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コンティンジェンシー理論とは?管理職育成に使える状況適合のガイド

コンティンジェンシー理論に対し、「1960年代の理論を今の職場で活用できるのか」「『唯一最善のリーダーシップはない』なかで自社の管理職育成で何を教えるべきか」という疑問を感じている方もいるでしょう。

本記事では、コンティンジェンシー理論をリーダーシップ論と組織設計論の二層で整理し、フィドラーの状況好意性3変数の自己診断から、SL理論をはじめとする同系譜内の各モデルとの使い分け、管理職育成への実装5ステップまで、実践で活かせる形で解説します。

この記事でわかること

  • コンティンジェンシー理論の定義と歴史的背景
  • リーダーシップ論と組織設計論を統合した理論マップ
  • 状況好意性3変数の自己診断チェックリスト
  • SL理論・PM理論・サーバント型・変革型との使い分け
  • 管理職育成・リーダー配置に落とし込む5ステップ
  • 導入時の失敗パターンと回避策

この記事の監修者

落合 文四郎

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎

1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。

コンティンジェンシー理論とは

コンティンジェンシー理論(状況適合理論、条件適合理論とも訳される)とは、「唯一最善のリーダーシップや組織形態は存在せず、状況に応じて最適解が変わる」という考え方を示す経営理論(管理理論)の総称です。特定の研究者による単一の理論ではなく、1950年代末から1960年代以降にかけて、リーダーシップ研究と組織設計研究の両方で並行して発展してきた理論群を指します。

リーダーシップ研究の系譜ではフレッド・フィドラー(Fred Fiedler)が状況適合モデルを体系化し(1964・1967年)、その後ハーシー&ブランチャードのSL理論(1969年)やハウスのパス・ゴール理論も、同じ「状況適合」の思想を発展させたコンティンジェンシー理論の一員として位置づけられます。組織設計論では Burns & Stalker(1961年)が機械的組織/有機的組織を、Lawrence & Lorsch(1967年)が環境と組織構造の適合を論じ、とくに「コンティンジェンシー理論」という呼称は Lawrence & Lorsch によって広まったとされます。

この理論の中核となる考え方は、「リーダーシップの効果はリーダー個人の資質や行動スタイルだけで決まるものではなく、リーダー・メンバー間の関係性やタスクの性質、権限の強さ、あるいは部下の成熟度といった状況要因との適合度によって決まる」というものです。

たとえば、指示命令型のリーダーが常に有効なわけではなく、緊急対応が求められる現場では機能する一方、創造性が求められるプロジェクトチームでは逆効果になることがあります。「状況次第」という当たり前の話に聞こえるかもしれませんが、この理論群の価値は「どの状況変数を、どう測って、どう配置に活かすか」を体系化した点にあります。

系譜と代表的モデル

コンティンジェンシー理論は単一の理論ではなく、「状況適合」という共通の思想のもと複数の系譜で発展してきた理論群の総称です。読者が押さえるべきは以下の二層構造と、リーダーシップ論内での代表的モデル群です。

代表研究者・モデル

焦点

リーダーシップ論(コンティンジェンシー系)

フィドラーの状況適合モデル / ハーシー&ブランチャードのSL理論 / ハウスのパス・ゴール理論

リーダー個人のリーダーシップスタイルと状況(部下の成熟度含む)の適合

組織設計論(コンティンジェンシー系)

Burns&Stalker / Lawrence&Lorsch / Woodward

組織構造と環境・技術の適合

フィドラーのリーダーシップ論のみをコンティンジェンシー理論として扱い、SL理論を別枠の理論として扱いがちですが、SL理論もまた「部下の成熟度」という状況変数を軸にした1つのコンティンジェンシー理論です。本記事では、フィドラーのモデルとSL理論を同系譜内の相互に補完し合うモデルとして位置づけたうえで、組織設計論の視点も統合して解説します。

コンティンジェンシー理論が誕生した背景と理論変遷

この理論が生まれた背景を押さえておくと、なぜ現代の管理職育成でも参照する価値があるのかが見えてきます。

リーダーシップ資質論・行動論からの転換

1940年代までのリーダーシップ研究は、「優れたリーダーには共通する資質がある」という資質論(Trait Theory)が主流でした。しかし、多くの実証研究を重ねても、資質と成果のあいだに一貫した相関は見出せませんでした。
そこで1950〜60年代には、「生まれつき何を持つか」ではなく「どのような行動をとるか」に注目する行動論(Behavioral Theory)が登場します。日本で広く知られるのが、三隅二不二(みすみ・じゅうじ)が提唱したPM理論(Performance-Maintenance Theory:目標達成機能と集団維持機能の理論、1966年)です。PM理論は、リーダーの行動を「目標達成を促すP機能(Performance)」と「集団をまとめ関係を保つM機能(Maintenance)」の2軸で捉え、両方が高い「PM型」(行動発揮されている場合を大文字、そうではない場合を小文字で表す。したがって、PM型というのはpm型と対比をして、P機能とM機能の双方が発揮されている状態を示す)を理想とする枠組みです。その分かりやすさと実用性から、PM理論は現在でも企業研修やリーダー・アセスメントで現役の有用なモデルとして使われ続けています。
もっとも、PM理論をはじめとする行動論には一つの限界がありました。「どんな状況でも有効な、理想の行動パターン」を前提に置いていた点です。PM型が望ましいという示唆は多くの現場で有効でしたが、実証を重ねると、あらゆる状況で一様に通用する唯一の行動様式までは特定できませんでした。
この行き詰まりを受け、1960年代に「状況によって有効なリーダーシップは変わる」という発想の転換が生まれ、コンティンジェンシー理論として結実しました。
PM理論について詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連資料:PM理論とは?企業が求めるリーダー像や施策、企業例をわかりやすく解説

1960年代以降の理論的発展

コンティンジェンシー理論群は、リーダーシップ論と組織設計論の両方で発展を重ねました。

  • リーダーシップ論の系譜(同系譜内の細分化):フィドラーの状況適合モデル(1964年、状況好意性3変数を軸にする)→ ハーシー&ブランチャードのSL理論(1969年、部下の成熟度を軸にする)→ ハウスのパス・ゴール理論(部下の特性と環境要因を軸にする)
  • 組織設計論の系譜:Burns&Stalkerの「機械的組織 vs 有機的組織」(1961年)→ Lawrence&Lorschの「分化と統合」(1967年)→ Woodwardの技術タイプ別組織論(1965年)

どちらの系譜も、「環境や状況が変われば、有効な打ち手も変わる」という共通の設計思想を持っています。リーダーシップ論内では、フィドラーが「組織全体の状況」を、SL理論が「部下個人の成熟度」を、パス・ゴール理論が「タスク特性と部下特性」を、それぞれ状況変数として深掘りしていったという関係にあります。

VUCA・リモートワーク時代の再解釈

VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity:変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)とリモートワークの普及により、この理論の状況変数は再解釈が必要になっています。

  • リーダー・メンバー関係:対面での関係構築が減った分、意図的な1on1やオンラインでの信頼形成の質が状況変数として重要度を増しています。
  • タスク構造:新規事業やDXなど、答えが決まっていない探索型業務の比率が上がり、「タスク構造の低さ」が常態化しています。
  • 権限の強さ:フラット化・アジャイル化の流れで、正式な権限より「影響力の強さ」が実質的な状況変数として機能する場面が増えています。
  • 部下の成熟度(SL理論の視点):リモート環境下では、部下の状況把握そのものが難しくなるため、意識的に成熟度を見立てる仕組み(1on1・週次レビュー等)を組み込む必要があります。

古典理論だからこそ、こうした現代的な変数の捉え直しをセットで押さえておくことが、研修コンテンツの陳腐化を防ぎます。

コンティンジェンシー理論の全体像

実務で活用するには組織設計論の視点も統合した全体像を持つことが必要です。

リーダーシップ論と組織設計論の二層マップ

この理論を実務で使うために、以下の理論マップで全体像を押さえてください。

対象

状況変数の例

実務での問い

リーダーシップ論

個人のスタイル選択

リーダー・メンバー関係 / タスク構造 / 権限の強さ / 部下の成熟度

このマネジャーには、どのスタイルを取らせるか

組織設計論

組織構造の選択

環境の不確実性 / 使用技術 / 組織規模

この部門には、どんな組織構造が合うか

管理職育成の文脈では前者、事業部の組織改編の文脈では後者、というように使い分けます。両者を同じ思想で貫くことで、「人と組織の両面から状況適合を設計する」という視点が持てます。

組織設計論の系譜

組織設計論は、組織が外部環境に適応(環境適応)するために、どんな構造が最適かを論じる系譜です。代表的な3つの研究成果を実務向けに整理すると、以下のようになります。

研究者

主要な区分

実務での示唆

Burns&Stalker

機械的組織(安定環境向け)vs 有機的組織(変化環境向け)

事業の変化速度に応じて組織構造を選ぶ

Lawrence&Lorsch

環境の不確実性が高いほど「分化」と「統合」の両立が必要

部門ごとの分化と、統合機能(プロジェクトマネジャー等)の設計をセットで考える

Woodward

使用する生産技術のタイプ(単品生産/大量生産/装置生産)によって最適組織が異なる

事業特性に合わせて管理階層の深さや管理幅を設計する

組織マネジメントについて詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:【研修事例】組織マネジメントとは?フレームワークや管理職に必要なスキル

フィドラーの状況好意性3変数と自己診断チェックリスト

ここからは、実務で最も使う頻度が高い「フィドラーの状況適合モデル」を、自社で活用できる粒度で解説します。「フィドラーのLPC尺度(Least Preferred Coworker Scale:最も一緒に仕事したくない同僚の評価尺度)をそのまま日本企業のリーダー選定に使って本当に妥当なのか」という疑問を持つ方もいるはずです。結論から言うと、LPC尺度の直接運用は文化差の観点で慎重さが必要ですが、状況好意性3変数の考え方は自社流にアレンジして十分に活用できます。

3変数の定義(リーダー・メンバー関係/タスク構造/権限)

フィドラーは、リーダーが直面する状況の「好意性(favorableness)」を、以下の3変数で測ります。

変数

定義

高い状態の例

低い状態の例

リーダー・

メンバー関係

メンバーがリーダーを信頼し、指示に前向きに従うか

心理的安全性が高く、リーダーへの信頼が厚い

信頼関係が希薄、対立や不信感がある

タスク構造

業務内容が明確で、手順や成果基準が定まっているか

定型業務、手順書が整備されている

新規事業、答えが決まっていない探索業務

権限の強さ

リーダーが正式な人事権・評価権・報酬権を持つか

明確な部下評価権と予算裁量がある

部下は他部署所属で、正式な権限は限定的

この3変数の高低の組み合わせで、状況好意性は8パターンに分類されます。

状況好意性8パターンとリーダーシップスタイル

フィドラーは、リーダーシップスタイルを大きく「課題志向型(Task-oriented)」と「対人関係志向型(Relationship-oriented)」の2つに分け、状況好意性のレベルに応じてどちらが有効かを示しました。

好意性レベル

3変数の状態

有効な

スタイル

好意的

3変数のうち、リーダー・メンバー関係性とタスクの構造化の両方が良い状態。

課題志向型

中程度

好意的・非好意的なパターン以外のパターン。

対人関係志向型

非好意的

3変数のうち、リーダー・メンバー関係性とタスクの構造化の両方とも悪い状態。

課題志向型

「関係が良く、タスクも明確、権限もある」という理想的な状況では、リーダーは細かい人間関係ケアより成果達成に集中したほうが有効です。逆に「関係が悪く、タスクも曖昧、権限も弱い」という危機的状況でも、対人ケアより明確な指示・優先順位提示が求められます。中間の状況では、対人関係の構築を優先することでチームが機能しやすくなる、というのがフィドラーの示唆です。

自社で使える自己診断チェックリスト

3変数を自社の組織診断に落とし込むためのチェックリストを、以下に示します。マネジャーが自チームを振り返る際、または人事がリーダー配置を検討する際の叩き台として活用できます。

リーダー・メンバー関係(各項目 1〜5点で採点)

  • メンバーはリーダーの指示を前向きに受け入れているか
  • メンバーは困りごとをリーダーに率直に相談できているか
  • リーダーとメンバーの間に対立・不信感の兆候はないか

タスク構造(各項目 1〜5点で採点)

  • チームの業務目標は明確に定義されているか
  • 成果基準や評価軸が事前に共有されているか
  • 業務手順・意思決定プロセスが標準化されているか

権限の強さ(各項目 1〜5点で採点)

  • リーダーは部下の評価権を正式に持っているか
  • リーダーは予算・リソース配分の裁量を持っているか
  • リーダーの指示に対する組織的な後ろ盾があるか

各変数の合計点で「高(12点以上)/中(8〜11点)/低(7点以下)」に分類し、上記の8パターンマップと照合することで、そのマネジャー・そのチームに求められるスタイルの方向性が見えてきます。

なお、上記のチェックリストは学術的に検証された尺度ではなく、本記事が3変数の考え方を実務で扱いやすくするために作成した簡易版です。自社で本格運用する場合は、業務特性に合わせて設問と採点基準をカスタマイズしてください。

🔗おすすめ資料:リーダーの役割と必要なスキル一覧

SL理論・PM理論・サーバント型・変革型との違いと使い分け

コンティンジェンシー理論群のなかで、フィドラーの状況適合モデル、SL理論、およびそれと対比される他系譜のリーダーシップ理論(PM理論・サーバント型・変革型)を整理します。「どの状況で何を選ぶか」の判断軸として活用してください。

各理論の位置づけ比較表

理論

系譜

提唱者

中心概念

何を状況

変数とするか

フィドラーの

状況適合モデル

コンティンジェンシー系

フィドラー

リーダーシップスタイルと組織状況の適合

リーダー・メンバー関係/タスク構造/権限

SL理論

コンティンジェンシー系

ハーシー&ブランチャード

部下の成熟度に応じたスタイル変化

部下の職務的・心理的成熟度

PM理論

行動論

三隅二不二

Performance(目標達成)とMaintenance(集団維持)の両立

─(普遍型に近い)

サーバント型

リーダーシップ

価値観型

グリーンリーフ

メンバーへの奉仕を通じた成果創出

─(価値観型)

変革型

リーダーシップ

変革型

バーンズ/バス

ビジョン提示と動機の変容

変革が求められる環境

フィドラーの状況適合モデルとSL理論はいずれもコンティンジェンシー理論の代表的モデルですが、状況変数の捉え方が異なります。フィドラーは3変数の総合的な状況好意性(組織全体の状況)を見るのに対し、SL理論は「部下個人の成熟度」に絞り込んでいます。両者は対立するものではなく、「組織全体の状況を見るならフィドラー、部下一人ひとりへの関わり方を選ぶならSL理論」という補完関係にあります。

どの状況でどれを選ぶかの意思決定基準

管理職育成のプログラム設計で「どの理論を軸に据えるか」を判断する際の目安を、以下にまとめます。

このような組織状況では

中心に据えると効果的な理論

事業ステージや部門特性が多様で、組織全体の状況を診断してマネジャー配置を考えたい

フィドラーの状況適合モデル(状況好意性の診断→スタイル選定)

若手部下と経験豊富な部下が混在し、部下ごとの育成対応が課題

SL理論

目標達成と組織維持の両立が課題(バランス型マネジャー育成)

PM理論

現場密着・メンバー支援型の管理職を増やしたい

サーバント型

事業変革・組織文化変革を担うリーダーを育てたい

変革型

複数の理論を組み合わせて研修体系に落とし込むことも実務では一般的です。たとえば、新任課長には「PM理論でバランス感覚を養う」、中堅管理職には「SL理論で部下ごとの関わり方を使い分ける力を育てる」、次期部長候補には「変革型で変革リーダーとしての視座を持たせる」、といった階層別の設計が考えられます。
リーダーシップについて詳しくは以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:リーダーシップとは?5つの種類やある人の特徴、身につける方法を解説

コンティンジェンシー理論のメリットと注意点

理論のメリットと注意点の両面を押さえたうえで、実務での使い方を判断してください。

メリット

  • 状況に応じた柔軟な組織運営が可能になる:一律の「理想リーダー像」に縛られず、部門・階層・事業ステージ・部下の成熟度ごとに求められるリーダー像を設計できます。
  • ゼネラリスト型人材の育成に接続しやすい:異なる状況を経験させることで、多面的な判断ができる管理職を育てられます。
  • 組織構造との統合的な設計ができる:組織設計論と併せて活用することで、人と組織の両面から適合を追求できます。

注意点

  • ノウハウの標準化・蓄積が難しい:状況ごとに打ち手が変わるため、「自社の管理職育成の型」を明文化しにくくなります。
  • リーダーの負担増:状況を診断し、スタイルを切り替える力量が求められ、マネジャーの認知負荷が高くなります。
  • 専門性喪失のリスク:ゼネラリスト志向に振れすぎると、深い専門性を持つ人材が育たなくなる恐れがあります。

コンティンジェンシー理論を活用した管理職育成・リーダー配置の5ステップ

「理論は分かったが、実際に自組織のリーダー配置や管理職育成にどう落とし込めばいいのか手順が見えない」という状態を解消するため、実務への適用の5ステップを提示します。

ステップ1〜5の全体像

ステップ

目的

主な成果物

1. 状況診断

対象チーム/マネジャーの状況好意性3変数、および部下の成熟度を測定

状況スコアリングシート/部下成熟度マップ

2. 適合スタイル選定

状況好意性8パターン、および部下ごとの成熟度に応じて求められるリーダーシップスタイルを特定

スタイル選定表

3. リーダー配置

スタイル適性のあるマネジャーを配置 or 育成対象を選定

配置マトリクス

4. 行動変容支援

選定スタイルに沿った行動変容を研修・1on1で促す

研修プログラム/行動チェックリスト

5. 3か月後測定

研修直後と3か月後の2回、行動変容と成果指標を測定

効果測定レポート

各ステップの実務ポイントとNG例

ステップ

実務ポイント

よくあるNG例

1. 状況診断

マネジャー本人・部下・上司の3方向から診断する。部下の成熟度も個別に見立てる

上司の主観だけで「うちのチームは○○型」と決めつける

2. 適合スタイル選定

単一の理想スタイルに寄せず、状況ごと・部下ごとの複数選択肢を持つ

「うちの会社は変革型リーダー一択」と固定化

3. リーダー配置

育成余地も含めて「今すぐ配置」と「育成後配置」を区別

現状スキルだけで配置し、育成投資を怠る

4. 行動変容支援

集合研修+現場実践+1on1フォローの3点セットで支援

研修だけ実施し、現場実践のフォローが無い

5. 3か月後測定

研修直後の理解度と、3か月後の行動変容の両方を測る

研修満足度アンケートだけで完結

このステップを踏むことで、「唯一最善のリーダーシップはない」という抽象論を、具体的な人事施策に落とし込めます。研修直後と3か月後の2回測定によって、行動変容が現場で定着しているかを可視化することが、この理論を「わかる」から「使える」に変える鍵です。

失敗パターンと回避チェックリスト

導入時によく起こる失敗パターンと、その回避策をチェックリスト形式で示します。

過剰な組織変更のリスク

  • 理論導入を口実に、必要以上の組織改編を行っていないか
  • 現場の混乱コストと期待効果を比較検討したか

現状把握ミスのリスク

  • 状況診断を上司の主観だけで済ませていないか
  • 3変数の測定に、部下からの匿名フィードバックを組み込んだか

専門性喪失のリスク

  • ゼネラリスト志向に振れすぎ、専門性の高い人材の育成が疎かになっていないか
  • 「専門性を深めるトラック」と「マネジメントを深めるトラック」を分けて設計したか

理論の形骸化リスク

  • 診断結果を実際の人事配置・研修設計に反映する運用ループができているか
  • 導入後6か月〜1年の見直しタイミングを事前にスケジュールしているか

コンティンジェンシー理論の活用事例

製造業の次期管理職候補育成において、SL理論を土台に据え、部下の状況を見立てたうえで関わり方を選択する力を養い、行動変容と自己効力感の向上まで導いた事例を紹介します。管理職候補が自チームの部下一人ひとりの成熟度を診断し、それぞれに合った関わり方を言語化し、3か月後に行動変容の成果を報告するまでを一貫して設計した事例です。

規模・対象者

アルーが支援した製造業の企業では、次期管理職候補となる中堅社員層を対象に、SL理論をベースとしたコンティンジェンシー理論に基づくリーダーシップ育成プログラムを実施しました。

課題

候補者たちはプレイヤーとしての成果は出せていたものの、多様な部下を持つマネジャーへの移行に際して、「これまで自分が部下の時代にされてきたマネジメント手法を、そのまま画一的にやってしまっている」傾向が課題となっていました。若手部下・中堅部下・ベテラン部下が混在するなかで、部下一人ひとりの成熟度に応じて関わり方を切り替えられる人材の育成が急務となっていたのです。

実施した施策

「状況診断→適合スタイル選定→行動変容→3か月後測定」の4フェーズで構成しました。集合研修では、SL理論の枠組みを用いて、自チームの部下一人ひとりの職務的・心理的成熟度を診断し、それぞれに求められる関わり方(指示型、コーチ型、支援型、委任型)をマッピングしました。受講者はグループケース検討を通じて「この部下にはなぜこのスタイルが有効か」を言語化し、「自チームの特定の部下に対して来週から変える関わり方」を各自3件設定しました。研修後は上司との1on1で行動変容を進捗確認する仕組みを組み込みました。

成果

受講者からは「これまでは自分が部下の時代にされてきたマネジメント手法を、そのまま画一的にやってしまっていた」「部下の状況によって使い分けることは無意識にやってきたが、SL理論の枠組みという視点に触れることで、より効果的に関わることができる気づきを得て、自信が深まった」というコメントが挙がりました。部下の状況によって関わり方を変えていくことに対する自己効力感が高まっていることが確認できました。

設計のポイント

「唯一最善のスタイル」を教えるのではなく、「部下一人ひとりの状況を自分で診断し、関わり方を選ぶ力」を育てる設計にした点がポイントでした。無意識にやってきた使い分けをSL理論の枠組みで言語化させることで再現性を高め、研修だけで終わらせず上司との1on1と3か月後の再測定をセットにすることで、行動変容の定着を促しました。

まとめ

コンティンジェンシー理論は、「唯一最善のリーダーシップや組織形態は存在しない」という前提に立ち、状況適合の思想を体系化した理論群です。フィドラーの状況適合モデルとSL理論を中核とするリーダーシップ論、Burns&Stalker等の組織設計論の二層構造で捉えることで、人と組織の両面から適合を設計できます。

実務で活用するためには、組織全体の状況と部下一人ひとりの成熟度の両方を診断し、適合スタイル選定→リーダー配置→行動変容支援→3か月後測定という5ステップで進めることが有効です。「結局どうすれば?」という読者の問いに対しては、「まず自チームと部下の状況を診断し、選ぶ力を育てる」ことから始めるのが出発点となります。VUCA・リモートワーク時代の状況変数の変化も踏まえ、古典理論を現代の管理職育成にアップデートして活用してください。

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よくある質問(FAQ)

Q

コンティンジェンシー理論とSL理論は何が違いますか?

A

SL理論もコンティンジェンシー理論の代表的なモデルの一つで、両者は対立する別理論ではありません。フィドラーの状況適合モデルは「リーダー・メンバー関係/タスク構造/権限」の3変数で組織全体の状況を総合的に診断するのに対し、SL理論は同じコンティンジェンシー系譜のなかで「部下個人の成熟度」に絞って診断します。部下ごとの育成対応が課題ならSL理論、組織全体の状況を診断してマネジャー配置を考えるならフィドラー、という補完的な使い分けが実務的です。

Q

フィドラーのLPC尺度をそのまま日本企業で使えますか?

A

LPC尺度自体は文化差の観点で慎重な扱いが必要ですが、状況好意性3変数の考え方は自社流にアレンジして十分に活用できます。本記事の自己診断チェックリスト(3変数×3項目)は学術的に検証された尺度ではなく簡易版のため、自社の業務特性に合わせて設問をカスタマイズすることをおすすめします。

Q

VUCA時代にこの古典理論を使う意味はありますか?

A

あります。むしろ、正解が決まっていない探索型業務が増える現代こそ、「状況ごとに最適解を選び直す」という理論の思想が実務適合します。ただし、状況変数は現代的な文脈(リモートワーク下の関係構築、探索型タスクの構造、影響力による疑似権限、リモート下での部下成熟度の見立てなど)で捉え直すことが必要です。

Q

導入する際、まず何から始めればいいですか?

A

対象範囲を絞って「状況診断」から始めるのが実務的です。全社一斉ではなく、特定の部門やマネジャー層で試してみて、組織全体の状況(3変数)と部下ごとの成熟度の両方を診断→適合スタイル選定→3か月後の行動変容測定という小さなサイクルを回すことで、自社流の運用パターンを固めることができます。

アルー株式会社
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20年以上、企業向けに人材育成コンサルティングや研修を提供してきた。新入社員・管理職といった階層別研修や、海外駐在員やグローバルリーダーなどのグローバル人材育成、DX人材育成に強みを持つ。その実績は取引企業総数1400社以上、海外現地法人取引社数400社以上に及ぶ。京都大学経営管理大学院との産学連携など、独自の研究活動も精力的に行っている。

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