
DX人材とは?経産省5類型や必要スキル、人材不足への対処をわかりやすく解説
「DX人材を確保しろと経営から言われたが、そもそも自社にとってのDX人材とは誰なのか」——人材育成担当者によくある悩みです。経済産業省のデジタルスキル標準(DSS)の5類型は共通言語として整いつつありますが、「そのまま自社に当てはめてよいのか」「生成AI時代に何を残して何を捨てるべきか」といった疑問は残ります。
本記事では、DX人材の定義・役割分類・必要スキル・育成方法・採用の判断軸までを、実務に活かせる粒度で整理します。
この記事でわかること
- DX人材の定義と、IT人材・デジタル人材との違い
- 経産省デジタルスキル標準(DSS)5類型と、自社版に翻訳する手順
- 「わかる」で終わらせない育成設計と成果測定KPI(重要業績評価指標)
- 採用・育成・外部活用の判断フレーム
- 形骸化・現場抵抗・DX部門孤立の3大失敗パターンと対策
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この記事の監修者

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎
1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。
DX人材とは
DX人材とは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを変革し、企業に新しい価値を生み出す人材を指します。単にITシステムを開発・運用する人材ではなく、事業や顧客体験そのものを再設計する役割を担う点が特徴です。
経産省・IPAによる定義
経済産業省とIPA(情報処理推進機構)は、DX人材の育成指針として「デジタルスキル標準(DSS)」を策定しています。2022年に初版が公表されて以来、企業の人材育成の共通言語として広く参照されるようになりました。
押さえておきたいのが、デジタルスキル標準(DSS)が「DXリテラシー標準(DSS-L)」と「DX推進スキル標準(DSS-P)」の2つの標準から成る二層構造だという点です。
標準 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
つまり経産省・IPAの枠組みでは、DX人材は専門人材だけを指しません。全社員がリテラシーを持つことを土台に、その上に専門人材を位置づけるという設計になっています。育成施策を考える際も、この二層で考える必要があります。
このうちDX推進スキル標準(DSS-P)では、DX推進に必要な主な人材を「人材類型」として定義しています。2026年4月に公表された最新版(ver.2.0)では、ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティ、データマネジメントの6類型が示されています。
なお、1つの類型のなかには活躍する場面や役割に応じた2〜4の「ロール」が定義されており、一人の人材が複数のロールを兼ねることも想定されています。社員を一つの類型に割り当てるための分類ではない点にも留意が必要です。
デジタルスキル標準(DSS)は継続的に改訂されています。2023年8月に生成AI関連の記載が追加され、2024年7月には生成AIの業務活用やガバナンスに関する内容が加わりました。そして2026年4月のver.2.0で「データマネジメント」類型が新設され、初版以来最大級の改訂となっています。参照される際は、必ず最新版をご確認ください。
IT人材・デジタル人材との違い
3つの用語は混同されやすいため、まず違いを整理します。
用語 | 主な役割 | 対象領域 | 成果の定義 |
|---|---|---|---|
IT人材が「守り」、デジタル人材が「効率化」、DX人材が「変革」を担う、と整理すると社内での説明もしやすくなります。
IT人材については以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:IT人材とは?人材不足が起こす影響や、採用・育成方法をわかりやすく解説
なぜ社内で定義し直す必要があるのか
自社でDX人材を育成・採用する際には、経産省の5類型をそのまま使うのはお勧めしません。5類型は共通言語として使いつつ、自社の事業ドメインと組織構造に合わせて翻訳する作業が必須です。
理由は3つあります。第一に、経産省の類型は業種横断の汎用定義であり、自社の事業モデル固有のスキル(例:製造業なら現場データ活用、小売なら顧客行動分析)は含まれていません。第二に、既存職種との重複整理をしないと、求人票や評価基準に落とし込む段階で機能しません。第三に、翻訳作業そのものが経営層・事業部門・人事部門の合意形成プロセスになり、「誰をDX人材と呼ぶか」の社内認識が揃います。
翻訳の具体手順は後述の「役割分類」セクションで解説します。
DX人材が求められる背景
DX人材の需要が高まっている背景には、市場・技術・組織の3層の変化があります。
2025年の崖と人材需給ギャップ
経済産業省が2018年9月に公表した「DXレポート」は、既存システムの老朽化と人材不足によってDXが進まない企業が競争力を失うリスクについて警鐘を鳴らしました。このままでは2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある——これが「2025年の崖」と呼ばれた指摘です。同レポートは、IT人材の不足が2025年に約43万人まで拡大するとも試算していました。
現在においても、人材不足という課題は解消されていません。IPAが2025年6月に公表した「DX動向2025」では、日本企業の85.1%でDXを推進する人材が不足しているという結果が出ています。しかもこの水準は、米国・ドイツと比較しても顕著に高いものでした。
生成AI時代における役割の変質
もう一つ見落とせないのが、生成AIによる役割の変質です。「生成AIが実装スキルを肩代わりする時代に、従来のDX人材要件はもう古いのでは」という懸念も散見されます。
実際、コーディングや定型データ処理は生成AIで大幅に効率化されており、DX人材に求められる能力の重心は「実装する力」から「課題を定義し、AIを含む手段を組み合わせて解を設計する力」へと移っています。この変化を織り込まずに従来型のスキルセットで育成計画を組むと、育てた人材のスキルが陳腐化するリスクがあります。
生成AI時代に追加すべき具体要件は、後述の「必要なスキル」セクションで扱います。
DX人材の役割分類——経産省デジタルスキル標準(DSS)5類型
5類型の役割・スキル一覧
経産省デジタルスキル標準(DSS)では、DX推進人材を以下の5類型に分類しています。
類型 | 役割 | 主な業務 | 求められる 中核スキル |
|---|---|---|---|
自社職種への翻訳テンプレート
5類型を自社に当てはめる際は、以下のテンプレートを使うと整理しやすくなります。
現職種(自社) | 対応する類型 | 既存スキル (活かせる) | 追加で 必要なスキル |
|---|---|---|---|
翻訳作業は「経営企画・情報システム・事業部門・人事」の4者合議で進めるのが基本です。事業部門だけで進めると現場スキル偏重、人事だけで進めると抽象論に流れます。
DX人材に必要なスキルとマインドセット
ビジネス・データ・技術の3層スキル
DX人材のスキルは、大きく3層で整理できます。
- ビジネス層:事業理解、顧客理解、課題設定力、プロジェクト推進力
- データ層:データリテラシー、分析設計、可視化、データ倫理
- 技術層:デジタル技術の基礎理解、クラウド、セキュリティ
5類型のどれに位置づけるかで比重は変わりますが、いずれの類型も「3層の基礎理解」は必要です。ビジネスアーキテクトがデータや技術の基礎を知らないと、実現可能性を判断できず絵に描いた餅になります。
生成AI時代に追加すべき3要素
生成AIの普及を受けて、既存の3層スキルに以下3要素を組み込む必要があります。
追加要素 | 内容 | 組み込み先 |
|---|---|---|
従来スキルをすべて捨てるのではなく、優先度を再配分する発想が現実的です。
マインドセットの再定義
スキルと並んで重要なのがマインドセットです。DX人材には以下3つが共通して求められます。
顧客起点思考:技術主導ではなく、顧客の困りごとから出発する
仮説検証志向:完璧な計画より、小さく試して学ぶ
越境協働:部門・職種を越えて連携する
マインドセットは研修で「学ぶ」だけでは身につきません。実践プロジェクトで試行錯誤する場を用意することが不可欠です。
仮説思考については以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:仮説思考とは?意味やメリット、実践方法や具体例、トレーニング方法を解説
DX人材を育てる設計プロセス
DXが「わかる」で終わる研修と、「できる」まで到達する育成の差は、設計プロセスの緻密さで決まります。
3段階の育成ロードマップ
「わかる」から「できる」へ到達させるには、3段階のロードマップが基本形です。
段階 | 目的 | 主な施策 | 期間目安 | 到達基準 |
|---|---|---|---|---|
段階3の「実践プロジェクト」を省略すると、研修は「わかる」で止まります。段階1・2だけで完結させないことが最大のポイントです。
実践演習の設計思想
段階3の実践プロジェクトを機能させるには、以下3点の設計が必要です。
実業務の課題を題材にする:架空のケースではなく、自部門または隣接部門の実課題を扱う
数をこなす:1つの成功体験より、複数回の試行錯誤で学ぶ設計にする
フィードバックを個別に返す:集団評価だけでは行動変容につながらない
行動変容を促す研修については以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:行動変容を促す社員研修のポイント|ステージ理論に沿った働きかけとは
成果を測るKPI設計
育成成果を測る指標は、大きく3層で設計します。
学習成果KPI:スキルアセスメントスコア、資格取得数、eラーニング修了率
行動変容KPI:研修後3か月時点の業務適用率、DX案件への参画数
事業成果KPI:DX案件創出数、内製化率、事業成果(売上・コスト削減など)
学習成果KPIだけで評価すると「研修を受けた」で終わります。行動変容KPI(研修3か月後測定)と事業成果KPIを組み合わせて、初めて「育成した意味」が経営に説明できます。
研修効果測定については以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:研修効果測定のやり方とは?4段階評価モデルや具体的な指標を解説
🔗おすすめ資料:DX人材育成事例3選
DX人材を確保する3つの方法(採用・育成・外部活用)
3つの選択肢の特徴
DX人材を確保する手段は、採用・育成・外部活用の3つです。それぞれ特性が異なります。
手段 | メリット | デメリット | 向いている状況 |
|---|---|---|---|
成熟度・スピード・コストで選ぶ判断マトリクス
3つの選択肢を選ぶ際は、以下3軸で判断すると迷いにくくなります。
判断軸 | 採用向き | 育成向き | 外部活用向き |
|---|---|---|---|
多くの企業は「採用一辺倒」または「育成一辺倒」に振れがちですが、フェーズと役割で使い分けるのが現実解です。初期のPoCは外部活用で立ち上げ、並行して社内育成を進め、規模拡大時に採用を組み合わせる、という組み合わせが定石です。
DX人材育成の失敗パターンと対策
DX人材育成には、頻出する3大失敗パターンがあります。原因と対策をセットで整理します。
失敗パターン | 起きる原因 | 兆候 | 対策 |
|---|---|---|---|
形骸化
形骸化は「研修を実施したこと」がゴールになる現象です。実施回数や修了率を報告する仕組みが、逆に本質を見失わせます。対策は、KPI設計を学習成果だけで終わらせず、行動変容・事業成果まで含めて設計することです。
現場の抵抗
受講者が「なぜ自分がDXを学ぶ必要があるのか」に納得できていないと、形式的に研修に参加するだけで現場での実践が進みません。経営メッセージの発信だけでなく、「現場の困りごとを題材にする」設計が抵抗を和らげます。
DX部門の孤立
DX部門を設立しても事業部門と連携する仕組みがないと、案件が生まれず孤立します。事業部門にもDX人材を配置し、DX部門は伴走役に徹する構造が有効です。
DX人材育成に取り組む企業事例
「全社員リテラシー底上げ」から「中核層の実践力強化」への段階的展開により、DX推進の土台を組織全体に広げつつ、成果創出の担い手を並行して育てる設計を実現した事例を紹介します。
運輸業における全社員リテラシー底上げから中核層実践力強化への展開
対象者
運輸・倉庫業の企業において、全社員を対象とした基礎リテラシー教育と、中核層(管理職・実務リーダー層)を対象とした発展型研修の二段構えで施策を実施しました。
課題
DX推進の方針を掲げたものの、DX主管部門と各事業部門の連携が不明確で「誰が旗を振るか」が定まらず、社内調整が難航していました。既存研修(データ分析研修など)との重複整理も課題でした。加えて、動画教材による導入編は「概念的すぎて明日から使えない」と現場評価が芳しくありませんでした。
実施した施策
「全社員リテラシー底上げ」と「中核層の実践力強化」の2段階で設計しました。第一段階では、DXの必要性を全社員に浸透させるeラーニングを展開しました。第二段階では、管理職や実務リーダー層に対して発展型の集合研修(課題発見力やデータ分析力)を段階的に投入する構造としました。発展型の集合研修では、受講者が仮説検証型問題解決スキルを核としながら、課題発見や原因分析、解決策立案においてデジタルや生成AI、データを最大限活用できるよう促しました。
成果
全社員リテラシー底上げの効果として、生成AIやデータの活用に対する抵抗感が薄れ、普段の会話に「生成AI」「データ」という言葉が自然に登場する雰囲気が醸成されました。管理職や実務リーダー層向けの集合研修においては、受講者が自ら事業課題を発見し、デジタル・生成AI・データを活用した解決策を事業責任者に提案するレベルにまで到達しました。その提案の一部は事業部に引き継がれ、すでに実行フェーズへ移っています。「研修を受けた」で終わらず、現場の意思決定と事業活動に直結する動きが生まれた点が、本施策の最大の成果です。
設計のポイント
「全社員×基礎」と「中核層×実践」を並行させたこと、既存研修との重複整理で投資効率を高めたこと、現場評価を踏まえて教材を実践コンテンツへ切り替えた柔軟性、の3点が効果的でした。
弊社アルーはDX人材育成の設計から実践演習までを一貫して支援する「DX研修」を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。
🔗研修サービス詳細:DX研修
まとめ
DX人材の確保は「経産省の5類型を共通言語として使いつつ、自社版DX人材の定義を作成する作業」から始まります。育成は「わかる」で終わらせず、3段階ロードマップと3層KPIで「できる」まで到達させる設計が必要です。採用・育成・外部活用は成熟度・スピード・コストの3軸で組み合わせ、形骸化・現場抵抗・DX部門孤立という3大失敗パターンには構造的な対策を用意します。
「育成した気になっているだけで成果が見えない」という状態を抜け出すには、育成設計と組織側の受け皿設計を同時に進めることが不可欠です。自社の現在地に応じた見取り図を持ち、次の一歩を具体化してください。
よくある質問(FAQ)
Q | DX人材とIT人材の違いは何ですか? |
|---|---|
A | IT人材が既存業務を支えるシステムの開発・運用を担うのに対し、DX人材はビジネスモデルや顧客体験そのものの変革を担います。成果の定義がIT人材は「システムの安定稼働」、DX人材は「事業成果の創出」である点が最大の違いです。 |
Q | 経産省の5類型をそのまま使えばよいですか? |
|---|---|
A | 共通言語として使うことは推奨されますが、自社の事業ドメインの固有スキルや既存職種との重複を整理する「翻訳作業」は必須です。事業部門・人事部門・経営企画部門の3者合議で進めるのが基本です。 |
Q | DX人材育成の成果はどう測定しますか? |
|---|---|
A | 学習成果KPI(スキルアセスメント、修了率)、行動変容KPI(研修後3か月時点の業務適用率)、事業成果KPI(DX案件創出数、内製化率)の3層で設計します。学習成果だけで評価すると形骸化を招きます。 |
Q | 生成AIの普及でDX人材要件はどう変わりますか? |
|---|---|
A | 実装スキル(コーディング等)の比重は下がり、代わりにAIリテラシー・プロンプト設計・AIガバナンスの3要素を既存スキルセットに追加する必要があります。従来スキルを全部捨てるのではなく、優先度を再配分する発想が現実的です。 |



