
静かな退職とは?兆候・原因・対策と「是正か許容か」判断フレーム
「最近、あの部下は必要最低限の仕事しかしない」「頑張っている素振りがなく、定時ぴったりに帰る」——そう感じたことはないでしょうか。こうした働き方は「静かな退職(クワイエット・クィッティング)」と呼ばれ、日本でも人材育成担当者の関心を集めています。
一方で、「契約通り働いているだけの社員に、上司が踏み込んで介入していいのか?」という疑問を持つ方も少なくないはずです。静かな退職は、一律に「悪」として是正するのが正しいとは限りません。
本記事では、静かな退職の定義・兆候・原因・リスクを整理したうえで、「是正すべきケース」と「許容・活用すべきケース」を切り分ける判断フレーム、そして1on1の質問例やチェックリスト、効果測定のKPIまで、実際の業務で活用できる形で解説します。
この記事でわかること
- 静かな退職の定義と、サイレント退職・働き方の多様化・働かないおじさんとの違い
- 兆候の見極め方(管理職向け・自己診断用の2種チェックリスト)
- 「是正すべきケース」と「許容・活用すべきケース」の判断フレーム
- 1on1で使える質問項目例と声かけスクリプト、施策効果測定KPI
- 管理職自身が静かな退職化するケースへの処方箋
この記事の監修者

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎
1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。
静かな退職(クワイエット・クィッティング)とは
静かな退職とは、実際に会社を辞めるわけではなく、契約で定められた最低限の業務のみを淡々とこなし、それ以上の役割や貢献をしない働き方を指します。英語では「Quiet Quitting(クワイエット・クィッティング)」と呼ばれ、日本語では「静かな退職」と訳されるのが一般的です。
静かな退職の定義
静かな退職の中核的な特徴は、「離職はしないものの、心理的にはすでに組織から距離を置いていること」です。具体的には、以下のような特徴が挙げられます。
- 業務時間内に、職務記述書に書かれた仕事のみを行う
- 時間外の対応・自主的な改善提案などは行わない
- 昇進・昇格を積極的に目指さず、成長機会にも手を挙げない
- 会議での発言や部門横断の関わりを最小限に留める
重要なのは、サボりや怠慢とは区別される点です。契約上の業務は遂行しているため、勤怠や成果指標だけでは表面化しづらい特性があります。
TikTok発の言葉が世界に広がった経緯
「Quiet Quitting」という言葉がTikTokに登場したのは2022年3月、キャリアコーチのブライアン・クリーリー氏の動画が最初とされます。これを世界的な現象に押し上げたのが、同年7月25日にニューヨークのエンジニア、ザイド・カーン氏が投稿した17秒の動画でした。
カーン氏の定義は明快です。仕事を辞めるのではなく、「期待以上に働く」という考え方を辞める。職務は果たし続けるが、仕事が人生でなければならないというハッスルカルチャー(無制限に頑張ることを求める職場文化)にはもう乗らない。人としての価値は労働で決まるものではない——というものです。「静かな退職」という訳語からは辞める印象を受けますが、原義は辞めないことが前提にあります。
米ギャラップ社の調査では、米国の社員の少なくとも50%が「静かな退職者」に該当するとされます(2022年6月、15,091人を対象)。ただしこれは直接測定した数値ではなく、エンゲージメント調査で「熱意ある(32%)」と「積極的に離反している(18%)」のあいだに位置した層を、そう分類したものです。
背景には、コロナ禍を経て「仕事に人生を捧げる働き方」への疑問が世代を超えて広がったことがあります。そして「頑張っても報われない」と感じる若手層の増加も無視できません。同じギャラップの調査では、35歳未満の社員のエンゲージメントが2019年から2022年にかけて6ポイント低下し、会社が自分を気にかけている、成長を後押ししてくれていると感じる若手が減っていると報告されています。
日本での認知拡大と実態
日本でも2020年代前半からメディアで取り上げられるようになり、マイナビが毎年実施している「正社員の静かな退職に関する調査」では、正社員の4割以上が「静かな退職」をしているという結果が継続して出ています。
特筆すべきは、年代による差がほとんどない点です。「静かな退職」は若手に限った現象ではなく、20代から50代まで幅広い年代で同水準の比率が観測されています。さらに注目したいのが、静かな退職の継続意思が中高年で高い傾向がある点です。若手は「今は静かな退職状態だが、いずれ変わるかもしれない」と流動的に捉えている一方、40代・50代は「この働き方をこのまま続けたい」と定着的に捉える層が相対的に多くなっています。
動機の質にも世代差があります。20代・30代は「損得重視」「無関心」といった内発的な選択が多いのに対し、40代・50代は「仕事・環境の不一致」「評価への不満」という外発的な要因が多い傾向が示されています。若手は自らの価値観に基づいて距離を取り、中高年は組織との関係性の中で距離を取らざるを得ない状態に至っている、と読み解けます。
「静かな退職は若手特有の問題」という思い込みは、適切な対策を妨げる原因になります。若手に効く打ち手(キャリア観の対話、意義付け)と、中高年に効く打ち手(役割再定義、環境要因の改善)は同じではありません。
サイレント退職・働き方の多様化・働かないおじさんとの関連性
静かな退職は、類似する概念と混同されやすい言葉です。施策を設計する前に、まず線引きを整理しておく必要があります。
以下の比較表で、代表的な4概念の違いを整理します。
概念 | 定義の中核 | 業務遂行状態 | 心理的コミットメント | 対応の方向性 |
|---|---|---|---|---|
ケース別判断(是正 or 許容) | ||||
兆候の早期発見 | ||||
働き方の多様化 | ライフステージ・価値観に応じた選択 | 契約通り遂行 | 中〜高(仕事以外にも軸) | 尊重・環境整備 |
働かないおじさん | 役割に対して成果が伴わない中高年 | 遂行が不十分 | 低い(既得権益維持) | 役割再定義・リスキリング |
通常の「働き方の多様化」との線引き
もっとも判別が難しいのが、静かな退職と「働き方の多様化」の線引きです。育児・介護・副業・学び直しなど、仕事以外に重要な軸を持つ社員も、一見すると「必要最低限の業務のみを行う社員」に見えます。
判別のポイントは、「本人が今の働き方を主体的に選択しているか」「担当業務への当事者意識が保たれているか」の2点です。主体的な選択の結果であり、担当業務への責任感が保たれていれば、それは尊重すべき多様な働き方です。
「静かな退職かどうか」の判別ポイント
- 業務品質・納期・チーム貢献の観点で問題が出ているか
- 本人が「今の働き方で満足している」と語れるか
- 会議での発言・提案・相談の頻度がどう変化したか
これらを1on1などで確認せずに「静かな退職だ」と決めつけると、本人が本格離職に転じるリスクがあります。
職場のコミュニケーション活性化について詳しくは以下の記事をご参照ください。
なぜ静かな退職が広がっているのか
静かな退職が広がる背景には、複数の構造的変化が重なっています。ここでは主な3つの要因を解説します。
世代価値観の変化とキャリア観
Z世代(1990年代後半以降生まれの世代)・ミレニアル世代(1980年代〜1990年代半ば生まれの世代)を中心に、「仕事は人生の一部であり、すべてではない」という価値観が広がっています。終身雇用を前提とせず、会社への忠誠心よりも自分自身のキャリア資産・スキル蓄積を重視する傾向が強まっています。
この価値観自体は否定されるべきものではありません。しかし組織側が旧来の「昇進=幸せ」「頑張れば報われる」というメッセージのままだと、若手にとって「頑張る動機」が見えなくなり、静かな退職に流れやすくなります。
若手の仕事への意識について詳しくは以下の記事をご参照ください。
コロナ後の働き方変化
リモートワークの普及により、通勤時間やオフィスでの雑談、非公式な相互支援など、「仕事に付随していた関係性」が薄まりました。結果として、業務と自己の分離が進み、「与えられた仕事だけを完結させれば良い」というマインドセットに移行しやすくなっています。
また、コロナ禍で健康や家族、生活の質の重要性を再認識した層が、意識的に「仕事の比重を下げる」選択をするケースも増えています。
昇進魅力の低下と評価制度の乖離
40〜50代のミドル層に静かな退職が広がっている背景には、「昇進しても割に合わない」という実感があります。管理職の負担増、プレイングマネジャー化、賃金カーブの緩やかさなどが、昇進意欲を削いでいます。
同時に、評価制度が「頑張り」を正当に評価しきれていない、あるいは評価と処遇の連動が弱いと感じる社員も少なくありません。「頑張っても報われないのではないか」という懸念を抱く社員は、若手・ミドル層を問わず増えています。
管理職になりたくない理由について詳しくは以下の記事をご参照ください。
静かな退職の兆候
静かな退職は表面化しにくいため、日常のコミュニケーションで拾える兆候を体系的に把握する必要があります。ここでは、管理職向けと自己診断用の2種類のチェックリストを提示します。
管理職が部下を見立てる兆候チェックリスト
部下の行動を1〜2か月単位で観察し、以下の項目に該当するものが増えていないかを確認します。
- 会議での発言・提案がこの半年で明確に減った
- 「やります」「やっておきます」の返答が事務的になった
- 業務範囲を超えた相談・雑談がほぼなくなった
- 定時退社が定着し、時間外対応を明確に断るようになった
- 昇進・キャリアの話題に関心を示さなくなった
- 研修・学習機会への参加が受け身になった
- チーム貢献よりも「自分の担当分」への言及が増えた
- 感情表現(喜び・不満・驚き)が全般的に薄くなった
該当する項目が3つ以上ある場合は、1on1での状態確認を優先することをおすすめします。ただしこのリストは「決めつける」ためではなく、「対話のきっかけを持つ」ためのものです。
自己診断用チェックリスト
管理職や一般社員が自身の状態を振り返る際に使うチェックリストです。
- 仕事に対して「面白い」「やってみたい」と感じる瞬間が減った
- 会議中、内心で「早く終わらないか」と考える頻度が増えた
- 業務改善の提案を「言っても変わらない」と諦めている
- 週末が近づくと明確に気分が上向く / 月曜は気分が重い
- 部下・同僚への関心が業務範囲内に限られている
- 5年後・10年後のキャリア像を思い描く時間がなくなった
該当が多い場合、それが一時的な疲労なのか、構造的な課題なのかを見極める必要があります。
「働き方の多様化」との見分け方
上記チェックリストの該当項目が多くても、それが即「静かな退職」とは限りません。以下の3点で見分けます。
- 本人が現在の働き方を主体的に選択しているか → 選択なら働き方の多様化の一部、無自覚・諦めなら静かな退職の可能性
- 担当業務への品質・責任感が保たれているか → 保たれていれば働き方の多様化の範囲内
- 本人がその状態に「モヤモヤ」を抱えているか → 満足していれば働き方の多様化、モヤモヤしていれば介入余地あり
静かな退職が組織・チーム・本人にもたらすリスク
静かな退職は「離職していない」ため、勤怠や離職率の指標では見えにくい特性があります。しかし放置した場合、組織・チーム・本人それぞれに無視できない影響が蓄積します。
組織・チームへのリスク
- イノベーション・改善提案の停滞:自主的な発言が減り、業務プロセスや顧客提案の質が徐々に劣化する
- 周囲への波及:一部社員の姿勢が「あの人が頑張っていないのに、なぜ自分だけ」という不公平感を生み、周囲のエンゲージメントも低下する
- ノウハウ継承の断絶:業務範囲を超えた指導・育成が行われなくなり、暗黙知の伝承が止まる
- 顧客対応品質の低下:契約範囲内の対応に限定されることで、顧客からの信頼が徐々に失われる
本人のキャリアリスク
本人にとっても、静かな退職の長期化は無視できないリスクを伴います。
- 市場価値の停滞:成長機会を自ら手放すことで、社外での通用性が失われる
- キャリア選択肢の減少:昇進・異動・転職の機会が狭まり、選択肢を失う
- 心理的な閉塞感:「このままでいいのか」というモヤモヤが蓄積し、メンタル不調につながる場合がある
経営インパクトの試算
経営層へ施策を上申する際は、以下の観点で定量化を試みると説得力が増します。
観点 | 試算方法の例 |
|---|---|
生産性ロス | 一人当たり平均給与 × 想定パフォーマンス低下率 × 該当人数 |
離職転化コスト | 静かな退職からの本格離職率(仮説)× 採用・教育コスト |
周囲への波及 | 該当社員1名あたりのエンゲージメント影響範囲(仮説)× 平均給与 |
これらは仮説ベースの試算ですが、「放置した場合の見えないコスト」を数字で可視化することで、経営層の意思決定を後押しできます。
是正すべきケースと許容・活用すべきケース
静かな退職への対応で最も陥りやすい失敗は、「一律に是正すべき悪」として扱うことです。ここでは、社員の状態と組織への影響から対応方針を切り分ける判断フレームを提示します。
判断マトリクス(2軸)の使い方
以下の2軸で対象社員をマッピングします。
- 縦軸:本人の状態(モヤモヤを抱えている ⇔ 主体的に選択している)
- 横軸:組織・チームへの影響(業務品質・チーム貢献に問題あり ⇔ 契約範囲内で完結)
業務品質・チーム貢献に問題あり | 契約範囲内で完結 | |
|---|---|---|
本人がモヤモヤを抱えている | ①是正すべき(最優先) | ②対話・キャリア支援 |
本人が主体的に選択している | ③役割再定義・環境改善 | ④許容・活用すべき |
是正すべきケースの対応方針
①モヤモヤ×業務影響あり:本人・組織双方に負の影響が出ている状態。最優先で対応します。
- 1on1で本人の状態を丁寧に聴き、モヤモヤの根源を言語化する
- 業務の再設計、役割変更、上司との関係見直しなど、環境要因を改善する
- 必要に応じてキャリア面談・異動・研修機会などを提供する
③選択×業務影響あり:本人は満足しているが、組織側で成果が出ていない状態。役割定義そのものを見直します。
- 役割・成果期待の再定義と本人合意
- スキルギャップがあればリスキリング機会を提供
- 適材適所の観点で異動・配置転換も選択肢に
許容・活用すべきケースの対応方針
②モヤモヤ×契約内完結:業務は回っているが、本人が満たされていない状態。対話・キャリア支援で内面の変化を促します。
- キャリア面談で中長期のキャリア像を一緒に描く
- 越境学習・社内公募など、視野を広げる機会を提供する
④選択×契約内完結:業務も回り、本人も満足している「健全な多様化」の状態。過度に介入しないことが正解です。
- 契約通りの業務遂行を尊重する
- 本人がキャリア相談を求めた際に応じられる関係性を維持する
- 「頑張らないこと」を評価制度で不当にマイナス評価しない
「静かな退職=悪」という思い込みを外し、④のケースを尊重できる組織文化が、結果として①②③の社員にも「安心して対話できる」土壌を作ります。
組織・管理職が取るべき対策
判断フレームを持ったうえで、実際に管理職が現場で使えるツールを提示します。ここでは1on1の質問例、管理職自身の静かな退職化への対策、そして施策効果測定KPI(重要業績評価指標)の設計まで、実装レベルで解説します。
1on1で使える質問項目例と声かけスクリプト
静かな退職の兆候が見えた部下との1on1では、決めつけずに問いを立てることが起点になります。以下は状態別の質問例です。
A. 兆候の背景を探る質問(初回1on1向け)
- 「最近、仕事で『これは面白い』と感じた瞬間はありましたか?」
- 「今の役割で、モヤモヤしていることや違和感を感じることはありますか?」
- 「3年後、どんな仕事をしていたいか、ぼんやりでも描けますか?」
B. 状態を深掘りする質問
- 「もし何の制約もなかったら、今の仕事のどこを変えたいですか?」
- 「今、頑張ろうと思えないのは、疲れているからですか、それとも別の理由がありますか?」
C. 声かけスクリプト例(NG例とOK例の対比)
シーン | NG例 | OK例 |
|---|---|---|
定時退社が定着 | 「最近やる気ないの?」 | 「時間の使い方、うまくなったね。何か新しいことに時間使えてる?」 |
会議で発言が減った | 「もっと発言してよ」 | 「〇〇さんの視点、あの議題で聞きたかったな。次回、教えてもらえる?」 |
昇進に関心なし | 「昇進目指さないの?」 | 「今の仕事で、この先どんな力をつけたいと思ってる?」 |
決めつけない・詰問しない・比較しない——この3原則を守ることで、部下が本音を出せる土壌ができます。
1on1について詳しくは以下の記事をご参照ください。
管理職自身が静かな退職化するケースへの対策
部下の支援をすべき管理職自身が「静かな退職」の状態になってしまっているケースもあります。管理職の静かな退職化は、放置すると組織全体に波及する重大リスクです。対策は3つの軸で考えます。
- 役割再定義:プレイングマネジャー化していないか、本来のマネジメント役割に集中できているかを棚卸しする
- リスキリング:マネジメント手法・キャリア対話・デジタル活用など、自身の陳腐化を防ぐ学び直しを制度化する
- キャリア対話:管理職自身が上位者・人事と自分のキャリア像を対話する場を持つ
アルーは管理職自身の役割再定義とマネジメント力強化を支援する「管理職研修」を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。
🔗アルーのサービス:管理職研修
施策効果測定KPIの設計
対策を打ちっぱなしにしないために、以下のKPI例を組み合わせて効果測定を設計します。
測定タイミング | 指標例 | 測定方法 |
|---|---|---|
施策前(ベースライン) | エンゲージメントスコア / 1on1実施率 / 昇進意向率 | サーベイ・人事データ |
施策後3か月 | 1on1の質(部下側評価)/ 兆候チェック該当項目数の変化 | 部下向けサーベイ・管理職ヒアリング |
施策後6〜12か月 | エンゲージメントスコア変化 / 昇進意向率変化 / 離職率変化 | 定期サーベイ・人事データ |
重要なのは、「施策を実施した」で終わらせず、3か月後に対象者の行動変容が起きているかを測定することです。行動変容の測定設計は、施策を単発イベントで終わらせないための最重要ポイントです。
社員のモチベーション向上事例
ここでは、管理職層の対話力向上を通じて、部下のエンゲージメント低下——静かな退職化——に歯止めをかけた事例を紹介します。
管理職が「決めつけずに問いを立てる」対話姿勢を身につけ、部下との1on1を単発イベントで終わらせずに継続的な対話サイクルとして仕組み化することで、部下の内面の変化を捉え、キャリア支援へと接続した事例です。
事業会社における管理職層の対話力向上とキャリア支援
規模・対象者
事業会社の管理職層を対象に、部下との対話力向上を目的とした研修プログラムを実施しました。
課題
管理職層が部下に対して指示や評価は行うものの、「部下の状態を見立てる」「部下の内面を引き出す」対話が不十分でした。1on1は導入されていたものの、業務報告の場に留まり、部下のモヤモヤやキャリア観を引き出せていない状態でした。結果として、部下の中に「言っても伝わらない」「相談しても意味がない」という諦めが広がり始めていました。
実施した施策
「決めつけない・問いを立てる」対話姿勢を軸に、複数回の集合研修と現場での実践を組み合わせたプログラムを設計しました。研修では、部下の状態を4象限で見立てる演習、状態別の質問項目リストの活用、実際の1on1を想定したロールプレイを繰り返し実施しました。研修後は、実際の1on1での対話をリフレクションシートに記録し、次回研修で振り返る仕組みを組み込みました。管理職自身のキャリア棚卸しの時間も設け、「自分自身が静かな退職になっていないか」を内省する機会も含めました。
成果
受講者からは「判断をせずに傾聴するということが、思ったよりも難しく、普段から実践できていないことを理解した」「問いをたてるためには、相手のことを普段からよく理解している必要性があると気づいた」「実際の1on1でやってみたときに部下の反応がこれまでと違って、楽しそうに話をしていた」という声が挙がりました。決めつけずに傾聴して問いを立てることの難しさを実感しながら、意識的に実践をすることで、これまでとは違う反応を得ることができるという効力感を得ている様子を確認できました。
設計のポイント
1on1のスキルを教える研修ではなく、「決めつけない対話姿勢そのものを変える」ことに焦点を当てた設計が効きました。管理職自身のキャリア内省を組み込んだことで、部下への向き合い方が「指導」から「並走」へと変化した点が特徴です。
まとめ
静かな退職は、単純な「悪」でも「新しい働き方の是」でもなく、社員の状態と組織への影響で切り分けて対応すべき組織課題です。
重要なポイントを振り返ります。
- 静かな退職は、契約内の最低限業務のみを行う働き方。サボりや働かないおじさんとは区別する
- 兆候は「発言減少」「定時退社定着」など複数の行動サインで見立てる。ただし通常の働き方の多様化とは慎重に線引きする
- 対応は「是正 vs 許容」の二択ではなく、本人の状態×組織への影響の2軸マトリクスでケース別に判断する
- 1on1では「決めつけずに問いを立てる」姿勢が起点。声かけスクリプトを整備し、管理職の対話力を底上げする
- 管理職自身が静かな退職化するケースにも正面から向き合い、役割再定義・リスキリング・キャリア対話で対処する
- 施策は打ちっぱなしにせず、3か月後の行動変容・エンゲージメントスコアで効果測定する
「静かな退職」というラベルに振り回されず、目の前の社員一人ひとりの状態を丁寧に見立てることが、結果として組織全体のエンゲージメント向上につながります。
よくある質問(FAQ)
Q | 静かな退職とサイレント退職は同じ意味ですか? |
|---|---|
A | 異なります。静かな退職は「離職せずに最低限業務のみを行う状態」を指し、サイレント退職は「予兆なく突然離職する現象」を指します。両者は表面的には似て見えますが、対応の方向性は真逆(前者は対話・状態見立て、後者は兆候の早期発見)になります。 |
Q | 静かな退職は必ず是正すべきものですか? |
|---|---|
A | 一律に是正すべきではありません。本人が主体的に選択し、業務品質・チーム貢献にも問題がない場合(=判断マトリクスの④象限)は、健全な働き方の多様化として尊重すべきです。是正が必要なのは、本人がモヤモヤを抱えている、または業務・チームに影響が出ているケースです。 |
Q | エンゲージメントサーベイや1on1をやっても効果が出ません。何が足りないのでしょうか? |
|---|---|
A | 施策の形骸化が疑われます。1on1が業務報告の場になっていないか、サーベイ結果が施策に接続されているか、管理職の対話スキルが担保されているかを点検してください。特に「決めつけずに問いを立てる」対話姿勢が管理職に定着していないと、どのツールも本人の内面を引き出せません。 |
Q | 管理職自身が静かな退職化している場合、どう対処すべきですか? |
|---|---|
A | 管理職自身のキャリア棚卸し・役割再定義・リスキリングの機会を制度として提供し、上位者や人事とキャリア対話をする場を設けることが有効です。管理職の内面の変化なしに、部下への対話力向上は起きません。 |


