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ジョブ・クラフティングとは?具体的な導入手順や注意点をご紹介

AIの登場やグローバル化によってビジネス環境が激しく変化している現代では、社員に高い主体性が求められています。そんな中で注目されている取り組みが、ジョブ・クラフティングです。
ジョブ・クラフティングを効果的に実践すれば社員の主体性を引き出せるため、組織の生産性が向上するなど多くのメリットがあります。
この記事では、ジョブ・クラフティングの概要や導入手順、注意点などを解説します。
ぜひ最後までご覧いただき、自社での導入に役立ててください。

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	仕事にやりがいを見出す ジョブ・クラフティングの基本と人事がすべき5つの施策



目次[非表示]

  1. 1.ジョブ・クラフティングとは
  2. 2.2種類のジョブ・クラフティング
  3. 3.ジョブ・クラフティングを取り入れるメリット・目的
  4. 4.ジョブ・クラフティングのデメリット
  5. 5.ジョブ・クラフティングの導入手順
  6. 6.ジョブ・クラフティングに向けて人事部ができる支援
  7. 7.ジョブ・クラフティング研修プログラム事例
  8. 8.ジョブ・クラフティング実施時の注意点
  9. 9.まとめ


ジョブ・クラフティングとは

ジョブ・クラフティングとは、自分自身の意思で仕事を再定義し、そこに自分らしさや新しい視点を取り込むことで、自分の仕事に対する価値観の変化を与え、仕事のやりがいやパフォーマンス向上、キャリア自律などへつなげることです。
ジョブ・クラフティング研究の第一人者として知られる東京都立大学教授の高尾義明氏は、「はたらく人たち一人ひとりが、主体的に仕事や職場の人間関係に変化を加えることで与えられた職務から自らの仕事の経験を創り上げていくこと」と定義しています。ジョブ・クラフティングを実践すれば仕事の質に顕著な違いが現れ、長期的なキャリア自律につながるといったメリットがあります。

参考:「ジョブ・クラフティング」で始めよう 働きがい改革・自分発! | 高尾 義明


ジョブ・クラフティングとジョブ・デザインの違い

ジョブ・クラフティングとよく似た言葉に、「ジョブ・デザイン」があります。似たような意味を持つ両者ですが、ジョブ・クラフティングとジョブ・デザインは明確に異なる言葉です。
まずジョブ・クラフティングとは、社員一人ひとりが高い主体性を持って仕事への変容をもたらすことです。
一方でジョブ・デザインとは、企業側が社員へ働きかけて仕事内容を変化させることを指します。
社員一人ひとりによる取り組みがジョブ・クラフティング、企業側による取り組みがジョブ・デザインであると覚えておきましょう。


ジョブ・クラフティングが注目されるようになった背景

ジョブ・クラフティングが注目されるようになった背景として、個人と組織が対等な関係に近づいてきている点が挙げられます。

	個人と組織の関係が変わっていく

以前の日本企業では、終身雇用を前提とした新卒一括採用が主流でした。
一方で、最近では転職も珍しくなくなり、兼業や副業を容認する企業も増加傾向にあります。また、従来の「企業が社員を守る」という考え方から、「企業と個人が対等な関係にある」という考え方に変化しつつあることも要因の一つとして挙げられるでしょう。
企業と個人が対等な関係になると、企業と個人がお互いのありたい姿をよく理解し、それらの重なりを見つけることが大切になります。価値観の重なりを見つけた上で協働に合意すれば、企業と個人の相互に利益をもたらす良好な関係が構築できるのです。


    仕事にやりがいを見出す ジョブ・クラフティングの基本と人事がすべき5つの施策


2種類のジョブ・クラフティング

ジョブ・クラフティングには、個人の動機ベースのクラフティングと、職務ベースのクラフティングの2種類が存在します。それぞれの違いは、以下の表の通りです。


個人の動機ベースのクラフティング

職務ベースのクラフティング

注目点

仕事における個人の動機に注目し、タスク・関係・認知の境界の変化を明らかにする

仕事の要求度と資源の管理によって職務を改善することに着目する

ジョブ・クラフティングの定義

個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係性境界においてなす物理的・認知的変化

仕事の要求および仕事のリソースと個人の能力およびニーズのバランスをとるために従業員が行いうる変化

提唱者

Wrzensniewski & Dutton (2021)

Times et al (2010)

背景理論

モチベーション理論

JD-Rモデル

構成要素

  • タスク・クラフティング
  • 関係性クラフティング
  • 認知的クラフティング
  • 構造的な仕事の資源の向上
  • 対人関係における仕事の資源の向上
  • 挑戦的な仕事の要求度の向上
  • 妨害的な要求度の低減

参考資料:Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of management review, 26(2), 179-201.
Tims, M., & Bakker, A. B. (2010). Job crafting: Towards a new model of individual job redesign. SA Journal of Industrial Psychology, 36(2), 1-9.


2種類のジョブ・クラフティングについて詳しく見ていきましょう。


個人の動機ベースのクラフティング

個人の動機ベースのクラフティングとは、Wrzensniewski&Duttonによって2021年に提唱された、モチベーション理論に基づくクラフティングです。社員個人の持つモチベーションに着目したことが特徴で、さらに細かく三つのクラフティングに分類できます。

①個人の動機ベースのクラフティング

※参考:『ジョブ・クラフティング』(高尾義明、森永雄太著、白桃書房、2023年) 

それぞれを詳しく解説します。


作業クラフティング

作業クラフティングとは、職場で行うジョブやタスクの数、範囲や種類を個人が自分の意志で変えることです。仕事そのものの量や質を調整することで、作業クラフティングを実現します。
例えば、「仕事を主体的に多く引き受ける」「相手の期待を一歩上回るゴールを設定する」などの取り組みが、作業クラフティングの一例です。


人間関係クラフティング

人間関係クラフティングとは、職場で行う他者との交流の質や量を変えることです。社内外の関係者とのコミュニケーションを改善して交流の機会を増やしたり、相手のことをより深く理解したりして、ジョブ・クラフティングにつなげます。
関係性クラフティングの例としては、「技術者が社内外の人と多くつながるようにサポートし、相互に仕事の支援をする」といったものが挙げられます。


認知的クラフティング

認知的クラフティングとは、仕事に対する価値観や見方、枠組みを変容させることによって実現するクラフティングです。仕事の内容そのものを変えるわけではありませんが、個人の価値観を変化させることによって結果的に行動の質の改善をもたらします。
「病院の清掃員が、仕事を単に掃除するものとして捉えるのではなく、病気の人を癒やすためのものだと考える」といったものが、認知的クラフティングの一例です。


職務ベースのクラフティング

職務ベースのクラフティングとは、Timesらによって2010年に提唱されたJD-Rモデルに基づくクラフティングです。職務ベースのクラフティングでは、仕事の要求度や資源をマネジメントしてクラフティングを実現します。職務ベースのクラフティングに含まれる4つのクラフティングについて見ていきましょう。

	②個人の動機ベースのクラフティング


積極型・資源クラフティング

積極型・資源クラフティングは、積極的に働きかける職務ベースのクラフティングのうち、資源を増やすことを重視したクラフティングのことです。
積極的・資源クラフティングでは、例えば個人の仕事資源を増やしてクラフティングを実現します。「研修やセミナーへ参加して、自己研鑽の機会を増やす」といったものが一例です。
また、社会的な仕事資源を増やしてクラフティングを実現することも可能で、「上司へ積極的にフィードバックを求めるようにする」などの一例が、取り組みとして考えられます。


積極的・役割クラフティング

積極的・役割クラフティングとは、積極的に働きかけるクラフティングのうち、個人の果たす役割に関係するものです。一例として、「挑戦する仕事を増やすことによって個人の役割を変容させ、クラフティングを実現させる」ことなどが挙げられます。
具体的には「これまでに取り組んだことのない仕事を引き受けてみる」「既に持っている仕事に加え、追加で新たな仕事を引き受ける」などが考えられるでしょう。


回避型・資源クラフティング

回避型・資源クラフティングとは、回避を行う職務ベースのクラフティングのうち、仕事の資源にかかわるものを指します。仕事にかける資源を減らすことによって、クラフティングを実現するのが特徴です。
例えば、「優先順位の低い仕事にかける時間を減らす」などの取り組みが考えられます。
個人が仕事に割ける時間的リソースには限りがあるため、積極的のクラフティングだけではなく、回避型のクラフティングも同時に実践することが大切です。


回避型・役割クラフティング

回避型・役割クラフティングは、回避を行うクラフティングのうち、個人の役割に関連する事柄のことです。仕事に関連する役割を回避的に変容させ、クラフティングを実現していきます。
具体的には、妨げる仕事の要求を減らすことが有効です。一例としては「引き受けている仕事の期限を伸ばすことで、身体的・精神的な負荷を下げる」といったものが挙げられます。


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ジョブ・クラフティングを取り入れるメリット・目的

	ミーティングイメージ

ジョブ・クラフティングを実践すれば、生産性が向上したり、仕事に対するモチベーションが向上したりといったメリットがあります。
また、コミュニケーションの活性化や離職率の低下といった効果も期待できるでしょう。
ジョブ・クラフティングを取り入れるメリットや目的を解説します。


生産性が向上する

ジョブ・クラフティングを取り入れるメリットとして、生産性の向上が挙げられます。
ジョブ・クラフティングによって仕事の再定義を行えば、メンバーは個人として何に取り組むべきなのかが明確化できます。
仕事量が多い時期でも優先度の高いものから効率的に取り組めるようになるため、パンクしてしまうことがありません。
効果的なタイムマネジメントが実現することで重要な仕事から順にアプローチできるようになり、パフォーマンスの向上につながるでしょう。


仕事に対するモチベーションがアップする

ジョブ・クラフティングを取り入れることで、社員の仕事に対するモチベーションが向上する効果も期待できます。
ジョブ・クラフティングは、仕事の価値を社員自身が再定義する主体性の高い取り組みです。ジョブ・クラフティングの過程で仕事が必要とされている背景や理由について理解できれば、仕事のやりがいを感じやすくなります。
その結果、仕事に対するモチベーションの向上につながるでしょう。
モチベーションが向上すればさらに主体性が向上し、それが次のジョブ・クラフティングにつながるといった好循環を生み出すことができます。

モチベーションを向上させるための研修については、以下の記事で詳しく解説しています。
モチベーション研修とは|おすすめのゲームやカリキュラム例を紹介


社内コミュニケーションの活性化

社内コミュニケーションの活性化も、ジョブ・クラフティングを取り入れるメリットの一つです。
ジョブ・クラフティングを実践すれば、社員は主体的に動けるようになります。
社員の主体性を伸ばせば、「自分自身で必要な情報を集める」姿勢を社員に定着させることが可能です。
結果として社内のコミュニケーションが活発化し、業務が今まで以上にスムーズに進む効果が期待できます。
自由闊達な意見交換ができる風土が醸成できれば、意思決定の質も向上するでしょう。

職場のコミュニケーションの重要性については、以下の記事で詳しく解説しています。
職場のコミュニケーションの重要性と活性化のための具体例8選


離職率の低下

ジョブ・クラフティングを取り入れるメリットとして、離職率の低下も挙げられます。
ジョブ・クラフティングに取り組んだ社員は主体性が高まるため、仕事の「やらされ感」を減らすことができます。その結果、前向きな姿勢で仕事に取り組めるようになり、離職率の低下が期待できるのです。
実際、パーソル総合研究所の「はたらく人の幸福学プロジェクト」では、ジョブ・クラフティングによって身につく自己成長や役割認識、他者貢献といった因子が就業意向を高め、転職意向を低下させるという調査結果も出ています。

参考:はたらく人の幸福学プロジェクト|これからの幸せなはたらき方を探求する


新しいアイディアを生み出すきっかけにも

ジョブ・クラフティングを実践すれば、新しいアイディアを生み出すきっかけを作ることができるでしょう。
ジョブ・クラフティングによって、社員は自らの仕事の幅を広げ、仕事の質を向上させることができます。
こうした前向きな取り組みが、これまでは考えつかなかった斬新なアイディアの創造につながることも少なくありません。
ジョブ・クラフティングを促進することで、イノベーションにつながる独創的なアイディアが生まれやすくなるのです。


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ジョブ・クラフティングのデメリット

ジョブ・クラフティングのメリットについて解説しました。しかし、ジョブ・クラフティングには必ずしもメリットだけがあるわけではないため、注意が必要です。
ここからは、ジョブ・クラフティングの持つデメリットについて解説します。


こだわり「すぎ」

ジョブ・クラフティングにおける一つ目のデメリットは、こだわり「すぎ」です。
ジョブ・クラフティングを実践すれば社員に主体性が生まれますが、行き過ぎてしまった結果、仕事に対する過度なこだわりを招いてしまう可能性があります。
仕事にこだわりすぎてしまった場合、業務過多による疲労の蓄積やメンタルの不調などを招いてしまうことも少なくありません。
こだわりを持って熱心に仕事へ取り組むことは成果につながることも多いですが、こだわり「すぎ」には注意が必要です。


偏り「すぎ」

ジョブ・クラフティングの二つ目のデメリットは、偏り「すぎ」です。
一般的に、自分の価値観や強みといった「自分らしさ」を仕事に反映させることは、成果につながりやすい傾向にあります。しかし、ジョブ・クラフティングによって自分の好き嫌いを仕事に反映させすぎると、周囲の認識とズレが生じてしまうことがよくあります。
また、好き嫌いにとらわれすぎてしまった結果、かえって本人の長期的な成長が阻害されてしまうことも多いです。ジョブ・クラフティングを実践する際には、偏り「すぎ」にも注意しましょう。


抱え込み「すぎ」

ジョブ・クラフティングにおける三つ目のデメリットは、抱え込み「すぎ」です。
仕事に対してこだわりを持って臨める社員はパフォーマンスも高く、後輩の指導役やマネージャーへ抜擢されることも少なくありません。
しかし、仕事を抱え込みすぎてしまった場合、立場が変わった際にうまく対処できないケースがあります。
後輩指導やマネジメントに携わる場合には、プレーヤー時代からの意識の転換が必要です。自分一人で仕事を抱え込みすぎず、適度に人へ任せる姿勢も求められるでしょう。ジョブ・クラフティングを実践する際には、仕事の抱え込みすぎにも注意が必要と言えます。


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ジョブ・クラフティングの導入手順

ジョブ・クラフティングを導入する際には、以下の四つのステップで進めていきましょう。


  • タスクをすべて洗い出す
  • 仕事の目的や自身の強みなどを自己分析する
  • 仕事の姿勢を見直す
  • 仕事内容や人間関係などを整理する


ジョブ・クラフティングを導入する手順について詳しく解説します。


タスクをすべて洗い出す

ジョブ・クラフティングにおける一つ目のステップは、タスクの洗い出しです。社員一人ひとりが抱えているタスクを、一つずつ細かくリストアップしましょう。
ここでリストアップしたタスクをベースとしてジョブ・クラフティングを進めていきます。
想定外のタスクをできるだけ少なくするよう、丁寧にタスクを書き出していくのがおすすめです。MECEを意識しながら、業務の中で発生する作業をなるべくすべて書き出しましょう。


仕事の目的や自身の強みなどを自己分析する

次に、仕事の目的や自身の強みなどを自己分析していきます。
前のステップでリストアップしたタスクの一覧を見ながら、自分自身の仕事の目的や背景を整理していきましょう。
また、仕事にどうして取り組んでいるのかというモチベーションも書き出していきます。
自己分析としては、自身の能力や経験、特技や興味といった項目を中心に振り返りましょう。自分では弱みだと思っていたことでも捉え方や場面によっては強みとなるため、柔軟な姿勢で分析することが大切です。


仕事の姿勢を見直す

ジョブ・クラフティングにおける三つ目のステップは、仕事に対する姿勢の見直しです。
洗い出したタスクや自身の強みなどを参照しながら、取り組む必要のあるタスクに対する動機を形成していきます。
この段階では、取り組んでいる仕事の内容と自身の強み、モチベーションの重なりを見つけることがポイントです。今まで動機を意識せずになんとなくこなしていた仕事でも、意外なところで自分の強みと重なったり、モチベーションとつながったりすることがあります。


仕事内容や人間関係などを整理する

ジョブ・クラフティングの最後のステップは、仕事内容や人間関係などの整理です。
前ステップで捉え直した仕事の意義や意味をベースに、これからの仕事内容や方法をどう変容させていくのか考えていきましょう。
具体的には、引き受ける仕事の量を調整したり、仕事の内容を可能な範囲で変えたりすることが考えられます。
また、他者への働きかけを実践するため、コミュニケーションを意図的に増やすことも有効です。具体的な行動レベルまで落とし込むことで、成果につながるジョブ・クラフティングが実践できます。


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ジョブ・クラフティングに向けて人事部ができる支援

ここからは、ジョブ・クラフティングに向けて人事部ができる支援を具体的に紹介します。
人事部がジョブ・クラフティングに向けてできる支援を表形式で整理すると、以下のようになります。


機会提供

能力開発

共有支援

方向づけ支援

意義付け支援
(アルーの考え)

概要

環境や機会の提供

学習機会の提供

活動を共有・発揮する場の提供

方向性を軌道修正する支援

経験・計画の意味付けの支援

ジョブ・クラフティングの種類(動機ベース)

タスク

タスク・関係性・認知

タスク・関係性

タスク・関係性・認知
​​

認知

ジョブ・クラフティングの種類(職務ベース)

要求

資源

要求・資源

要求・資源

資源

具体的な取り組みの例

普段の業務におけるジョブ・クラフティングの促しと支援
本人の知識や経験を活用できるようなポストの新設や、そのようなポストへの異動

上司からのフィードバック
外部の研修会や勉強会などへの参加の支援
ジョブ・クラフティング研修の実施

部署や事業のビジョンや戦略などの文脈の共有
ジョブ・クラフティングの成功事例に関する社内共有

定期的な面談におけるフィードバック

(過去)仕事の経験に対する多角的・多層的な意義付けの支援
(今・未来)仕事と、自分やチームのありたい姿の重ね合わせの支援

支援する主体

人事部・上司

人事部・上司

上司

上司

人事部・上司

※参考:『ジョブ・クラフティング』(高尾義明、森永雄太著、白桃書房、2023年) 

ジョブ・クラフティングに向けて人事部ができる支援を解説します。


環境や機会の提供

ジョブ・クラフティングの実践に向けて、人事部は環境や機会を提供することが可能です。
例えばジョブ・クラフティングを促進する研修を実施したり、ジョブ・クラフティングで活用できるチェックシートなどを配布したりするとよいでしょう。
また、本人の知識や経験を活用できるポストへ配置転換したり、そのようなポストを新設したりすることも有効です。
本人がやりがいを感じ、成長できるような環境を創出しましょう。


学習機会の提供

人事部は、学習機会を提供することでジョブ・クラフティングを促進できます。
ジョブ・クラフティングを行うためには、そもそも社員が「ジョブ・クラフティングとは何なのか」を正しく理解する必要があります。ジョブ・クラフティングについて学ぶ機会がなければ、当然ジョブ・クラフティングを実践することはできません。
人事部は研修の実施などを通じて、ジョブクラティングについて学ぶ機会を提供しましょう。また、タイムマネジメントの手法や、モチベーションに関する研修を実施するのもよいでしょう。


活動を共有・発揮する場の提供

人事部が活動を共有・発揮する場を提供すれば、ジョブ・クラフティングが効果的に進むでしょう。
ジョブ・クラフティングを行う際には、仕事の意義や目的、背景を正確に理解することが欠かせません。部署や事業のビジョン、戦略といった文脈を学ぶ機会を提供し、ジョブ・クラフティングに活かしてもらいましょう。
また、社内報や集会などの機会を利用して、ジョブ・クラフティングの成功事例を社内共有することも効果的です。情報共有によってジョブ・クラフティングに関するノウハウが社内に蓄積されれば、継続的にジョブ・クラフティングを実践できるような風土が醸成されるでしょう。


方向性を軌道修正する支援

ジョブ・クラフティングを支援する際には、方向性を軌道修正する支援を人事部が行うことも重要です。
ジョブ・クラフティングを行っていると、どうしても軌道修正が必要な場面が出てきます。軌道修正が必要な場面では、上司などが積極的にサポートすることが大切です。
定期的に1on1ミーティングを実施するなど、軌道修正を行う場面を提供するよう心がけましょう。方向性を軌道修正する機会があれば、こだわりすぎや抱え込みすぎといったジョブ・クラフティングの弊害を軽減することも可能です。


経験・計画の意味付けの支援

ジョブ・クラフティングに向けて人事部ができる支援として、経験や計画を意味付けする支援を行うことも挙げられます。
ジョブ・クラフティングで仕事の意味付けを行う際には、他者からの視点が参考になることが多いです。自分一人でジョブ・クラフティングを進めてもらうのではなく、仕事や経験の意味付けを支援する機会を設けてみてください。
具体的には、上司からフィードバックする機会を増やす、上司向けにフィードバック研修を実施するなどの支援が考えられます。


    仕事にやりがいを見出す ジョブ・クラフティングの基本と人事がすべき5つの施策


ジョブ・クラフティング研修プログラム事例

	職場での協力

人材育成を専門としているアルーでは、ジョブ・クラフティングを支援するための研修を実施しています。
ここではジョブ・クラフティングに向けた研修のうち、特に参考となるものを二例紹介します。研修を通じたジョブ・クラフティングの支援を検討している方は、ぜひ参考にしてください。


2年目社員向けジョブ・クラフティング研修

早期退職が一定数発生しており、「やらされている感」を「やりがい」に変えていきたいと考えていたA社では、2年目社員を対象としたジョブ・クラフティング研修を実施しました。
本事例はまず受講生に対し、自己分析を進めるための対話セッションに参加してもらっています。その後、担当業務を捉え直したり、自分を再定義したりするワークに取り組んでもらい、ジョブ・クラフティングを実践しました。
さらに、受講生向けの施策と並行しながら、上司に対して部下のジョブ・クラフティングを支援する方法を研修で伝えています。
研修内で支援計画の共有を行い、部下のジョブ・クラフティングを支援する具体的な方法について考えてもらい、スムーズな現場での実践につなげたジョブ・クラフティング研修の成功事例です。


シニア社員向けジョブ・クラフティング研修

60〜65歳の再雇用期間もパフォーマンスを変えずに働いてもらいたいと考えていたB社では、再雇用の決まっている60歳以上の社員を対象としたジョブ・クラフティング研修を実施しました。
本事例では、まずシニア層の社員へ期待する役割を伝え、ジョブ・クラフティングの土台を形成しています。
その後、ジョブ・クラフティングの概要について説明し、経験の棚卸しや、アクションプランの立案に取り組んでもらいました。
個人ワークによって研修内でジョブ・クラフティングを実践してもらい、仕事の再定義に成功した事例です。


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ジョブ・クラフティング実施時の注意点

ジョブ・クラフティングを実施する際には、いくつかの注意点も存在します。


  • 社員の自主性を尊重する
  • 若手社員と中堅以上の社員、それぞれに支援策を用意する
  • 仕事が属人化しないようフィードバックをする
  • チームワークが必要な業務は効果が期待できないことも
  • 結果を共有できる場を設ける


ここからは、上記のジョブ・クラフティングを実施する際に気をつけたいポイントを解説します。


社員の自主性を尊重する

ジョブ・クラフティングを実施する際には、社員の自主性を尊重するよう注意しましょう。
ジョブ・クラフティングとは、社員の主体性を重視した取り組みです。
会社側が社員に仕事の意義や目的を説明するのではなく、社員自身による気づきを促すことが求められます。
会社や上司側はあくまでも本人の学びをサポートする役割にとどめ、直接仕事の意義を提示したり、仕事の再定義を強制したりすることは避けましょう。


若手社員と中堅以上の社員、それぞれに支援策を用意する

ジョブ・クラフティングを支援する際には、若手社員と中堅以上の社員のそれぞれに支援策を用意することがポイントです。
若手層と中堅層以上には、認知的な柔軟性や体力、気力などさまざまな面で違いがあります。若手社員と中堅層以上の社員の特性や、有効なアプローチの違いは以下の表の通りです。


若手層

中堅層以上

一般的な特徴

  • 認知的柔軟性が高い
  • 業務の習熟度は高くない
  • 職場における関係性の広さ・深さには限界がある
  • 自分自身の強みや関心を理解している
  • 職場環境への働きかけ方を知っている
  • 体力・気力面の限界がある場合がある

効果的なアプローチ

業務・関係性・認知のそれぞれの観点から、短期的に、容易に実践できそうなクラフティングをする

自分の強みや関心に基づいて、仕事をクラフティングする

クラフティングの種類
(動機ベース)

  • 認知クラフティング
  • 関係性クラフティング
  • タスククラフティング
  • タスククラフティング
  • 関係性クラフティング

クラフティングの種類
(職務ベース)

  • 自分の仕事資源を増やす(例:業務に関わる自己研鑽など)
  • 社会的な仕事資源を増やす(例:他部署との関係性を築く)
  • 挑戦する仕事を増やす
  • (例:追加の仕事を引き受ける)
  • 自分の仕事資源を増やす(例:リスキリングなど)
  • 社会的な仕事資源を増やす(例:社外のネットワーキング活動)
  • 妨げる仕事の要求を減らす・仕事にかける資源を減らす
  • (例:優先順位が低い仕事にかける時間を減らす)

必要な支援

関係性スキル・コミュニケーションスキルを研鑽する支援

仕事を選択することができる環境づくり

若手層と中堅層以上、それぞれの特徴を正しく踏まえた上で最適な施策を進めましょう。


仕事が属人化しないようフィードバックをする

仕事が属人化しないよう、フィードバックを提供することも大切です。

ジョブ・クラフティングの持つネガティブな面の一つとして、仕事に対するこだわりすぎがあります。過度に個人が仕事に対してこだわりを持ってしまうと、仕事の属人化が進んでしまい、全体としてかえって業務が非効率になってしまうケースが考えられるでしょう。
こうした事態を防ぐためには、ジョブ・クラフティングの過程で積極的にフィードバックを提供することが大切です。
不必要なこだわりを持っている場合は本人へこだわりからの脱却を促すなど、軌道修正を行いましょう。


チームワークが必要な業務は効果が期待できないことも

チームワークが必要な業務については、ジョブ・クラフティングの効果が十分期待できない可能性があることにも注意が必要です。
ジョブ・クラフティングは、個人が仕事の意義や意味を主体的に再定義する取り組みです。そのため、チームワークが求められる仕事において、個々の都合でジョブ・クラフティングを進めてしまうと、チームとしての方向性がバラバラになってしまう可能性があります。
ジョブ・クラフティングを行う際には、ジョブ・クラフティングが有効な業務とそうでない業務を見極めることが大切です。


結果を共有できる場を設ける

ジョブ・クラフティングを行う際には、結果を共有できる場を設けるようにしましょう。
ジョブ・クラフティングの結果を共有できる場を設ければ、社内にジョブ・クラフティングに関するノウハウが蓄積されていきます。
また、他部署での成功事例を聞けば、ジョブ・クラフティングを実践するイメージが湧きやすくなるでしょう。情報共有を積極的に行って、ジョブ・クラフティングを継続的に行う社内風土を醸成するのがポイントです。


    仕事にやりがいを見出す ジョブ・クラフティングの基本と人事がすべき5つの施策


まとめ

ジョブ・クラフティングについて、概要やメリット、進め方や注意点などについて幅広く解説しました。
ジョブ・クラフティングは仕事に対するやりがいを引き出し、仕事の質の変容をもたらすことができる効果的な取り組みです。
一方でジョブ・クラフティングを正しく実践しなければ、仕事に対するこだわりすぎや抱え込みすぎといった弊害を招いてしまう可能性もあります。
ぜひこの記事で解説したポイントを意識しながら、成果につながる効果的なジョブ・クラフティングを実践していきましょう。


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