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「働かないおじさん」現象の正体と解決策——組織・マネジメント・本人の3層で読み解く

「働かないおじさん」という通称を、見聞きしたことはないでしょうか。周囲の若手や中堅から不満の声が上がり、上司としても手をこまねいている——そんな状況に置かれている人事担当者や管理職は少なくありません。

「本人だけの問題ではない。会社側の制度や上司のマネジメントに原因があるのではないかと思うが、どこから手を付けたらいいか分からない」と感じている方も多いはずです。また、「研修や1on1を実施したところで、40代後半から50代の社員が本気で変化することは現実的に可能なのだろうか」という懸念の声も少なくありません。

この記事では、「働かないおじさん」という通称が生まれた現象を組織構造、マネジメント、本人の3層モデルで分解し、5つの類型別の解決策、人事や上司が明日から実践できるマネジメント手法、法的観点の実務ポイントまでを、人材育成の観点から整理して解説します。

この記事でわかること

  • 「働かないおじさん」の定義と、生まれる構造的な原因(3層モデル)
  • 5つの類型(ぶら下がり型、逃げ切り型、スキル陳腐化型、環境不適応型、期待縮小型)別の解決策
  • 人事や上司が明日から動かせる1on1や役割再定義、リスキリング設計
  • 降格、配置転換、退職勧奨の法的実務ポイント
  • 中堅段階から「働かないおじさん」化を防ぐ組織施策

この記事の監修者

落合 文四郎

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎

1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。

「働かないおじさん」とは——定義と、なぜいま職場問題として語られるのか

「働かないおじさん」とは

「働かないおじさん」とは、一般に年齢や勤続年数に見合ったパフォーマンスや役割貢献を発揮できていないミドルシニア世代の社員を指す通称です。給与水準は勤続年数や年功に応じて高い一方、業務アウトプットや組織への貢献度がその水準に見合わないと周囲から見られている状態を指します。

この言葉は、個人のパーソナリティを決めつけるものでも、本人の能力、意欲、環境要因を精緻に切り分けた診断名でもありません。中には「本人はやる気があるのに、役割がアサインされていないだけ」「スキルの再学習の機会が与えられていないだけ」というケースも含まれます。

いま職場問題として語られる背景

近年、この言葉が急速に人事課題として取り上げられるようになった背景には、複数の構造変化があります。

  1. 終身雇用と年功序列を前提とした人事制度が、事業環境の変化スピードに追いつかなくなったこと:
    かつては「年齢とともに役割や報酬が上がる」ことが前提でしたが、事業ポートフォリオの入れ替えやDX(デジタルトランスフォーメーション)対応の必要性が高まる中で、過去の成功体験だけでは通用しない役割が急増しました。
  2. 役職定年後やポストオフ後のキャリアパスが制度化されていない企業が多いこと:
    管理職を外れた後、明確な役割や処遇のパスが設計されておらず、本人も上司も何を期待していいかわからない状態に陥ります。
  3. 若手や中堅の視点から見た課題の可視化が進んだこと:
    SNSや社内サーベイを通じて、周囲のミドルシニアへの不満が組織全体のエンゲージメント低下として表面化するようになりました。

ラベルで語ることの落とし穴

ここで重要な視点があります。「働かないおじさん」という通称自体が、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)や年齢差別を含む表現だという点です。

「あの人は活躍できていない」といった一方的なラベル貼りは、社員本人の再活性化の可能性を上司自身が閉ざしてしまうリスクがあります。学術的にも、バンデューラの自己効力感理論に照らせば、周囲からの期待が下がれば下がるほど本人の自己効力感が低下し、実際のパフォーマンスも低下するという悪循環が生じやすいと指摘されています。

「指摘する側でいられるのは、たまたま今の年齢だからではないか。数年後には自分もそう呼ばれる側になるのではないか」——この視点を持ちながら、個人の資質問題ではなく構造の問題として捉え直すことが、実効性のある対策の出発点です。

「パフォーマンス低下したミドルシニア世代」5つの類型

このセクションでは、原因と解決策が異なる5つの類型を整理します。本類型は個人のパーソナリティを決めつけるものではなく、「周囲からそう見えてしまう構造」を理解するためのフレームです。一括りに語られがちですが、実際には原因も解決策も異なる複数のタイプが混在しており、全員に同じ研修を一律に実施しても効果は出ません。

類型5パターンの全体像(比較表)

以下の表に、5つの類型それぞれの主な特徴、原因、有効な解決策をまとめています。

類型

主な特徴

主な原因

有効な打ち手

1. ぶら下がり型

現状維持志向が強く、変化・挑戦を回避。仕事の範囲を最小化

長期雇用への安心感 / 評価と処遇の逆転リスクが小さい制度

役割再定義 / 評価制度の見直し / 1on1での期待明示

2. 逃げ切り型

定年までのカウントダウン思考。学習・変化への投資を意図的に停止

役職定年後のキャリアパス不在 / 再雇用後の処遇低下

セカンドキャリア設計支援 / 再雇用制度の再設計 / 貢献役割の再定義

3. スキル陳腐化型

意欲はあるが、市場が求めるスキルとのギャップが拡大

リスキリング機会の欠如 / DX対応の遅れ / 過去成功体験への固執

リスキリング / アンラーニング / 越境学習

4. 環境不適応型

過去は活躍していたが、組織変化・上司交代・異動で失速

マネジメント変化への追従不足 / 心理的安全性の低下

上司による役割再定義 / メンタリング / 配置転換

5. 期待縮小型

「もう自分は期待されていない」と受け止め、貢献意欲そのものが萎縮

シニア層への報酬一律カット / 役職定年 / 再雇用後の処遇低下といった人事施策からのメッセージ

期待役割の明示的な再定義 / 貢献可視化 / 制度メッセージと運用の整合

ぶら下がり型、逃げ切り型

ぶら下がり型は、現状維持を最優先し、新しい業務や責任範囲の拡大を回避する傾向にあります。表面的には「言われたことは最低限やる」状態ですが、周囲から見ると「もっとできるはずなのに動かない」と映るタイプです。

このタイプに一律のスキル研修を実施しても、意欲の壁を越えられないため効果は限定的です。むしろ上司との1on1で期待役割を明示的に再定義し、評価制度で発揮した役割を可視化することのほうが効果的です。

逃げ切り型は、定年までの残り年数を意識し、「もう変わる必要はない」と判断してしまっているタイプです。特に役職定年を経験した層に多く見られます。

このタイプへの解決策は、引退までの消化試合ではなく「セカンドキャリアとしての新しい役割」を設計することです。技術伝承、後輩育成、地域活動との橋渡しなど、これまでの経験を活かせる貢献の形を再定義することが有効です。

スキル陳腐化型、環境不適応型

スキル陳腐化型は、意欲はあるものの、市場や社内が求めるスキルセットとのギャップが広がってしまったタイプです。DX対応、データ活用、新しい業務プロセスなどに追いつけず、結果として「扱いづらい人材」と見られてしまいます。
このタイプには、リスキリング(学び直し)とアンラーニング(過去の成功パターンの意識的な手放し)をセットで設計することが有効です。特に越境学習(社外プロジェクトへの参画や他社との合同研修)は、閉じた社内で失った学習動機を取り戻す手段として注目されています。
アンラーニングについて詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:アンラーニングとは?具体例ややり方、ビジネスでの重要性をプロが解説

環境不適応型は、過去には高いパフォーマンスを発揮していたものの、組織変化、上司交代、異動などをきっかけに失速してしまったタイプです。本人の能力や意欲は損なわれていないケースも多く、上司による役割の再定義と心理的安全性の確保が回復の鍵になります。

期待縮小型

期待縮小型は、本人の意欲や能力の問題というよりも、会社側が発する制度的メッセージによって「もう自分は期待されていない」と受け止め、貢献意欲そのものが萎縮してしまったタイプです。シニア層への報酬一律カット、役職定年、再雇用後の処遇低下といった人事施策は、経営としては合理的な意図で導入していても、社員本人には「これまでの貢献は評価されない」「これから頑張っても報われない」というメッセージとして届いてしまいます。

このタイプが難しいのは、本人の能力や意欲は損なわれていないにもかかわらず、制度からのメッセージを受けて発揮するのをやめている状態にある点です。周囲からは働かないように見えても、内面では「頑張っても無駄だ」という諦めが形成されており、単なるスキル研修や1on1だけでは変化を期待できません。

解決策としては、以下の3点が有効です。

  • 制度メッセージと運用のギャップを埋める:処遇は変えても期待している役割は具体的に伝え続ける
  • 新しい期待役割を明示的に再定義する:技術伝承、後輩育成、専門領域の深耕など、報酬に紐づかない貢献の形を上司が言語化する
  • 発揮した貢献を可視化する:評価制度、表彰、社内発信でしっかり評価していることを示す

制度設計と現場運用の両輪で整合させないと、経営が意図しない「期待縮小型」を制度側が生み出してしまうリスクがあります。

ミドルシニア世代のパフォーマンス低下が生まれる要因

「ミドルシニア世代のパフォーマンス低下」を個人の資質問題として片付けてしまうと、実効性のある解決策は生まれません。ここでは要因を「組織構造」「マネジメント」「本人」の3層モデルで分解して整理します。

組織構造要因(年功序列、役職定年、キャリア停滞、人事施策の副作用)

組織構造の層では、以下のような制度や慣行が背景となります。

  • 年功序列的な報酬制度により、貢献度と処遇が乖離しても是正されにくい
  • 役職定年後のキャリアパスや役割定義が制度として用意されていない
  • 40代以降のキャリア形成支援(キャリア面談や研修)が実質的に機能していない
  • 事業ポートフォリオの変化に対応した配置転換やリスキリングの仕組みがない
  • 昇進以外の成長ルートが制度化されていない
  • シニア層への報酬一律カットや再雇用後の処遇低下など、経営合理性のある人事施策が「期待されていない」というメッセージとして本人に届き、貢献意欲を萎縮させる

これらは個々の上司や本人の努力では変えられない経営課題であり、人事制度やキャリア制度の設計論として取り組む必要があります。特に最後の副作用は、制度設計時の意図と現場での受け止めが乖離することで期待縮小型を生み出す要因となるため、制度メッセージと運用の整合を意識的に設計する必要があります。

マネジメント要因(1on1不全、役割再定義の欠如)

マネジメントの層では、上司の関わり方が課題を加速させたり、逆に食い止めたりする決定的な要素となります。
1on1が「業務進捗確認」に終始し、キャリアや役割の対話ができていない
年上部下との関係構築に上司自身が苦手意識を持ち、放置状態になる
異動、組織改編、役職定年などのタイミングで期待役割の再定義がされていない
フィードバックで気を遣いすぎて具体性を欠き、行動変容の起点にならない
評価が発揮された役割ではなく勤続年数に引きずられる
年上部下のマネジメントについて詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:年上部下を味方にするマネジメント法とは?年上部下との接し方でリーダーが心掛けるべき3つのポイント

本人要因(アンラーニング不足、自己効力感の低下)

本人の層でも、以下のような状態が要因となります。

  • 過去の成功パターンへの固執(アンラーニングの不足)
  • 自己効力感の低下(今から変わっても遅いという認知)
  • キャリアの棚卸しや自己理解の機会がないまま年数が経過している
  • 変化への回避行動が習慣化している
  • リスキリングへの心理的抵抗

ただし、これらは本人が自分で変われないわけではなく、組織側の関わりで再起動させられる余地が十分にあります。Banduraの自己効力感理論では、小さな成功体験(直接的な遂行経験)を積むことが自己効力感回復の最も強力な手段だとされています。上司が小さく成功できる役割を意図的にアサインすることは、本人の内面変容の起点になります。

「ミドルシニア世代のパフォーマンス低下」を放置した場合のリスク

言っても変わらないからと放置してしまうと、対象社員本人の問題を超えて、組織全体に波及するリスクが生じます。

本人、チーム、組織への影響

本人への影響は、自己効力感のさらなる低下と、成長機会の喪失です。放置されるほど「自分は期待されていない」というメッセージが強化され、変化への動機が失われていきます。

チームへの影響は、業務の偏りと役割の不透明化です。「あの人には任せられない」という判断が続くと、周囲の若手や中堅に業務が集中し、彼らの負荷とストレスが増大します。

組織への影響は、労働生産性の低下、人件費と貢献度の逆転、そして評価制度への信頼失墜です。「頑張っても頑張らなくても同じ処遇なら…」という認知が組織全体に広がると、若手層のエンゲージメントが大きく下がります。

若手や中堅のエンゲージメント低下という二次被害

特に見落とされがちなのが、周囲の若手や中堅への二次被害です。「あの先輩のようにはなりたくない」という強い忌避感が生まれると同時に、「頑張っても処遇に反映されないのでは」という制度不信が組織全体に広がります。

これは若手の離職やエンゲージメント低下として顕在化し、結果として本人の問題にとどまらず、若手層の定着問題として跳ね返ることになります。

人事や上司ができる対策——類型別の打ち手マップと行動変容の運用ステップ

ここからは、人事や上司が明日から実践できる具体策を整理します。類型別に解決策を提示することと、「わかる」で終わらせず「できる」まで定着させる運用ステップの2つが柱です。

類型別の打ち手マップ

前掲の5類型ごとに、優先すべき打ち手を整理します。

類型

上司の打ち手

人事の打ち手

1. ぶら下がり型

1on1で期待役割の再定義 / 小さな挑戦のアサイン

評価制度の見直し / 役割等級制度の導入検討

2. 逃げ切り型

セカンドキャリア対話 / 技術伝承役割の付与

セカンドキャリア研修 / 再雇用制度の再設計

3. スキル陳腐化型

リスキリング機会の提供 / 越境学習への送り出し

リスキリング体系構築 / 越境学習プログラム設計

4. 環境不適応型

心理的安全性の回復 / 小さな成功体験のアサイン

メンタリング制度 / 配置転換の選択肢提示

5. 期待縮小型

新しい期待役割の明示的な言語化 / 貢献を上司から可視化して伝え返す

制度メッセージと運用の整合設計 / 貢献可視化の仕組み(表彰・社内発信)

上司が明日から動かせる1on1、役割再定義の設計

上司が現場で動かせる打ち手のうち、最も即効性があるのが1on1における役割再定義の対話です。以下のような問いかけを1on1のなかで意図的に扱うことが有効です。

  • 「これまでのキャリアで、一番やりきったと感じた仕事はどんな仕事でしたか?」(強みの言語化)
  • 「今の役割で、ご自身が最も価値を出せていると感じる場面はどこですか?」(現在地の確認)
  • 「これから3年、この組織に対してどんな形で貢献したいですか?」(役割の再定義)
  • 「そのために、私(上司)や会社ができるサポートは何ですか?」(支援の具体化)

こうした問いかけは、単なる気を遣った声かけではなく、本人の自己理解と役割再定義を促す体系的な対話として設計する必要があります。特に期待縮小型の対象社員に対しては、「制度としての処遇」と「上司としてあなたに期待している役割」を分けて明示的に伝えることが、対話の出発点になります。
1on1について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:1on1とは?話すことの例や意味がないと言われないための進め方

人事が制度で支援するリスキリング設計

人事側の解決策として、以下の3点は特に効果が高い施策です。

  1. リスキリングとアンラーニングをセットで設計する:
    新しいスキル習得だけでなく、過去の成功パターンを意識的に手放すアンラーニングの機会を組み込みます。両者は表裏一体であり、片方だけでは変化は起きません。
  2. 越境学習を組み込む:
    社外プロジェクト、他社との合同研修、出向など、閉じた社内では失われた学習動機を取り戻す機会を設計します。異なる文化や価値観との接触が、自己の相対化と再定義を促します。
  3. セカンドキャリア研修を50代後半に向けて重視し、設計する:
    定年前ではなく役職定年前後のタイミングで、自分の価値の棚卸し、強みの言語化、Will-Can-Must(やりたいこと、できること、やるべきこと)の再整理を行うことが有効です。期待縮小型を生み出さないためには、制度改定(報酬見直しや役職定年など)とセットで、新しい期待役割を言語化する機会を組み込むことが重要です。

行動変容を定着させる運用ステップ(研修後3か月の見える化)

研修や1on1を単発で実施しても、行動変容には至りません。「わかる」から「できる」まで定着させるには、実施後3か月時点の行動変容測定を組み込むことが有効です。

具体的なステップとしては以下のような設計が考えられます。

  1. 研修前:本人および上司それぞれに現状の役割認識と期待役割をヒアリング
  2. 研修中:役割再定義とアクションプランの言語化(本人が上司に宣言)
  3. 研修後1か月:上司との1on1で実践状況を確認し、追加支援を明示
  4. 研修後3か月:360度サーベイまたは上司評価で行動変容を測定
  5. 研修後6か月:組織成果(部下エンゲージメントやチーム成果)への波及を確認

この「実施後3か月の見える化」を設計に組み込むことで、単発研修の形骸化を防ぎ、本当にできるまで到達しているかを組織として把握できるようになります。

🔗おすすめ資料:シニア研修のおすすめプランと成功事例

法的観点で押さえるべきポイント

対応を進めるにあたっては必然的に人事権行使の場面と重なります。配置転換、降格、退職勧奨などを検討する際には、法的リスクを整理しておく必要があります。

配置転換、降格、退職勧奨の実務判断

日本の労働法制のもとでは、以下の点が実務上のポイントとなります。

  • 配置転換:
    職種限定契約でない限り、業務上の必要性と本人への配慮のバランスで判断されます。
  • 降格(職能資格降格、役職降格):
    職務給等の導入により一定の運用は可能ですが、就業規則上の根拠が必要です。また、過去の判例でも「事前の客観的評価」「十分な説明」「改善機会(PIP)の付与」がない降格は無効とされるケースが多いため、手続きは慎重に行う必要があります。
  • 退職勧奨:
    あくまで「勧奨」であり、面談回数や時間、発言内容によっては「退職強要」として違法性を問われるリスクがあります。必ず事前に弁護士等の専門家へご相談ください。本人の意思決定を尊重する形で進める必要があります。なお、労働者の自由な意思決定を阻害しないための具体的な手続や法的な要件については、実施前に必ず弁護士などの専門家へご確認ください。
  • 普通解雇:
    解雇権濫用法理により、日本ではハードルが高いのが実情です。改善機会(PIP:Performance Improvement Plan、改善計画)などの提供とその記録が重要になります。

これらはいずれも、「なぜその判断に至ったか」を客観的な事実で説明できる材料を積み上げることが前提です。1on1の記録、パフォーマンス評価の履歴、改善機会の提供実績などが判断の裏付けとなります。

一律の決めつけが招く法的、組織的リスク

上司や周囲による一方的な扱いが、パワーハラスメント認定や年齢差別として問題視されるリスクもあります。

「働かないおじさん」というラベル自体が、無意識の偏見やエイジズムを内包しうる表現である以上、対応の起点をラベル貼りではなく「役割と成果の再定義」に置くことが、法的、組織的リスクを回避する意味でも重要です。

ミドルシニア世代のパフォーマンス低下・キャリア停滞を防ぐ方法

対処療法だけでなく、そもそも中堅段階から課題化を予防することも重要な人事施策です。

中堅段階で介入する意味

停滞のパターンを見ると、多くのケースで30代後半から40代前半のミドル期の停滞が起点になっていることがわかります。この時期に以下のような状態が放置されると、その後10年で課題が進行してしまいます。

  • 昇進や役割変化が止まったまま、新しい役割獲得の機会がない状態が続くこと
  • キャリア面談やキャリア研修の機会がなく、次の10年のビジョンが描けないこと
  • 変化への挑戦を回避する行動パターンが定着してしまうこと
  • 家庭や健康の変化と重なり、変化への心理的余力が低下すること

「40代後半から50代の社員が本気で変化することは現実的に可能なのだろうか」という懸念を持つ方もいるかもしれませんが、その手前の中堅段階で介入することが、最も費用対効果の高い予防策になります。

予防のための組織施策4視点

中堅段階での予防として、以下の4つの視点で施策を組むことが有効です。
キャリア自律の促進:30代後半から40代前半のキャリアデザイン研修や自己理解の機会を提供
役割変化の設計:昇進以外の成長ルート(専門職やプロジェクトリーダーなど)を制度化することが求められる
リスキリング習慣の定着:越境学習、社内公募、自己啓発支援など、継続的な学習機会の設計
上司の関わり方の変革:ミドル層への1on1、キャリア面談スキルの育成
40代のキャリア開発について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:40代社員のキャリア開発とは?将来にモヤモヤしている40代社員に必要なキャリア自律と新たな挑戦のイメージ

シニア社員のモチベーション向上事例

アルーがシニア社員のキャリア再設計に関わった事例の中から、本記事のテーマに最も近い1件を紹介します。50代後半社員のキャリア自律を、単なる引退準備ではなく「これまでの経験を価値として再定義する対話」として設計した事例です。

インフラ業界におけるシニア社員のキャリア自律研修

規模・対象者

大手インフラ企業では、再雇用制度の刷新を控えた50代後半の社員を対象に研修を実施しました。管理職と非管理職を横断した受講で、数百名規模の対象者に対して段階的に導入を進めました。

課題

受講した社員の多くが、再雇用後の処遇や役割変化に対して受動的、消極的な姿勢を持っていました。「これまでの経験や貢献が正当に評価されなくなるのでは」という不安と、「今から新しいことを学び直すのは難しい」という自己効力感の低下が重なっていました。一律のキャリア研修だけでは、この内面の壁を越えられないという課題を抱えていました。

実施した施策

最も特徴的だったのは、「これまでの棚卸し」ではなく「自分との向き合い」をゴールに据え直したことです。過去のキャリアを整理するだけでは、再雇用後の主体的な役割設定には繋がりません。

そのため、「強みの言語化」と「適応課題(既存のスキルや知識だけでは解決できず、価値観や意識そのものの改革を伴う課題)への気づき」を軸に、グループワークを通じて自分自身の価値観を掘り下げていく設計としました。事前アンケートを活用し、参加者の背景に応じた小グループ編成で、近しい経験を持つ受講者同士が対話できる環境を整えました。オンライン中心の開催で参加ハードルを下げつつ、内省の深さを担保しました。

成果

受講者からは、「自分の強みを棚卸しし、周囲からの期待を客観視できたことで、自身が貢献できる領域が多く存在することに気づいた」「適応課題に向き合うという視点を得たことで、自分の影響を広げていけるイメージが湧いた」という感想が得られました。適応課題に踏み込む設計を通じて、受講者が自分と周囲との関係性や期待の捉え方を調整し、自分らしい影響力の広げ方を見出せていることを確認できました。

設計のポイント

参加者間の経験差や志向の差を前提に、小グループ編成と対話設計で個別性を担保したことが奏功しました。加えて、単なる強みの棚卸しにとどめず、適応課題(自分の価値観や信念体系そのものの調整が必要な、答えのない課題)に踏み込む設計としたことが重要なポイントです。
技術的課題(既存の知識やスキルで解決できる課題)だけを扱うと「今さら学び直しても…」という自己効力感の壁で終わってしまいますが、適応課題に向き合うことで、受講者は自分と周囲との関係性や期待の捉え方そのものを調整し、報酬や役職に依存しない「自分らしい影響力の広げ方」を再定義できるようになります。「引退準備」ではなく「これからの主体的な役割設定」という前向きなゴール設定に置き換えたことと合わせ、受講者一人ひとりに寄り添った効果的なアプローチとなりました。

弊社アルーはミドルシニアのキャリア再設計に活用できる「キャリアデザイン研修」を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。
🔗研修サービス詳細:キャリアデザイン研修

まとめ

「働かないおじさん」という呼称が生まれた現象は、個人の資質問題として片付けるべきものではありません。本記事で整理した通り、組織構造、マネジメント、本人の3層モデルで原因が絡み合い、5つの類型(ぶら下がり型、逃げ切り型、スキル陳腐化型、環境不適応型、期待縮小型)ごとに有効な解決策も異なります。特に期待縮小型は、経営合理的な人事施策が意図せず生み出してしまうタイプであり、制度メッセージと現場運用の整合が不可欠です。

解決策として重要なのは以下の4点です。

  1. 類型に応じて解決策を出し分けること
  2. 上司の1on1と役割再定義で本人の自己効力感を回復させること
  3. 人事側でリスキリング、アンラーニング、越境学習を組み込むこと
  4. 実施後3か月時点で行動変容を可視化し、「わかる」で終わらせないこと

加えて、中堅段階から予防的にキャリア自律を促す施策を組むことで、将来の停滞を防ぐことができます。

一方的なラベル貼り自体を問い直し、個人の資質ではなく構造の問題として捉え直す視座を持つことが、実効性のある人事施策の第一歩です。自社で明日から取り組める解決策を1つでも上司や経営に提案する材料として、本記事を活用いただければ幸いです。

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よくある質問(FAQ)

Q

「ミドルシニア世代のパフォーマンス低下」は本人の意識の問題ではないのですか?

A

本人要因はもちろん存在しますが、それ以上に組織構造(年功序列、役職定年、キャリア停滞、人事施策の副作用)とマネジメント(1on1や役割再定義の欠如)の要因が大きく影響しています。特に、シニア層への報酬一律カットや役職定年といった人事施策が「もう期待されていない」というメッセージとして届き、貢献意欲が萎縮する期待縮小型のように、制度側が生み出しているケースもあります。個人の資質問題として片付けると解決策が意識改革研修に閉じてしまい効果が出ません。3層モデルで原因を分解することが起点となります。

Q

40代後半から50代でも本当に変わることができますか?

A

適切な設計であれば可能です。Banduraの自己効力感理論では、小さな成功体験(直接的遂行経験)が自己効力感回復の最も強力な手段だとされています。上司が小さく成功できる役割を意図的にアサインし、1on1で言語化し、行動変容を3か月時点で可視化することで、内面変容は現実に起こります。ただし、一律の研修を一度実施しただけで変わることは稀です。

Q

降格や配置転換は法的に可能ですか?

A

就業規則上の根拠、業務上の必要性、対象社員への十分な説明や改善機会の提供などの前提が整っていれば運用の余地はあります。ただし解雇はハードルが高く、いずれの場合も客観的な事実で判断根拠を説明できる材料の蓄積が不可欠です。個別ケースは労働法の専門家への相談を推奨します。

Q

中堅段階で予防するには何から始めればよいですか?

A

まずは30代後半から40代前半のミドル層に対するキャリアデザイン研修と1on1の質向上から着手することを推奨します。この時期にキャリア自律の機会を提供し、上司が期待役割の再定義対話を継続的に行うことで、その後10年の停滞を予防できます。制度側では、昇進以外の成長ルート(専門職やプロジェクトリーダーなど)の設計も併行して検討する価値があります。

アルー株式会社
アルー株式会社
20年以上、企業向けに人材育成コンサルティングや研修を提供してきた。新入社員・管理職といった階層別研修や、海外駐在員やグローバルリーダーなどのグローバル人材育成、DX人材育成に強みを持つ。その実績は取引企業総数1400社以上、海外現地法人取引社数400社以上に及ぶ。京都大学経営管理大学院との産学連携など、独自の研究活動も精力的に行っている。

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