
定着率とは?計算方法・平均値・改善施策と稟議に使えるテンプレート
社員の定着率を改善したい人事担当者にとって、「定義や計算方法はわかった。でも、自社の数値をどう解釈し、どこから手を付ければいいのか」という壁は共通の悩みではないでしょうか。
本記事では、定着率の定義や計算方法、平均値といった基本を押さえたうえで、セグメント別の離職要因マップ、KPI設計と効果測定ロードマップ、「離職1名あたりの損失額」試算テンプレートまでを実務で使える形で整理します。「結局、定着率って上げれば上げるほど良いのか」という深い疑問にも触れながら、質を伴う「健全な定着」への視点を提示します。
この記事でわかること
- 定着率の定義・計算方法
- 産業別・雇用形態別・新卒/中途別の最新ベンチマーク
- セグメント別の離職要因マップと対応施策の切り分け方
- 定着率改善のKPI設計と90日〜1年の効果測定ロードマップ
- 「離職1名あたりの損失額」試算テンプレートと経営稟議への使い方
- 定着率だけを追うことの落とし穴と「健全な定着」の考え方
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この記事の監修者

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎
1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。
定着率とは
定着率とは、ある起算日時点で在籍していた社員のうち、一定期間後にも在籍している社員の割合=人材定着の度合いを示す指標です。文脈によっては「継続率(継続雇用率)」とほぼ同義で使われることもあります。いずれも「入った人がどれだけ残り続けているか」を捉える指標で、本記事では「定着率」に統一して解説します。単年で見る場合もあれば、新卒入社3年後・5年後のように長期スパンで見る場合もあり、目的によって測定期間を使い分けます。
定義上のポイントは対象母集団を明確に固定することです。たとえば「2XX3年4月1日の新卒入社者100名」を分母としたら、分子は「2XX3年4月1日の新卒入社者100名のうち、2XX6年4月時点で在籍している人数」を分子に置き、母集団は途中で追加・変更しません。なお、部門異動者は退職ではないため分子(在籍者)に含めます。出向者や産休・育休・休職中の社員も、退職していない限りは在籍者として扱うのが基本です。母集団を固定しないと、採用増による見かけ上の改善に惑わされることになります。
定着率が経営指標として重要視される背景
近年、定着率が単なる人事指標を超えて経営指標として扱われるようになった背景には、労働市場の構造変化と人的資本経営の潮流があります。採用競争の激化により、1名の離職が採用・教育コストを含めて数百万円単位の損失を生むことが可視化され、経営層が「定着」を投資対象として認識し始めました。
また、人的資本開示が義務化される流れの中で、定着率は自社の人材戦略の成果を示す重要指標としても位置づけられています。
人的資本経営について詳しくは以下の記事をご参照ください。
定着率の計算方法と測定タイミング
定着率は計算式そのものはシンプルですが、何を分母・分子に置くか、どの期間で測るかによって示す意味が大きく変わります。ここでは基本式とサンプル計算、そして測定タイミングの使い分けを解説します。
基本の計算式とサンプル計算
定着率の基本式は以下の通りです。
定着率(%)= 起算日時点の母集団のうち、期間終了日時点で在籍している人数 ÷ 起算日時点の母集団の人数 × 100
たとえば2XX3年4月1日に新卒で入社した100名について、2XX6年4月1日時点の在籍者を数える場合を考えます。
項目 | 数値 |
|---|---|
2XX3年4月1日入社者(起算日時点の母集団人数) | 100名 |
2XX6年4月1日時点の在籍者(3年後) | 73名 |
新卒入社3年後定着率 | 73% |
シンプルな計算式ですが、間違いやすいのが「途中入社者を分母に混ぜてしまう」「異動者を離職とカウントしてしまう」といった扱いです。目的に応じて母集団の定義を最初に明文化しておくことが、後の比較可能性を担保するうえで欠かせません。
測定タイミング(1年・3年・5年)の使い分け
定着率は測定するスパンによって、見えるものが異なります。
測定タイミング | 主に見えるもの | 主な用途 |
|---|---|---|
1年定着率 | 初期定着(ミスマッチ・オンボーディング成否) | 採用要件見直し、初期研修設計 |
3年定着率 | 中期定着(仕事の面白さ・成長実感の獲得) | 若手育成体系、キャリア支援施策 |
5年定着率 | 長期定着(キャリアパスの見通し・処遇) | 昇格・評価制度、管理職育成 |
新卒採用については厚労省が新卒3年後定着率を長年追跡しており、業界比較の共通言語として3年定着率を基準にすることが多くなっています。一方、中途採用は「入社後1年」で早期離職の傾向が現れるため、1年定着率が施策評価の起点になります。
セグメント別に切って見る意義
全社の定着率を1つの数値で見るだけでは、どこに手を打つべきかが見えません。新卒・中途・管理職・非正規といったセグメント別に切って初めて、自社の弱点が特定できます。
たとえば「全社定着率85%」という数字でも、内訳を見ると「新卒3年後定着率60%・中途1年定着率70%・管理職定着率95%」のように偏りがあるケースは珍しくありません。この場合、打つべきは若手・中途向けの初期定着施策であり、管理職向けの施策は優先度が下がります。セグメント別の内訳を出す運用は、施策の優先順位づけに直結する重要なステップです。
新卒の離職率について詳しくは以下の記事をご参照ください。
定着率の平均値——全体・産業別・雇用形態別・新卒/中途別の最新データ
自社の定着率を評価するうえで、業界・雇用形態・入社経路別のベンチマークが不可欠です。ここでは厚労省の雇用動向調査等をもとに、参照すべき平均値の目安を整理します。
全体平均と産業別ベンチマーク
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」によれば、令和4年3月に卒業した新規大卒就職者の就職後3年以内離職率は33.8%です。これを裏返すと、3年後の定着率はおよそ66%が全体の目安になります。ただし業種による差は大きく、以下のような傾向があります。
産業(大卒) | 3年以内離職率 | 3年後定着率(参考) |
|---|---|---|
電気・ガス・熱供給・水道業 | 12.4% | 87.6% |
製造業 | 21.2% | 78.8% |
金融業,保険業 | 25.0% | 75.0% |
情報通信業 | 27.2% | 72.8% |
卸売業 | 30.0% | 70.0% |
全体平均 | 33.8% | 66.2% |
小売業 | 40.4% | 59.6% |
医療,福祉 | 40.8% | 59.2% |
教育,学習支援業 | 44.2% | 55.8% |
生活関連サービス業,娯楽業 | 54.7% | 45.3% |
宿泊業,飲食サービス業 | 55.4% | 44.6% |
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」(2025年10月公表)。定着率は離職率からの逆算値。
自社の定着率を評価する際は、全体平均ではなく同業界平均との比較が判断材料になります。全体平均を上回っていても、業界内で下位であれば競合他社への流出リスクがあると読み解くべきです。
自社数値をどう解釈するか
数字だけを見て一喜一憂しないためには、次の3つの視点で解釈することが有効です。
- 時系列比較:自社の過去3〜5年の推移を追い、改善・悪化トレンドを把握する
- 業界内比較:同業種・同規模企業の平均と比較し、業界内での相対的な位置を掴む
定着率が低いこと自体を課題視するのではなく、どの層で、何がボトルネックかを見極めることが、次に打つ施策の質を左右します。
定着率が低下する要因
「なぜ社員は辞めるのか」の答えはひとつではありません。新卒と管理職では離職要因がまったく異なり、対応施策も別物です。ここでは6つのセグメントに分けて要因と対応の切り分けを整理します。
新卒・若手層の離職要因
新卒・若手の離職は、期待と現実のギャップ、成長実感の欠如、心理的孤立の3要因に大別されます。
主な要因 | 兆候として現れやすいシグナル | 主な対応施策 |
|---|---|---|
期待と現実のギャップ | 配属後1〜3か月で「思っていた仕事と違う」の声 | RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)、配属前研修 |
成長実感の欠如 | ルーティン業務中心、フィードバック機会の不足 | 育成計画の可視化、1on1、成長を実感できる目標設定 |
心理的孤立 | 同期・上司との対話量減少、テレワーク下での孤独感 | メンター制度、フォロー面談、コミュニティ形成 |
特に新卒3年目までは「配属先の上司との相性」が離職に直結しやすく、上司の指導スキル・対話力が定着率のカギを握ります。
若手社員の離職について詳しくは以下の記事をご参照ください
🔗関連記事: 若手社員の離職を防止するには?早期離職の原因と対策方法
中途・管理職・非正規別の離職要因
中途採用者・管理職・非正規社員では、離職要因が新卒とはまったく異なります。以下のマップで整理します。
セグメント | 主な離職要因 | 対応施策の方向性 |
|---|---|---|
中途採用者 | オンボーディング不足・組織文化への不適応・期待役割の曖昧さ | 中途向けオンボーディング、期待役割の言語化、90日フォロー |
管理職 | プレイングマネジャー化による疲弊・役割認識のズレ・支援不足 | 管理職向けリーダーシップ研修、上位管理職との対話機会 |
非正規社員(パート・契約) | 処遇・キャリアパス不透明・帰属意識の希薄さ | 契約更新面談の質向上、キャリア相談機会、教育投資 |
女性社員(特にライフイベント前後) | 両立支援制度と現場運用のギャップ・ロールモデル不在 | 復職プログラム、女性管理職ロールモデル紹介、上司の意識改革 |
シニア社員 | モチベーション低下・役割喪失感・キャリアの見通しなし | シニアキャリア研修、役割再定義、後進育成への活用 |
このマップを自社の離職データに重ね、どのセグメントに離職が集中しているかを可視化することで、施策の優先順位が明確になります。
シニア社員のモチベーション向上について詳しくは以下の記事をご参照ください。
自社の弱点セグメントを特定する視点
セグメント別離職要因マップを自社に当てはめる際は、以下の3ステップで進めます。
- セグメント別に定着率を出す:新卒/中途別、役職別や、部署別などの切り口で数値を分解
- 同業界・全体平均と比較:どのセグメントが業界水準より低いかを特定
- 離職者の退職理由を集計:退職面談・エグジットサーベイを類型化し、要因を突き止める
「離職者数」ではなく「離職者の内訳と理由」まで見て初めて、施策設計の解像度が上がります。
離職防止のための研修について詳しくは以下の記事をご参照ください。
定着率を上げる方法
人材定着を高める施策(リテンション施策)は多岐にわたりますが、優先度は「初期定着(0〜1年)」「関係の質(1〜3年)」「学び続けられる仕組み(通年)」の3層で整理すると設計しやすくなります。
オンボーディングと初期定着
入社後の初期定着は、その後の中長期定着に強く影響します。特に配属後の90日間は初期定着期(入社後90日間の重要期)と位置づけられ、この期間の体験設計が定着率を大きく左右します。
初期定着施策の要素は以下の通りです。
- 配属前の期待調整:RJP(Realistic Job Preview)、配属先の実務を体験する機会、上司との面談
- 配属後の関係構築:メンター制度、同期コミュニティ、心理的安全性の担保
- OJT(On-the-Job Training)による実務経験:配属先での実務体験と、上司・先輩からの継続的なフィードバック機会の設計
- 早期の成功体験:スモールウィンを積める業務アサイン、フィードバックの頻度
- 90日フォロー面談:人事・上司・メンターの三者による定期チェック
アルーは新入社員の初期定着を支援する「新入社員研修」を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。
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管理職の関わり方と対話の質
「人は組織ではなく上司から離れる」と言われるほど、直属の上司の関わり方は定着率に直結します。特に対話の質(1on1・フィードバック)は、初期定着期を超えた1〜3年目の中期定着に強く影響します。
管理職の関わり方を改善する打ち手は次の3つです。
1on1の定着:隔週30分の定期対話を制度化し、業務進捗ではなくキャリアと感情に踏み込む
フィードバックスキルの向上:承認・傾聴・質問を軸にした対話力研修
成功の循環サイクルの共通言語化:関係の質→思考の質→行動の質→結果の質という順序を管理職に理解させる
1on1について詳しくは以下の記事をご参照ください。
学び続けられる仕組みづくり
若手・中堅層の中長期定着では、「この会社にいれば成長できる」という実感が離職の抑止力になります。学び続けられる仕組みは、単発研修ではなく継続的な学習環境として設計するのが肝です。
- キャリア自律を促す機会:キャリア面談、社内公募、越境学習
- eラーニング・LMS(ラーニングマネジメントシステム)による自己学習環境:いつでも学べる基盤の整備
- 階層別研修と選抜型研修の組み合わせ:全員底上げ + 次世代リーダー育成の二軸
アルーは社員の自己学習環境を整えるeラーニング・LMS「etudes」を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。
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「定着率だけを追う」落とし穴と「健全な定着」の再定義
ここで一度立ち止まって考えたいのが、「定着率って上げれば上げるほど良いのか」という深い疑問です。実は、定着率だけを機械的に追うことには落とし穴があり、質を伴う「健全な定着」への視点転換が必要です。
定着率が高くても組織が停滞するケース
定着率が高い=良い組織、とは限りません。次のようなケースは、数字上は健全に見えても実態は停滞しています。
- 低パフォーマンスのまま滞留する社員が多い:転職市場価値が低く「動けない」ため残っているだけ
- 新陳代謝が起きず、新しい発想が入らない:同質性が強まり、変化への適応力が下がる
- 昇格ポストが空かず、若手・中堅の成長機会が奪われる:結果として意欲のある若手が離職する
「定着率85%」だったとしても、上位20%のハイパフォーマーが辞めて下位20%が滞留していれば、組織は徐々に弱っていきます。
「健全な定着」を測る3つの視点
質を伴う定着を測るには、定着率単独ではなく以下の3視点を組み合わせる必要があります。
視点 | 何を見るか | 使う指標 |
|---|---|---|
量(定着率) | どれだけ残っているか | セグメント別定着率 |
意欲(エンゲージメント) | 残っている社員が前向きか | eNPS・エンゲージメントサーベイ |
質(パフォーマンス) | 残っている社員が成果を出しているか | 評価分布・ハイパフォーマー定着率 |
3視点をクロス集計することで、「意欲高く成果を出している社員が定着している」状態=健全な定着を確認できます
パフォーマンスと組み合わせて見る
特に重要なのが、ハイパフォーマー定着率を単独で追うことです。全体定着率が85%でも、評価上位20%層の定着率が60%であれば、優秀層の流出が進行しているサインです。この層の定着率を意識的にモニタリングすることで、組織の競争力維持に直結する施策設計ができます。
定着率改善のKPI設計と効果測定ロードマップ
「施策を打った結果、定着率が動いたかどうかを何か月後・何の指標で判定すればいいのか」という問いは、多くの人事担当者が抱える悩みです。ここではKPI設計と効果測定のロードマップを提示します。
🔗おすすめ資料:早期退職の原因と人事部の実施するべき対策
90日・6か月・1年の測定タイミング設計
定着率は最終的なアウトカム指標ですが、動くまでに時間がかかります。先行指標を組み合わせて短いサイクルで効果を確認することが実務のポイントです。
タイミング | 主な測定指標 | 何を確認するか |
|---|---|---|
90日 | 入社後サーベイ・オンボーディング満足度・1on1実施率 | 初期定着施策が機能しているか(プロセス指標) |
6か月 | eNPS・エンゲージメントサーベイ・フォロー面談での意欲変化 | 関係の質・成長実感が改善しているか(先行指標) |
1年 | 1年定着率・退職者理由分析 | 最終アウトカム(遅行指標) |
3年 | 3年定着率・ハイパフォーマー定着率 | 中期的な組織健全性 |
90日で「早期離職の芽」を摘み、6か月で「エンゲージメントの改善」を確認し、1年で「定着率」を判定する三段階の構造にすることで、施策の効果を早期に把握できます。
定着率・eNPS・入社後サーベイの3層構造
3つの指標を組み合わせた設計例が以下です。
- 定着率(遅行指標):1年・3年で測る最終アウトカム
- eNPS(中間指標):半年ごとに測るエンゲージメント指標。定着率に先行して動く
- 入社後サーベイ(先行指標):30日・90日・180日の3タイミングで測る初期定着の質
この3層構造により、「定着率が動くまで待たずに施策を軌道修正できる」運用が可能になります。
効果判定の落とし穴
KPI設計でよくある失敗パターンを3つ挙げます。
- 測定期間が短すぎる:3か月で「定着率が改善しない」と判断してしまう(定着率は1年以上のスパンで見る)
- 単一指標依存:定着率だけを追い、eNPS・パフォーマンス指標を見ない
- セグメント分解を怠る:全社平均だけで判断し、どの層で効果が出ているか見えない
これらを避けるために、測定タイミング・指標・セグメントの3軸を最初に設計しておくことが不可欠です。
「離職1名あたりの損失額」試算——経営稟議に使う数値資産テンプレート
「定着率改善に投資すべき」と経営層に稟議を通すには、感情論ではなく数値フレームが必要です。ここでは損失額の試算テンプレートを提示します。
損失額を構成する要素
定着率は最終的なアウトカム指標ですが、動くまでに時間がかかります。先行指標を組み合わせて短いサイクルで効果を確認することが実務のポイントです。
要素 | 内訳の例 | 試算のポイント |
|---|---|---|
①採用コスト | 求人広告費・エージェント手数料・面接工数 | 採用単価は自社データで把握可 |
②教育コスト | 新入社員研修費・OJTトレーナー工数・eラーニング費 | 在籍中の累計金額 |
③在籍コスト | 1年定着率・退職者理由分析 | 最終アウトカム(遅行指標) |
④機会損失コスト | 3年定着率・ハイパフォーマー定着率 | 中期的な組織健全性 |
⑤波及影響 | 周辺社員のモチベーション低下・引継ぎ工数・チーム再編負担 | 定量化しにくいが無視できない |
試算テンプレートと計算例
大卒新卒1名が入社1年目で離職したケースの試算例です。数値は例のため、自社データに置き換えて使用してください。
費目 | 金額(例) |
|---|---|
①採用コスト(1名分の平均) | 約80万円 |
②教育コスト(新入社員研修費・eラーニング費・OJTトレーナーの工数あたり人件費) | 約100万円 |
③在籍コスト(給与・賞与・社会保険・福利厚生費) | 約500万円 |
④機会損失コスト(新卒の3年間在籍での1人あたり平均想定売上2000万円×粗利率50%)※1年目でまだ売上はゼロであった想定 | 約1000万円 |
合計 | 約1680万円 |
この試算を「年間離職者数×平均損失額」で全社に展開すると、経営会議のテーブルに乗る規模の数字になります。たとえば年間20名が同様の条件で離職している場合、年間損失額は約3.4億円と試算でき、定着率改善への投資判断の根拠になります。
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稟議で説得力を持たせるコツ
損失額試算を経営稟議で使う際は、以下の3点を意識すると通りやすくなります。
- 保守的な数値を使う:機会損失コストを年収の10倍で計算するなど、盛った印象を与えない
- 業界ベンチマークと組み合わせる:「同業界平均離職率〇%に対し当社は△%」と相対化する
- 投資対効果を示す:「施策投資1,000万円 vs 離職削減による年間節減額3,000万円」の対比
数字だけを並べるのではなく、施策との紐付けと投資判断の物差しをセットで提示することが重要です。
定着率改善の実践事例
ここまで整理してきたKPI設計・施策設計の考え方は、実際にどのように現場で機能するのでしょうか。管理職層に対する「対話力向上」研修において、成功の循環サイクルを共通言語化しながら関係の質を高め、部下との対話を継続的に実践することで組織の定着基盤を強化した事例を紹介します。
生命保険業界における管理職の対話力向上
規模・対象者
生命保険業界における管理職層(課長クラス)を対象とした選抜プログラムとして実施された事例です。
課題
事業環境の変化に伴い、「会社の成長」と「社員一人ひとりの成長」を両立する変革が求められる中で、育てる側である管理職の意識変革と、育つ側の成長意欲の醸成が急務でした。従来の面談では「上司が話しすぎる」「部下の本音が引き出せない」という状態が続き、関係の質が思考・行動・結果に波及する「成功の循環サイクル」が逆回転している懸念がありました。
実施した施策
「対話」をキーワードに、3ステップの構成で設計されました。1日目にマネジメント観の見直しと部下育成マインドの醸成を扱い、2日目に部下育成スキル・コーチング・面談スキルを扱いました。その後、約5ヶ月の実践期間の中で受講者同士が対話を重ねました。3日目に実践結果を振り返り、見えてきた課題への解決策を立案するという複合型設計です。
成果
すべての受講者が「対話の重要性とスキルについての気づきを得られた」と回答し、「メンバーとの関係の質が徐々に変化してきている」という声が多く見られました。マネジメントスタイルを振り返るきっかけになったというコメントも多数寄せられ、実践期間を挟むことで学びが行動に落ちる設計が機能した事例です。
設計のポイント
単発研修ではなく5か月の実践期間を挟んだ3回構成にしたこと、そして対話スキルだけでなくマネジメント観(内面)の見直しまで踏み込んだことが、行動変容を生み出したポイントでした。関係の質から始まる「成功の循環サイクル」を共通言語化することで、日常業務の中での対話継続を促す設計思想です。
アルーは管理職の対話力・部下育成力を高める「管理職研修」を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。
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まとめ
定着率は、単に「辞めた/残った」を測る指標ではなく、人材育成・組織開発の成果を長期で確認する経営指標です。本記事では以下を整理しました。
定着率の定義と計算方法
全社平均ではなくセグメント別に切って初めて弱点が見える
- 定着率だけを追うと低パフォーマンスの滞留を招く。eNPS・パフォーマンスと組み合わせた「健全な定着」を目指す
- KPIは90日・6か月・1年の三段階で設計し、先行指標(入社後サーベイ・eNPS)と遅行指標(定着率)を組み合わせる
- 経営稟議には「離職1名あたりの損失額」試算(採用・教育・逸失利益・波及の4要素)を数値フレームとして使う
自社の定着率を「動かせる指標」に変えるためには、まずセグメント別に数値を分解し、弱点セグメントを特定したうえで、先行指標と組み合わせたKPIロードマップを設計することから始めるのが効果的です。
施策設計と同時に効果測定の仕組みを組み込むことも欠かせません。人材育成の設計思想と再現条件を踏まえた対話を通じて、自社に合う定着率改善のアプローチを描いていくことが、最終的な成果を左右します。
よくある質問(FAQ)
Q | 定着率と離職率、どちらを主指標にすべきですか? |
|---|---|
A | 目的によります。単年の労務状況を把握するなら離職率、中長期の人材育成・エンゲージメント効果を測るなら定着率が適しています。実務では両方を並行して追い、離職率は年度単位、定着率はコホート単位(新卒3年後等)で見る運用が一般的です。 |
Q | 定着率100%を目指すべきですか? |
|---|---|
A | 目指すべきではありません。定着率を機械的に追うと低パフォーマンス層の滞留を招き、組織の新陳代謝が失われます。「意欲高く成果を出している社員」の定着率(ハイパフォーマー定着率・eNPSとのクロス集計)を高めることが本質的なゴールです。 |
Q | 中小企業でもセグメント別分析はできますか? |
|---|---|
A | 母数が少ないと統計的な信頼性は下がりますが、傾向把握としては十分機能します。年間離職者が10名未満でも、退職理由をカテゴリ化して集計するだけで、施策の優先順位づけには十分な情報が得られます。 |
Q | 施策の効果はいつ判定できますか? |
|---|---|
A | 定着率(遅行指標)そのものは動くまで最低1年かかります。ただし入社後サーベイ・eNPS等の先行指標は90日〜6か月で変化が現れます。「先行指標で早期に軌道修正し、遅行指標で最終判定する」二段階の運用が現実的です。 |


