
GROWモデルとは?1on1で使える質問例と会話フロー設計まで解説
GROWモデル(グロウモデル)とは、コーチングや1on1で部下の目標達成を支援するための会話フレームワークです。Goal(目標)・Reality(現状)・Options(選択肢)・Will(意志)の4段階で対話を進めることで、部下自身が答えを見つけ、行動に踏み出せる状態を作ります。
一方で「教科書通りに質問しても部下が答えに詰まる」「4要素は理解したが、次にどの質問を投げるか判断できない」という声も少なくありません。
本記事では、質問例だけではなく「質問と質問をつなぐ会話フロー」を、30分の1on1スクリプトとして提示します。あわせて、上司側が陥りがちなアンチパターンとセルフチェック、管理職教育に落とし込むための運用設計まで、人材育成担当者が日々の業務で使える形で解説します。
この記事でわかること
- GROWモデルの4要素の意味と提唱者ホイットモアの理論的背景
- Goal/Reality/Options/Will 各フェーズで使う質問例と使い所
- 30分1on1で使える会話フロー設計スクリプト
- GROWモデルが形骸化する上司側アンチパターン10選とセルフチェック
- SMART・OKRなど他フレームとの組み合わせマトリクス
- 管理職教育で「わかる」を「できる」に変える運用設計と適応課題への向き合い方
🔗おすすめ資料:現場で役立つ!コーチングプロセスの実践手引き
この記事の監修者

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎
1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。
GROWモデルとは
GROWモデルとは、部下やクライアントの目標達成を支援するコーチング手法の1つの型です。数あるコーチング手法の中でも広く知られた基本フレームで、1980年代のイギリスで、ジョン・ホイットモアやグラハム・アレクサンダーらによって整理され、ホイットモアの著書『Coaching for Performance』(邦題『はじめのコーチング』)を通じて世界的に普及しました。Goal(目標)・Reality(現状)・Options(選択肢)・Will(意志)の4つの頭文字で構成されるプロセスに沿って質問を重ねることで、相手自身が答えを引き出し、自律的に行動する状態をつくることを目的としています。
4要素の意味(Goal/Reality/Options/Will)
GROWモデルの4要素は、それぞれ独立した質問カテゴリではなく、対話の流れを構造化する順序を持っています。各要素の意味と1on1やコーチング場面での役割は次の通りです。
要素 | 意味 | 1on1やコーチング場面での役割 |
|---|---|---|
Goal(目標) | 面談で扱う目標・ゴールを明確にする | 「今日ここで何を持ち帰りたいか」を最初に合意する |
Reality (現状) | 目標と現状のギャップを客観的に把握する | 事実・感情・関係者の状況を多面的に整理する |
Options (選択肢) | 現状からゴールに近づく複数の打ち手を洗い出す | 上司の正解ではなく、部下自身の選択肢を広げる |
Will(意志) | 選択肢から実行する行動を決め、コミットする | 「いつ・何を・どうやって」まで具体化する |
重要なのは、この4要素を機械的に順に進めるのではなく、対話の中で必要に応じて行き来する柔軟性です。たとえばReality(現状)を深掘りする中で、当初のGoal(目標)が不明確だったと気づけば、一度Goalに戻り再設定します。
提唱者ホイットモアと理論的背景
GROWモデルはジョン・ホイットモアらが、ハーバードで教育に携わりテニスの専門家でもあったティモシー・ガルウェイの「インナーゲーム理論(内面の妨げを取り除くという考え方)」を土台に体系化しました。ガルウェイは、パフォーマンス(Performance)を「潜在能力(potential)から干渉(interference)を引いたもの(P = p − i)」と表す式を示しています。上司が答えを与えるのではなく、部下の内側にある妨げ(自己不信や思い込みなど)を取り除くことで、本来のパフォーマンスが発揮される、という考え方です。
コーチング・ティーチングとの位置付け
GROWモデルはコーチングの会話フレームであり、ティーチングとは目的も手法も異なります。両者の違いを整理すると次の通りです。
観点 | ティーチング | コーチング(GROWモデル) |
|---|---|---|
目的 | 知識・スキルを伝える | 相手の内側にある答えを引き出す |
主導権 | 上司(教える側) | 部下(考える側) |
適する場面 | 新入社員育成、未知業務、緊急時 | 目標設定、キャリア、行動変容 |
上司の役割 | 正解を示す | 質問で思考を広げる |
『結局GROWモデルって、上司が答えを持っている場面では使えないのではないか』という疑問は現場でよく聞かれます。答えは「使い分ける」です。新入社員に業務手順を教える場面ではティーチングが適切で、キャリアや目標達成の場面ではコーチング(GROW)が力を発揮します。上司の役割は、場面ごとにモードを切り替えることにあります。場面ごとにどのように使い分けるかは、SL理論(Situational Leadership理論:状況対応型リーダーシップ)が参考になります。
部下の状況に応じた使い分け
ティーチングとコーチングのどちらを使うかは、部下の状況によって変わります。この使い分けを整理する枠組みが、ハーシーとブランチャードが提唱したSL理論です。SL理論は、相手の習熟度や自律度に応じて、指示的な関わり(ティーチング)と支援的な関わり(引き出す)の配分を変えるべきだとする考え方で、部下の状態を4段階で捉えます。
部下の状況 | 習熟度・意欲 | 主な関わり方 | ティーチング/ コーチングの比重 |
|---|---|---|---|
段階1 | 未熟だが意欲は高い(新入社員など) | 具体的に教える(指示型) | ティーチング中心 |
段階2 | 慣れてきたが壁にぶつかり意欲が揺らぐ | 教えつつ支える(説得型) | ティーチング+コーチング |
段階3 | 能力は十分だが自信・主体性が不足 | 問いかけて引き出す(参加型) | コーチング中心 |
段階4 | 能力も意欲も高く自律している | 任せる(委任型) | 委任(必要時のみコーチング) |
ポイントは、同じ部下でも担当業務や場面によって段階が変わることです。ベテランでも未経験の業務では段階1に戻ります。相手を固定的に「コーチングが効くタイプ」と決めつけず、その時々の状況で関わり方を切り替えることが、ティーチングとコーチングを使い分ける実践的な指針になります。
GROWモデルが注目される理由と1on1・部下育成での目的
GROWモデルへの関心が高まっている背景には、日本企業の1on1導入の広がりと、その形骸化への危機感があります。
自律型人材育成の要請
自律型人材育成が急務となる中、GROWモデルは部下の内側にある答えを引き出すことで自律性を育てる会話手法として注目されています。上司が正解を示し部下に実行させるマネジメントではなく、部下自身が考え動く状態を作ることが求められているためです。
背景には、事業環境の変化が速まる中で、上司が正解を持ち、部下がそれを実行するというマネジメントが機能しづらくなっている構造があります。多くの企業では、DXやM&Aによる事業変革の中で、変革志向で自ら考え動ける管理職層・現場層の育成が急務となっています。GROWモデルはこの要請に応える具体的な会話手法として位置付けられます。
1on1形骸化からの脱却
「話すことがない」「やりたくない」という声に代表されるように、多くの1on1が形骸化しています。原因は、上司が雑談か業務進捗確認かティーチングに終始し、部下の思考が動く時間になっていないことにあります。GROWモデルは、1on1に「目標に向けて部下自身が考える型」を与えるツールとして機能します。
上司の役割転換
上司の役割は「解を与える人」から「考える力を引き出す人」へ転換が求められています。ある管理職研修では、受講前に「解決策をいかに提示できるかに価値を置いていた」と語っていた管理職が、コーチングを学ぶ中で「これはプレーヤーの価値であって、コーチングは全く別なんだという気づきを得た」と振り返っています。GROWモデルは、この役割転換を具体的な会話の型として支える役割を果たします。
管理職の役割について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:管理職の役割やあるべき姿とは?育成方法も紹介
GROWモデル4要素の質問例と使い方
各フェーズで使う質問例と、それぞれの使い所を整理します。単に質問リストを暗記するのではなく、目的に応じて選ぶことが重要です。
Goal(目標)フェーズの質問例と使い所
Goalフェーズの目的は、面談で扱う目標を具体化し、上司と部下で合意することです。
質問例 | 使い所 |
|---|---|
Goalフェーズで最も避けたいのは、部下の目標を上司が代わりに設定してしまうことです。目標が「上司から与えられたもの」になった瞬間、その後のWill(意志)フェーズで本人のコミットメントが得られなくなります。
Reality(現状)フェーズの質問例と使い所
Realityフェーズの目的は、事実と感情を切り分けて現状を多面的に整理することです。多くの上司が最も飛ばしがちなフェーズで、ここを丁寧にやらないと後の選択肢が浅くなります。
質問例 | 使い所 |
|---|---|
「次にどの質問を投げるか」の判断は、部下の答えが事実、感情、打ち手のどれに偏っているかで決まります。事実ばかり答える部下には感情を、感情ばかり語る部下には事実の棚卸しを促します。
Options(選択肢)フェーズの質問例と使い所
Optionsフェーズの目的は、実行に進む前に複数の選択肢を広げることです。ここで1つの案に飛びつくと、部下の思考が狭まります。
質問例 | 使い所 |
|---|---|
上司が案を持っている場合でも、いきなり提示せず「私からも案を出していいですか?」と許可を取ってから出すことで、部下の主体性を損なわずに視点を追加できます。
Will(意志)フェーズの質問例と使い所
Willフェーズの目的は、選択肢の中から実行する行動を決め、いつ・何を・どうやってまで具体化することです。
質問例 | 使い所 |
|---|---|
コミットメント度合いが低い(5以下など)場合は、無理に進めず「何があれば7以上になりそうか」を聞き、Goal・Reality・Optionsのどこかに戻ります。
GROWモデルを効果的に活用する方法
GROWモデルを実際に回すと、対話が「何をすべきか(要求・課題)」に偏りがちです。Goal(目標)で高い目標を掲げ、Reality(現状)で課題を洗い出し、Options(選択肢)で打ち手を考え、Will(意志)で「やります」と決める——この流れは、ともすると部下に「やるべきこと」を積み増すだけになり、実行が伴わなかったり、かえって負担感を高めたりします。ここで役立つのが、JD-R(仕事の要求度‐資源)モデルの視点です。
JD-Rモデルは、心理学者バッカーとデマルーティが提唱した、働く人のストレスと意欲を説明する枠組みです。仕事の特性を、大きく2つに分けて捉えます。
仕事の特性 | 具体例 |
|---|---|
仕事の要求度(demands) | 業務量、締切、責任、難易度など、努力を要し負荷となる側面 |
仕事の資源(resources) | 上司の支援、裁量、必要な情報やスキル、周囲の協力、フィードバックなど、目標達成を助け、要求の負担を和らげ、成長を促す側面 |
このモデルの要点は、要求が高くても、それに見合う資源があれば、人はストレスに押しつぶされず、むしろ意欲的に取り組める、という点です。逆に、要求ばかりが高く資源が乏しいと、疲弊やバーンアウトにつながります。近年は、自己効力感や楽観性といった「本人の内面的な資源」も、この資源に含めて考えられています。
GROWの対話は、放っておくと要求(やるべきこと)を増やす方向に働きます。だからこそ、意識的に「資源をどう増やすか」を問いに織り込むことが、実行可能性と部下の意欲を左右します。具体的には、次の2つのフェーズで資源への問いを加えます。
Options(選択肢)フェーズでは、打ち手を広げるだけでなく、「その選択肢を実行するには、どんな資源(人・情報・時間・スキル・支援)が必要か」を一緒に考えます。打ち手の数を増やすことと、それを支える資源を見立てることをセットにして初めて現実的な選択肢になります。
Will(意志)フェーズでは、行動を決める際に「それを実行するために、どんな資源や支援があれば進められるか」「足りない資源をどう手当てするか」まで具体化します。ここで上司自身が提供できる支援(情報、権限、他部署との橋渡しなど)を確認しておくと、部下は「一人で抱える」のではなく「支えられて動く」感覚を持てます。
フェーズ | 要求面 (従来の問い) | 資源面(加えたい問い) |
|---|---|---|
Options | どんな打ち手が考えられるか | その打ち手を実行するには、どんな資源(人・情報・時間・スキル)が必要か |
Will | いつ・何を・どうやるか | 実行を支える資源や支援は何か。足りないものをどう手当てするか |
高い目標(要求)を掲げるほど、それに見合う資源を増やす対話が欠かせません。GROWを「やるべきことを決める場」で終わらせず、「やり切るための資源を一緒に整える場」にすることが、行動が続く1on1と続かない1on1を分けます。
GROWモデルを活用した1on1の設計
質問例を理解しても、実際の1on1で「次にどの質問を投げるか」の判断ができないという声は少なくありません。ここでは、30分の1on1を想定した会話フローと、部下が詰まったときの戻り方を具体的に示します。
30分1on1の時間配分と会話フロー
30分の1on1でGROWモデルを一巡させる場合、次の時間配分が目安になります。
フェーズ | 時間 | 主なアクション |
|---|---|---|
時間配分の最大のポイントは、Reality(現状)に面談時間の3割を割くことです。多くの失敗パターンは、Realityを飛ばしてすぐにOptionsに進むことで起きます。ただし、どんなテーマに対しても30分で完結しなければと思い込むとうまくいきません。テーマによっては(例:中長期のキャリアの方向性など)、複数の機会をつかってじっくり取り組みましょう。
部下が詰まったときの戻り方と沈黙の扱い
部下が「うーん…」と沈黙したり、「特にないです」と答えが止まったときの対応は、コーチングの成否を分けます。
沈黙があったら待つのが原則です。上司が沈黙に耐えられず質問を重ねると、部下の思考が中断されます。最低でも10秒は待ちましょう。
それでも詰まる場合は、次の順で戻ります。
- 一段視野を上げる:「もう少し広げて考えてみると?」
- 前のフェーズに戻る:Optionsで詰まったらRealityに、Realityで詰まったらGoalに戻す
- 視点を変える:「別の人の目線ではどうですか?」
- 仕切り直しの許可を取る:「一度整理し直しましょうか」
4要素間の遷移判断基準
GROWモデルは順序通りに一直線で進むのが理想ですが、実際には行き来が必要です。遷移の判断基準は次の通りです。
状態 | 戻るべきフェーズ | 判断の根拠 |
|---|---|---|
Optionsで案が出ない | Reality | 現状把握が浅い可能性 |
Realityが感情ばかり | Goal | 目標が不明確で感情が漂う |
Willで動く気配がない | Options | 選択肢が上司の押しつけになっている |
話が発散する | Goal | 今日扱うゴールが曖昧 |
「GROWモデル通りに進めても部下の行動が変わらないのは、モデルのせいか、自分のスキルのせいか」という問いを持つ方は少なくないでしょう。多くの場合、モデルの問題ではなく、フェーズ間の遷移判断が機械的で、部下の状態に合わせた戻り方ができていないことに原因があります。
🔗おすすめ資料:現場で役立つ!コーチングプロセスの実践手引き
GROWモデルの失敗パターンと上司側セルフチェック
GROWモデルが機能しない典型パターンの多くは、モデル自体ではなく上司側の思い込みや思考のクセに原因があります。上司が「答えを持ったまま質問する」誘導コーチングになっていないか、セルフチェックが不可欠です。
上司側アンチパターン10選
現場でよく見られる失敗パターンを10個に整理します。
# | アンチパターン | 具体的な症状 |
|---|---|---|
上司側セルフチェックリスト
1on1後の振り返りに使えるセルフチェック項目です。
- 今日の1on1で、部下が話した時間は全体の6〜7割以上あったか
- 誘導質問(答えを持ったまま聞く質問)を投げていないか
- Realityフェーズを飛ばしていないか(現状把握に面談時間の3割を使えたか)
- Optionsフェーズで、部下から3案以上引き出したか
- 部下の沈黙を10秒以上待てたか
- 部下の言葉に対して、少なくとも1回は承認・共感を返したか
- Willで決めた行動は、部下自身が選んだものか(上司の指示になっていないか)
- 次回の1on1までの支援(自分ができること)を伝えたか
- この1on1で、部下は新しい気づきを得られたか
- この30分の目的を、面談冒頭で明確に合意できたか
SMART・OKRなど他フレームとの組み合わせ活用
GROWモデルは単独で使うより、他のフレームと組み合わせることで実務判断がしやすくなります。
GROW×SMARTでGoalを具体化する
SMART(Specific/Measurable/Achievable/Relevant/Time-bound)は目標設定の質を高めるフレームです。GROWのGoalフェーズにSMARTを重ねると、抽象的な目標が実行可能なレベルまで具体化されます。
GROW フェーズ | SMART要素 | 質問例 |
|---|---|---|
Goal | Specific(具体的) | どんな状態になっていればゴールですか? |
Goal | Measurable(測定可能) | 何をもって達成と判断しますか? |
Reality | Achievable(達成可能) | 今のリソースで実行可能な水準ですか? |
Will | Relevant(関連性) | それはあなたの半年後の目標に繋がっていますか? |
Will | Time-bound(期限) | いつまでに実行しますか? |
GROW×OKRで組織目標と接続する
OKR(Objectives and Key Results)は、組織の目標(Objectives)と、その達成度を測る主要な結果指標(Key Results)を連動させ、全社から個人までを一本の線でつなぐフレームです。GROWのGoalフェーズで扱う目標が、このOKRと接続していることを確認すると、1on1が「個人がやりたいことの確認」で終わらず、組織の成果に結びつきます。
具体的には、Goalフェーズで部下が設定したゴールを、組織のObjective(何を目指すか)やKey Results(どの指標で測るか)と照らし合わせます。「あなたのこのゴールは、チームのどの目標(Objective)に貢献しますか?」「それは、チームのどのKey Resultsを動かしますか?」と問うことで、個人の目標が組織の方向性のどこに位置づくかが明確になります。
OKRの要素 | GROWのGoalフェーズで加えたい問い |
|---|---|
Objective(目指す状態) | あなたのこのゴールは、チーム・組織のどの目標につながっていますか? |
Key Results(結果指標) | それが達成されると、どの成果指標(数値)が動きますか? |
貢献の確認 | チーム全体の目標から見て、あなたが今いちばん貢献できるのはどこですか? |
この接続には、2つの効果があります。一つは、部下の目標が組織成果に紐づくことで、上司としても「その目標を支援する意味」を説明しやすくなることです。もう一つは、部下自身が「自分の仕事が組織のどこに効いているか」を実感でき、目標への納得感と動機づけが高まることです。
ただし注意点として、OKRとの接続を強調しすぎると、Goalが「組織から降ってくるノルマ」になり、部下の主体性(GROWが引き出そうとするもの)を損ないかねません。組織目標への接続と本人の意志の尊重は、どちらかではなく両立させる——「組織の目標のどこに、あなた自身が力を入れたいか」を問う形にすると、OKRの整合性とGROWの主体性を両立できます。
GROWモデルを組織に定着させる管理職教育と運用設計の事例
「研修で学んだGROWモデルが現場の管理職に定着せず、形骸化した1on1が量産されている」という課題は、多くの人材育成担当者が抱えるものです。原因はスキル不足だけではありません。多くの場合、管理職自身の「あるべき上司像」や「上司部下関係の思い込み」が、コーチングを妨げています。
GROWの型と、その先にある管理職の適応課題
GROWモデルの質問スキルは、研修で教えれば習得できる「技術的課題」です。一方、「部下の内側にあるやりたいことを引き出す上司になる」ことは、管理職自身の信念や価値観の変更を要する「適応課題」に属します。両者は解決アプローチが異なります。
課題の種類 | 中身 | 解決アプローチ |
|---|---|---|
技術的課題 | 既存の知識・技術を学ぶことで解ける課題(例:GROWの4要素と質問例を身につける) | 座学・演習によるスキル習得 |
適応課題 | 従来の価値観や信念の一部を手放す必要がある課題(例:「部下から言ってこない限り触れない」という信念を問い直す) | 自身の信念の自覚と、矛盾を受け容れるプロセス |
ハーバードのロナルド・A・ハイフェッツは著書『最前線のリーダーシップ』(英治出版)で、「リーダーシップが失敗する原因は、適応課題を技術的課題のように扱ってしまうことである」と指摘しています。多くの管理職研修がスキル習得だけで終わり定着しないのは、この構造にあります。
適応課題への対応は、無自覚(自分の信念を疑わずに行動している)→自覚(思い込みを言語化する)→試行錯誤(新しい関わり方を1on1で試す)→取り入れ(自然に行動として現れる)、という段階を経て進みます。研修での「自覚」から「取り入れ」までには、短くても3か月、長ければ6か月〜1年の実践と観察の蓄積を要します。集合研修1回で完結する技術ではなく、日々の1on1で試し、観察し、また試すサイクルの中でしか身につきません。
したがって管理職教育の設計は、GROWの型を伝える技術的アプローチと、管理職自身の思い込みに向き合わせる適応課題アプローチの二段構えが基本になります。
管理職の役割について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:適応課題と技術的課題の例を紹介。研修で適応課題にアプローチする方法
事例:大手コンサルティング会社における管理職の対話力向上プログラム
アルーが支援した大手コンサルティング会社では、社員のモチベーションやエンゲージメントに課題があり、上司部下の関係性に問題があるのではないかという仮説がありました。全社アンケートを取ったところ、「コミュニケーションの『量』は確保できているものの、部下の成長につながる『質』の対話はできていない」という現状が浮き彫りになりました。
一方で、経営として目指す姿は明確でした。それは「専門性を持ちながら、自ら設定した目標のもとに自立して動き、変革を恐れず果敢に挑戦する」社員の育成です。そのためには、上司は部下を受容し、部下の「やりたい」という想いを引き出す役割をになる必要があります。しかし、現場の管理職は、次のような思い込みにとらわれ、理想の関わり方に踏み出せずにいました。
・「部下から言ってこないのに上司から聴きに行くのは過保護だ」
・「他のキャリアを与えられないなら触れない方が誠意ある対応だ」
このような課題を解決するため、管理職約20名を対象に、次の構成でプログラムを設計しました。
まず1日間の集合研修で、身体・直感・思考の3つの意識を使ったワークに取り組みました。身体面では自身の身体感覚に気付く時間を、直感面では自身の仕事人生における「充実度曲線」を描き、エネルギーが高まった経験を3名一組で傾聴し合う時間を持ちました。思考面では「思うように行動できない管理職」のケーススタディを使い、管理職が自身の思い込みにより望まない行動を生んでしまうことを疑似体験しました。最後に統合セッションとして、自身のエネルギーが湧く「ありたい管理職像」を言語化しました。GROWモデルはこの中で、部下との対話における基本フレームとして押さえた上で、その先にある管理職自身の内面の変化を扱いました。
その後、実践期間として日々の部下との1on1で相手に好奇心を持つことや、興味を持って部下のエネルギーの源泉を知り、聴くことに取り組みました。実践期間の後、0.5日の振り返り研修を実施しています。実践結果を共有し、実践を阻んだ思い込みを棚卸しし、今後のアクションプランを立てました。
効果測定は2段階で設計しました。研修直後アンケートでは、管理職に対する自身の信念や価値観に変化が起こったか、実践しようという意欲が上がったかを自己回答で測定しました。3か月後の職場実践アンケートでは、管理職本人だけでなく部下側にも回答を依頼し、上司との関係性に変化があったか、上司の向き合い方に変化があったか、部下側から見て上司を見るまなざしに変化があったかを他者回答で測定する設計としました。
設計のポイントは3つあります。
第一に、GROWモデルの質問スキル(技術的課題)だけでなく、管理職自身の「あるべき上司像」の思い込み(適応課題)に踏み込んだことです。第二に、身体・直感・思考の3つの意識を組み合わせ、頭で考えるだけでは気づけない自身の内面にアクセスさせたことです。第三に、効果測定を「管理職の自己評価」で終わらせず、3か月後に部下側からの他者評価を取ることで、本当の行動変容が起きているかを見える化したことです。
弊社アルーはGROWモデルを含む1on1・部下育成スキルを扱う管理職研修を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。
🔗研修サービス詳細:管理職研修
まとめ
GROWモデルは、Goal・Reality・Options・Willの4段階で部下の目標達成を支援するコーチング会話の型です。ただし、質問例を暗記しても実際の1on1では機能しません。重要なのは、フェーズ間の遷移判断や沈黙の扱い、部下が詰まったときの戻り方までを含めた「会話フローの設計」です。
現場でGROWモデルを機能させる鍵は、上司側の思考のクセに向き合うことにあります。誘導質問やReality飛ばし、Options即決といった失敗パターンをセルフチェックで自覚し、SMARTやOKRといった他フレームと組み合わせてGoalの質を高めることで、1on1は「話すことがない時間」から「部下自身が答えを見つける時間」へと変わります。
そして組織にGROWモデルを定着させるには、質問スキルという技術的課題だけでなく、管理職自身の「あるべき上司像」という適応課題に踏み込む必要があります。無自覚→自覚→試行錯誤→取り入れという段階を、3か月から1年かけて丁寧にたどる設計こそが、「わかる」を「できる」に変える運用の骨格です。明日の1on1で1つでも質問を試すこと、そして自社の管理職教育を「型の伝達」で終わらせない設計を検討することが、次の一歩になります。
よくある質問(FAQ)
Q | 上司が答えを持っている場面では、GROWモデルは使えないのですか? |
|---|---|
A | 使えないわけではなく、「使い分ける」のが正解です。新入社員に業務手順を教える場面や、緊急対応が必要な場面では、ティーチングが適切です。一方、部下のキャリアや行動変容、複数の打ち手がありうる目標達成の場面では、コーチング(GROWモデル)が力を発揮します。SL理論を参考に、部下の習熟度と業務の性質に応じてモードを切り替えることが実践の指針になります。 |
Q | 教科書通りに質問しても、部下が答えに詰まってしまいます。どうすればいいですか? |
|---|---|
A | 多くの場合、原因はReality(現状)フェーズを飛ばしてOptions(選択肢)に進んでいることにあります。現状把握が浅いまま「じゃあどうする?」と問われても、部下は具体的な打ち手を発想できません。面談時間の約3割をRealityに使い、事実・感情・既に取った打ち手を丁寧に棚卸ししてからOptionsに進むと、質問への答えが出やすくなります。それでも詰まる場合は、一段視野を上げる質問(「もう少し広げて考えてみると?」)や、一つ前のフェーズに戻る対応が有効です。また、部下の沈黙は最低10秒待つのが原則で、上司が質問を重ねすぎないことも重要です。 |
Q | 質問例を真似しようとしても、自社の部下・自分の職種に当てはめられません。どうすればいいですか? |
|---|---|
A | 質問例は「暗記して当てはめる」ものではなく、「目的に応じて選ぶ」ものと捉え直すと使えるようになります。各フェーズには目的があります——Goalは目標の合意、Realityは事実と感情の整理、Optionsは選択肢の拡大、Willは実行の具体化が目的です。目的から逆算して、その部下・その場面で何を引き出したいかを決めれば、質問は自然に組み立てられます。まずは4フェーズ×3〜5個の質問を「型」として持ち、実際の1on1で試しながら、自分の言葉に翻訳していくアプローチが実践的です。 |
Q | GROWモデルとSMARTやOKRは、どう使い分ければいいですか? |
|---|---|
A | 3つは競合するフレームではなく、レイヤーが異なる補完関係にあります。SMARTは「目標そのものの質」を高めるチェックリストで、GROWのGoalフェーズで目標を具体化する際に重ねます。OKRは「組織の目標と個人の目標をつなぐ」仕組みで、GROWモデルのGoalが組織成果とどう接続するかを確認する場面で使います。GROWモデルは、この目標を巡って部下と対話する「会話の型」です。したがって使い分けというより、SMARTでGoalの質を担保し、OKRで組織との接続を確認し、GROWモデルで対話を進める、という重ね方が実務的です。 |
Q | 研修で学んだGROWモデルが、現場の管理職に定着しません。何が原因ですか? |
|---|---|
A | 原因はスキル不足だけではありません。多くの場合、管理職自身の「上司はこうあるべき」「部下から言ってくるのが筋だ」といった信念が、コーチングを妨げています。これは知識で解ける技術的課題ではなく、価値観の見直しを要する「適応課題」です。適応課題は集合研修1回では変わらず、無自覚→自覚→試行錯誤→取り入れという段階を、3か月から1年かけて実践と観察の中で経る必要があります。定着させるには、GROWモデルの型を伝える研修と、管理職自身の思い込みに向き合わせるワーク、そして実践期間を挟んだ振り返り研修と部下側からの効果測定をセットで設計することが有効です。 |


