
バーナードの組織論とは?3要素と組織存続の2条件をわかりやすく解説
チェスター・バーナードの組織論における「共通目的」「協働意欲」「コミュニケーション」の3要素はよく知られていますが、定義を覚えただけでは実務は動きません。
本記事では、80年以上前に体系化されたバーナード組織論を、単なる知識ではなく「自組織を診断する枠組み」として再構成します。3要素に加えて組織存続の2条件、誘因-貢献均衡論、権威受容説までを体系マップで整理し、20項目のセルフチェックリストで自社の弱点を特定できるよう解説します。
この記事でわかること
- バーナード組織論の全体構造(3要素・2条件・誘因-貢献均衡論・権威受容説)
- ドラッカー・テイラー・メイヨーとの位置づけの違い
- 組織の3要素×2条件による自組織のセルフチェック方法
- 3要素それぞれを改善する具体アクション
- リモートワーク・ジョブ型雇用など現代組織課題への翻訳方法
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この記事の監修者

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎
1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。
バーナードの組織論とは
バーナードの組織論とは、米国の経営者チェスター・I・バーナード(1886-1961)が主著『経営者の役割』(1938年)で提示した、組織を「二人以上の人々の意識的に調整された活動または諸力の体系」と定義する理論体系です。
それ以前の経営学が「作業の効率化」を中心に据えていたのに対し、バーナードは組織を「人と人が協働する仕組み」として捉え直し、近代組織論の出発点となりました。
チェスター・バーナードとは
バーナードは学者ではなく、ニュージャージー・ベル電話会社の社長を1927年から1948年まで務めた現役経営者でした。ハーバード大学で経済学を学びましたが、経済的な理由で中退しており、学位を持っていません。AT&T(アメリカン・テレフォン・アンド・テレグラフ)には39年間在籍し、その大半を経営の現場で過ごしています。実際に組織を動かした経験から理論を構築した点が、他の論者と異なる最大の特徴です。
『経営者の役割』は、1937年にボストンのローウェル研究所で行われた全8回の連続講演をまとめたものです。バーナードは出版までに原稿を18回から20回書き直したと言われます。この本で示された誘因-貢献均衡の考え方——組織が存続するのは、参加者に与えられる誘因が、参加者の貢献を上回るときだという発想——は、後にサイモンやマーチによって発展させられ、現代組織論の礎となりました。
バーナード理論がいまも読み継がれるのは、彼自身が経営現場の当事者として理論を組み立てたからです。
『経営者の役割』の位置づけ
『経営者の役割』は、組織を「協働体系(cooperative system)」として捉える視点を理論として体系化した書物です。単なる指揮命令系統の解説ではなく、「なぜ人は組織に参加し、貢献し続けるのか」という動機の側面に踏み込んだ点が革新的でした。
この問いの背景には、バーナードの独特な認識があります。彼は同書の冒頭で、公式組織における協働の成功は正常な状態ではなく異常な状態だと述べました。大半の組織は失敗し、存続することのほうが説明を要する例外だ、という見方です。組織が自然に機能するのであれば、人の動機を問う必要はありません。放っておけば崩れるからこそ、人が参加し貢献し続ける条件を解明する必要がありました。
同書で提示された概念は、組織の3要素、組織存続の2条件、誘因-貢献均衡論、権威受容説、公式組織と非公式組織など多岐にわたります。これらは相互に連関しており、3要素だけを取り出して理解するのはバーナード理論の全体像を捉えたことにはなりません。
なぜ今バーナード理論が再注目されるのか
リモートワークの普及、ジョブ型雇用の広がり、エンゲージメント低下の常態化——現代の組織が直面する課題は、バーナードが80年以上前に扱った「協働の成立条件」そのものです。物理的に同じオフィスにいるだけでは組織は成立しないという現実は、バーナードが指摘した「共通目的」「協働意欲」「コミュニケーション」の重要性を改めて浮き彫りにしました。
「80年以上前の理論が、リモートワークやジョブ型雇用が主流となった現代でも本当に役立つのか」といった懸念の声も少なくありません。むしろ「同じ場所にいれば組織が成立する」という前提が崩れた現代でこそ、バーナードの協働体系論は実務で使える診断枠組みとして機能します。
組織の3要素(共通目的・協働意欲・コミュニケーション)とは
バーナードは、組織が成立するために不可欠な要素として「共通目的」「協働意欲」「コミュニケーション」の3つを挙げました。この3要素は独立して存在するのではなく、相互に補完し合って初めて組織を成立させます。1つでも欠けると、そこにあるのは「人の集まり」であって組織ではありません。
1.共通目的(Common Purpose)
共通目的とは、組織のメンバー全員が「自分たちは何のために協働しているのか」を共有している状態を指します。単なる会社のビジョン文言ではなく、日々の意思決定の場面で「この目的に照らして判断する」という基準として機能しているかがポイントです。
共通目的が弱い組織では、部門ごとに最適解が分岐し、全社視点での意思決定が困難になります。目的が曖昧なままでは、協働意欲が高くても、コミュニケーションが整っていても、力の向かう先がそろいません。
典型例:
「顧客価値の最大化」という言葉が経営理念に掲げられていても、営業部門は売上、開発部門は技術優位性、管理部門はコンプライアンスをそれぞれ最優先している状態は、共通目的が「言語化されているだけで共有されていない」典型例です。
2.協働意欲(Willingness to Cooperate)
協働意欲とは、メンバーが「この組織に自分の力を提供したい」と感じている度合いです。現代語彙では「エンゲージメント」や「モチベーション」に近い概念ですが、バーナードは単なる感情ではなく「誘因(inducement)と貢献(contribution)の均衡」として構造的に説明しました。
- 誘因(inducement): 給与・成長機会・所属感・目的達成感など
- 貢献(contribution): 労力・時間・スキルなど
組織から得られる「誘因」が、メンバーが提供する「貢献」と釣り合っているとき、協働意欲は維持されます。この均衡が崩れると、メンバーは離職するか、在籍しても最低限の労力しか提供しなくなります。
3.コミュニケーション(Communication)
コミュニケーションとは、共通目的と協働意欲を結びつける媒介です。目的が言語化されていても、協働意欲が高くても、両者をつなぐ情報伝達が機能しなければ組織は動きません。バーナードは、コミュニケーションの網の目を組織の「神経系」になぞらえました。
ここでいうコミュニケーションは単なる「報連相」ではなく、上下・横断・非公式ルートを含む情報の流れ全体を指します。特にリモートワーク環境では、偶発的な立ち話や表情での確認ができない分、意図的な仕組み設計が必要になります。
組織存続の2つの条件
3要素は「組織が成立する条件」ですが、それだけでは組織は続きません。バーナードは組織が存続するための条件として、「有効性(effectiveness)」と「能率(efficiency)」の2つを挙げました。この2条件は外部環境と内部環境の両面から組織を支えます。
有効性(外部均衡)とは
有効性とは、組織が掲げた共通目的を実際に達成できているかを指します。つまり外部環境に対して組織が価値を出せているか、という「外部均衡」の観点です。売上目標の達成、顧客への価値提供、社会的使命の実現などが該当します。
有効性が失われると、組織の存在意義そのものが問われます。市場からの評価が下がれば資源(顧客・資金・優秀人材)の流入が止まり、組織は縮小・消滅に向かいます。
能率(内部均衡)とは
能率とは、組織に参加する個人の動機がどれだけ満たされているかを指します。組織がメンバーに提供する誘因が、メンバーが差し出す貢献を上回っているとき、能率は保たれます。つまり内部の均衡の観点であり、協働意欲を維持できているかと言い換えられます。
ここで注意が必要なのが、バーナードのいう「能率」が、一般的な意味での効率——少ない資源で多くの成果を出すこと——とはまったく異なる概念だという点です。測っているのは組織の生産性ではなく、参加者個人の満足度です。
能率が低下すると、たとえ有効性が高くても組織は続きません。優秀な人材が次々に離職する、残っているメンバーも最低限の労力しか出さない状態が典型です。近年のエンゲージメント低下・早期離職の問題は、能率の低下として説明できます。
3要素と2条件の関係
3要素は「組織を成立させる要素」、2条件は「組織を存続させる基準」です。両者は次のように連関します。
観点 | 対応する要素・条件 | 診断の視点 |
|---|---|---|
目的の明確さと達成度 | 共通目的 × 有効性 | 目的が言語化され、達成されているか |
メンバーの関与度 | 協働意欲 × 能率 | 誘因と貢献が均衡しているか |
情報の流通 | コミュニケーション × 両条件 | 目的と誘因が伝わり、貢献が引き出せているか |
たとえば「業績は好調(有効性◎)だが離職率が高い(能率×)」という組織は、協働意欲を支える誘因設計に課題があると診断できます。逆に「離職は少ないが業績が停滞」なら、共通目的の再定義が必要かもしれません。
バーナード理論の全体構造マップ
3要素と2条件はバーナード理論の入口です。原典『経営者の役割』にはさらに深い概念が体系化されており、これらを含めて初めて理論の全体像を捉えられます。
ここでは、実務で診断・活用できる3つの核となる概念——「誘因-貢献均衡論」「権威受容説」「公式組織と非公式組織」を整理します。
誘因-貢献均衡論
誘因-貢献均衡論は、3要素の一つである「協働意欲」がなぜ維持されるのかを構造的に説明する理論です。
- 貢献(Contribution): メンバーが組織に提供する「労力・時間・スキル・忠誠心」など
- 誘因(Inducement): 組織がメンバーに与える「給与・地位・成長機会・所属感・目的達成感」など
この「貢献」と「誘因」が均衡(または誘因が上回る)しているとき、メンバーは組織に留まり貢献を続けます。
ここで重要なのは、誘因は金銭的報酬に限らないという点です。バーナードは「目的への共感」「社会的地位」「能力発揮の機会」といった非物質的な誘因の重要性を強調しました。これは現代におけるエンゲージメント研究や内発的動機づけの議論にも直結する、非常に先進的な視点です。
権威受容説
権威受容説とは、「権威は上司の役職や地位から自動的に生まれるのではなく、部下が受け入れることで初めて成立する」という考え方です。バーナードは、命令に権威があるかどうかの決定権は「命令を発する側」ではなく、常に「命令を受ける側(部下)」にあると論じました。
命令(伝達)が権威として受け入れられるためには、以下の4つの条件を同時に満たす必要があります。
- 理解可能性: その伝達(命令)内容を正しく理解できること
- 目的整合性: 組織の目的と矛盾しないと信じられること
- 利害両立性: 個人の利害や価値観と両立すると信じられること
- 実行可能性: 精神的・肉体的に実行可能であること
どれか1つでも欠けると命令は権威を失い、単なる「押し付け」となって不服従や不満を生む原因になります。
公式組織と非公式組織
バーナードは、組織図に描かれる「公式組織」だけでなく、その内部で自然発生的に生まれる「非公式組織」の役割も重視しました。
- 公式組織: 組織図上の部署や指揮命令系統、業務上の役割関係
- 非公式組織: 社内の雑談ネットワーク、有志の勉強会、同期や趣味の集まりなど
非公式組織は、公式なコミュニケーション経路を補完するだけでなく、「協働意欲の維持」や「個人の自尊心・自律性の維持」という極めて重要な機能を果たしています。
また、公式組織と非公式組織は固定的なものではなく、「非公式組織の中から新たな公式組織が生まれ、それがまた別の非公式組織を生み出す」という相互生成の関係にあることも指摘されています。
相互理解について詳しくは以下の記事をご参照ください。
ドラッカー・テイラー・メイヨーとの比較
バーナード理論の位置づけを理解するには、他の主要組織論との比較が有効です。経営層に組織課題を説明する際、「なぜバーナードなのか」を説明するための論拠にもなります。
4理論の比較表
「はい」の数と傾向で、自分のタイプを把握します。
理論家 | 中心概念 | 組織の捉え方 | 実務への示唆 |
|---|---|---|---|
テイラー(1911) | 科学的管理法 | 作業の効率化装置 | 標準化・作業測定・生産性向上 |
メイヨー(1930年代) | 人間関係論 | 社会的関係の場 | 職場の人間関係が生産性に影響 |
バーナード(1938) | 協働体系論 | 意識的に調整された協働 | 3要素と2条件で組織を診断・設計 |
ドラッカー(1954〜) | マネジメント論 | 目的達成のための機関 | 目標管理・マネジャーの役割定義 |
バーナードの独自性
テイラーは「作業」を、メイヨーは「人間関係」を、ドラッカーは「マネジメント機能」を中心に据えました。これに対しバーナードは、組織そのものの「成立条件」と「存続条件」を体系化した点が独特です。
言い換えると、テイラー・メイヨーは組織の「効率」を、ドラッカーは組織の「運営」を扱ったのに対し、バーナードは組織の「存在論」を扱いました。この抽象度の高さゆえに、時代を超えて使える普遍性を持ちます。
組織の3要素のセルフチェックリスト
ここでは3要素×2条件で自組織を診断する20項目のセルフチェックリストを提示します。人材育成会議や組織開発の議論で、共通の診断言語として使ってください。
使い方
各項目について、自社の現状を「はい」「どちらとも言えない」「いいえ」の3段階で評価します。「いいえ」が多い要素が、組織で優先的に取り組むべき領域です。個人で回答するだけでなく、経営層・管理職・現場メンバーの3層で回答して比較すると、認識ギャップも可視化できます。
チェックリスト20項目
【共通目的】
- 経営理念やビジョンを、自分の言葉で説明できるメンバーが半数以上いる
- 部門ごとの目標が、全社目的と論理的に接続されている
- 意思決定に迷ったとき、判断基準として組織目的に立ち返る文化がある
- 新入社員は入社3か月以内に組織目的を理解できる仕組みがある
- 経営層が組織目的について語る機会が四半期に1回以上ある
【協働意欲】
- 直近1年の自発的離職率が業界平均を下回っている
- エンゲージメントサーベイのスコアが継続的にモニタリングされている
- 金銭以外の誘因(成長機会・裁量・承認)が意図的に設計されている
- メンバーが「この組織でキャリアを築きたい」と語れる状態にある
- 貢献した人が正当に評価される仕組みがある
【コミュニケーション】
- 経営情報が定期的に全社に発信されている
- 部門を越えた情報流通の仕組み(横串会議・社内SNS(ソーシャルネットワークサービス)等)がある
- 1on1やチームミーティングが形骸化せず機能している
- 現場の声が経営層に届く公式ルートが存在する
- 非公式なつながりを促進する場(社内コミュニティ等)が設計されている
【有効性(外部均衡)】
- 直近3年の全社目標の達成率が7割以上ある
- 顧客・市場からの評価指標が改善傾向にある
【能率(内部均衡)】
- 若手・中堅層の離職に構造的な問題を感じない
- 誘因(給与・評価・成長機会)の設計が定期的に見直されている
- 「頑張っても報われない」という声が現場から上がっていない
スコアの読み解き方
3要素それぞれで「いいえ」が2つ以上ある要素は、優先的な改善対象です。特に共通目的の「いいえ」が多い組織は、他の2要素をどれだけ整えても効果が限定的になります。まずは共通目的の再定義から着手することを推奨します。
有効性・能率の2条件は「結果指標」です。3要素のいずれかに課題があると、遅れて2条件のスコアに現れます。すでに2条件に問題が出ている組織は、3要素のどこに根本原因があるかを診断してください。
🔗おすすめ資料:人的資本経営の時代、自分と組織を変容させる管理職をどう育てるか
組織の3要素それぞれを改善する方法
セルフチェックで弱点が特定できたら、次は改善アクションです。3要素それぞれについて、明日から着手できる具体施策を紹介します。
共通目的を強化する
共通目的の弱さは、多くの場合「言語化されているが共有されていない」状態です。改善の起点は、経営層自身が組織目的を自分の言葉で語り直すことです。理念文言を暗唱させるのではなく、「なぜこの目的なのか」「これを達成すると社会や顧客に何が起きるのか」を、経営層が繰り返し伝える場が必要です。
その上で、部門・チーム単位で「自分たちの仕事がこの目的にどう接続するか」を言語化するワークショップを実施します。ここでのポイントは、抽象的な理念を各層で「自分たちのレベルの目的」に翻訳することです。この翻訳プロセスなしに、共通目的は現場に降りません。
理念浸透のためのワークショップについて詳しくは以下の記事をご参照ください。
協働意欲を引き出す
協働意欲は、誘因-貢献均衡論に沿って設計します。金銭的報酬だけでなく、非物質的誘因(成長機会・裁量・承認・所属感)を意図的に設計しているかがポイントです。
具体的には、①個々のメンバーが何を誘因と感じるかを1on1で把握する、②その誘因を提供できるアサインメント・育成機会を設計する、③貢献の可視化と承認の仕組みを持つ、の3段階です。特に「何を誘因と感じるか」は個人差が大きく、画一的な施策では機能しません。
1on1ミーティングについて詳しくは以下の記事をご参照ください。
コミュニケーションの質を上げる
コミュニケーションの改善は「量」ではなく「経路と質」の設計です。上下方向(経営↔現場)、横方向(部門間)、非公式(コミュニティ・偶発)の3つの経路が機能しているかを点検します。
上下方向では、経営情報の定期発信と、現場の声を吸い上げる公式ルートの両方が必要です。横方向では、部門横断のプロジェクトや横串会議を意図的に設計します。非公式ルートは自然発生に任せがちですが、社内コミュニティ活動やオフサイトなど「場の設計」で促進できます。
職場でのコミュニケーションについて詳しくは以下の記事をご参照ください。
バーナード理論を現代の組織課題に活かす方法
80年以上前の理論を現代課題に翻訳する視点を示します。バーナード理論の抽象度の高さは、現代の文脈に翻訳することで実践知に変わります。
リモートワーク・ジョブ型雇用への翻訳
現代課題 | バーナード理論での翻訳 | 実務での打ち手 |
|---|---|---|
リモートワークで一体感が失われる | 共通目的とコミュニケーションの再設計が必要 | 目的の意図的発信、非同期コミュニケーション設計 |
ジョブ型で「自分の仕事さえやればいい」意識が強まる | 協働意欲の誘因設計が個別化を要求される | 個人のキャリア誘因と組織目的の接続点を1on1で言語化 |
エンゲージメントスコアの低下 | 誘因-貢献均衡が崩れている | 誘因の棚卸しと再設計、非物質的誘因の強化 |
早期離職の増加 | 能率(内部均衡)の低下 | 入社後の誘因設計、貢献可視化と承認の仕組み |
心理的安全性・エンゲージメントとの接続
現代の組織論で注目される「心理的安全性」は、バーナードの権威受容説と強く関連します。部下が上司の指示を受容するには、「異議を唱えても不利益を被らない」という前提が必要で、これは心理的安全性そのものです。
「エンゲージメント」も協働意欲の現代語彙です。エンゲージメント施策を単発で打つのではなく、誘因-貢献均衡論のフレームに乗せて設計すると、施策間の整合性が取れます。
心理的安全性について詳しくは以下の記事をご参照ください。
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バーナード組織論を組織開発に活かした企業の実践事例
アルーが支援した製造業の部長候補育成プログラムでは、バーナード理論の枠組みを組織診断と育成設計の両面に活用しました。ケースメソッドを通じて「自社グループの課題」という視点に触れ、視野や視座を段階的に深めることで、理論の実践への橋渡しを行った事例を紹介します。
バーナード組織論を組織開発に活かした企業の実践事例
規模・対象者
グローバル製造業における選抜メンバー(部長候補層)
課題
同社は中期経営計画に「ソリューションプロバイダーへの転換」を掲げていたものの、現場ではプロダクトアウト志向や部門最適の壁が根強く残り、マーケットインへの転換が遅れていました。従来の研修では現場での行動変容や評価への定着に結びついていませんでした。
バーナード理論の観点で診断すると、「共通の目的(2030年ビジョン)」は言語化されていたものの、管理職層への浸透と、個々の「協働意欲」を引き出す誘因設計が不足していたと整理できます。
実施した施策
「自己変革」を起点に据えたプログラムを設計しました。ケースメソッドを活用し、「自社グループの課題」から「自チーム・個人の行動」へと視座を段階的に降ろしていく構成です。
- 内省の深掘り: 単なる知識インプットにとどまらず、行動変容の障壁を言語化するセッションを実施。「なぜ自分が変わる必要があるのか」を自問自答する時間を確保しました。
- コーチングの併用: 第三者によるコーチングを並行して行い、自発性を引き出しながら上位方針の受容を促しました。
成果
受講者からは、次のような意識変化の声が挙がりました。
- 「部署のビジョンを伝えていたつもりが、単に数値目標を伝えていただけだったと気づいた」
- 「メンバーの普段の様子を観察し、どのような動機の源泉(誘因)があるかを深く理解する必要があると痛感した」
- 「実践期間を経て自己認識が深まった。自分が見えていない部分を意図的に捉える努力を続けたい」
共通目的の真の浸透と、協働意欲を引き出すための部下理解という、バーナード組織論の核心が深く腹落ちしたことを確認できた事例です。
設計のポイント
バーナード理論の観点における本研修の核は、「共通目的を部長層に受容させるプロセスの設計」にありました。
権威受容説の視点を採り入れ、上位方針を「受け入れやすい形」で提示すると同時に、協働意欲を引き出す誘因(自己変革の機会や裁量の拡大)とセットで設計した点が、一般的な管理職研修との大きな違いです。
まとめ
バーナードの組織論は、80年以上前に体系化されながら、現代の組織課題を診断する枠組みとして今なお有効です。組織の3要素(共通目的・協働意欲・コミュニケーション)と組織存続の2条件(有効性・能率)は、自組織のどこに課題があるかを構造的に見立てる診断言語として機能します。
さらに、誘因-貢献均衡論・権威受容説・公式/非公式組織まで含めた全体像を押さえることで、リモートワーク、ジョブ型雇用、エンゲージメント低下といった現代課題への翻訳も可能になります。本記事で紹介した20項目のセルフチェックリストを使って、まずは自組織の現状を確認してみてください。「いいえ」が多い要素が、優先的に手を入れるべき領域です。
診断の次は改善アクションの設計です。共通目的の再定義、誘因-貢献均衡の再設計、コミュニケーション経路の見直し——それぞれに施策があります。組織開発を体系的に進めたい場合は、外部の視点を入れた枠組み提示が有効です。
よくある質問(FAQ)
Q | バーナードの組織の3要素とドラッカーのマネジメント論はどちらを学ぶべきですか? |
|---|---|
A | 目的が異なるため、両方を段階的に学ぶことを推奨します。バーナードは「組織が成立・存続する条件」を扱う診断枠組みで、ドラッカーは「マネジャーが何をすべきか」という運営論です。組織課題を見立てる段階ではバーナード、施策を設計・実行する段階ではドラッカーが実務で使いやすいでしょう。 |
Q | 組織の3要素のうち、最も優先して取り組むべきはどれですか? |
|---|---|
A | 共通目的です。共通目的が曖昧なままでは、協働意欲を高める施策もコミュニケーション改善も効果が限定的になります。ただし共通目的が言語化されているだけで共有されていないケースが大半なので、「言語化」と「浸透」を分けて診断してください。 |
Q | 権威受容説は現代のマネジメントで本当に使えますか? |
|---|---|
A | むしろ現代のほうが有効性が高まっています。指示命令型マネジメントの限界が明らかになり、心理的安全性やサーバントリーダーシップが注目される流れは、権威受容説の再発見と言えます。部下が納得できる根拠を示せない指示は実質的に権威を持たない、という視点は日々の1on1やマネジメント研修の設計指針として使えます。 |
Q | バーナード理論を組織全体に浸透させる方法はありますか? |
|---|---|
A | まず経営層・人事・組織開発担当が共通の診断言語として使うことから始めます。全社員に理論を学ばせる必要はなく、「組織課題を検討する際の共通フレーム」として3要素×2条件を組織開発会議で活用する程度から始めるのが現実的です。管理職研修のカリキュラムに組み込むと、現場のマネジメント言語も揃ってきます。 |


