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離職率を下げるには?原因診断から90日ロードマップまで人事の実務手順

離職率を下げるには、施策を並べる前に「自社ではなぜ人が辞めているのか」を診断することが先決です。原因を特定しないまま1on1や福利厚生に手をつけても、施策と原因がミスマッチを起こして効果が出ません。「離職率は本当に下げられるのか、ある程度は防ぎようがないのではないか」という懸念の声も少なくありません。本記事では、原因診断のフローから原因別の優先施策、90日ロードマップ、管理職の関わり方、効果測定KPIまで、現場でそのまま使える手順を解説します。

この記事でわかること

  • 離職率の計算式と、1人離職が経営に与える損失インパクト
  • 衛生要因と動機づけ要因の2つの視点で離職原因を診断する手順
  • 原因別の優先施策マッピングと90日実行ロードマップ
  • 管理職が離職の兆候を早期検知する1on1質問例と介入スクリプト
  • NG施策と正しい代替策、効果測定KPI設計

この記事の監修者

落合 文四郎

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎

1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。

離職率の定義や計算式と放置した場合の経営インパクト

離職率は「一定期間内に退職した社員数 ÷ 期首時点の社員数 × 100」で算出される、人材の定着度合いを示す基本指標です。ただし数値だけを追うと本質を見誤ります。まずは計算式や業界平均、放置した場合の経営損失を押さえ、施策の必要性を経営層に説明できる論拠を持ちましょう。

離職率の計算式と業界平均の目安

離職率の計算式は、対象期間の切り方によって数字が大きく変わります。年間離職率であれば「1年間の離職者数 ÷ 1月1日時点の在籍者数 × 100」、新卒3年以内離職率であれば「3年前に入社した新卒者のうち、3年以内に離職した人数 ÷ その年度の新卒入社者数 × 100」です。

厚生労働省「令和7年雇用動向調査」によると、正社員を中心とする一般労働者の離職率は11.4%、パートタイム労働者を含めた産業計では13.7%です。産業計は過去10年、13〜15%台のレンジで推移しています。新卒3年以内離職率は大卒で33.8%と、約3割の水準が長年続いています。

自社の離職率が業界平均より高いのか低いのかを比較する際は、必ず同じ計算式や同じ属性(新卒や中途、階層、職種、就業形態)で見る必要があります。とくに厚労省の「離職者」には解雇や定年退職も含まれ、同一企業内の他事業所への転出は含まれません。自社で自己都合退職のみを数えている場合、そもそも分子の定義が違います。

また全社平均だけで判断すると、特定部門や特定階層の深刻な離職が全体平均に埋もれて見えなくなります。属性別に分解して初めて、「若手中途の3年以内離職が突出して高い」といった打ち手に直結する課題が見えてきます。

1人離職の損失試算

離職対策の予算を経営層に上申する際、「1人辞めるといくら損するのか」を試算した論拠が必須です。一般的に、1人の離職コストは離職する社員の年収の0.5〜2倍とされます。内訳は、採用コスト(求人広告やエージェント費用、面接工数)、オンボーディングコスト(入社研修やOJT担当者の工数)、業務引継ぎ期間中の生産性低下、周囲メンバーの負荷増加による二次離職リスクなどです。

たとえば年収500万円の中堅社員が1人離職した場合、控えめに0.7倍で試算しても350万円の損失になります。年間10人の離職が発生している組織であれば、それだけで年間3,500万円のコストが発生している計算です。この試算を提示すると、「離職対策は福利厚生の話」ではなく「経営投資の話」として稟議が通りやすくなります。

離職率を下げる本当の意味と誤解

離職率を下げること自体を目的化してしまうと、離職を防ぐ仕組みに走り、辞めるべき人が辞められない、組織が停滞するという副作用が生まれます。本来目指すべきは定着してほしい人材が残留する状態であり、パフォーマンスの低い層や価値観の合わない層まで無理に引き止めることではありません。

「本質的には管理職の関わり方の問題であり、人身の取り組みだけでは限界があるのではないか」という懸念も散見されます。管理職の関わり方の質が定着に大きく影響するのは事実ですが、その管理職を動かす仕組み(1on1の設計や兆候検知の運用、管理職育成)を作るのは人事の役割です。管理職個人の資質に任せず、組織として再現性ある仕組みを設計することが、人事にできる本質的な貢献となります。

社員が離職する主な原因と衛生要因、動機づけ要因の2つの視点

離職原因を整理する際、単に「給料」「人間関係」と列挙するだけでは打ち手が散らかります。ハーズバーグの二要因理論を現場で活用できる形に置き換えた「衛生要因と動機づけ要因」の2つの視点で捉えると、原因と施策が構造的に対応します。衛生要因は不満を解消する要素、動機づけ要因は貢献理由を創造する要素であり、両方が揃わないと定着しません。

衛生要因(労働条件、人間関係、評価、処遇)の類型

衛生要因は、満たされていないと不満を生むが、満たされても積極的な満足にはつながらない要素です。具体的には、給与や労働時間、休日休暇などの労働条件、上司や同僚との人間関係、公正な評価制度、福利厚生などが該当します。衛生要因が満たされていない状態は辞める理由に直結するため、まずここを最低ラインまで整えることが離職対策の前提となります。

たとえば「残業が慢性的に月60時間を超えている」「評価基準が不透明で納得感がない」「上司からのハラスメント傾向がある」といった状態を放置したまま、動機づけ施策(キャリア研修や1on1)だけを追加しても効果は出ません。衛生要因の欠落は施策で覆い隠せないためです。

動機づけ要因(貢献理由、成長実感、裁量)の類型

動機づけ要因は、満たされると積極的な満足と貢献意欲を生む要素です。仕事そのものの意義、達成感、成長実感、責任と裁量、承認、キャリア展望などが該当します。動機づけ要因は辞めない理由を作る側であり、衛生要因を整えた上でここを設計しないと、優秀層ほど「不満はないが、ここにいる積極的な理由もない」という状態で他社に流出していきます。

「自分の仕事が誰にどう役立っているかが実感できない」「3年後の自分がイメージできない」といった声は、動機づけ要因の欠落サインです。これは給料や休日休暇では解消できず、上司との対話やキャリア支援、仕事の意味づけといった別レイヤーの施策が必要になります。

なぜ給与アップだけでは離職が止まらないのか

「給料を上げれば辞めないのではないか」と考える方もいるでしょう。しかし実際には、給与アップだけで離職を止めた組織はほとんど存在しません。理由は、給料は衛生要因であり、上げても短期的な満足しか生まないためです。数ヶ月経てば新しい給与水準が「当たり前」になり、動機づけ要因が欠落したままなら再び離職意向が生まれます。

さらに深刻なのは、給料アップは他社との相対比較で価値が決まる点です。競合他社が同水準の給与を提示すれば、給与を理由に選ばれた人材は再び流出します。一方、動機づけ要因(貢献理由や成長実感、上司との関係)は組織固有の価値であり、他社が容易に模倣できません。給料アップは不満解消の下限として必要ですが、それだけでは離職を防ぐことはできないという構造を理解することが出発点となります。

自社の離職原因を特定する診断フロー

施策を実行する前に、必ず自社の離職原因を特定してください。診断は「退職者インタビュー」「エンゲージメントサーベイ(全社員対象の定期的な意識調査)」「属性別クロス分析」の3手法を組み合わせるのが基本です。

退職者インタビューの設計と設問例

退職者インタビューは、最も生の声が取れる手法です。ただし在職中の上司が実施すると本音が出ないため、人事部または第三者が実施し、匿名で集計する運用が必須となります。設問は「事実確認」「感情の掘り下げ」「改善提案」の3層で設計します。

#

設問例

狙い

1

転職を考え始めたきっかけは何でしたか?

引き金となった具体的事象の特定

2

退職を決意した最も大きな理由を1つ挙げるとしたら何ですか?

決定要因の絞り込み

3

会社に残ることを検討した瞬間はありましたか?

引き止め可能性の探索

4

上司との関わり方について感じていたことを教えてください

管理職起因要因の把握

5

評価・処遇について納得できていた点、できなかった点は?

衛生要因(評価)の把握

6

仕事の意義や成長実感はどの程度ありましたか?

動機づけ要因の把握

7

同僚・チームとの関係で困っていたことはありますか?

人間関係要因の把握

8

会社が改善すべき点を1つ挙げるとしたら何ですか?

改善提案の収集

9

次の会社を選んだ決め手は何ですか?

他社との比較優位の把握

10

後輩・同僚に自社を勧められますか?その理由は?

eNPS(社員推奨度)的な総合評価

インタビューは1人あたり45〜60分、退職手続きを実施するタイミング(退職日前)に組み込むと、退職予定者の在籍情報が整理でき、本人も業務引継ぎの延長として自然に応じやすくなります。退職日を過ぎた後に依頼すると、連絡が途切れて回収率が大幅に下がりがちです。退職手続きの案内フローに「退職者インタビュー30分」を人事側から標準工程として組み込み、上司の同席は避け、人事部または第三者が実施することで本音を引き出す設計にしましょう。得られた回答は「衛生要因/動機づけ要因」「原因の起点(上司、制度、仕事内容、カルチャー)」の2軸で分類し、傾向を可視化します。

エンゲージメントサーベイの設問例と分析観点

退職者インタビューは離職した人の声ですが、エンゲージメントサーベイは現在在籍している人のうち、今後離職する可能性のある人を早期に把握する手法です。全社員を対象に四半期〜半年ごとに実施し、経年変化と部門別や階層別の差分を追います。設問は以下のカテゴリで20〜40問程度に絞ります。

  • 仕事の意義や貢献実感(動機づけ要因)
  • 成長実感やキャリア展望(動機づけ要因)
  • 上司との関係や支援(衛生要因+動機づけ要因)
  • 評価の納得感(衛生要因)
  • チームや同僚との関係(衛生要因)
  • 労働時間や裁量(衛生要因)
  • 会社への推奨意向(eNPS)

分析観点は絶対値より相対差分を重視します。全社平均が3.8点でも、特定部門が2.5点なら、その部門で何が起きているかを深掘りする必要があります。また、離職意向スコアが高い層と実際の離職者の傾向を照合すると、エンゲージメントサーベイの予測精度が把握でき、次回以降の設問改善につながります。

属性別クロス分析で原因を絞り込む手順

退職者インタビューとエンゲージメントサーベイのデータが揃ったら、属性別クロス分析で原因を絞り込みます。分析軸は「入社年次(新卒や中途)」「勤続年数」「階層(メンバーや主任、管理職)」「部門」「性別」「年齢層」の6軸が基本です。
たとえば「若手中途の3年前後で離職が突出している」「特定拠点の管理職層で離職意向が高い」といったパターンが見えれば、打ち手を全社一律ではなく該当セグメントに集中投下できます。逆に「全社的に動機づけ要因スコアが低い」という結果なら、経営レベルでのビジョン浸透やキャリア支援制度の再設計が必要という判断になります。
若手社員の離職を防ぐ具体的な原因分析と対策について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗 関連記事:若手社員の離職を防止するには?早期離職の原因と対策方法

【原因別】優先施策マッピング表

診断で特定した原因に対して、原因別に施策を対応させることで、施策と原因のミスマッチを防ぎます。ここでは衛生要因と動機づけ要因それぞれの打ち手と、原因別×階層別の優先施策マッピング表を提示します。

衛生要因への打ち手(労働条件、評価、人間関係)

衛生要因の欠落は辞める理由を作るため、最低ラインまで引き上げることが最優先です。労働条件(残業や休日)については、業務量の可視化や業務削減、要員配置の見直しが基本の打ち手となります。評価制度については、評価基準の明文化や評価者研修の実施、1on1での期中フィードバック強化が有効です。人間関係については、ハラスメント相談窓口の整備や管理職のコミュニケーション研修、チーム再編が主な打ち手となります。

ここで注意すべきは、衛生要因への打ち手は即効性はあるものの、持続的な効果は限定的という点です。整えても不満がない状態にしかならず、貢献意欲までは生まれません。衛生要因への投資は下限を守るものと位置づけ、動機づけ要因への投資と並行して進めます。

動機づけ要因への打ち手(貢献理由創造、キャリア支援)

動機づけ要因への打ち手は、上司との対話品質向上、仕事の意味づけ、キャリア支援の3本柱です。上司との対話品質向上は、1on1の設計や質問例の標準化、管理職育成が中核となります。仕事の意味づけは、担当業務が組織や顧客にどう貢献しているかを言語化する場(キックオフや振り返り会)の設計が有効です。キャリア支援は、キャリア面談やジョブローテーション、主体的な学習機会の提供が該当します。

動機づけ要因への打ち手は、成果が出るまで3〜6ヶ月かかりますが、効果が持続的で他社に模倣されにくいという特徴があります。衛生要因の下限を守った上で、ここに継続投資できるかが定着施策の成否を分けます。

原因別×階層別の優先施策マッピング表

主な原因

新卒〜若手

中堅

管理職

労働条件(残業・休日)

業務量の可視化、OJT負荷の見直し

業務削減、権限委譲

要員配置、業務再設計

評価・処遇

評価基準の説明、1on1での期中FB

評価者研修、キャリア面談

評価制度の再設計、経営との対話

人間関係・上司

メンター制度、相談窓口

チーム再編、1on1品質向上

管理職研修、コーチング

貢献理由・成長実感

オンボーディング設計、業務の意義づけ

ストレッチアサイン、キャリア面談

経営視点研修、次世代リーダー育成

キャリア展望

キャリアデザイン研修、若手選抜

ジョブローテーション、越境学習

経営幹部育成、後継者計画

カルチャー

理念浸透、同期コミュニティ

中堅社員研修、部門横断PJ

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)浸透、変革リーダーシップ

この表の使い方は、診断で特定した「原因×階層」のセルに該当する施策から着手するというシンプルなものです。「若手の評価納得感の低さ」が原因なら、まず1on1での期中フィードバック強化と評価基準の説明会から始めます。すべての施策を同時に走らせないことが重要です。

🔗おすすめ資料:早期退職の原因と人事部の実施するべき対策

離職率を下げるための90日ロードマップ

原因診断と施策マッピングができたら、実行順序を90日ロードマップに落とし込みます。「何から手をつけるべきか優先順位がつけられない」という悩みに対する回答が、この時系列の整理です。即日〜1週間、1〜3ヶ月、3〜6ヶ月の3フェーズで着手順序を決めます。

即日〜1週間で着手すること(データ整理、兆候検知体制)

初動で優先すべきは現状を可視化することです。追加の予算や制度変更が不要で、現場に負荷をかけずに始められる打ち手を先行させます。具体的には、直近12ヶ月の離職データを部門別や階層別、入社経路別に整理する、退職者インタビューの実施体制を人事内で決める、管理職向けに「離職の兆候チェックリスト」を配布する、といった動きです。

この段階で明確な成果は出ませんが、何が起きているのかを経営陣や現場と共有する土台ができます。この土台がないまま施策を実行しても、後で「なぜその施策なのか」が説明できず、効果測定もできなくなります。

1〜3か月で着手すること(管理職支援、1on1品質向上)

初動でデータが揃ったら、1〜3ヶ月かけて管理職支援と1on1品質向上に着手します。ここが定着施策の核であり、多くの組織で最も効果が出やすい領域です。具体的には、退職者インタビューの実施と分析、エンゲージメントサーベイの設計と初回実施、管理職向けの1on1質問例や兆候チェックリストの配布、離職意向が高い層への個別面談の実施などが該当します。

同時に、原因別施策マッピング表に基づいて「原因×階層」の最優先セルへの施策を1〜2つ選定し、パイロット部門で試行します。全社一斉展開ではなく、パイロットで手応えを掴んでから展開する方が、リスクを抑えられます。

3〜6か月で着手すること(制度、カルチャー変革)

パイロットで手応えが得られた施策は、3〜6ヶ月かけて全社展開や制度化していきます。管理職研修の全社展開、評価制度の見直し、キャリア支援制度の整備、MVV浸透施策などが該当します。この段階から効果測定KPI(離職率やeNPS、エンゲージメントスコア)の変化を追い始め、四半期ごとにレビューして施策を微調整します。

なお、3〜6ヶ月では制度やカルチャー変革の「着手」までしかできません。これらが定着するには1〜3年の期間が必要です。短期で結果を求めすぎず、長期的な取り組みとして経営陣と合意形成することが、施策を継続させる鍵になります。

離職率を下げるために管理職に求められること

離職施策の効果を決めるのは、最終的には現場の管理職の関わり方の質です。「上司の関わり方の質にバラつきがあり定着しない」という悩みは、管理職の会話設計を仕組みで底上げすることで解消できます。ここでは兆候チェックリスト、1on1質問例、介入スクリプト、育成アプローチの4点を扱います。

離職の兆候チェックリスト(勤怠、発言、関係性、成果)

離職の兆候は、勤怠、発言、関係性、成果の4領域に現れます。管理職が日常のマネジメントで意識的に観察できるよう、シンプルなチェックリストとして共有します。

  • 勤怠の変化:遅刻や早退、有給取得の急増、体調不良での欠勤増、月曜午前や連休明けの欠勤集中
  • 発言の変化:会議での発言減少、「別にいい」「なんでも」など投げやりな返答、将来の話題を避ける
  • 関係性の変化:同僚との雑談の減少、ランチや飲み会への参加辞退、社内チャットツールでの反応低下
  • 成果の変化:これまでできていた業務のミス増、締切遅延、質の急落、逆に「異様な引継ぎ整備」

これらのサインが2つ以上重なった場合、管理職は1on1で「最近どう?」を丁寧に確認する必要があります。ただし、詰問調で「辞めるつもりか」と直接聞くのは逆効果です。次に紹介する質問例で、状況を安全に把握します。

1on1で使える質問例と早期介入スクリプト

離職の兆候を感じた際、管理職が使える1on1質問例と介入スクリプトは以下です。Level 1(状態確認)からスタートし、信頼関係が築けている場合はLevel 2(原因探索)に進みます。

Level

質問例

狙い

Level 1(状態確認)

「最近どう?体調とか仕事の疲れとか」

心身の状態確認、話しやすさの担保

Level 1(状態確認)

「今の仕事で、時間を忘れて集中できる瞬間ってある?」

動機づけ要因の残存確認

Level 2(原因探索)

「今の役割で、モヤモヤしていることがあれば聞かせてほしい」

不満・違和感の言語化支援

Level 2(原因探索)

「3年後、どんな仕事をしていたい?今の環境でそれに近づけそう?」

キャリア展望の確認

Level 3(対話深化)

「今の状況で、私や会社に対して期待していることは何?」

引き止め可能性の探索

介入スクリプトの原則は、「解決策を急がない」「否定しない」「事実と感情を分けて聴く」の3点です。上司が「そんなことないよ、大丈夫だよ」と否定した瞬間、部下は本音を閉ざします。まず聴き切ることが、離職意向を下げる第一歩になります。
1on1の進め方と話すことがない場合の対処について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗 関連記事:"話すことがない"1on1面談にしないための注意点とは?上司も部下も苦痛な1on1面談にしないためのポイントを解説

管理職の会話品質を底上げする育成アプローチ

管理職の会話品質は、個人の資質任せにするとバラつきが避けられません。組織として底上げするには、「知識のインプット」「ロールプレイでの練習」「現場での実践と振り返り」の3段階で育成することが有効です。座学だけでは行動が変わらず、いきなり現場実践では自信を持って取り組めないためです。
具体的には、管理職向けに1on1の型や傾聴、フィードバック、キャリア対話のスキルを研修でインプットし、ケースを使ったロールプレイで練習し、現場で3ヶ月実践した後にフォローアップ研修で振り返る、といった設計です。行動変容には「わかる」から「できる」への転換が不可欠であり、単発研修では定着しません。
弊社アルーは、管理職の対話力や部下育成力を「わかる→できる」まで引き上げる「管理職研修」を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。
🔗研修サービス詳細:管理職研修

的外れな離職対策と正しい代替策

離職対策には「実施している感覚はあるが、逆効果になる施策」が存在します。ここではよくあるNG施策と、その根本原因に対応した正しい代替策を対比で示します。

一律の給料アップ、形骸化した福利厚生の落とし穴

「離職が増えたから給与を一律5%アップする」「社食を無料化する」といった打ち手は、短期的に不満は減りますが、原因が動機づけ要因にある場合は効果が見込めません。給与アップは衛生要因への投資であり、効果の持続性が限定的なうえ、他社に容易に模倣されて相対優位が消えます。福利厚生も、社員が本当に求めているものと乖離していれば「あって当たり前」の状態になり、感謝にもつながりません。

正しくは、まず診断で原因を特定し、衛生要因に問題があれば「どの衛生要因が」「どの階層で」満たされていないかを絞り込んでから、ピンポイントで投資します。全員一律の給与アップより、評価納得感が低い層への評価者研修と1on1強化のほうが費用対効果が高いケースが多くあります。

強制的な飲み会や単発研修が逆効果になる理由

「コミュニケーション不足だから飲み会を復活させる」「エンゲージメントを上げるためにキャリア研修を1回実施する」といった打ち手も注意が必要です。強制的な飲み会は、参加を望まない層にとっては負担に感じられ、逆に離職意向を高める可能性があります。単発研修は、研修中は意識が高まりますが、現場に戻ると元の状態に戻りやすく、行動変容につながらないためです。

正しくは、コミュニケーション課題であれば「日常業務内で対話が生まれる場(1on1やチーム振り返り、雑談時間)」を設計し、キャリア支援であれば「研修+1on1+現場での実践機会」を3ヶ月〜半年のスパンでセット設計します。実施すること自体ではなく、「行動が変わったか」で判断する視点が必要です。

NG施策と正しい代替策の対比表

NG施策

なぜ逆効果か

正しい代替策

闇雲な一律給与アップ

衛生要因への投資で上限効果が限定的、他社に模倣される

診断で特定した衛生要因の欠落セグメントへのピンポイント投資

形骸化した福利厚生の追加

社員ニーズと乖離、「あって当たり前」化する

エンゲージメントサーベイで求められている福利厚生を特定し、選択型で導入

強制的な飲み会・懇親会

参加を望まない層の離職意向を高める

業務時間内の対話設計(1on1・振り返り会・雑談時間)

単発のキャリア研修・モチベーション研修

研修中だけの盛り上がりで行動変容につながらない

研修+1on1+現場実践を3〜6か月でセット設計

退職者への「引き止め条件闘争」

一時的に留まるが不満は蓄積、周囲にも波及

兆候段階での早期介入、原因の構造的解消

全社一斉のエンゲージメント施策

部門ごとの原因が違うため効果が薄まる

パイロット部門での試行→効果検証→展開

施策の効果をどう測るか(KPI設計)

施策を実行しても、効果測定の仕組みがなければ実施しただけで終わり、経営層への継続的な予算獲得もできません。「経営層に離職対策の予算を上申したいが、投資対効果を示す論拠が用意できない」という悩みは、KPI設計とROI論拠の準備で解消できます。

離職率、定着率、eNPS、エンゲージメントスコアの使い分け

離職対策のKPIは複数を組み合わせて使います。単一指標では見えない側面があるためです。

  • 離職率:遅行指標。実際の離職結果を追う。四半期や年次で確認し、全社と属性別(新卒や中途、階層、部門)に分けて分析
  • 定着率:離職率の裏返しの指標であり、新卒3年定着率など特定グループを追うのに有効
  • eNPS(社員推奨度):「自社を友人や知人にどの程度勧めたいか」を0〜10で回答。先行指標として離職意向を予測できる
  • エンゲージメントスコア:エンゲージメントサーベイの総合スコア。仕事の意義や上司関係、成長実感などの複合指標であり、四半期〜半年で追う

先行指標(eNPSやエンゲージメントスコア)と遅行指標(離職率)を並行して追うことで、施策の効果が離職率に現れる前に手応えを掴めます。目標値の目安は、離職率は業界平均の80%以下、eNPSはプラス転換、エンゲージメントスコアは前回比+0.3ポイント以上、といった水準が現実的です。

稟議や上申に使えるROI論拠の作り方

経営層への稟議では、「施策コスト」と「削減される離職コスト」を並べて提示するのが基本です。前述の1人離職コスト試算(年収の0.5〜2倍)を使い、以下の構造でROIを示します。

たとえば「管理職研修 年間500万円の投資」を上申する場合、「対象部門の年間離職者数が10人→7人に減少すれば、年収500万円×0.7倍×3人減=1,050万円のコスト削減」という試算になります。ROIは(1,050 - 500)÷ 500 = 110% となり、初年度で投資回収が可能な水準です。さらに、離職者が減れば周囲メンバーの負荷減による二次離職防止や生産性維持効果も加わります。

このロジックで稟議書を作ると、「福利厚生の話」ではなく「経営投資の話」として通りやすくなります。稟議通過後は、必ず先行指標(eNPSやエンゲージメント)と遅行指標(離職率)の両方をレビュー資料に含め、施策の継続判断に使います。

効果測定を形骸化させない運用設計

KPI設計をしても、レビュー会議が形骸化すれば意味がありません。形骸化を防ぐ運用のポイントは3つです。

  1. 四半期ごとの定例レビュー会議を経営陣、人事、現場管理職の3者で実施し、数値の変化と現場の実感を突き合わせます。
  2. 目標未達の場合の対応策(施策の微調整や追加投資、撤退判断)を事前に決めておきます。
  3. 成功事例(改善が見られた部門や施策)を全社に共有し、横展開のトリガーにします。

「エンゲージメントサーベイを実施したが結果を配布して終わり」「離職率が下がらないが原因分析していない」という状態を放置すると、施策自体への信頼が失われ、次年度以降の予算獲得も困難になります。効果測定は実施するだけでなく「意思決定に使う」ものと位置づけることが本質です。

離職率を下げた成功事例

ここまで解説してきた「原因診断→原因別施策→管理職の関わり方」の設計が、実際にどのように機能するのかを、弊社が支援した1社の事例で具体化します。1on1の質を軸に管理職の対話力を底上げし、若手層の離職意向低下につなげた事例を紹介します。

管理職の対話力向上を軸に若手離職を抑えた事例

規模・対象者

弊社が支援したサービス企業(社員1,000名規模)では、管理職層100名超を対象に、部下との対話力向上を目的としたプログラムを実施しました。若手社員の入社3年前後での早期離職が課題となっており、上司の関わり方の質のバラつきが定着に影響しているという診断結果を踏まえた施策設計です。

課題

現場管理職の1on1が業務進捗確認に終始し、部下のキャリアや成長、悩みに踏み込めていない状況でした。退職者インタビューでは「上司が自分のことを見てくれていない」「キャリアの話をできる相手が社内にいない」という声が多く、動機づけ要因の欠落が離職の主因と特定されました。従来の管理職研修は座学中心で、現場での行動変容につながっていませんでした。

実施した施策

管理職に対する1on1品質向上プログラムを、ケースメソッドとロールプレイを軸に設計しました。事前に自組織の課題を持ち込み、研修内で傾聴の型や質問の階層、フィードバックの構造を実践的に習得しました。研修後は現場で1on1を実施し、数ヶ月後のフォローアップで振り返りと再学習を行う設計です。座学だけでなく、日常業務での実践から振り返り、再学習のサイクルを回すことで、理解から実践への転換を促しました。並行して、離職の兆候チェックリストと介入スクリプトも配布し、管理職の日常マネジメントに組み込みました。

成果

受講者からは「1on1をやってきたものの部下のことをあまり理解できていなかったことに気づいた」「部下の立場で、部下の見方で捉えるという発想が有用だと感じた。これまでは自分の立場でしか、部下の話を聴けていなかった」「部下の悩みは一緒に考えるだけでも良いという気づきを得た。これまでは解決しなければいけないと思い込んでいた」という声が挙がりました。1on1を通じて部下の立場や考え方を理解することの大切さを学び、部下の悩みや相談に対しては解決を必須と考えるのではなく寄り添うだけでも良いという認識の転換が起きています。

設計のポイント

特に効果的だったのは、管理職研修を単発で終わらせず「事前準備→研修→現場実践→フォローアップ」の3〜6ヶ月スパンで設計した点です。座学だけでは行動が変わらないという原則に忠実に、ロールプレイと現場実践を組み込んだことで、日常の1on1品質が底上げされました。また、離職の兆候チェックリストと介入スクリプトをセットで提供したことで、管理職が観察項目や対話内容に迷わなくなった点も再現性のある設計要素です。

まとめ

離職率を下げるには、施策を並べる前に「自社ではなぜ人が辞めているのか」を診断することが出発点です。衛生要因と動機づけ要因の2つの視点で原因を捉え、原因別に施策を対応させ、90日ロードマップで実行順序を決めます。管理職の1on1品質向上と兆候検知の仕組み化が、多くの組織で最も効果が出る核となります。効果測定は先行指標(eNPSやエンゲージメント)と遅行指標(離職率)を並行して追い、稟議や上申にはROI試算を必ず添えます。唯一の正解はなく、組織の規模や業種、文化で最適解は異なるため、診断から施策設計、実行、効果測定、再設計のサイクルを継続的に回すことが本質です。

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よくある質問(FAQ)

Q

離職率を下げる効果はどのくらいの期間で出ますか?

A

先行指標(eNPSやエンゲージメントスコア)は3〜6ヶ月で変化が現れ始めます。遅行指標である離職率への反映は6ヶ月〜1年半かかるのが一般的です。短期で結果を求めず、先行指標で手応えを掴みながら継続する設計が重要です。

Q

予算が限られている場合、まず何から着手すべきですか?

A

予算を使わずに始められる離職データの属性別分析と退職者インタビューの実施から始めてください。原因が特定できれば、限られた予算を最も効果が出るセグメントに集中投下できます。全社一律の施策より、パイロット部門での試行を優先します。

Q

管理職の質のバラつきは、人事の力でどこまで改善できますか?

A

管理職個人の資質に依存する部分は残りますが、1on1の型や質問例、兆候チェックリスト、介入スクリプトを仕組み化することで、全体の底上げが可能です。加えて、管理職研修を「事前準備→研修→現場実践→フォローアップ」の3〜6ヶ月スパンで設計すると、行動変容の再現性が高まります。

Q

エンゲージメントサーベイを実施しても本音の回答が集まらないのですが、どうすべきですか?

A

匿名性の担保(回答結果の個人特定不可の明示)、設問数の絞り込み(20〜40問)、実施主体を第三者にすること、結果を必ずフィードバックすることの4点が改善策です。特にエンゲージメントサーベイの結果がどう活かされたかを全社に共有すると、次回以降の回答率と本音度が上がります。

アルー株式会社
アルー株式会社
20年以上、企業向けに人材育成コンサルティングや研修を提供してきた。新入社員・管理職といった階層別研修や、海外駐在員やグローバルリーダーなどのグローバル人材育成、DX人材育成に強みを持つ。その実績は取引企業総数1400社以上、海外現地法人取引社数400社以上に及ぶ。京都大学経営管理大学院との産学連携など、独自の研究活動も精力的に行っている。

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