※本文内、敬称略
ーーー 貴社の事業内容と部署の役割を教えてください
小杉 みずほリサーチ&テクノロジーズには、大きく4つの事業領域と3つの職種があります。リサーチ、コンサルティング、研究開発、ITソリューションの4つの事業領域で構成されており、エコノミスト、コンサルタント、システムエンジニアという主に3つの職種の社員がおります。社員数は2024年3月末時点で4,093名です。
村上 みずほフィナンシャルグループの一員として目指したいことを実現するために、プロフェッショナルの領域から取り組んでいく会社です。
小杉 その中で我々人事部は、人の管理全般を担う部署です。私は、採用・教育研修室の室長を担っています。採用・教育研修室は採用業務と教育業務の2つを担当しており、教育業務においては、新入社員研修などの階層別研修、マネジメント研修、ITスキルなどのスキル系研修、コンサルタントに必要な能力開発の研修などを実施しています。
村上 私は主に会社のカルチャー改革や組織開発を担当しています。カルチャー改革においては、マネジメント層の変化も重要な一要素と捉えており、会社としてサポートしていく方針です。そのアプローチの一つとして、今回のような研修企画も行っています。
課題・背景
部長、次長層に経営と現場を両立するマネジメントを身につけてほしかった
ーーー 貴社ではこれまで、どのような研修を実施することが多かったのでしょうか。
小杉 我々の会社の社員は、エコノミスト、コンサルタント、システムエンジニアという3つの職種いずれであっても、高い専門性が必要です。そのため、その職務に必要なスキルを獲得するための研修は数多く実施してきましたし、社員にとっても学ぶ機会は多くあると思います。たとえば、システムエンジニアにはプロジェクトマネジメント研修、コンサルタントには戦略を考える研修やロジカルシンキング研修など、職務に特化した研修は数多くあります。
また、昇格者研修や部長向けコミュニケーション研修も実施しています。リーダー職やマネージャー職に昇進したタイミングで、「リーダーとはなにか」という役割認識や労務管理・コンプライアンスなどの基本的なスキルを学んでもらっています。
村上 リーダー、マネージャーとしての意識づけや実務でやらなければならないことはきちんとお伝えしてきました。ただ、どう組織マネジメントすればいいのか、組織マネジメントのためにはどのような考え方をすればよいのかという点は、あまり伝えられていなかったと思います。
ーーー そんな中、今回新たに部長・次長向けに両立思考をテーマとしたワークショップを開催した背景を教えてください。
小杉 会社の課題について経営層と人事部で検討した結果、4,000名以上いる社員を同じ方向に向けることが必要なのではないかという話が出ました。
経営層が感じている課題と、現場が感じている課題には少しずつ異なる部分があります。それぞれの課題をうまく捉えて前に進めていく役割を担っているのが、経営と現場の間にいる部長や次長です。部長や次長がうまく両者の気持ちを捉えながら進めていく必要があります。
当社には役員から部長を含めても100名弱しかおらず、次長も含めても300名程です。4,000名以上の社員を部長だけで引っ張っていくことは現実的ではなく、少なくとも次長層を含めた300名それぞれが経営の意識を持ち、引っ張っていく必要があります。そのためにも、部長、次長層が経営の意思を理解した上で、現場との間にしっかり入ることが重要だという話になりました。
そこで、経営の想いと現場の想いの両方をしっかり捉えた上で、両立させて組織を回していく、そのようなマネジメント手法はなにかないものかと調査していました。すると、アルーが「両立思考」を研究・推進しているということがわかり、アルーにワークショップを依頼しました。
ーーー なぜ、一般的なスキル習得等を目的とする「マネジメント研修」ではなく、「両立思考」をテーマにしたのでしょうか。
村上 きっかけは、マネジメントする立場の社員の中に「答えがほしい」「答えを出したい」という気持ちをもって働いている人が多いのではないかという点が課題として挙がってきたことです。0か1かの二者択一になってしまい、その中間や別の選択肢に目を向けることはあまり多くないというイメージです。
そのような課題を持った中で、「択一思考」の反対語として「両立」や「パラドックス」という言葉にたどり着き、今回のワークショップを制作していきました。
小杉 我々は大きなシステム開発に取り組むことも多く、厳格なプロジェクト推進が求められます。だからこそ、事業が成り立っていたという側面もあります。一方、最近はIT技術が進歩し、多様性が表れてきたことで、答えが複雑になってきています。今までは0か1かという答えを出し、そこに向けて突き進んでいけばよかったのですが、現代は多様な答え、分岐点が生まれており、なにが正解かわからない世の中になっています。
このような世の中でマネジメントしていくためには、新しい視点で物事を考える力が必要です。単純に0か1かで答えを出すのではなく、もう1面、反対側の考えも捉えて、柔軟にバランスをとって進めていくことが求められる時代だと思います。
こういった時代背景も、「両立思考」をテーマに取り上げた理由の一つです。
ーーー 「二者択一になってしまう」という課題は、どのような部分に表れていたのでしょうか。
小杉 業務上の課題に対して、選択を求められることが多く、そのような思考の仕方に慣れてしまっている状況を感じていました。また、上司への相談についても、選択を前提に答えを求めに行くケースもありました。
当社の社員は課題が出たときに解決することがとても得意です。課題を与えられて、その解決に向けてとても真剣に考えて進むことができます。
一方、「そもそも課題はなにか」という部分を考えるためには、より柔軟な発想が求められます。明確な選択肢のない、ふわふわした状態で、なにが課題なのかを見つけていくためには、もう1段レベルアップする必要があります。
村上 マネジメントという観点では、これまでプロジェクト型の業務を多く行ってきた社員としては、組織マネジメントをプロジェクトマネジメントの延長線上で捉えていることもあったのではないでしょうか。ただ、組織マネジメントとプロジェクトマネジメントは、共通点はあれど、同じではないので、その部分も課題だったと考えています。
小杉 社会インフラを支えるという事業の性質上、安全・品質第一とされているところはあります。また、これまでのシステム開発においても多くはウォーターフォール型であり、上流から下流まで戻ることがない前提で進んでいきます。
一方、組織マネジメントにおいては、途中で違う事象が発生したり、一旦戻ったりといったアジャイルな部分があると思うのですが、そこをあまり得意としていなかったという課題がありました。
ーーー 今回の両立思考をテーマとしたワークショップの目的・ゴールを教えてください。
小杉 ワークショップ参加前の部長、次長は、社長や役員から発せられる会社の方針をそのまま現場のメンバーに伝えていた面もありました。ワークショップ参加後には、社長や役員からの話を自分ごととして捉え、さらに現場のことも踏まえたうえで自分の言葉に翻訳して伝えられるようになってほしいと考えていました。自分の想いを持って、メンバーに進むべき方向を伝えている状態です。
そうなるために、経営の想いと現場の想いの両方を自分ごととして捉え、どう発信するかを考えられるようになってほしいと思っていました。
村上 部長や次長が「自分は経営者に言われたことにただ従う立場ではない」「自分の考えを経営にいれてもいい」という考えを持つきっかけになればよいと考えていました。いきなりそのような考え方に変わるのは難しいと思うので、そのための一歩として気づきを得てほしかったです。且つ、その一つのやり方として、「両立思考」を学んでいただきたいと思っていました。

実行施策
経営視点と現場視点の両立の重要性に自ら気づけるワークショップ
ーーー 今回の両立思考をテーマとしたワークショップの内容について教えてください。
村上 半日程度のプログラムを、受講者を入れ替えながら6日間実施しました。受講者は部長・次長層の約200名です。今回のワークショップは、「研修」という形にしないということをまず徹底しました。「自分は経営と現場の間にいる立場であり、経営視点と現場視点の両方が必要だ」ということに自分たちで気づいていただく必要があったためです。そのため、「勉強をしましょう」という印象になりがちな研修ではなく、ワークショップで実施することにしました。
また、当社の経営層にも参加してもらい、経営層からのメッセージを伝えたり、経営層と受講者が議論したりする場を設けています。
<図:ワークショップアジェンダ>
小杉 本来は1日や2日かけてもよいワークショップだと思うのですが、無理を言って半日にしてもらいました。部長や次長という忙しいメンバーを招集する必要があったので、コンパクトな時間で目的を達成できるよう、コンテンツを作っていただきました。
成果
マインドが変わり、両立思考の考え方を持ち帰ることができた
ーーー 今回の両立思考をテーマとしたワークショップの効果について教えてください。
小杉 座学で両立思考の考え方や技を持ち帰ってもらうことができたのがまず大きな効果でした。
とは言え、目に見える形ですぐ効果が表れる類のワークショップではないと思っています。持ち帰った技を使い、新しいマインドを実践するかどうかについては、これから見ていきたいです。
村上 概ね90%の参加者から満足評価を得ており、利益実感のある内容でした。ワークショップの狙いとしていた、参加者の意識変革や経営との意見交換、ヨコの繋がり醸成については、本ワークショップ実施により効果を得られたと考えています。
アンケートでも意識変化に関する声が聞けたのはとてもよかったと思います。
また、同じレイヤー同士で話をすることで、それぞれの悩みや考え方など意外と知らなかった部分が見えたという声がありました。受講者から、更なる機会提供や別レイヤーでの実施について希望する声も複数ありましたので、継続的な全社横断サポート施策が必要とも考えています。
小杉 部長、次長に求められることとして、「自ら旗を握り、周囲をけん引する」ということを伝えてくれたのもよかったですね。よく「旗を立てる」という言い方をしますが、今回はあえて「旗を握る」と表現しています。自ら旗を立てる場合もあれば、経営陣が立てた旗を振りながら周囲をけん引することもあるためです。経営陣が立てた旗を振る場合でも、「自ら握る」ことができていれば、周囲の反対や抵抗にあったときに旗を手放さず、周囲を励ましながら前に進むことができます。このような説明をワークショップで説明していただいたおかげで、マインドが変わったのではないかと思います。
ーーー 今回の両立思考をテーマとしたワークショップについて、もっとこうだったらよかったと感じることを教えてください。
村上 時間が足りなかったという印象がありました。研修時間の設定とプログラム内容のバランスは改善できると感じています。
また、今回は部長層と次長層を対象としましたが、もう少し範囲を広げてみてもいいかとも思います。
今後の取り組み
自分とは異なる人との交流機会を設け、オープンなマインドを身につけてもらいたい
ーーー 今後、部長層、次長層向けにどのような施策を行っていきたいですか。
小杉 今回、両立思考をテーマとしたワークショップを実施し、その後受講者がどうなったのか、今回学んだことがどう活かされたのかについては、受講者に聞いて把握する必要があると思います。そこからさらに「これが知りたい、あれが知りたい」という要望があがってくれば、それらに対する打ち手も考えていきたいです。
村上 組織マネジメントに関して言うと、今後も今回のようなトレーニングは必要だと思います。ただ、一つトレーニングをやれば終わりではないと思うので、他の人とコネクトして学び取る機会なども必要なのではないかと考えています。
ーーー 今後、人事部としてどのような施策を行っていきたいですか。
小杉 教育チームの中で話していることとしては、全く異なる人たちと交流をすることで、目線を上げることができるのではないかということです。
今回のワークショップでは役員や他の組織の部長、次長と話ができ、目線を上げ、広げることができました。ここからさらに目線を広げるとなると、同業他社と一緒に研修をするのも面白いのではないかと思います。
また、それより少し狭めて、職種の壁を越えて同じ立場の社員が集まり研修をする機会も必要だと思います。今回のワークショップでは、複数の職種が同じ場に集まりました。職種を越えた交流の機会があると、新しい思考や手法に気づくことができます。また、みずほフィナンシャルグループ全体で他の会社と交流できるとよいですね。
みずほリサーチ&テクノロジーズの社員は、同じ業務を長期間担当しているメンバーも多いです。その道のスペシャリストが生まれやすいというメリットはあるのですが、弊害として自分の今いる場所から出る機会が少ないという点はあります。今後、自分たちとは異なる人と接する機会が多くなってくると思うので、オープンなマインドを持って様々なことを吸収できるようになってほしいです。そのための動機づけや意識づけを我々人事部は行う必要があるのではないかと思います。
アルーを選んだ理由
両立思考、パラドックスの概念を直球で吸収できるプログラムを提供できる会社
ーーー アルーのことはどこで知りましたか。
村上 アルーの落合さん、中村さんが監訳を行った『両立思考 「二者択一」の思考を手放し、多様な価値を実現するパラドキシカルリーダーシップ』という書籍で知りました。この書籍には私はもちろん、役員も目を通しています。
ーーー 今回、研修会社選定において重視した点は何でしょうか。
小杉 今回は、型にはまった研修パッケージでの実施をイメージしていなかったこともあり、複数の会社に相談ベースでお声がけをしました。
その中で、両立思考やパラドックスというテーマに直球でアプローチできるかどうかを重視しました。アルーのように直球ではなく、異なるアプローチでそのような思考を養うプログラムを提案してくれた会社もありました。ただ我々としては、両立思考、パラドックスの概念をまず直球で吸収できるプログラムを実施できる会社に依頼したいという思いがありました。
村上 「両立」という言葉にはたどり着きましたが、そこからどのように企画をしていけばよいのかはあやふやな状態からスタートしていました。そのため、研修プログラムをただ提示いただくというよりは、その研修プログラムを使ってどのようなやり方をしていくのがよいのかを一緒に考えていただける会社かどうかという点がポイントでした。
一緒に考えてくださる会社はアルー以外にもありましたが、想定より長期的なプログラムになってしまう会社もあり、バランスの取れているアルーを選びました。
ーーー 今回、アルーを選んだ理由は何でしょうか。
村上 上記でお話したことに加え、書籍の監訳をされた中村さんが検討初期から企画を一緒に考え、ワークショップ当日も講師として直接話してくださる点が大きかったです。
小杉 アルーは「役員にも直接課題をヒアリングしましょう」といった提案をしてくださり、フットワークの良さも感じました。企画を始めた当初は課題がまだシャープではなかったため、改めて課題を明確にするところが大切だということを理解し、並走してくれた点がありがたかったです。
また、提案内容や研修内容について、我々のことを理解して柔軟に対応してくれた点も評価しています。実は、初めにアルーと作った企画では、両立思考にフォーカスしてしっかり学ぶ内容でした。しかしワークショップを作っていく中で、「当社の課題はリーダーとしてどうあるべきかということであり、両立思考そのものよりもそちらが大切だ。両立思考は一つの手段にすぎない」という考えを理解いただき、ワークショップのタイトルや内容なども柔軟に変更してもらえました。
ワークショップ実施中にも、内容や順番、伝え方などを柔軟に変えていただきました。実は、1回目のワークショップの際に受講者の反応があまりよくなく、アルーに相談したところ、2回目は臨機応変にやり方を変えていただきました。結果として、1回目と違い2回目は改善されました。
私自身、1回目の受講者として参加し、受講者にとっては初めて聞く言葉がたくさんある中でお腹いっぱいになってしまうのではないかと感じていました。その際、人事部側が伝えたいことをうまく伝えるにはどうすればよいかを一緒に議論し、チューニングできたのはよかったです。
村上 1回目の受講者は、当ワークショップをアカデミックに感じたかもしれません。中には、大学の講義資料だという印象を持った受講者もいたのではないでしょうか。その課題に対して、チューニングしながら変えていただけたのはよかったです。ただ、見せ方、伝え方については、まだまだできることがあると感じています。
小杉 むしろアカデミックな感じがよいと感じる受講者もいるので難しいですね。自分もコンサルタントとしてアカデミックなことをやっているから、と中村さんと名刺交換した社員もいましたね。
村上 そこも両立かもしれないですね。
ーーー 今後、アルーにはどのようなことを期待しますか。
小杉 今回、アルーは我々の課題のヒアリングから入り、課題が何か落とし込み、その上で解決策を打ち出してくれました。
この先も我々は、様々な不透明な状況に置かれることがあると思います。その中で壁打ちをしてもらいながら、タイムリーな課題を解決する糸口について相談できたらありがたいです。
村上 これからも変わらず、一緒に考えていただきたいです。我々が持っていない目線をアルーは持っており、アルーが持っていない目線を我々は持っています。一緒に考えながら解決策を探し、実践まで一緒に走ってもらえることを期待しています。コンテンツ提供ありきの会社も沢山あるなかで、今回のような形で一緒に入ろうとしてくださる研修会社は、そんなに多くないのではないかと思っています。
ーーー お二人にとってアルーはどのような存在でしょうか。
小杉 困ったときに助けてくれるパートナーです。モヤモヤしていた中を走らなければならないという局面だったので、そこで光を照らし、一緒になって方向性を考えてくれた点がありがたかったです。
村上 「伴走者」「並走者」のような存在だと思っています。
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アルー営業担当からの一言