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要員計画とは?考え方とシミュレーション方法を解説

「要員計画を毎年作っているが、結局は各部門から上がってくる採用要望を積み上げただけになっている」——そう感じている人事・経営企画の実務担当者は少なくないはずです。「作っても現場は採用要望を出してくるだけでは?」「トップダウンとボトムアップが乖離したとき、最終的に何を根拠に決めればいいのか?」という疑問を抱えたまま、来期の要員計画づくりに着手しているケースも少なくありません。

本記事では、要員計画を量・質・充足手段の3軸で設計し、経営承認が下り、現場が動く形に落とし込むための手順を解説します。トップダウンとボトムアップの算出式、乖離したときの判断フロー、失敗4類型のリカバリー、四半期モニタリングまで、自社の来期計画で使える粒度でまとめました。

この記事でわかること

  • 要員計画と人員計画・採用計画の違いと、3計画の連動設計
  • トップダウン方式・ボトムアップ方式の算出方法と、両者が乖離したときの判断フロー
  • 要員計画を策定する5ステップと、経営会議で通る1枚版フォーマット
  • 要員計画が失敗する4類型と、類型別リカバリー手順
  • 採用に閉じない充足手段(リスキリング・ジョブ型異動・副業・BPO)の使い分け
  • 四半期モニタリングのKPI(重要業績評価指標)と見直しトリガー

この記事の監修者

落合 文四郎

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎

1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。

要員計画(ワークフォース・プランニング)とは——目的と注目される背景

要員計画(英語では Workforce Planning/ワークフォース・プランニング)とは、事業計画を達成するために「いつ、どの部門に、どのような人材が、何名必要か」を中期(3〜5年)および単年度で設計する計画のことです。単なる採用予定人数の一覧ではなく、事業戦略と人材戦略を接続する起点として位置付けられます。

要員計画の定義と4つの目的

要員計画には主に4つの目的があります。1つ目は事業計画に必要な人的資源を確保すること、2つ目は人件費と労働生産性の適正化、3つ目は中長期の人材育成・配置の方針を明確化すること、そして4つ目は社員のキャリアパスを明示し、その実現可能性を担保することです。

これらは互いに独立しているわけではありません。事業計画で掲げた売上・利益目標を達成するには、必要な労働生産性を逆算し、そこから必要人員数と必要スキルを導く、という順序で設計します。この順序が崩れると、「とにかく人が足りないから採用したい」という現場からの要望が積み上がるだけの計画になり、経営会議で「なぜこの人数か」を問われても答えられなくなります。

加えて、4つ目のキャリアパスの観点は近年特に重要性を増しています。要員計画は事業側から見れば「必要人数の設計」ですが、社員側から見れば「自分がこの会社でどのようなポジションに就き、どのようなスキルを積んでいけるかの見取り図」でもあります。キャリアパスとして明示された道筋が要員計画上でも実際に空いており、社員が到達可能な状態になっていること——このセットが揃って初めて、要員計画は組織と個人の双方にとって機能する計画になります。

いま要員計画が改めて注目される背景

「人的資本開示やジョブ型が話題の今、従来の『人数積み上げ型』の要員計画はもう時代遅れなのでは?」——こうした疑問を持つ実務担当者も増えています。実際、要員計画を取り巻く環境はここ数年で大きく変化しました。

第1に、生成AI・自動化による業務量の変動です。従来のボトムアップ算出式は「現行業務量 ÷ 1人当たり処理能力」で必要人数を算出していましたが、生成AIによる業務代替を織り込むと、必要人数の前提そのものが変わります。第2に、人的資本開示(有価証券報告書での人材関連指標開示義務化)により、要員計画の説明責任が高まりました。第3に、ジョブ型人事制度の広がりにより、「量」だけでなく「質(どんなジョブを何名か)」の設計が必須になっています。第4に、キャリア自律の潮流が強まっていることです。社員は所属企業の中で受動的にキャリアを積むのではなく、自らキャリアを選び取っていく前提に変わりつつあります。要員計画で示されたポジションが社員のキャリアの選択肢として認識され、そこに向けてリスキリング・社内公募・異動が接続していく——この設計ができない企業では、キャリア自律志向の高い人材ほど社外に流出していきます。

つまり、要員計画は「人数を決める作業」から「量×質×充足手段のポートフォリオ設計、かつ社員のキャリア自律を支える見取り図」へと役割が拡張されているのです。

キャリア自律について詳しくは以下の記事をご参照ください。

要員計画・人員計画・採用計画の違いと連動設計

「要員計画と人員計画、採用計画では何が違うのか?社内で用語がバラバラに使われている」——これは多くの企業で起きている問題です。3つの計画は目的・粒度・時間軸が異なり、順序立てて連動させる必要があります。

3つの計画の役割の違い

まず、3計画の違いを整理します。

計画名

主な目的

対象範囲

時間軸

主管部門

要員計画

事業計画に必要な人員数と質を設計

全社・全部門・全職種

中期3〜5年 + 単年度

経営企画 / 人事(戦略)

人員計画

各部門・各職種の配置と異動を設計

部門・職種単位

単年度

人事(配置)

採用計画

不足人員を採用でどう充足するか

新卒・中途の採用枠単位

単年度・四半期

人事(採用)

要員計画は最も上位に位置し、事業計画から必要人員の総量と質を導きます。人員計画はその総量を部門・職種に配分し、既存社員の異動・配置転換で埋められる部分と埋められない部分を切り分けます。採用計画は人員計画で埋まらなかったギャップを、新卒・中途採用でどう充足するかを設計します。

要員計画を起点にした3つの計画の連動設計

3つの計画を連動させる際は、以下の順序で設計するのが実務的です。

  1. 要員計画:事業計画から必要人員の総量(量)と職種構成(質)を導く
  2. 人員計画:既存社員の配置転換・リスキリング・退職予測を踏まえ、内部充足で埋まる部分を確定
  3. 採用計画:内部充足で埋まらないギャップを、採用チャネル・時期・予算とともに設計

この順序を守らないと、「採用計画から逆算して要員計画を作る」という本末転倒な状態になります。採用計画から逆算すると、採用市場の制約(採用できる人数の上限)が要員計画の上限になってしまい、事業計画の実現可能性を検証できなくなります。

要員計画のシミュレーション方法

要員計画の算出には、トップダウン方式とボトムアップ方式の2つがあります。両方を並行して行い、乖離を検証するのが標準的な方法です。

トップダウン方式の算出式

トップダウン方式は、経営目標(売上・利益・人件費予算)から必要人員数を逆算する方法です。代表的な算出式は次の3つです。

算式

計算式

使用場面

労働生産性ベース

目標売上 ÷ 1人当たり目標労働生産性 = 必要人員数

売上成長を前提とする事業

労働分配率ベース

(売上総利益 × 目標労働分配率) ÷ 1人当たり人件費 = 必要人員数

人件費コントロールが優先の事業

損益分岐点ベース

損益分岐点売上を維持する最大人件費 ÷ 1人当たり人件費 = 上限人員数

業績変動が大きい事業

例えば、目標売上100億円、1人当たり労働生産性2,000万円と設定する場合、必要人員数は500名となります。ただし、この500名は「全社総量」でしかなく、職種別・部門別の内訳はここでは決まりません。

ボトムアップ方式の算出式

ボトムアップ方式は、各部門の業務量から必要人員数を積み上げる方法です。従来の基本式は次の通りです。

部門別業務量(工数) ÷ 1人当たり標準処理能力 = 部門別必要人員数

しかし、生成AIや自動化による業務代替が進む現在、この基本式だけでは実態と乖離します。以下の更新版算式を推奨します。

(現行業務量 - 生成AI・自動化による代替可能業務量) ÷ 1人当たり標準処理能力 × 業務量成長率 = 部門別必要人員数

生成AIによる代替可能業務量は、部門ごとに「文書作成・要約」「定型的な問い合わせ対応」「データ集計・整形」など具体的業務を棚卸しし、代替率を試算します。人事・経理・総務などの間接部門であれば、「求人票作成・書類スクリーニング」「仕訳・レポート生成」「文書作成・議事録要約」といった業務で10〜20%の工数減が試算されるケースが多いという水準感で織り込むのが現実的です。個別業務単位ではさらに高い代替率が出ることもありますが、部門全体としては業務の再配置や新規業務の発生もあるため、10〜20%程度を目安に置くのがよいでしょう。

シミュレーション結果が乖離したときの判断フローと調整方法

トップダウン方式とボトムアップ方式の両方を回すと、必ずと言っていいほど算出結果は乖離します。「両方やれと言われるけど、乖離したとき最終的に何を根拠に決めればいいのか?」という疑問に対して、乖離判断フローを言語化しておくことが実務では有効です。

許容される乖離率と再ヒアリングの判断基準

以下は乖離幅ごとの判断基準の目安です。

乖離幅

判断

アクション

±5%以内

許容範囲

中間値または経営判断で決定

±5〜15%

要調整

差分の大きい部門に再ヒアリング、算式の前提を再検証

±15%超

前提再構築

事業計画・業務量前提・生産性目標のいずれかを見直し

±15%を超える乖離が生じた場合、多くは「事業計画側の売上・利益目標が積み上げ根拠なく決まっている」「現場ヒアリングで過剰な数値が見積もられている」のいずれかです。この場合は算出式の調整で解決しようとせず、前提そのものを経営と再合意する必要があります。

部門間コンフリクトを調整する会議設計

現場ヒアリングをすると「とにかく人が足りない」の一点張りになりがちで、過剰な数値が混入しがちです。過剰な数値を構造的に補正するには、ヒアリング時の質問設計を工夫します。

  • NG質問:「来期、何名必要ですか?」
  • OK質問:「現在の業務量を100とすると、来期の業務量は何%になる想定ですか?」「その業務量のうち、生成AI・自動化で代替できる可能性がある業務は何%ありますか?」「代替不能な業務量に対して、現在の1人当たり処理能力で対応する場合、追加で何名必要ですか?」

このように業務量ベースで分解して質問すると、「なんとなく人が足りない」という感覚的な要望が、業務量・生産性・代替率という検証可能な変数に落ちます。

部門間コンフリクト(A部門は増員、B部門は減員が必要という状況)が生じた際は、部門横断の会議で「全社総量」を先に合意し、その中での部門間再配分として議論する順序が有効です。個別部門の増員要望を個別に承認していくと、全社総量が膨らみます。

要員計画の策定ステップと稟議フォーマット

要員計画の策定手順を5ステップに分解し、各ステップで必要な成果物を明確にします。

現状把握からギャップ調整までの5ステップ

以下5問のうち、YESが3つ以上なら階層プラトーの傾向ありと判断します。

  • 「今の役職より上に上がるイメージが湧かない」と感じることがある
  • 同期や後輩と自分の役職・等級を比較して落胆することがある
  • 会社の評価基準が自分の努力とずれていると感じる
  • この3年間で新しい役割・責任を任されていない
  • 「昇進はできればしたい」と口では言うが、心のどこかで諦めている

ステップ

目的

成果物

所要期間の目安

現状把握

現行の人員構成・スキル・人件費を可視化

人員構成表・スキルマップ・人件費実績

2〜4週間

事業計画からの必要人員逆算

トップダウン方式で総量・質を算出

全社総量・職種別内訳(仮)

2〜3週間

現場ヒアリング(ボトムアップ)

部門ごとの業務量・必要人員を積み上げ

部門別必要人員(仮)

3〜4週間

乖離調整・ギャップ確定

トップダウン方式とボトムアップ方式の乖離を調整

確定版・要員計画

2〜3週間

充足手段の設計・稟議

採用/リスキリング/配置転換の内訳を決定、稟議承認

稟議書・充足手段別ロードマップ

3〜4週間

全体で3〜4か月の期間を見込むのが実務的です。3月末までに来期計画を確定させたい場合、11〜12月には着手する必要があります。

要員計画策定チェックリスト

  • 事業計画(売上・利益目標)を人事側で入手済み
  • 現行の人員構成表・人件費実績を集計済み
  • トップダウン方式の算出前提(生産性・分配率)を経営と合意済み
  • 現場ヒアリングの質問テンプレを準備済み
  • 生成AI・自動化による業務量減の織り込み率を部門ごとに設定済み
  • 乖離判断フローの許容乖離%を経営と合意済み
  • 内部充足手段(異動・リスキリング)の候補リストを人員計画と接続済み
  • 採用計画に落とし込む職種・時期・予算を確定済み
  • 稟議フォーマットに現状→ギャップ→打ち手→ROI(投資対効果)を記載済み
  • 四半期モニタリングのKPIと見直しトリガーを設定済み

稟議で通る要員計画1枚版フォーマット

経営会議で「なぜこの人数か」を問われて答えられる要員計画にするには、稟議書1枚に以下の4要素を凝縮します。

項目

記載内容

現状

現行人員構成・人件費・労働生産性

全社500名 / 人件費50億円 / 労働生産性2,000万円

ギャップ

事業計画達成に必要な人員と現状の差分

来期必要人員550名(不足50名) / うち営業職30名・エンジニア20名

打ち手

充足手段別の内訳と根拠

採用30名 / 配置転換15名 / リスキリング5名

ROI(投資対効果)

投資額と期待効果、シナリオ別感度分析

人件費増5億円 / 想定売上増20億円 / 感度: 売上増±20%時のROI幅

要員計画の失敗パターンとリカバリー手順

要員計画の失敗パターンは主に4類型あります。

類型

兆候

主な解決策

① 採用偏重型

充足手段が採用一択で、配置転換・リスキリングが検討されていない

人員計画と要員計画の接続不足、内部人材の可視化不足

② 現場積み上げ型

各部門の要望を足し合わせただけ、全社総量の妥当性が検証されていない

トップダウン方式の欠落、経営との合意プロセス不足

③ 経営計画未連動型

事業計画の売上・利益目標と、要員計画の人員数・人件費が接続していない

経営企画と人事の連携不足、事業計画の共有プロセス不足

④ 運用放置型

期初に作った計画がそのまま、期中の環境変化に対応する見直しがない

モニタリングKPI・見直しトリガーの未設定

類型別リカバリー手順

失敗類型ごとに、リカバリーの手順は異なります。

① 採用偏重型のリカバリー

  • 内部人材のスキルマップを整備し、配置転換で埋まる部分を可視化する
  • リスキリング候補者を人材ポートフォリオから抽出する
  • 採用計画から要員計画にフィードバックし、充足手段のミックス設計を再構築する

② 現場積み上げ型のリカバリー

  • 全社総量をトップダウン方式で先に算出し、上限値として設定する
  • 部門ヒアリングは業務量ベースの質問設計に切り替える
  • 乖離判断フロー(±15%超は前提再構築)を導入する

③ 経営計画未連動型のリカバリー

  • 事業計画策定プロセスに人事(要員計画担当)が早期に参加する
  • 稟議書1枚版フォーマットで、事業計画とのROI接続を明示する

④ 運用放置型のリカバリー

  • 四半期モニタリングKPIと見直しトリガー(離職率・充足率・事業計画変更)を設定する
  • 四半期レビュー会議を経営会議アジェンダに固定する

採用に閉じない充足手段のミックス設計

「採用計画に落とし込む前段で、配置転換・リスキリング・業務委託・BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)などの充足手段の使い分けができていない」——これは要員計画の最大の弱点です。充足手段は採用一択ではなく、6つの選択肢を組み合わせて設計します。

量×質×充足手段ミックスの意思決定マトリクス

充足手段を選ぶ判断軸は「必要スキルの内部保有度」と「必要時期の緊急度」の2軸です。

内部保有度 \ 緊急度

緊急(3か月以内)

中期(6〜12か月)

長期(12か月超)

内部にスキルあり

配置転換・異動

配置転換・異動

配置転換・異動

内部にスキル一部あり

業務委託・BPO

リスキリング + 配置転換

リスキリング + 配置転換

内部にスキルなし

業務委託・BPO・副業人材

中途採用 + BPO

新卒採用 + リスキリング

この意思決定マトリクスに従うと、「採用しか手段がない」と思い込んでいた要員需要のうち、実は内部異動やリスキリングで埋められる部分が可視化されます。

充足手段別コスト・リードタイム比較

各充足手段の特性を整理します。

充足手段

コスト水準

リードタイム

定着リスク

主な用途

従業員エンゲージメント

中(採用+育成コスト)

長(1〜2年で戦力化)

中(3年離職率)

中長期の質と量の底上げ

従業員満足度(ES)

高(採用+育成コスト)

中(3〜6か月で戦力化)

中(オンボーディング次第)

即戦力のスキル・経験補填

モチベーション

低(異動コストのみ)

短(1〜3か月)

低(既存社員)

内部スキル保有時

ワークエンゲージメント

中(教育投資)

中(3〜12か月)

低(既存社員)

内部スキル一部あり時

副業・業務委託

中〜高(時間単価)

短(数週間)

高(継続性なし)

スポット・緊急対応

BPO

中(委託費)

中(1〜3か月)

中(契約期間による)

定型業務・スポット高難度業務

キャリアプラトー対策を成果につなげるための運用ポイント

「計画は作ったが期中に環境変化が起きたときの見直しトリガーが決まっておらず、実行性のない形骸化した計画になる」——これを防ぐのが、四半期モニタリングKPIと見直しトリガーの設計です。

要員計画のモニタリング指標は、以下の4カテゴリで設計します。

カテゴリ

指標

レビュー頻度

見直しトリガー(例)

充足率(実人員 ÷ 計画人員)

月次

充足率85%を3か月連続で下回った場合

スキルギャップ充足率

四半期

重点職種のギャップが20%以上残存

コスト

人件費実績 ÷ 人件費計画

月次

±5%超の乖離が2か月連続

リスク

離職率(重点部門)

四半期

前年同期比+2ポイント超

さらに、事業計画側の見直しトリガーも設定します。「事業計画の売上目標が±10%変更された場合」「M&A・事業撤退が発生した場合」「主要ポジションの離職が想定を超えた場合」は、要員計画の再計算を発動します。

サービス業における部門横断の要員計画再設計事例

サービス業の企業において、部門ごとに過剰な要員計画が積み上がり調整コストが膨大化していた状態から、全社ビジョン共有と部門別損益管理の導入によって要員計画の合理化と営業利益率向上を実現した事例を紹介します。

規模・対象者

サービス業の企業において、事業部長と部門長を主要な対象者とする要員計画再設計プロジェクトが実施されました。関与した事業部長・部門長は数十名規模で、複数事業部にまたがる構成でした。

課題

各部門からの要員計画を合計すると、それぞれの部門の繁忙期に合わせたり、緊急事態に備えたりする傾向が強く、全体の要員計画が過剰に積み上がる状況が続いていました。その後に部門ごとに調整していく段階になると、部門長が「自分の部門は減らせない」という主張を繰り返し、調整コストが多大にかかっていました。さらに深刻だったのは、全体最適の視点で控えめに要員を出した部門長ほど、結果的に少ないリソースで部門運営をしなければいけない事態に陥り、正直者が損をする構造が生まれていたことです。この構造が続き、近年では誰もが「念のため」「万が一のため」に多めの要員を要望するようになり、要員計画の合理性は失われていました。

実施した施策

事業部長や部門長に対して、まず全社のビジョンを改めて共有した上で、各部門のビジョンを自ら作成してもらいました。これにより、部門長が「自部門の都合だけで要員を要望する」思考から「全社ビジョンに対して自部門はどう貢献するか」という思考に転換していくことを狙いました。並行して、部門別の損益管理を導入し、自部門の要員がコストとして自部門のPLに直接反映されるようにしました。その上で、事業部長・部門長に部門別損益を改善するミッションを課すことで、要員=コストという実感を意思決定に組み込みました。

成果

それまでのように「念のために、万が一のために」という発想で要員計画を膨らませる部門は姿を消し、経営陣と部門長との要員ディスカッションがスムーズに進むようになりました。要員が不足した際も、全てを採用で補うのではなく、部署ごとの繁閑差を活用して部署同士で相互支援したり、一時的に外部のリソースを活用したりといった代替案が部門長側から自発的に出てくるようになりました。その結果として、事業全体の営業利益率が向上しました。

設計のポイント

効果的だった設計思想は3つです。第1に、要員計画の議論に入る前段で全社ビジョンと部門ビジョンを接続させ、「自部門だけの視点」から離れる下地を作ったことです。第2に、部門別損益管理を導入して要員がPL上のコストとして可視化される構造を作り、部門長のミッションに損益改善を組み込んだことで、要員=コストという意識を意思決定に組み込んだことです。第3に、要員不足への対処を「採用」一択ではなく「部門間相互支援」「外部リソース活用」も含めた選択肢として持たせたことです。この3点により、部門長自身が積極的に要員計画の合理化に関与する構造が生まれました。

まとめ

要員計画は「事業計画に必要な人員数を積み上げる作業」ではなく、「量×質×充足手段のポートフォリオを設計し、経営会議で通り現場が動く形にする実務」です。本記事で提示したフレームを、来期計画で以下の順序で使ってください。

  1. 事業計画からトップダウン方式で全社総量・質を算出
  2. 現場ヒアリングを業務量ベースの質問設計で行い、ボトムアップ方式で積み上げ
  3. 乖離判断フロー(±5%/±15%)で調整、前提を経営と再合意
  4. 充足手段ミックス(採用/配置転換/リスキリング/副業/BPO)で内訳を決定
  5. 稟議1枚版フォーマット(現状→ギャップ→打ち手→ROI)で経営承認
  6. 四半期モニタリングKPIと見直しトリガーで運用定着

要員計画は「作って終わり」ではなく「四半期で見直し、事業計画と接続させ続ける運用」にすることではじめて機能します。作った瞬間から陳腐化する前提で、モニタリングと見直しトリガーを組み込んでおくことが、実行性のない形骸化した計画にしないための最大の設計ポイントです。

よくある質問(FAQ)

Q

要員計画は毎年作り直す必要がありますか?

A

中期(3〜5年)要員計画は事業計画の見直しに合わせて更新し、単年度計画は年次で作成します。ただし、期中でも見直しトリガー(充足率85%を3か月連続で下回る、事業計画の売上目標が±10%変更、主要ポジションの離職が想定超など)が発動した場合は、随時再計算します。

Q

トップダウン方式とボトムアップ方式、どちらを優先すべきですか?

A

どちらか一方ではなく、両方を並行して算出し、乖離を検証するのが標準的な方法です。乖離幅が±5%以内なら中間値または経営判断、±15%を超える場合は事業計画側の前提そのものを見直します。片方だけで進めると、経営計画未連動型または現場積み上げ型の失敗パターンに陥ります。

Q

生成AIによる業務量減はどの程度織り込むべきですか?

A

部門ごとに具体業務を棚卸しし、代替可能業務の比率を試算するのが原則です。人事・経理・総務などの間接部門で10〜20%程度の工数減が試算されるケースが多いという水準感で、自社の業務内容と生成AI導入状況に応じて調整します。個別業務単位ではより高い代替率が出ることもありますが、部門全体としては業務の再配置や新規業務発生もあるため、まずは10〜20%を目安に置くのが現実的です。

Q

要員計画に必要な「質」の設計は、何から始めればよいですか?

A

まずは現行社員のスキルマップを整備し、事業計画で必要になる職種・スキルとのギャップを可視化することから始めます。ジョブ型人事制度を導入している企業ではジョブディスクリプション(職務記述書)が起点、そうでない企業ではコンピテンシーマップや人材ポートフォリオが起点になります。「質」の設計なしに「量」だけ議論すると、採用偏重型の失敗に陥ります。

アルー株式会社
アルー株式会社
20年以上、企業向けに人材育成コンサルティングや研修を提供してきた。新入社員・管理職といった階層別研修や、海外駐在員やグローバルリーダーなどのグローバル人材育成、DX人材育成に強みを持つ。その実績は取引企業総数1400社以上、海外現地法人取引社数400社以上に及ぶ。京都大学経営管理大学院との産学連携など、独自の研究活動も精力的に行っている。

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