心理的柔軟性(心のしなやかさ)とは?心理的安全性との違いや、心理的柔軟性を高める方法をわかりやすく解説
企業や組織の中で心理的柔軟性が注目されはじめています。
そこで本記事では、
- 心理的柔軟性とは何か
- 心理的安全性との違い
- 心理的柔軟性を高める方法やヒント
- 心理的柔軟性を発揮して組織で活躍している人の具体例
などをわかりやすく解説します。
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心理的柔軟性とは
心理的柔軟性とは、「今、この瞬間」に起きていることへの気づきを維持しながら、自分にとって大切な価値観に集中して、効果的な行動をおこなう能力のことです。
ACTとは
心理的柔軟性は、「ACT(アクト)」(Acceptance and Commitment Therapyの略)という心の健康を維持・回復させる心理療法に用いられます。ACTはアメリカの心理学者スティーブン・ヘイズ氏とケリー・ウィルソン氏によって提唱されました。
マインドフルネスの考え方をベースにした行動療法で、心理的柔軟性をつくり出すことで、クライアントが自身の価値観に基づいた行動を取れるように支援していく心理療法です。ACTが世界的に認められたことによって、企業や組織においても心理的柔軟性が注目されるようになりました。
心理的安全性との違い
心理的柔軟性と似た言葉に「心理的安全性」があります。心理的安全性は、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対しても安心して発言できる状態のことを言います。つまり、組織やチームの心理的状態を表す言葉です。
これに対して、「心理的柔軟性」は個々人の心のしなやかさを指します。心理的柔軟性が高いメンバーが集まることで、組織の心理的安全性が高まる傾向があります。とくに管理職やリーダーの心理的柔軟性は、組織の心理的安全性に強く影響します。
▼心理的安全性についてはこちらの記事で詳しく知っていただけます。
心理的安全性とは?作り方や高める方法、ぬるま湯組織との違いについて解説
心理的柔軟性が求められる理由
企業において、なぜ心理的柔軟性が注目されるようになったのでしょうか。ここからは、その理由をいくつかご紹介します。
心の健康の維持・回復に効果がある
多くの企業にとって、メンタルヘルス対応は重要な課題です。厚生労働省の労働安全衛生調査(2020年)によると、メンタルヘルス不調が原因で1ヶ月以上休業した労働者、または退職した労働者がいる事業割合は平均9.2%でした。職場におけるメンタルヘルス対策は事業者の社会的責任であることから、心理的柔軟性への注目が高まっています。
組織の心理的安全性を高める
組織に心理的柔軟性が高いメンバーが集まると、その組織の心理的安全性が高まります。たとえば、いつもイライラしている上司や同僚がいる組織は、常にピリピリとした雰囲気が漂います。逆に、心理的柔軟性が高く、穏やかな気持ちで働く人が増えると、組織の心理的安全性も高くなります。
仕事のパフォーマンスが上がる
私たちは、トラブルに遭遇した時や想定していない事態が起きた時に、自分の頭の中に突然湧き上がってくる思考や感情に気を取られて、パフォーマンスが下がってしまいがちです。また、「やり切る自信がない」、「取り組む時間がない」、「失敗したらどうしよう」などといった否定的な思考や、それに伴う感情が湧き上がってきて、私たちの行動にブレーキをかけてしまう事があります。しかし、心理的柔軟性の高い人は、勝手に湧き上がる考えや感情に囚われません。そのため、安定して高いパフォーマンスを発揮することができます。
心理的柔軟性を高める6つのアプローチ
心理的柔軟性を高めるためのアプローチには、マインドフルネスを活用したACT(アクセプタンス・コミットメント・セラピー)という手法が有効です。ACTにおける心理的柔軟性を高めるための6つのコア・プロセスをご紹介します。
今この瞬間に集中する
今、起きていることに意識を向けて、心を「今、ここに」取り戻します。過去の出来事にくよくよ考えたり、まだ起きていないことを心配せず、今おこなっていること、経験していることに完全に集中します。評価や判断をすることなく、物事をあるがままに見ることで、心をニュートラルにするのです。「今この瞬間に完全につながる」ことができていないと、私たちは、目の前で起こっていることに気づきにくくなってしまいます。
思考と距離を取る(脱フュージョン)
「思考と距離を取る」とは、思考に囚われて振り回されないように、自分の思考を客観的に見つめることです。私たちの思考には、役に立つ思考もあれば、役に立たない思考もあります。役に立たない思考とは、たとえば一部の一方的な思い込みや偏見などです。このような思い込みや偏見に気づかずに、自分の思考が正しいものだと認識して、思考と距離をうまく取ることができないと、自分と思考が一体化(ヒュージョン)してしまうことがあります。「思考と距離を取る」ことができるようになると、役に立たない思考プロセスから抜け出して、時間やエネルギー、集中力を高めて、有効な行動に向けることができるようになります。
感情の居場所を作る(受容)
「感情の居場所を作る」とは、不快な感情に気づき、その感情に対して評価や判断をせずに観察して、それらが消えていくまで感じ切ることを指します。不快な感情を抑圧・否定・抵抗することではありません。「感情の居場所を作る」ことで、プレッシャーや緊張を和らげ、感情を受け入れることができるようになります(受容)。感情を受け入れることで、私たちは感情に振り回されることなく、効果的な意思決定やコミュニケーションができるようになります。
観察する自己につながる
「観察する自己につながる」とは、自分や世界を俯瞰した視点から観察する状態のことです。善か悪か、正しいか間違っているかの判断を下すことなく、感情、思考、行動をただ観察し、物事をあるがままに見ます。「観察する自己につながる」ことで、脱フュージョンを可能にし、役に立たない思考と距離をとり、感情の居場所を作ることができるようになります。
価値観を明確にして価値とつながる
価値観とは、
- こんな人間でありたい
- 人生でこれをやりたい
- こういう風に行動したい
という人生の指針です。
価値観に沿って行動することで、仕事を働くに値するものに変え、人生を意義あるものにすることができます。思い通りにいかない困難な状況にあっても、やる気を高めたり、ストレスフルな状況を打破することに役立ちます。
効果的な行動を起こす
「効果的な行動」とは、価値観によって明確になった方向や目標に向かう行動です。これは、自分の人生や仕事にとって有効な結果をもたらすものになります。指示された仕事をただ単にこなすだけだったり、忙しさに流され続けていると、私たちは価値観を忘れてしまいがちです。
大切なことは、価値観を思い出し、今からの行動を動機づけることです。また、「今の仕事は自分の価値観に合わない」と安易に否定するのではなく、「自分の価値観を大切にしながら、この仕事に取り組むに何ができるだろうか」と考える視点を持つことも必要です。
心理的柔軟性が高い人は仕事ができる?
心理的柔軟性の高い人は、パフォーマンスを上げことができると前述しました。そこでここからは、実際に心理的柔軟性が高いことで、素晴らしいパフォーマンスを発揮している人の具体例をご紹介します。
営業部管理職Aさんの事例
営業部門で管理職を務めるAさんは、若い頃から優秀な営業成績を挙げ続け、同期トップで管理職に昇進しました。プレーヤーとしてはかなり優秀であったAさんも、管理職になりたての頃は大変苦労しました。成績が上がらない部下に対して、イライラして辛く当たったり、ミスを犯した部下を怒鳴りつけることが度々あったため、メンバーが萎縮してしまい、組織全体の営業成績が思うように上がりませんでした。
部下のやる気を高め、育成することのできる管理職に成長したい、と考えたAさんは「気づく」「観察する」「受け入れる」といった心理的スキルを身につけました。その結果、Aさんは心理的ストレスが激減し、どんな時も心に余裕を持つことができるようになりました。そして、成績の上がらない部下にも親身になって指導したり、部下が大きなミスを犯した時にも、感情的にならず冷静に対応できる管理職になりました。
いつしか組織の心理的安全性が高まり、メンバーのスキル、やる気が向上しました。組織としての営業成績も好調で、Aさんは優秀なプレーヤーから、優秀なマネージャーへと成長することができました。
新規事業企画Bさんの事例
新規事業の企画を担当するBさんは、アライアンスを組む企業との交渉や、官庁との折衝が主なミッションです。アライアンス先企業とは複雑な利害関係が絡み、交渉が難航することもあります。また、官庁との折衝においては、許認可を得るために数多くのデータや資料を提出したり、時には理不尽と思えるような判定を下されることもあります。
かなりストレスの高い職務ですが、心理的柔軟性の高いBさんは、常に前向きな気持ちで仕事に取り組むことができています。「この新規事業を成功させることによって、たくさんの人を笑顔にして、社会に貢献できる」という自分の価値観に沿った目的を意識することで、Bさんは、感情に振り回されることもなく、効果的な行動を選択することができます。
利害関係の異なるアライアンス先企業に対しては、Win-Winとなる提案をおこなううことで交渉をまとめ上げ、監督官庁に対しては、真摯に粘り強く取り組むことで折衝を成功させています。心理的柔軟性の高いBさんは、同社の新規事業部門において欠かすことのできない人材として活躍しています。
心理的柔軟性を高めるヒント
心理的柔軟性は、先天的なパーソナリティではありません。トレーニングによって誰でも身につけることのできるスキルです。ここからは、心理的柔軟性を高めるためのヒントをいくつかご紹介します。
長期的な目標設定(人格を高める)
心理的柔軟性を高めるためには、価値観に基づいた行動、生き方をする必要があります。そのためには、「こういう人になりたい」、「こんな生き方をしたい」という長期目標を設定して、理想とする人物に近づき、理想的な生き方を実践することを日々意識するといいでしょう。
「7つの習慣」の中に、自分の葬儀をイメージするというエピソードが紹介されています。自分の葬儀で、大切な家族・友人・仕事の関係者・コミュニティの仲間から、どんな弔辞を読み上げて欲しいかをイメージすると良い、と記されています。大切な人たちから、
- どんな人格と見られたかったのか?
- どんな貢献や業績を覚えていて欲しいか?
- 残された人にどんな影響を与えたかったのか?
をじっくりと考えてみるのも良いでしょう。
短期的な行動計画
理想の人格に近づき、理想的な人生を生きるための1週間、1ヶ月といった短期スパンの行動計画を立てて、実行することも効果的です。これらの行動をおこなうことによって、理想の人格、理想的な人生に一歩ずつ確実に近づいているという実感を持つことができます。毎週末、自分の価値観に基づいた翌週の行動計画を立てる、月末に翌月の行動計画を立てることを習慣にする事で、価値観に基づいた効果的な行動を選択することができるようになります。
自分の感情に意識を向ける
自分の感情に「気づく」「観察する」「受け入れる」ためには、自分の感情に意識を向ける習慣を身につける必要があります。そのための方法の一つに「感情のシェア」というワークがあります。これは朝のミーティングのはじめに、各人が今の感情をひと言ずつ話す、というシンプルなワークです。
- 「今日は新しいプロジェクトがスタートするのでワクワクしています」
- 「今朝、家を出る前に家族と喧嘩してしまったので、少し腹立たしさを感じています」
など、今の気持ちを全員がひと言ずつ話します。慣れないうちは、感情を意識したことのない人もいるので「眠いです」とか「疲れています」など感情ではなく、体調について話す人もいますが、最初のうちはそれでも大丈夫です。感情をうまく表現できない場合は、「なんだかワサワサしています」、「少しドキドキしています」など擬態語で表現するのもいいでしょう。
これを毎日続けることで、自分の感情に意識を向ける習慣ができ、感情に「気づく」スキルを身につけることができるでしょう。
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アルーは人材育成を幅広く手掛けてきた企業で、これまでにテーマ別研修や階層別研修などさまざまな研修を実施してまいりました。レジリエンス研修やメンタルタフネス研修など、社員の心理的柔軟性を高めるための取り組みにも豊富な実績があり、海外駐在員や管理職、若手社員などそれぞれの社員の特性を考慮した研修内容を用意しているのがアルーの強みです。
社員の心理的柔軟性を高めたいなら、何でもお気軽にアルーまでお問い合わせください。ぜひこの記事の内容を参考に心理的柔軟性に対する理解を深め、企業と個人双方のパフォーマンスを効果的に高めていきましょう。