要があります。そのため日本にいる人財もグローバルで通用できるようにしていく必要がありますが、グローバル感というものは一朝一夕に身につくものではないため、将来を見据えた上で、若手社員を対象に、グローバル人材育成の早期育成をはじめました。
岡 この「グローバル人財の早期育成」は、グローバルでのポテンシャルと意欲を持った人財を早めに見つけて、中長期的に育成をしていくことで、当社が求めるグローバル人財に成長してもらうプログラムです。
今回アルーに協力いただいた海外トレーニー研修や、海外短期派遣研修は、グローバル人財の早期育成プログラムの一環として実施しています。
実行施策
3段階に施策を設け、グローバル人財の裾野拡大から海外経験、実務に繋げる育成計画
-グローバル人財の早期育成の全体像を教えてください
兼田 グローバル人財早期育成プログラムでは、主に3つのレイヤーに分けてプログラムを用意しています。
< グローバル人財 早期育成プログラム全体像 >
まずTier3は、自己啓発での「語学学習」です。当社では、英会話、TOEIC試験対策など、いろいろな英語学習のプログラムを揃えています。日頃から、社員一人ひとりが自分のペースで勉強し、語学力を向上していくことを目的にしています。
そしてTier2向けには、アルーに依頼しているプログラムの1つである「海外短期派遣研修」を置いています。この「海外短期派遣研修」ではグローバル人財プールの裾野を拡げることを目的にしており、期間も従来の海外トレーニーの1年間から2週間に短くすることで、意欲のある社員が参加しやすいよう設計しています。実際にマレーシア現地に行き、現地の人たちと協働することで現地の空気感を肌で感じ、修羅場体験を通じて、語学力だけではない異文化理解を深め、その対応力を向上させるプログラムにしています。
< 海外短期派遣研修プログラム >
Tier1向けには1年間の「海外トレーニー研修」を用意しています。海外トレーニー研修では、海外現地法人に派遣し、当社の海外ビジネスの現場を知るだけでなく、日本ではなかなか得られにくい経験を早期に経験することを目的としています。この海外トレーニー研修は1年間と期間が長いため、海外トレーニー向けに毎月のオンラインコーチングをアルーに依頼し、トレーニー一人ひとりの現地経験の棚卸と学びの言語化を行い翌月の挑戦に繋げられるようにしました。
< 海外トレーニー 経験学習コーチングサポート >
-グローバル人財の早期育成のロードマップにTier1、Tier2、Tier3を設定していますが、そのように構成した意図はありますか?
兼田 グローバル人財の早期育成プログラムは、当初、Tier3に設定している「自己啓発での語学学習」をベースとして考えはじめました。ただ、グローバル人財を計画的に育成していくためには自己啓発での英語学習だけでは限界があると感じていました。そのため、2022年にTier1の「海外トレーニー研修」を導入しました。海外トレーニー研修を実施したところ、「グローバルで挑戦してみたい」と潜在的に考えている若手社員が多いことを知りました。
岡 しかし、海外トレーニー研修は1年間の制度のため、ハードルが高いと感じる社員が多く、意欲はあっても二の足を踏んでいる様子が見られたため、Tier2の「海外短期派遣研修」を導入しました。海外短期派遣研修はグローバル人財プールの裾野を拡げることを目的に、海外短期派遣研修に参加し、経験を積むことで、海外キャリアへの関心を高め、海外トレーニー研修や海外駐在員への挑戦がしやすいように設計しています。
-海外研修において、他に大切にされていることは何ですか?
岡 グローバル人財にはグローバルリーダーとしての素質を備えていてほしいため、自らコンフォートゾーンを抜け出しチャレンジしていくマインドを持っていることが非常に重要だと思っています。ですので、海外現地に行って、普段の自分の置かれている環境とのギャップを肌で感じ、自ら殻を破れるようになることを大切にしています。
また、海外トレーニー研修の参加者には、日本エリアと海外グループ会社とのコネクションを強化するブリッジパーソンになることも目的としていますので、現地での人脈形成も含めて、多様な経験を積んでもらいました。
また、研修を通じて、参加者が学んだことや現地で自ら企画提案したことを実務の場面でも実践できるようにもしています。全員ではないものの、一部の社員には研修後に現地での経験を活かすために、帰国後に配属部署を異動し、実務の現場で実践できるようにしています。
研修を研修で終わらせずに、次の実践につなげていくためには、研修参加者がチャレンジしやすい環境を用意してあげることが大切だと考えています。そのためには、異動や業務アサインメントの変更だけでなく、新規プロジェクトへのアサインなど、積極的に人財本部と連携し実施しています。
成果
グローバル人財プールの裾野拡大と社員の海外キャリアの言語化と現場実務への接続
-Tier1向けの海外トレーニー研修を実施した効果を教えてください
兼田 特にアルーにお願いした毎月のオンラインコーチングの効果が大きかったです。アルーのオンラインコーチングでは、日々学んだことや、目標に向けて頑張ったこと、できたことやできなかったことを振り返る場を設けてもらいました。やはり研修参加者が1人で振り返りを行うのは難しく、アルーのコーチに紐解いてもらいながら、自身がやってきたことやできたこと、今後どういうアクションをとり、どうなりたいのかを毎月言語化できたことがよかったと思っています。
社内リソースだけでは、毎月の参加者のメンタルヘルスや健康面だけでなく成長をトラッキングすることがリソース的にも難しかったため、アルーにサポートしてもらえてよかったです。
-海外トレーニー研修のコーチングを外部に委託した理由を教えてください
兼田 当社の社員が海外トレーニー参加者にコーチングを行い、参加者の内省を促そうとしても、ある程度のレベルまでしかできないと感じていました。なぜなら、当社社員の中には、海外駐在経験や、海外の部下を持ったマネジメント経験、海外ビジネス経験を有する者ももちろんいますが、一方でそうでない者もいますし、社員の内省を深めるというスキルセットを持っている社員にも限りがあるためです。また、人事がコーチとして関わっても参加者が本音を話すとは限らないため、海外トレーニー研修に参加している参加者本人達とは利害関係のない外部の方で、海外ビジネス経験があり、マネージャー経験のある人がコーチとして関わることで参加者も安心して内省できるようになると考えました。
岡 また、外部コーチと関わることで外部の知見や、考え方に触れることで当社の中だけではなかなか考えが及ばない発想や考え方も学んでほしいと考えています。海外研修で大切なことは、海外で得た日々の貴重な経験を振り返り、言語化し、翌日に繋げていくことだと考えていますので、外部委託を検討しました。
-海外トレーニー研修参加者へのコーチングにより、参加者に変化はありましたか?
兼田 参加者の「なぜ海外で働くのか」に対する考えが変わったことが、グローバル人財への第一歩だと感じています。最初の応募段階では「海外に興味があります」という程度でしたが、現地での経験と毎月のコーチングを通じて「今後海外でどう働くか、海外とどうかかわるか、その中でどういう価値を創っていくのか」といった深い部分まで言語化できるようになったのは大きな変化です。
アルーのコーチングでは、外部のコーチが関わるからこそ研修参加者が話せる内容が広がったと思います。その結果、研修参加者が海外でのキャリアを含め今後ありたい姿を自ら語れるようになり、この海外トレーニー研修での1年間の学びをどう捉えて、次に活かしていくかを言語化できていることは大きな効果だと思っています。
岡 当社では、過去にも海外トレーニー研修を実施していました。過去の研修では、人事としては、海外へ送り出すまでのサポートをしていました。送り出した後は、現地法人や、送り出した元席の上司に参加者の支援を任せて、今回のようなコーチングは行っていませんでした。そのため、海外現地法人側の環境要因が大きく、たまたま育成に対して熱心な現地法人や熱心な上司に当たったから海外トレーニーの研修生も成長したということもあれば、現地が忙しくてあまり面倒を見てもらえなかったということもあったかもしれません。
今回の海外トレーニー研修では、外部のコーチをつけることで、コーチを通じて人事に参加者の情報が入ってきました。情報が入ってくることで、人事としても責任感が出てきて「今こういうことで悩んでいるのであれば、こういうアプローチで動かしてみようか」などを考えるようになりました。
アルーから海外トレーニー研修中の現地での情報を得られたことで、研修が成功なのか失敗なのかをしっかり計ることができたと感じています。
兼田 今回の海外トレーニー研修では、毎月のコーチングを入れたことで、異なる現地法人に赴任した参加者それぞれの成長のレベル感が揃うようになったと感じています。研修後に一人ひとりと面談をしてみても、多少の違いはあれ、一人ひとりの成長の伸び率は全員揃っていると思いました。
-海外短期派遣研修では、どのような効果が得られましたか?
兼田 海外短期派遣研修では、2週間という短い期間ではありますが、海外で日本では得難い経験をリアルで体験してもらうこと自体に効果がありました。この研修で得た経験は、参加者の今後のキャリアに大きく関わってくると考えています。今後、実務において、海外短期派遣研修で経験したような場面に遭遇したとしても、その時に参加者が行動できるかどうかが変わってきますので、マレーシアで得難い経験をしたこと自体に、効果があると考えています。
もちろんたった2週間で、別人のように変化することはありませんが、グローバル人財の早期育成プログラムの1つとして長期的に運用することで、当社のグローバル人財の裾野を少しずつでも広げていきたいですね。
今後の取り組み
-海外トレーニー研修では、今後どのような取り組みを考えていますか?
岡 海外トレーニー研修では、参加者の成長をトラッキングしていますが、研修後もトラッキングを続けています。参加者には、研修で得た経験や海外に対するマインドを持っていることを、研修後の現場でアピールしてもらい、活躍できる機会を提供していきたいです。また一部の社員には海外から帰国後、他の部署に異動することで海外での経験を活かせるようにしたりしています。
-海外短期派遣研修では、今後どのような取り組みを考えていますか?
兼田 まず、短期的な目標として、毎年、我々の期待以上に多くの社員が海外短期派遣研修に参加したいと手を挙げてもらうことを考えています。こちらもトレーニーと同じく、海外短期派遣研修の参加者が、研修で得た経験や学んだことを周りの社員に伝えることで、自分も参加してみたいと思う人が増え、将来的には海外トレーニー研修の活性化に繋がるよう、グローバル人財層やパイプを太くしていきたいです。
-グローバル人財の早期育成に関して、今後どのようなことを実現したいですか?
兼田 まずは、毎年、海外トレーニー研修や海外短期派遣研修を多くの社員に参加してもらいたいです。また、これらの研修を目指して、日々の英語学習に取り組む人が増えるように支援していきたいです。加えてグローバル人財の育成制度があるので、当社に入社したいと考える人も増えるようにしていきたいと考えています。
また当社の社員構成上は、日本よりもグローバル社員の方が多いです。今は、日本発で海外へグローバル人財を輩出するという形になっていますが、将来的には、海外から日本に来てもらい、日本にあるナレッジやアセットを学んでもらいたいです。日本人がグローバル化するというよりは、当社の社員がグローバル標準化することを目指していきたいと思っています。
岡 実際に、海外から日本に迎え入れる研修も行っています。ただ、海外の社員が日本に来ることや、日本の社員が海外の社員を受け入れて仕事を共にすることなど、語学の面や文化の面での心理的ハードルがあるので、ケースはまだ少ないです。
海外研修を終えた参加者主導で、海外の社員との交流を行い、日本の社内でもグローバル化が進んでいけばいいなと思います。研修の参加者にリードをしてもらえるような位置付けを人事としても考えていきたいです。
各職場で、海外研修を終えた参加者が増えると、例えばその職場で海外の社員を受け入れる時に海外研修参加者がサポートとしてアサインされることで、その職場では海外の社員の受け入れができる職場になっていくと思います。それがどんどん増えて会社全体でグローバル化して行きたいと思っています。
-グローバル人財に限らず、人財育成という観点で、今後どんなことを実現していきたいですか?
岡 当社では、チャレンジを楽しむことができるよう環境整備をして、働きやすい環境やDE&Iの推進をしています。当社は、1人の天才社員が素晴らしい製品を作るような会社ではなく、社員1人1人がアイデアを持ち寄り、連携して大きな事業にしていく側面が強いです。そのため、1人1人が多様なアイデアを持ち寄って形にしていくことができるようなサポートや環境作りをしたいです。
また「心理的安全性」や「働きやすさ」の改善にも積極的に取り組み、当社で働くことを通じて、エンゲージメントや満足度を感じてもらいたいです。エンゲージメントを高めることが貢献意欲に繋がり、最終的には新しいアイデアが生まれるので、その可能性を高めていきたいです。
アルーを選んだ理由
目指すゴールに向かって、一緒に走ってくれる伴走者
-海外研修を実施するにあたり、アルーを選定した理由は何ですか?
兼田 いろいろな会社から話を聞きましたが、その中で、サポートいただく講師のイメージを持ちやすく、すり合わせがしやすかったことがアルーを選んだ理由の1つにあります。今回の研修以外にもアルーには複数の研修でお世話になっており、その関係性があったからこそ、講師への信頼感がありました。
また、当社の研修体系についても理解があり、研修の設計がしやすく、他の研修との連続性も考慮していただいたり、相談がしやすいと感じたところがアルーを選んだ理由になります。そういったところのイメージのすり合わせや信頼感があったからこそだと思います。
-アルーにはどのようなことを期待していましたか?
兼田 グローバル人財の早期育成プログラムでは、自社内ではデザインできない部分をアルーに協力していただくことで、海外トレーニー研修や海外短期派遣研修を形にすることができました。
他の研修でも、社外からの視点で、当社に必要なものは何かを一緒に考えていただいています。
今後も継続的に、当社のチャレンジを楽しむ文化やグローバル化など、ありたい姿の実現にむけて、共に考えていただき、伴走していただけたらと思っています。
岡 アルーを通じて、研修のやり方やトレンドを学ばせていただきました。教育については正解が無く、常に「これでいいんだろうか」と自問自答しながら進めていますので、他社の情報をいただけることがありがたいです。
他にも、こんなのがあると非常にありがたいなと思うのは、他社との交流機会ですね。当社と社員数が同じくらいの他社の社員との交流する機会を設けていただき、当社の立ち位置を再確認することや、他社の良いところを学んで、さらに成長していけたらいいと思っています。
社内の知見だけで育成しようとすると、どうしても偏りが出てしまいます。他社との交流を通じて、自社の強み・弱みを認識した上で、育成施策や研修につなげていくことができたらと考えています。
-アルーはお2人にとってどのような存在ですか?
兼田 アルーは、目指すべきゴールに向かって、一緒に走っていただける伴走者です。
岡 同じく伴走者だと感じています。アルーを、サプライヤーとかベンダーという形では見ていないですね。
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