※本文内、敬称略
-貴社の事業内容と部署の役割を教えてください
金子 亀田製菓グループは、国内米菓事業として、創業以来培ってきた米菓「あられおせんべい」の製造販売をしています。また国内米菓事業のみならず、海外事業や食品事業への先行投資や技術移転を通じて展開国と事業領域を広げています。海外事業では、米菓の技術を使用した「ライスクラッカー」を海外6カ国8拠点へ展開しています。食品事業は新たな事業分野として、国内市場を中心にヘルスケア、健康食品を扱っています。
中長期成長戦略として、国内米菓事業、海外事業、食品事業の3本柱で事業展開をし、2030年度に向けた持続的な成長と企業価値の向上に取り組んでいきます。
私と木村は、総務部に所属し人事業務を担当しています。総務部は人事業務の他に、給与や社会保険に関する総務業務、安全衛生に関する労務業務の3つの役割があります。
木村 総務部の人事チームとして、採用から人材開発を担当しています。
堀部 私は海外事業部に所属し、東京と海外拠点を含めた全体を管理しています。駐在員のサポートから、各事業会社の業績管理、海外中計、新事業の開発などを担っています。
課題・背景
海外への事業展開に伴って、海外でも活躍できる技術者を育成していく
-今回、グローバル人材育成の実施に至った背景を教えてください
金子 弊社は1980年代から海外に進出し、10年ほど前から本格的に海外事業の強化を行ってきています。しかし、これまで弊社は国内での米菓事業を中心に成長してきたため、国内での米菓の製造販売に特化した技術者は多くいても、海外でビジネスを展開できる人材、特に海外で活躍できる技術者が圧倒的に不足していました。
中長期成長戦略の海外事業の計画実現のためには、国内技術者たちを海外でも活躍できる技術者に育てる必要があると感じましたので、アルーの力を借りて、弊社のグローバル人材の定義から人員数の明確化、グローバル人材育成体系の構築、人材開発まで取り組みはじめました。
堀部 金子の話にもあった通り、ここ10年ほどで海外事業の売上が伸びており、海外拠点も増えています。さらに、各海外拠点の規模も大きくなり、営業、マーケティング、財務管理など、これまで以上に幅広い人材が必要になっています。中長期の将来を見据えて考えると、今から拠点長をマルチな人材として育成すべきだと感じ、総務部と連携してグローバル人材育成の実施に至りました。
金子 中長期成長戦略の実現のためには「人材なくして会社の成長はない」と考えていますので、海外事業部と一緒にグローバル人材育成に取り組もうとなりました。
-グローバル人材育成で実現したい目的を教えてください
木村 今回のグローバル人材育成では、「拠点長をマルチな人材に育成する」ことと「米菓の開発製造技術を日本から海外に持っていく技術者を育成する」ことを大きな目的としてスタートしました。
米菓製造は日本由来の技術であるため、海外現地で的確に米菓製造の技術を伝えるためにも技術者のグローバル人材化がまず求められます。技術者をグローバル人材として早期に育成して、海外赴任できる状態を目指していました。
実行施策
グローバル人材像定義から能力要件、人員計画を明確にすることから始めたグローバル人材育成体系の構築
-グローバル人材育成を企画推進する際にどのように進めましたか?
木村 最初は何から手を付けていけばいいのか正直わからなかったのですが、弊社のグローバル人材育成を考えるにあたり、まずは、グローバル人材像の定義を決めるところからはじめました。
グローバル人材育成という漠然とした課題に対して、アルーからグローバル人材育成体系構築のステップを提示してもらいながら進めました。まず中長期成長戦略で海外事業が実現したいビジョン・ゴールをすり合わせ、そのビジョン・ゴールを実現する「グローバル人材像の定義と人員数を明確にする」というところからスタートしました。2030年までに、どういうポジションにどのくらいの人員数が必要で、どういった能力を持っている必要があり、そのために、どういう研修を行うのか、を1つずつ明確にしていきました。特に、どういう人材、どのくらいの人員数が必要なのかを明確にできたのはとても良かったです。
< グローバル人材の人員計画のイメージ例 >
金子 グローバル人材の人員計画は、アルーに提示してもらったフォーマットをもとに堀部が事業計画の見直しを行い、それをベースに進めました。海外事業計画の実現を考えると、技術者の一部をグローバル人材として育成していても間に合わないと判断し、今回は技術者全員を対象として実施しました。
-グローバル人材の能力要件はどう定義しましたか?
木村 グローバル人材の能力要件は3つ定義しています。
1つは専門性です。専門性は社内で通常業務を通じて高めてもらいます。
あとの2つは、語学力と異文化適応力です。今回のグローバル人材育成では語学力と異文化適応力に力を入れました。
金子 技術者が海外で活躍するには、経験に基づいた専門性が必要です。新入社員や若手社員には語学力が堪能な人材が多いです。しかし専門性が足りておらず、専門性を通常業務を通じて高めていくには時間がかかります。
一方で事業計画は進んでいるため、早急に対応するにはスキルや経験が豊富な技術者をグローバル人材に育成する必要がありました。そのため今回は、中堅層以上の技術者に語学力と異文化適応力を身につけてもらう施策を主に実施しました。
この3つの能力要件は一般的に求められる定義でもありますが、弊社ならではのグローバル人材に求められる適性という面で重視したのは、コミュニケーションです。これまでの海外赴任者たちの経験から、赴任先でコミュニケーションが取れなくて仕事だけでなく私生活でもつまずくことがありました。海外現地でのコミュニケーション面に不安を感じ、海外赴任に対して前向きに考えられない社員も一部いましたので、海外現地で現地の人と意思疎通できるコミュニケーション力と自ら人に関わっていくマインドも弊社では重視しています。
-能力要件を定義し、どのような研修体系を作られたか教えてください
木村 3つの能力要件のうち、専門性は国内の人材育成や現場OJTで身につけるため、主に語学力と異文化適応力を強化する体系を新設しました。弊社のグレード別にプログラムを用意することで体系化しました。
グローバル人材育成で新設した4つの研修
1. グローバルマインド研修
2. 英会話研修(中級・上級)
3. 異文化プログラム
4. 赴任前研修・赴任中研修
< 研修体系の全体像イメージ >
-グローバル人材育成体系の1つである「グローバルマインド研修」はどのような内容ですか?
木村 グローバルマインド研修は、英会話研修を受ける前に社員にグローバルマインドを醸成させることを目的にした研修です。グローバルマインド研修は技術者以外の社員も参加できる公募型の研修として実施していますので、職種関係なく誰でも参加できます。最初は20人くらい集まればいいほうかなと考えていたのですが、蓋を開けてみたら50人程度の申し込みがあり、グローバルに興味がある社員は多いのかもと、驚きました。
今は公募型のためグローバルに興味がある人が参加する傾向がありますので、将来的には、階層教育等に取り入れて、全社員がグローバルマインドを醸成できるようにしていきたいです。
堀部 海外事業部の観点からも、全社員がグローバルマインド研修を受けられるようになってほしいです。海外事業部単独で動けないこともたくさんあるため、日本国内の生産、開発、営業、マーケティング、財務、人事もあらゆる部署の社員がグローバルマインドを持っていると海外事業もこれまで以上にあらゆる部署と関わって海外事業を推進できるようになると思います。
また、異国でビジネスをすることや、海外の方と仕事をする際の最低限の知識やマインドを持っていることは、社員のダイバーシティ&インクルージョンの推進にも繋がっていくと考えています。
-グローバル人材育成体系の1つである「英会話研修」はどのような内容ですか?
金子 まず語学力の現在地調査のため、TOEICを技術者全員に受けてもらいました。技術者全員の語学力レベルを把握したうえで、クラス分けを行いました。TOEIC500点以下の社員には英語の個別レッスンを実施しています。TOEIC高得点の社員や個別レッスンでレベルが上がった社員には、2カ月間の英会話トレーニングを実施し、英語でコミュニケーションできるレベルに到達してもらいます。
TOEICを技術者全員に受けてもらうという思い切った施策は、弊社において今までにないチャレンジでした。
木村 金子が話したTOEIC高得点の社員への英会話トレーニングは、少数選抜で、2カ月間業務から離れて、毎日外国人講師と英語だけでコミュニケーションを取ります。2か月間集中して英会話に取り組むことで短い期間で英語力を向上することが狙いです。
堀部 参加者当人は汗だくになりながら英会話トレーニングに励んでおり、とても大変だったようですが、毎日、外国人講師とずっと英語だけで会話をして、「ここの言い回しはこうじゃなかったか」「ここの発音はこうだ」など、事細かにフィードバックをもらえるプログラムのため、自分自身の癖や直すポイントがすぐわかり、いいトレーニングになっています。
木村 語学力を養ってもらい、日常会話レベルに到達した対象には異文化プログラムを実施し、実際に海外へ派遣して異文化適応力を養ってもらいます。社員それぞれのレベルに合わせた施策を行うことで、最終的にグローバル人材になっていくステップになっています。
-グローバル人材育成体系の1つである「異文化プログラム」はどのような内容ですか?
木村 異文化プログラムは、ある一定の語学力を有した社員を対象に、2週間マレーシアに派遣し、現地で生活しながら多国籍の方と触れ合って異文化理解を高める海外派遣研修プログラムです。
実際にマレーシアに行き、英語しか喋れないという環境下で切磋琢磨することで、海外赴任者に求められるマインドやコミュニケーションを疑似体験してもらいます。
堀部 海外現地法人の社員が日本人の赴任者に期待することは、スピード感のある意思決定です。そのため、海外赴任する人材には、現地の異文化理解を含めた意思決定力と忍耐力が求められます。現場の情報をきちんと把握して、素早い意思決定をする必要がありますので、異文化プログラムでは実際に海外現地に行って、自ら調べて、現地とコミュニケーションを取り、自分で決めて行動していくことを疑似体験するために研修を行っています。
-グローバル人材育成体系の1つである「赴任前研修」「赴任中研修」はどのような内容ですか?
木村 これまでの海外赴任前研修は赴任直前に2、3ヵ月の間、急ピッチで英会話を学んでいましたが、今後は、赴任前に異文化理解を深めることを目的に、アルーのeラーニングプログラムも受けてもらいます。
赴任中研修は、赴任中に赴任者として求められる海外でのマネジメントやリーダーシップを学び、海外現地の人を巻き込む力を身につけています。また、拠点長は拠点長としての役割認識とスキルセットを行っています。
成果
総務部と海外事業部の連携が強まり、海外拠点を巻き込んだ育成までを一緒に考えるようになった
-グローバル人材育成体系を作ったことでどのような成果がありましたか?
金子 私自身の変化でもあるのですが、今回の取り組みは海外事業部と総務部の接続を実感できた取り組みでした。今までは、総務部の立場からの話や、海外事業部の立場からの話で議論していましたが、総務部も海外事業部も一緒になって取り組むことで、中長期成長戦略を実現するために事業サイドも人サイドもどちらも重視しながら議論できました。この経験をきっかけに、海外事業部だけでなく、他の事業部とも総務部から接続させていきたいと思っています。
堀部 今では、亀田製菓の日本社員の教育だけでなく、海外現地にいる海外スタッフを日本に連れてきて教育しようとか、そういう研修プログラムを作ってみようか、といった話をしています。今回、総務部と一緒にグローバル人材育成体系を作ったことがきっかけで、このような「海外拠点も含めてどうやって人材を育成していこうか」という話ができているので、今は非常にいい方向に進んでいますね。
木村 今は海外事業部と総務部だけが取り組めているところですので、今後はほかの部署も一緒になって、グローバルでどう勝っていくかという議論をしていきたいと思っています。
-グローバル人材育成を実施してみてどのような成果がありましたか?
金子 TOEICを技術者全員に実施したことで、技術者たちのグローバル意識が高まりました。これまで一部の人だけが海外赴任をすると考えていましたが、「自分たちも対象なのだ」と感じてもらえたようで、海外赴任に対するマインドセットの1つになったと思います。
木村 グローバル意識の向上により、研修中にも「海外赴任をしてみたい」という声を聞きました。研修前は「求められれば海外赴任も頑張ります」というマインドでしたが、それが「行きたい」に変わりました。
また英会話トレーニングを実施した技術者は、語学力の向上はもちろんのこと、キャリアの考え方にも大きな変化がありました。今までは「技術者としてスペシャリストを目指していた」のですが、「専門的な分野だけでなく、広く活躍できる人材を目指したい」と話すようになり、グローバルで働くイメージを持ち、彼自身のキャリア意識が広がりました。外国人講師と毎日英会話をする環境にいることで影響を受け、異文化理解が進んだようです。
金子 国内米菓事業が中心となって日々業務を遂行しているため、海外事業や食品事業は選抜された人たちの事業だという他人事感がありました。それが今回の施策を経験したことで、グローバル人材になることを自分事化して、海外赴任に前向きになりました。自分たちも海外事業の人員として含まれているという自分事化により、グローバル意識が向上したと感じています。
英語レッスンを受けている様子を見に行ったときに、技術者たちが一生懸命勉強していました。「海外赴任に向けて勉強させてもらっていることがありがたい」という声もあり、海外事業が他人事ではなく自分事になってきていると感じました。
キャリアオーナーシップの観点からも、自己成長できている充実感を感じ、自身の活躍の幅の広がりを感じてもらえていると思います。今回の施策のタイミングがよく、目標管理の面談時にキャリアを聞いていることも相まって意識変化を感じています。
堀部 他にも、既に海外赴任をしている駐在員を対象にした赴任中研修では、各拠点へ赴任している駐在員を集めて実施し、赴任者同士の悩みを共有する場になりました。研修を通じて、日々の悩みや思っていることが会話の中で自然と出てきていました。
赴任中研修では、リーダーシップの学習を中心に実施していましたが、学びだけでなく、悩みを共有して自分の業務に落とし込んでいたことが印象深かったです。
-海外事業の観点から、グローバル人材育成を推進していくポイントがあれば教えてください
堀部 会社として、グローバル化に向けて人を育てるというメッセージを出していることが大事です。また、今回の取り組みのように、海外事業に必要な人員計画と要件定義を明確にしたうえで、グローバル人材育成のプログラム内容がかみ合っていることですね。実際に、人材育成を進めて、仮に問題があれば随時直していくことができる体系になっているので、推進しても軌道修正できることが、うまくいくポイントだと思っています。
金子 最初の取り組みとして、グローバル人材育成の対象とする社員を全社員ではなく、技術者を優先したことも、結果的に良かったです。技術者は亀田のコアコンピタンスの1つを支えてくれているメンバーです。そのため、技術者が海外で活躍しない限り、海外事業の成長が成り立たないわけです。この海外事業の成功という課題は技術者のキャリア採用で解決できる課題でもないため、いかに亀田のコアコンピタンスを支える国内技術者を海外で活躍させるスキームを作れるかがポイントでした。
このグローバル人材育成は5年、10年という時間軸で、腰を据えて長い目で見て、一人ひとりを育成していく仕組み作りにもなっている点で、今までの考え方と違う取り組みだったなと思います。
今後の取り組み
グローバルで人材交流がフラットになる基盤づくりと事業成長による付加化価値の向上
-今後、グローバル人材育成の体系構築においてどのようなことを実現していきたいですか?
金子 「亀田製菓グループ」として国内と海外を分けずに考え、人材の交流をフラットにしていきたいです。グループが一体となり経営基盤を確立し、人材の交流が生じ、適材適所に人材配置できるようになると、事業成長のスピードを変えられると考えています。事業成長のスピードを高めて、世界中のお客様へ付加価値を提供していきたいですね。
世界と比べると、日本は文化や働き方が異質だと思います。日本もインターナショナルな制度を取り入れることで、グループ全体で人材の交流を活発化できると考えています。ナショナルスタッフを日本側で育成していくことは、日本が変わるための大きな1歩になっていると思っています。
アルーを選んだ理由
グローバル人材育成体系構築の上流から研修実施の下流まで総合力のあるビジネスパートナー
-今回アルーを採用した理由を教えていただいてもよろしいでしょうか?
木村 アルーは、亀田製菓がどういう状態にいて、どういうものを目指していて、どういうステップを踏んだら目的が達成できるかを、伴走する形で一つ一つ一緒に組み上げてくれました。打合せから研修実施まで時間がかかりましたが、その間もずっと伴走し続けてくれて、研修実施時にもフォローしてもらえたので、信頼しています。
-アルーはどのような存在ですか?
金子 アルーは「真のビジネスパートナー」です。一緒に仕事をしていくうえでパートナーシップが取れる会社だと思います。今後はビジネスパートナーとして、双方の成長に繋がるような新しいチャレンジをしていきたいです。
木村 私もアルーはパートナーだと感じています。これからも一緒に取り組みをしていき、双方にとっていいパートナーでありたいですね。
堀部 弊社の悩み事をコンサルティングして、1つのソリューションを導いて、研修体系を構築してくれたところは、アルーの素晴らしい部分でした。しかしそれだけでなく、アルー独自の赴任者向けのプログラム、eラーニングプログラムがよくできていると実感しました。英会話研修での2カ月間の英会話トレーニングのようなプログラムもあり、講師も良く、上流から下流まで総合力のある会社だと思いました。
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アルー営業担当からの一言