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後継者育成の進め方|計画策定のステップと承継形態別ロードマップ

「次の経営を任せられる人材をどう育てるか」——この問いは、経営層からの宿題として人事や経営企画に降りてきます。しかし、いざ後継者育成計画を描こうとすると、何年スパンで設計し、どの役職を経由させ、どんな評価指標で判断するのかが見えず失敗に終わってしまうことが多くあります。

本記事では、後継者育成の定義整理から、計画策定7ステップ、承継形態×育成期間で組み立てるロードマップ、失敗4パターンと回避策、評価指標の設計、心理ケアや参謀育成までを実務目線で解説します。

この記事でわかること

  • 後継者育成・事業承継・サクセッションプラン・次世代リーダー育成の違いと関係整理
  • 後継者育成計画の策定7ステップと、自社で動かすための着手順序
  • 承継形態(親族内/従業員/社内昇格/社外招聘)×育成期間(5年/10年/15年)の設計マトリクス
  • 後継者候補の選抜基準・評価指標(アセスメント/360度評価/行動評価)のサンプル
  • 形骸化を防ぐための失敗4パターンと兆候チェックリスト
  • 後継者本人の心理ケアと参謀・補佐人材の同時育成

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この記事の監修者

落合 文四郎

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎

1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。

後継者育成とは——定義と注目される背景

後継者育成とは、現経営者または現役員が担っている経営の役割を、計画的に次世代へ引き継ぐために、候補者を選抜し、必要な経験・スキル・視座を段階的に身につけさせる一連の取り組みを指します。

後継者育成の定義と扱う範囲

後継者育成は単に「次のトップを決める」活動ではありません。経営の継続性を確保するために、候補者プールの設計から始まり、選抜・育成・権限委譲・モニタリングまでを含む中長期の制度設計です。

具体的には次の5つの活動が含まれます。

  • 候補者プールの設計と選抜(誰を、何人、どの時点で候補に入れるか)
  • 計画的な経験付与(タフアサインメント・ローテーション・出向など)
  • 評価指標による進捗確認(360度評価・アセスメント・行動評価)
  • 権限委譲のロードマップ運用(どの役職で何を任せ、いつ完全に引き継ぐか)
  • 育成施策の実施と評価(次世代リーダー育成・エクゼクティブコーチング)

中小オーナー企業の親族内承継から、上場企業のサクセッションプラン、外部招聘によるプロ経営者登用まで多種多様です。自社がどれに当てはまるかを切り分けることが、設計の出発点になります。

経営者高齢化とガバナンス強化という二つの追い風

後継者育成が経営課題として急浮上した背景には、二つの大きな潮流があります。

一つは、経営者の高齢化と廃業リスクです。中小企業庁の調査では、後継者未定の企業が休廃業を選ばざるを得ないケースが続いており、計画的な育成に着手しないまま経営移行のタイミングを迎える企業が増えています。

※参照:事業承継を知る | 中小企業庁

もう一つは、コーポレートガバナンス・コード改訂による上場企業へのサクセッションプラン要請です。取締役会の責務として、CEOの計画的な後継者育成と監督が明文化されたため、上場企業では制度として体系化する必要性があります。

つまり、中小オーナー企業は事業継続の観点から、上場企業はガバナンス強化の観点から、いずれも後継者育成を「いつかやる」ではなく「いま着手する」課題として向き合う必要が出てきています。

後継者育成・事業承継・サクセッションプラン・次世代リーダー育成の違いと関係

それぞれ、対象となる企業や目的、含む範囲が異なります。

概念

主な対象

企業

主な目的

含む範囲

後継者育成

全企業

経営を担う人材を育てる

候補者選抜、経験付与、評価、権限委譲、育成施策

事業承継

中小・オーナー企業中心

経営・株式・資産を移転する

育成に加え、株式移転・税務・個人保証の整理

サクセッションプラン

上場・大企業中心

ガバナンス要請に応える計画的後継者管理

CEO・役員ポジションごとの候補者管理と取締役会監督

次世代リーダー育成

全企業

将来の経営層・幹部候補プールを育てる

候補者プール段階の選抜型研修・タフアサインメント

後継者育成は4概念の中核に位置し、事業承継・サクセッションプランの「育成」部分として組み込まれます。次世代リーダー育成と重なりますが、次世代リーダー育成の方が広めの候補者プールを育てる意味合いが強く、後継者育成はより狭いターゲットを想定しています。

自社がどの文脈で取り組むべきかの判断軸

自社の取り組み文脈を見極めるには、次の3つを確認します。

  • 企業形態:オーナー企業なら事業承継の文脈(株式・税務・個人保証を含む)、上場企業ならサクセッションプランの文脈(取締役会監督)
  • 想定するポジション:CEO・社長のみなら狭義の後継者育成、役員層全体や事業部長クラスまで広げるならサクセッションプラン/次世代リーダー育成
  • 時間軸:5年以内の経営交代が想定されるなら後継者育成にフォーカス、10年以上の長期視点なら次世代リーダー育成として候補者プール構築から文脈が決まれば、本記事の後半で扱う「計画策定7ステップ」や「育成ロードマップ」、「失敗パターン」を自社のスコープに合わせて適用できます。
次世代リーダー育成について詳しくは以下の記事をご参照ください。

🔗関連記事:次世代リーダー人材の選抜育成を成功させる方法を事例つきで紹介

後継者育成計画の策定7ステップ

後継者育成計画は「経営者と人事だけで決めて発表する」ものではなく、現役員・候補者・現場が連動して動く制度として設計します。ここでは策定の7ステップを順に解説します。

ステップ1:現状把握と目標年限の設定

最初の3ステップは、設計の前提を固める段階です。

現経営者・現役員の在任予定期間、経営課題の方向性、求める後継者像を明文化します。「いつまでに」「どんな経営を担う」後継者が必要かを定義しないと、後続の選抜・育成設計が宙に浮きます。

ステップ2:後継者像の言語化(コンピテンシー定義)

求める後継者像を、性格特性ではなく行動・能力レベルで定義します。「変革リーダーシップ」「経営判断力」「ステークホルダー対応力」など、評価可能な要素に分解することが重要です。

ステップ3:候補者プールの設計と一次選抜

社内の管理職層から候補者プールを設計します。プール規模は最終ポジション一つに対して3〜5名が一般的な目安です。一次選抜では現役員推薦と人事データ(評価・アセスメント)を組み合わせ、候補者本人への打診と同意取得まで含めます。

ステップ4:個別育成計画書の作成(4軸テンプレ)

候補者プールが固まったら、個別の育成計画を組みます。

候補者ごとに、年次×役職×経験×評価指標の4軸で育成計画書を作成します(詳細は次のセクション「承継形態×育成期間で組み立てる育成ロードマップ」で解説)。

ステップ5:権限委譲ロードマップの策定

現経営者・現役員から後継者へ、どの権限をいつまでに移譲するかを年次で設計します。「決裁権限」「対外的な代表機能」「人事権」「投資判断権」を段階的に移譲する設計が、急な権限ギャップを避けるポイントです。

ステップ6:実行とモニタリング(年次レビュー)

策定した計画を実装し、運用しながら見直します。

タフアサインメントや経営参画機会を与えつつ、年次レビューで進捗と行動変容を確認します。360度評価やアセスメントを定期的に組み込み、「想定通り育っているか」を客観指標を基に確認します。

ステップ7:計画の見直しと候補者プールの再編成

事業環境変化や候補者本人の意向変化を踏まえ、計画を見直します。候補者の離脱・追加もこの段階で実施します。

7ステップを表にまとめると次のとおりです。

ステップ

主な活動

成果物

想定期間

1.現状把握

経営者在任予定・経営課題整理

後継者要件定義書

1-2か月

2.後継者像言語化

コンピテンシー定義

後継者コンピテンシーマップ

1-2か月

3.候補プール設計

一次選抜・本人同意取得

候補者リスト(3-5名)

2-3か月

4.個別育成計画

年次×役職×経験×評価の4軸設計

個別育成計画書

1-2か月

5.権限委譲ロードマップ

役職移行・権限移譲設計

権限委譲スケジュール

1-2か月

6.実行モニタリング

タフアサインメント・年次レビュー

レビューレポート

継続(年次)

7.見直し・再編成

計画修正・プール調整

改訂版計画書

継続(年次)

承継形態×育成期間で組み立てる育成ロードマップ

7ステップの中でも、ステップ4「個別育成計画」は設計の難所です。ここでは承継形態と育成期間という2軸で、自社状況から逆引きできるロードマップ設計を解説します。

承継形態別の設計差(親族内/従業員/社内昇格/社外招聘)

承継形態によって、候補者の出発点や期待される経験、必要な育成内容が大きく異なります。

承継形態

候補者の典型像

主な育成課題

育成期間目安

親族内承継

創業家二代目・三代目、若年から経営参画

経営者としての視座形成、現場・現経営者・株主間の橋渡し

10-15年

従業員承継

役員・事業部長から内部昇格

「経営者」役割転換、属人的経営からの脱却

5-10年

社内昇格

(上場企業サクセッション)

役員候補プールから段階選抜

全社視点・対外発信力・取締役会対応

5-10年

社外招聘

(プロ経営者)

外部から短期育成・即戦力期待

自社理解・組織文化への統合、信頼構築

1-3年(オンボーディング中心)

「親族内承継だから単純に教育期間が長い」のではなく、形態ごとに育成すべきテーマが違うことが重要です。たとえば社外招聘では育成期間自体は短いものの、組織文化への統合と既存幹部との信頼構築が成否を分けます。

5年・10年・15年プランの3パターン

育成期間別の典型的なプラン構成を示します。

5年プラン(短期型):既に役員クラスの候補者を対象に、経営判断・対外発信・取締役会対応など「経営者ならではの経験」に集中投下するパターンです。社内昇格や従業員承継によって、経営移行が間近に迫っている場合に選択されます。

10年プラン(標準型):事業部長候補から段階的に育成するパターンです。部長→執行役員→取締役→社長といった役職移行と、ローテーション・タフアサインメント・社外出向を組み合わせます。

15年プラン(長期型):30代の候補者プールから将来の経営層を育てるパターンです。次世代リーダー育成の文脈に近く、複数候補者を並行して育成しながら最終選抜を後段で行います。親族内承継の若年候補者にも適用されます。

年次×役職×経験×評価指標の4軸テンプレート

個別育成計画書のフォーマットとして、次の4軸で組み立てます。

年次

役職

付与する経験(タフアサインメント)

評価指標

1~2年目

事業部長

不採算事業の立て直し、新規事業立ち上げ

360度評価(リーダーシップ)、事業KPI達成

3~4年目

執行役員

全社プロジェクト責任者、海外子会社マネジメント

アセスメント(経営判断力)、グループ収益貢献

5~6年目

取締役

取締役会での議案提示、IR・対外発信

360度評価(対外発信力)、株主・投資家評価

7~10年目

副社長/COO

経営全般の代行、現社長との並走

取締役会評価、後継宣言の判断

4軸テンプレートを使う最大の利点は、「育成投資の根拠」を経営層に示せることです。「3年目で執行役員昇格、5年目で取締役、7年目で社長交代」という時間軸と「年次ごとの経験付与と評価指標」が紐づくため、稟議書として説得力を持ちます。

なお、上記は10年プランの典型例です。承継形態と育成期間に応じてカスタマイズしてください。

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後継者候補の選抜基準と評価指標

「候補者を選んでも、その後の評価をどうするのか」「進捗を測れない計画は形骸化する」——後継者育成の難所に踏み込みます。

候補者プールの作り方と選抜基準

候補者プールは、現役員推薦と人事データを組み合わせて構築します。具体的な選抜基準は次の3層で考えます。

  • 業績実績:過去3年の事業KPI達成・改善実績(定量)
  • 行動評価:360度評価による現状の行動レベル(定性+定量)
  • ポテンシャル評価:アセスメントセンター方式またはインタビュー形式による潜在能力(認知能力・対人影響力・変革志向)

業績だけで選抜すると「現業の優秀プレイヤー」止まりになりがちです。ポテンシャル評価を組み込むことで、現業の延長線上にない経営者役割への適性を見ます。

アセスメント・360度評価・行動評価のサンプル設問

評価指標の設計には、サンプル設問を持っておくと運用しやすくなります。

アセスメント評価項目例(経営判断力)

  • 不確実性下で複数の選択肢を構造化し、根拠ある意思決定ができるか
  • 短期業績と中長期成長の両立を踏まえた選択ができるか
  • 自分の意思決定を取締役会・株主に説明する論理を構築できるか

360度評価設問例(リーダーシップ・対人折衝)

  • この方は、自部門の利害を超えて全社最適の判断を提示するか(5段階)
  • この方は、反対意見にも耳を傾け、建設的な議論に変えるか(5段階)
  • この方は、困難な意思決定に対して責任を持って実行するか(5段階)

行動評価項目例(変革推進・組織を動かす力)

  • 過去1年で、現状を変える新規施策を起案・実行した実例があるか(具体記述)
  • 過去1年で、組織横断のプロジェクトを推進したか(具体記述)
  • 過去1年で、経営層・取締役会レベルへの提案を行ったか(具体記述)

これらを年次レビューに組み込み、定点測定することで「候補者が想定通り育っているか」を客観指標で確認できます。

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後継者育成の失敗4パターンと兆候チェックリスト

「育成計画を作っても、5年後に振り返ると形骸化していた」「権限委譲が結局進まずに後継宣言の時期を逃した」——後継者育成の現場で繰り返される失敗には、共通の類型があります。

失敗パターンを4類型で整理します。

類型

主な原因

典型的な兆候

回避策

経営者依存型

現経営者が「自分以外には任せられない」と判断、最終決裁を抱え続ける

候補者の決裁権限が形式的、対外発信は現経営者のまま

取締役会監督下で権限委譲スケジュールを明文化、年次レビューで進捗を強制確認

権限委譲停滞型

役職昇格はあるが、実権が移譲されない

候補者が役職に就いても従前と業務内容が変わらない

役職と権限をセットで定義、移譲権限の到達度を年次評価指標に組込

後継者バーン

アウト型

候補者の心理的負担・孤立・現業との並行負荷で離脱

候補者の業務時間異常増、健康状態悪化、辞退申し出

心理ケア・メンター配置、現業負荷の意図的な軽減

現場反発型

候補者の年次が現職幹部より下、または社外招聘で既存幹部の反発

候補者の指示が現場に届かない、派閥確執の顕在化

既存幹部の役割再定義(参謀ポジションへの転換)、候補者と既存幹部の協働機会を意図的に設計

「経営者依存型」と「権限委譲停滞型」は構造が似ていますが、前者は現経営者の心理的要因、後者は組織制度の設計不足という違いがあります。要因が違えば打ち手も違うため、まず自社の状況を兆候から逆引きすることが重要です。

形骸化を見抜く兆候チェックリスト

年次レビューで使える兆候チェックリストを示します。次の項目に該当数が多いほど、形骸化のリスクが高いと判断します。

経営者依存型の兆候

  • 候補者の決裁範囲が、計画策定時から1年経っても拡大していない
  • 対外発信(IR・記者会見・主要顧客対応)を現経営者のみが担っている
  • 取締役会で後継者育成の進捗が議題化されていない

権限委譲停滞型の兆候

  • 役職昇格はあるが、業務内容に変化がない
  • 候補者の上司にあたる現役員が、実質決裁を握り続けている
  • 権限委譲スケジュールが文書化されていない、または更新されていない

後継者バーンアウト型の兆候

  • 候補者の業務時間が、計画開始前と比べ大幅に増加(現業並行で負荷集中)
  • 候補者からのメンタリング・1on1の機会が不足している
  • 候補者本人が「辞退したい」「降りたい」と漏らしたことがある

現場反発型の兆候

  • 候補者の指示・施策が現場で実行されない、または抵抗される
  • 既存幹部から候補者への協力姿勢が見られない
  • 派閥的な動きが組織内で観察される

年次レビューで上記チェックリストを使い、兆候が複数該当する場合は早期に手を打つことが、形骸化を防ぐ要諦です。

社内・社外の育成手法の比較と組み合わせ方

後継者育成では、社内での経験付与と社外での視座拡大を組み合わせるのが基本です。それぞれの手法を比較しながら、自社で組み合わせる際の指針を示します。

育成手法

主な内容

期間目安

コスト感

適している

候補者像

ローテーション

複数事業部・機能部門の経験

1-3年×複数回

中(社内人件費中心)

全社視点が必要な役員候補

タフアサインメント

不採算事業立て直し・新規事業など困難業務

6か月-2年

中(機会コスト)

経営判断経験を積ませたい候補

社外出向

取引先・関係会社・異業種への出向

1-3年

中-高

視座拡大・自社文化からの脱却が必要な候補

経営者塾・選抜研修

MBA要素・経営シミュレーション・コーチング

数か月-2年

高(外部研修費)

体系的な経営知識・スキル習得が必要な候補

役員・取締役会陪席

経営会議・取締役会への陪席参加

継続

低(時間コスト)

経営判断の場の臨場感を学ぶ全候補

プロ経営者からの

コーチング

元経営者・社外取締役による個別メンタリング

1-2年

経営者役割への移行を控える候補

組み合わせ方の設計指針

単独の手法では効果が限定的です。組み合わせるときは、次の3点を意識します。

  • 経験の幅と深さの組み合わせ:ローテーション(幅)とタフアサインメント(深さ)をセットで設計
  • 内省機会の確保:タフアサインメント実行中・実行後に、経営者塾やコーチングで内省機会を意図的に挟む
  • 対外視点の獲得:社外出向や社外取締役からのメンタリングで、自社文化に閉じない視座を養う

「研修だけ」「経験だけ」では育ちません。経験で得た材料を内省で構造化し、対外視点で相対化する——この3点セットを年次計画に組み込むことが育成設計のポイントです。
弊社アルーは経営幹部・次世代リーダー候補向けの体系的育成プログラムを含む管理職研修を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。

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後継者本人の心理ケアと参謀・補佐人材の同時育成

後継者育成の議論で抜けがちなのが、「候補者本人の心理面」と「候補者を支える参謀人材の育成」です。5年・10年かけて育てた候補者が、心理的負担で離脱するという失敗は決して珍しくありません。

後継者の孤独・プレッシャーへの対処

後継者候補は、現業務との並行負荷、周囲の視線、将来への重圧という三重の負担を抱えます。「自分は本当に向いているのか」「自分が断れば組織はどうなるのか」という葛藤を抱えながら、相談相手が社内にいないという孤独に直面しがちです。

対処の打ち手として有効なのは次の3つです。

  • 社外メンターの配置:利害関係のない元経営者・社外取締役・専門コーチを継続メンターとして配置
  • 同期コホートの形成:複数候補者を並行育成する場合、コホート間で相互に対話する場を意図的に設計
  • 現業負荷の意図的軽減:後継者育成プログラム期間中は、現業の一部を補佐人材に移譲し、内省・学習時間を確保

「候補者本人の心理ケア」を制度として組み込まないと、5年経って「実は精神的に限界だった」と辞退されることに繋がります。

参謀・補佐人材を同時に育てる設計

後継者ひとりが経営を担うのではなく、後継者を支える参謀・補佐ポジションを同時に育てることが、組織としての継続性を支えます。

参謀人材は次のような役割を担います。

  • 後継者の経営判断を補完する財務・経営企画機能
  • 後継者と既存幹部の橋渡し役
  • 後継者が見落としがちな現場視点の代弁

実際の経営移行事例では、参謀ポジションには経営企画部長や事業部長が就くケースが多く、後継者の経営判断を実務面で支える役割を担います。

参謀人材を育てる際は、後継者候補との並行育成を意図的に設計します。同じプロジェクトに役割を分けて参画させたり、後継者の決裁案件で参謀役を補佐に置いたりすることで、移行時に「ペアで動ける」関係性を作ります。

参謀人材の育成を後回しにすると、後継者が孤立した状態で経営移行を迎えてしまい、就任後の苦戦につながります。

後継者育成の事例

ここでは、後継者育成・経営幹部育成に取り組んだ実例を1件取り上げます。

情報・通信業大手における経営幹部候補育成の取り組み

規模・対象者

アルーが支援した情報・通信業の企業(2,000-5,000名規模)では、統括部長候補(経営幹部候補)を対象に育成施策を実施しました。

課題

2030年ビジョン達成に向けて組織が事業転換を掲げるなか、現職の統括部長候補には、マーケットイン志向と現場主導の課題解決を強化すべきという課題がありました。プロダクトアウト志向や部門最適の壁が残り、研修はあるものの行動定着・評価につながらないという声が経営層から上がっていました。

実施した施策

「ビジョン策定→戦略・戦術への落とし込み→KPIマネジメント→グループコンバット演習」の4段階のプログラムを設計しました。事前課題として、候補者各自に自部署の現状認識・環境分析・中期経営計画の盲点を言語化させ、第1回研修で経営層からの講話と全社戦略の共有、ビジョン・環境分析・KPIマネジメントのインプットを実施しました。中間取り組みでは計画シートに各自の自部署ビジョン・戦略・戦術を反映させ、第2回・第3回でグループコンバット(候補者間で相互に経営判断を問い合う形式)を実施しました。また、事後の「研修+3か月後測定」で行動変容を可視化しました。

成果

研修を通じて、経営者としての役割認識に改めて触れた事業部長層が、自部署の役割を再整理し、全社方針と接続した自事業部のビジョンと実行計画を、自らの言葉で構造化して描けるようになりました。また、本研修の核心的な気づきとして、ある受講者が総評で「これまで事業計画は上に通すことだけが目的だったが、部下である部長に役職や責任を引き継ぐことが、より重要な本来の目的だと分かった」と述べたように、計画策定を「承認を得るための作業」から「組織を動かし、次世代に継承するためのもの」へと捉え直す転換が生まれました。受講者からは、学んだ内容を部長層にも共通言語としてインプットしたいという要望が複数挙がり、学びを組織に展開しようとする動きにつながっています。

設計のポイント

単発の研修ではなく「事前課題→集合研修→中間取り組み→集合研修→事後測定」という6か月超の経験学習サイクル設計とした点、グループコンバットで候補者間に意図的な緊張関係を作り「経営者として相互に判断を問う」場を作った点が、行動変容を生む鍵となりました。

まとめ

後継者育成は、「資質次第」で運任せにする活動ではなく、設計と運用で再現性を持たせる制度です。

後継者育成において特に意識したいのは次の3点です。

  • 承継形態に応じた設計差を最初に切り分ける(親族内・従業員・社内昇格・社外招聘で育成期間とテーマが異なる)
  • 4軸テンプレートで個別育成計画書を文書化する(経営層への稟議でも使える根拠資料になる)
  • 形骸化の兆候を年次レビューで強制確認する(4類型のチェックリストで早期に手を打つ)

「自社の場合、どの承継形態でどの期間プランが妥当か」「候補者プールの設計から始めるべきか、既存候補者の個別計画から着手すべきか」——具体的な設計に踏み込むと、組織の規模・業種・文化で最適解は変わります。だからこそ、設計思想と再現条件を持つパートナーと対話しながら進める価値があります。

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よくある質問(FAQ)

Q

後継者育成は何年スパンで設計するのが妥当ですか?

A

承継形態と候補者の出発役職によって5年・10年・15年の3パターンが目安です。社内昇格で既に役員クラスなら5年、事業部長候補からなら10年、30代の候補者プールからの長期育成なら15年が典型です。

Q

候補者は何名選抜するのが適切ですか?

A

最終ポジション一つに対して3-5名のプール設計が一般的な目安です。途中辞退・離脱・適性判明後の入れ替えを織り込むためで、最終選抜は育成計画の後半段階で行います。

Q

後継者育成計画の策定は人事主導でよいですか、それとも経営層主導ですか?

A

設計の主導は経営層、運用設計と評価運用は人事という分担が機能しやすい組み合わせです。後継者要件の定義や候補者選抜の最終判断は取締役会・経営層が握り、個別育成計画書の作成・年次レビュー運用・評価指標設計は人事が担うとスムーズです。

Q

候補者が育成途中で辞退した場合、投資は無駄になりませんか?

A

「投資が無駄になる」のではなく、「候補者プール設計の段階で複数候補を並行育成する」ことで吸収します。3-5名のプール設計はこのリスク管理の意味も含みます。また、最終ポジションに就かなかった候補者も、執行役員・事業部長として組織に貢献する人材に育つため、投資の回収経路は複数あります。

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アルー株式会社
20年以上、企業向けに人材育成コンサルティングや研修を提供してきた。新入社員・管理職といった階層別研修や、海外駐在員やグローバルリーダーなどのグローバル人材育成、DX人材育成に強みを持つ。その実績は取引企業総数1400社以上、海外現地法人取引社数400社以上に及ぶ。京都大学経営管理大学院との産学連携など、独自の研究活動も精力的に行っている。

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