「特定の部署で長く働きながらキャリアアップ」を望む項目は、約3割と最も高い結果に。一方で、「具体的なイメージがない」「考えたことがない」の回答が続き、キャリアを具体的には描けていない層も一定数いることがわかる。
(2)組織内でのキャリア形成を望みながらも、勤務先におけるキャリア展望は高くない
勤務先におけるキャリア展望を5段階で尋ねたところ、肯定的な評価よりも否定的な評価(青枠囲み)の割合が約1割程度を上回る結果に。
企業が従業員に対して実施する組織内でのキャリア形成支援を目指す取り組みは期待値も満足度も高くないと考えられる。
(3)勤務先がキャリア形成を直接的に支援する施策に対しては、期待値も満足度もそれほど高くない
従業員の満足度として、「ワークライフバランス」「勤務地選択」「テレワーク」「定時までの勤務」など、仕事とプライベートの両立支援に対する期待は高いものの、満足度は平均を少し下回る結果に。また、安定的に働くことを希望する従業員の現状に対し、それを支援する勤務先の支援策に対しては期待値が高く、かつ満足もしており、その環境下で仕事への「やりがい」「興味・楽しさ」「成長機会」「適性に合った仕事」にはある程度満足している傾向にある。一方で、「キャリア形成を意識した異動・配置」「キャリア面談」「自己主導による異動」「副業の推進」など、直接的なキャリア形成支援は期待値も満足度も平均値を下回っている。
(4)安定的な働き方、仕事とプライベートの両立支援はキャリア展望を高める重要施策にはならない可能性がある
自身が従事する仕事に対する認識とキャリア展望は総じて高い相関がみられるが、安定的な働き方や仕事とプライベートの両立を支援する項目については、キャリア展望との相関は低い結果となった。
これまでの調査より、企業は安定的な働き方や仕事とプライベートの両立支援により、従業員の「安定した環境でプライベートも大事にしながらマイペースに働きたい」ニーズに応えている一方で、必ずしもキャリア展望を高めることにはつながっていない可能性があることがわかった。従業員のキャリア展望は、企業のキャリア支援と合わせて、管理職や人事部・経営者がつくる「組織のあり方」によって、従業員の心理や行動も規定されると考えられる。
※本レポートにおける理想の「組織のあり方」とは、「人としての器」の先行研究を参考に、心の余裕や感覚的な豊かさに関連する「感情」、相手を尊重し包み込もうとする「他者への態度」、信念やチャレンジに関わる「自我統合」、広い視野・高い視座に関わる「世界の認知」という四つの観点を踏まえて、多様な従業員のことを受け入れる組織のあり方と定義した。
参照:羽生琢哉・高橋香・前野隆司(2022) 「「人としての器」に関する探索的検討」『経営行動科学学会第25回年次大会発表論文』
〇「組織のあり方」を確認する指標
本設問以降では、「所属する組織を人に例えると、現在の組織はどのような性格を持っていると捉えていますか?」という設問に A /B のどちらにより当てはまるかを6段階で回答してもらった。( 【 A 】 に近いほど、また成熟していない組織、 【 B 】 に近いほど理想の組織を意味する。)
(5)所属する組織を理想の組織と認識している群は、そうではない群に比べキャリア展望を高く感じている
(6)「組織のあり方」が理想にあると認識している群では、上司のマネジメント・リーダーシップに対して、高く満足している。