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モチベーションアップを組織で実現する設計手順

「社員のモチベーションが下がっている兆候は見えるが、何から手をつければよいか判断がつかない」——そう感じている人材育成担当者は少なくないでしょう。1on1やサンクスカードを導入しても現場で形骸化し、経営層からは「効果を数字で説明してほしい」と迫られる……若手と中堅、管理職では悩みが違うのに一律施策で対応している……この記事は、そうした状況を整理し、組織として打つモチベーションアップ施策の設計手順を示すためにまとめました。

なお本記事は「個人がセルフモチベーションを高めるための自己啓発」ではなく、人材育成担当者が組織として設計する施策に絞って解説します。

この記事でわかること

  • モチベーションアップを「組織施策」として設計する際の考え方
  • 階層別に低下要因と効く打ち手を出し分ける方法
  • インセンティブや1on1が逆効果になる失敗パターンと回避策
  • 心理学理論を現場の声かけ・1on1運用に翻訳する実務TIPS
  • 施策の効果を経営層に説明するためのKPI設計と改善サイクル
  • 短期・中期・長期で組み立てるロードマップと着手の優先順位

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この記事の監修者

落合 文四郎

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎

1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。

モチベーションアップ(モチベーション向上)とは何か

モチベーションアップとは、社員が仕事に向かうエネルギー(動機)を高めることを指します。ただし、組織として取り組む場合には「個人の意欲を精神論で鼓舞する」ことではなく、社員が自律的に働ける環境や制度、関係性を設計することを意味します。そもそもモチベーションを会社が上げること自体、本当に可能なのかという疑問の声も少なくありませんが、正確には「上げる」のではなく「下げている要因を取り除き、上がる条件を整える」というアプローチが、組織施策としては効果的な設計です。

内発的動機付けと外発的動機付けの違い

モチベーションには大きく2種類あります。両者の使い分けが施策の成果を左右します。

種類

定義

主な源泉

効果の特徴

内発的動機付け

仕事そのものへの興味・やりがい・成長実感から生まれる動機

自律性/有能感/関係性

効果が持続しやすい/質的成果に寄与

外発的動機付け

報酬や評価、地位など外部からの刺激で生まれる動機

給与/賞与/昇進/表彰

短期の即効性はあるが持続しにくい/量的成果に寄与

自己決定理論(Deci & Ryan)の研究によると、自律的な動機づけは統制的な動機づけよりも高いパフォーマンスと幸福感につながりやすいことが示されています。また、金銭などの外的インセンティブは仕事の「量」への影響力が強い一方、仕事の「質」は内発的動機づけに基づく傾向が強いこともわかっています(Cerasoli et al., 2014)。

さらに同メタ分析では、統制の強い報酬設計は内発的動機づけそのものを低下させうること(アンダーマイニング効果=外的報酬が内発的動機づけを阻害する効果)も確認されています。

セルフモチベーションと組織施策の切り分け

ベーションアップを対象とします。両者は読者像も打ち手も異なるため、冒頭で明確に切り分けておきます。

  • セルフモチベーション(個人向け):目標設定術、感情マネジメント、名言などの自己啓発 → 本記事の対象外
  • 組織施策(人事・育成担当向け):制度設計、評価運用、1on1、サーベイ、階層別施策 → 本記事の対象

「モチベーションは個人の問題ではないのか」という懸念が生じることも少なくありません。しかし、離職率や生産性の数字は個人の意欲だけで決まるものではなく、環境要因と関係性要因の設計次第で大きく変わることが実務と研究の両面で示されています。だからこそ、人事・育成担当者が組織として設計する意義があります。

社員のモチベーションが下がる主な原因

モチベーション低下の要因は「個人の性格」ではなく、多くの場合、環境や関係性、制度に由来します。組織施策として打ち手を検討する際には、要因を2軸で整理するとわかりやすくなります。

職場環境・人間関係に起因する要因

  • 上司との関係性の悪化:一方的な指示、傾聴不足、フィードバック不在
  • チーム内の心理的安全性の欠如:質問や失敗が許されない空気
  • 業務負荷の偏り:一部社員への集中、慢性的な残業
  • リモート・ハイブリッド環境での孤立感:接点の減少、相互理解の低下
  • 仕事の意味・目的が見えない:組織のビジョンと自分の業務がつながらない

たとえば弊社が支援した製造業界G社では、「管理職も部下もお互いに遠慮して踏み込めず、相互理解が進んでいない」という状態が組織課題として顕在化していました。表面上は問題が顕在化していない状況でも、内部ではモチベーションが低下しきっているケースは珍しくありません。

評価や処遇、キャリアに起因する要因

  • 評価基準の不透明さ:何が評価されるかわからない
  • 昇給・昇格の停滞感:頑張っても報われない体感
  • キャリアパスの見えなさ:3年後・5年後の姿が描けない
  • 成長機会の不足:業務のマンネリ化、挑戦機会の欠如
  • フィードバック不足:自分の仕事の意味・貢献度が確認できない

これらは単独では大きな不満に見えなくても、複数が重なった時点で離職意向に直結するケースがよくあります。

階層別のモチベーション(やる気)低下要因と打ち手マトリクス

モチベーションアップ施策を全社員一律に行っても効果はでません。若手と中堅、管理職では低下する要因が異なるからです。以下の表は、階層別に主要な要因と、それに対して効く打ち手を整理したものです。

階層

主な低下要因

効く打ち手

効きにくい

打ち手

若手

(1〜3年目)

仕事の意味が見えない/成長実感の欠如/孤立感

1on1でのキャリア対話/OJT指導の質改善/同期横断コミュニティ

一律のインセンティブ/全社集会型の表彰

中堅

(4〜10年目)

役割の停滞感/プレイヤー業務への埋没/昇格の見通し不透明

選抜研修/越境機会/期待役割の明文化と対話

昇給のみによる引き留め

管理職

プレイヤー業務との両立負荷/部下育成の孤立/上位方針の解釈負担

管理職向けコーチング/ピア・マネジャー会/事業計画づくり型研修

「管理職研修を年1回集合」だけの運用

若手社員に効く打ち手

若手のモチベーション低下は、多くの場合「仕事の意味が見えない」「成長している実感が持てない」に集約されます。ここで効果的なのは、金銭的インセンティブよりも上司やOJT(職場内育成)指導者との対話の質を上げることです。具体的には、1on1で「何を学んだか」「次にどんな挑戦をしたいか」を言語化させる運用、OJT指導者が「捉えて伝えるフィードバック」を実施できるようスキル付与することが挙げられます。

若手のモチベーション改善は、若手本人への直接施策より、上司や指導者側のスキル改善のほうが効果的なケースが多いです。

中堅社員に効く打ち手

中堅層は「昇格の見通しが立たない」「プレイヤー業務に埋没している」という停滞感が典型です。ここでは、期待役割を明文化して対話すること、および視点を転換する機会を意図的に設計することが効きます。

アルーが支援したサービス業界D社では、「メンバーとの間に入ってチームを動かさず、プレイヤーとしてのみの振る舞いにとどまっている」という中堅リーダーの課題に対し、視点転換を促す設計を採用しました。設計のポイントは以下3つです。

  • バディ制度(3人1組など)による研修後の相互刺激
  • 適応課題まで踏み込んだ役割認識
  • 学習範囲を「メンバーの目標達成支援と育成」に絞る

この事例のように、中堅は「昇給」ではなく「役割の再定義」で動くという点が要点です。

管理職に効く打ち手

管理職のモチベーション低下は最も見えにくく、しかし影響範囲が最も大きくなります。プレイヤー業務との両立負荷、部下育成をするうえでの孤立、上位方針を自分の言葉で語る負担が典型です。効く打ち手は、同階層のピア・コミュニティと、「管理職としての期待役割と自分らしさ」の両立を扱うマネジメント研修です。
アルーが支援した製造業界の管理職向け研修は、「自分らしさと組織らしさを統合したマネジメント」「適応課題への向き合い」をテーマに、2日間の研修+2か月の実践期間+振り返りで設計されました。約9割の受講者が新たな気づきを得たという結果が出ています。管理職には「単発の座学」ではなく「実践期間を挟んだ設計」が有効です。
管理職のモチベーション低下につながるストレス構造については以下の記事をご参照ください。

🔗関連記事:管理職が仕事で抱えるストレスの原因8つ。限界を迎える前に行うべき施策

インセンティブ依存など、モチベーションアップ施策が逆効果になる失敗パターンと回避策

モチベーションアップ施策の多くは、設計を誤ると効かないだけでなく逆効果となることがあります。以下は代表的な失敗パターンと回避策の対応表です。

失敗パターン

何が起きるか

主な原因

回避策

インセンティブ依存

短期の量的成果は上がるが、質的成果と自律性が低下

外発的動機付けの過剰投入/内発的動機の低下

短期施策と位置づけ、内発的動機を高める施策と併用/仕事が量的か質的かで使い分ける

1on1の儀式化

週次・月次で実施しているが会話が形式的、部下は「またか」と感じる

目的の不明確/上司側のスキル未整備

目的の再定義/上司へのコーチングスキル付与/話題設計テンプレートの導入

表彰の偏り

一部の目立つ社員に集中、多数の社員が疎外感

評価基準の不透明さ/「見える貢献」への偏重

匿名相互推薦の導入/貢献の多面的定義

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)浸透の一方通行

経営層は語るが現場の意欲は冷めてしまう

対話の欠如/現場業務との接続不足

ワークショップ型の対話設計/現場ミドルが翻訳する運用

研修単発実施

受講直後の行動意欲は上がるが3か月で消える

実践期間・振り返りの欠如

実践期間を挟んだ設計/上司の関与設計

インセンティブ依存が招く逆効果

成果主義的なインセンティブは仕事量を引き上げるのには効きますが、質的成果と幸福感を阻害することが研究で示されています。特に注意したいのは、「インセンティブを引き上げないと動かない社員」を意図せず量産してしまうことです。回避策としては、インセンティブを短期の即効施策として位置づけ、同時に内発的動機(自律性や有能感、関係性)を高める施策を並行で走らせる設計が有効です。

ただし、そもそもインセンティブは「常に逆効果」なわけではありません。効く仕事と効かない仕事がはっきり分かれます。その境界を次に整理します。

インセンティブが効く仕事・効かなくなる仕事の境界

インセンティブが効くかどうかを分けるのは、次の2つの条件です。

第一に、その仕事の成果が「量」で測れるか「質」で決まるかです。処理件数・訪問数・生産個数のように成果が数量で測れる仕事では、金銭インセンティブは行動量を引き上げるのに有効です。一方、企画の独創性、提案の説得力、対人支援の丁寧さのように成果が「質」で決まる仕事では、金銭インセンティブの効果は弱く、むしろその仕事自体への興味や意味という内発的動機づけのほうが成果を左右します。40年・約21万人を対象としたメタ分析でも、内発的動機づけはパフォーマンスの中〜強程度の予測因子であり、とりわけ質的成果に強く効くことが示されています(Cerasoli et al., 2014)。

第二に、インセンティブが成果に「直接ひもづく」か「間接的か」です。同じ研究は、報酬が成果に直接連動するほど(例:1件いくらの歩合)内発的動機づけの働きが弱まりやすく、間接的に連動する場合(例:全体的な貢献に報いる賞与など)は内発的動機づけの寄与が保たれやすいことを示しました。報酬設計が「この行動をすればこの金額」と直接的になるほど、社員は報酬のために動くようになり、仕事そのものへの興味は後退しやすくなります。

自社の職種がどちらのタイプかは、次の問いで判断できます。

問い

「はい」ならば・・・

成果は件数・数量で測れるか

インセンティブが効きやすい(量的成果型)

正解がほぼ一つに定まる仕事か

インセンティブが効きやすい

独創性・判断・対人的な質が成果を決めるか

内発的動機づけを優先すべき(質的成果型)

報酬が「やった分だけ」直接ひもづく設計か

内発的動機の低下に注意

1on1の儀式化

1on1は導入時こそ意欲的でも、半年〜1年で「上司も部下も苦痛な時間」に変わることがよくあります。原因は明確で、目的の不明確さと上司側のスキル未整備です。
回避策は以下3つです。

  • 1on1の目的(キャリア対話か業務進捗確認か)を明文化する

  • 上司にコーチングや傾聴のスキル付与を行う

  • 制度によって無理やりやらせるのではなく、現場に一定の裁量(頻度ややり方など)を持たせる

1on1の進め方については以下の記事をご参照ください。

🔗関連記事:1on1とは?話すことの例や意味がないと言われないための進め方

表彰制度の偏りによる分断

表彰は使い方を誤ると、表彰されない多数の社員の疎外感を生み出します。回避策としては以下2つが有効です。

  • 匿名相互推薦の導入で貢献の見えづらい仕事にも光を当てる
  • 営業成績だけでなく後輩育成や業務改善など多面的な貢献軸を設定する

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心理学理論を現場の声かけや1on1運用に活用するコツ

「モチベーションアップのための心理学理論を学んでも、現場で『で、明日何をすればいい?』に答えられないのはなぜか」——それは、理論の理解で終わってしまい、現場で活用するための言語化がされていないためです。ここでは、代表的な2つの理論を実務で活用できる粒度に落とし込みます。

ハーズバーグの二要因理論を1on1で活用する

ハーズバーグの二要因理論は「衛生要因(給与・労働条件など、不足すると不満を生むが、満たしても満足には直結しない)」と「動機付け要因(達成・承認・成長など、満たすと満足を生む)」を区別します。1on1運用に翻訳すると、衛生要因の話題と動機付け要因の話題を混ぜて扱わないことが重要です。

話題タイプ

1on1での扱い方

衛生要因

業務量、労働時間、評価制度への疑問

傾聴し、解消できる範囲は速やかに動く(放置は不満を蓄積させる)

動機付け要因

挑戦したい仕事、成長実感、キャリアの展望

「何を学んだか」「次に何がしたいか」を言語化させて、次の成長機会につなげる

上司の声かけ例

  • NG例:「最近どう?」(曖昧すぎて衛生要因の愚痴に流れやすい)
  • OK例:「先月の〇〇の案件で、一番手応えを感じた瞬間は?」(動機付け要因を引き出す問い)

自己決定理論を上司の声かけに翻訳する

自己決定理論では、内発的動機の源泉として「自律性」・「有能感」・「関係性」の3つの基本欲求が挙げられます。これを上司の日常的な声かけに翻訳すると以下のようになります。

欲求

声かけのNG例

声かけのOK例

自律性

「このやり方で進めて」

「進め方は3案考えられそうだけど、あなたはどれが良いと思う?」

有能感

「よくやった」(抽象的)

「〇〇の場面で△△という判断ができたのは、成長した部分だと思う」

関係性

(雑談を省略、業務のみ)

「先月気にしていたXXの件は、いまはどんな感じに思っている?」(関心の継続を示す)

モチベーションアップの効果測定

経営層から「モチベーションアップ施策の効果を数字で説明してください」と求められて苦慮するというのはよくある悩みです。ここでは、モチベーションアップ施策のKPI設計テンプレートを提示します。

測定指標と閾値の設計

指標カテゴリ

具体的な指標

測定方法

閾値の目安

(設定例)

エンゲージメント

エンゲージメントスコア/eNPS(従業員推奨度)/従業員満足度

半期サーベイ

前回比+0.3pt以上

行動変容

1on1実施率/上司評価コメントの質的変化

月次記録

実施率90%以上

結果指標

若手離職率/昇格試験合格率

年次データ

若手離職率を業界平均以下に

現場実感

「上司との関係」「成長実感」の項目別スコア

サーベイ設問設計

各項目5段階で平均3.8以上

ポイントは、単一指標に頼らないことです。エンゲージメントスコアだけを追うと「サーベイの回答テクニック」に流れやすく、行動変容と結果指標の両方でトライアンギュレーション(三角測量)を行う設計が有効です。

短期・中長期の測定タイミング設計

施策実施直後と3か月後の2回測定が基本です。

  • 施策直後(1週間以内):受講者アンケート、意欲変化の即時計測
  • 3か月後:行動変容の定着度、上司からの観察評価
  • 半期後:エンゲージメントスコア、離職意向の変化
  • 年次:離職率、昇格試験合格率などの結果指標

改善サイクルは、四半期に1回、指標を経営層と共有しながら「何が効いて何が効かなかったか」を言語化する運用が望ましいです。

短期・中期・長期で組み立てるモチベーションアップ施策ロードマップ

「何から手をつけるべきか優先順位がつけられない」という悩みに対しては、時間軸で施策を切り分けることが有効です。以下は施策着手のロードマップ表です。

時間軸

目的

主な施策

想定される効果

短期(〜3か月)

兆候の把握と即効施策の投入

サーベイ実施/1on1運用ルールの整備/明確な低下ケースへの個別介入

離職リスクの高い層の引き留め/現状把握

中期(〜1年)

上司側・階層別のスキル基盤整備

管理職向けコーチング研修/OJT指導者研修/中堅向け視点転換研修

上司スキル向上による部下モチベ改善/中堅の停滞感の緩和

長期(1年〜)

制度・風土の再設計

評価制度の見直し/MVV浸透の対話設計/キャリアパスの再定義

内発的動機付けを支える組織基盤の完成

短期(〜3か月)の即効施策

まず着手すべきは「兆候の把握」です。エンゲージメントサーベイを実施していない企業は、まずここから始めます。すでに実施している企業は、サーベイ結果の読み解き方を見直すことが有効です。全体スコアだけを見るのではなく、階層別や部署別に切り分け、モチベーション低下要因の仮説を立てます。同時に、離職リスクの高い個別ケースには即座に状況を把握し、必要に応じて上司や人事が介入する運用を整えます。

中期(〜1年)の運用定着施策

短期施策で兆候が把握できたら、次は上司側・階層別のスキル基盤整備に移ります。管理職向けコーチング研修やOJT指導者研修、中堅向けの視点転換研修などが中心となります。ここで注意すべきは、研修単発で終わらせないことです。研修設計の際は、事前課題・実践期間・振り返りセッションの3段構成を基本とし、上司や人事が関与する仕組みを埋め込みます。

長期(1年〜)の風土醸成施策

短期・中期で「上司スキル」と「兆候把握」の基盤が整ったら、長期では制度や風土の再設計に踏み込みます。評価制度の見直し、MVV浸透のための対話、キャリアパスの再定義などが中心です。長期施策は成果が出るまで時間がかかるため、中期施策と並行して早めに着手しましょう。

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モチベーションアップの研修事例

新入社員フォロー研修における視点転換とセルフマネジメント強化事例

アルーが支援した製造業では、配属から数か月が経過した総合職の新入社員に対し、「配属後の葛藤や悩みを言語化しきれず、モチベーションを自分で整える術を持っていない」という状態が組織課題として顕在化していました。そこで、新入社員フォロー研修においてモチベーションを自己管理するための設計を盛り込みました。

規模・対象者

配属後の新入社員約50名超を対象に、1日間のフォロー研修として実施しました。

課題

配属から3〜6か月時点は、新入社員が現場のリアリティと入社時のイメージのギャップに直面しやすく、モチベーションが下がり始めるタイミングです。「上司や周囲に相談しづらい」「同期とも配属先が離れて孤立感がある」「うまくいかない状況を自分の中で意味づけできない」という3つの声が重なっており、離職リスクと成長停滞の両面が懸念されていました。

実施した施策

事前課題と本研修を組み合わせ、「モチベーションを他責ではなく自分でマネジメントする視点と技術」を身につけることを目的に設計しました。事前課題として、入社から現在までを振り返り、何が起こり、その時何を考え、モチベーションがどのように浮き沈みをしたかを「モチベーション曲線」に記入して当日持参してもらいました。まず自分の状態を可視化することを起点にしています。本研修においては、モチベーションマネジメントの2つのスキル「視点の転換」「小さな習慣から変える」を柱に、5つの実践ワークを通じて手を動かしながら学ぶ構成にしました。実践ワークの例としては、「変えられるもの・変えられないものを仕分ける」といったもので、他責的な認知を自分でコントロールできる領域に引き寄せることや、「言葉の習慣を変える」ことで物事の捉え方を自分にとってポジティブになるように変えていくことを扱いました。加えて「成長の複利計算」「変えてみたい仕事の習慣を特定する」「以前の自分、これからの自分」といったワークを組み合わせ、いずれも具体的に行動に移すことで物事の捉え方を調整し、自分のモチベーションをコントロールできるようになるよう意図しました。また、配属後に抱えた葛藤や悩みを同期同士で語り合う時間を意図的に設け、「自分だけが悩んでいるわけではない」という気付きが得られるようにしました。

成果

講師の振り返りによると、配属後の葛藤を同期と多く語ることで日頃の不安や不満が解消され、安心した表情に変化した受講者が多く見られ前向きなコメントも多く聞かれたとのことです。また、自身のモチベーションを意図的にマネジメントする方法論をワークを通して学び、失敗やネガティブな出来事を前向きに捉え直し自責の姿勢で動くための「セルフマネジメントの大きな一歩」につながったと評価されました。数か月前の初期研修時点と比較して「顔が引き締まっている様子」がクラス全体に見られ、健全な成長が伺えたという所感も得られています。人事担当者は、配属後3〜6か月というモチベーションが下がりやすいタイミングでの実施が、離職防止と「もう一歩踏み出るためのエネルギー」の両方に効果的だったと総括しています。

設計のポイント

本事例で特に効いた設計要素は以下の3点です。1つ目は、配属後3〜6か月というモチベーションが下がりやすいタイミングでの「フォロー研修」として位置づけたことです。初期研修と切り離し、実務経験の後で振り返りを行いました。2つ目は、講義中心ではなく「モチベーション曲線」や「変えられるもの・変えられないもの」の実践ワークなど、自分の状態を可視化し手を動かすワーク中心にしたことです。3つ目は研修後にOJTトレーナー・上司側が「あたたかくも厳しく育てる」育成風土を並行して整えることを、次の打ち手として明示したことです。研修単発で完結させず、上司側の育成スキル強化とセットで捉えたことがポイントです。

新入社員のモチベーションアップは、本人を鼓舞するだけでは持続しません。本人が自分の状態を可視化し、視点と習慣を自分で選び直す技術を持つこと、そしてそれを支える上司・OJTトレーナー側の育成スキルと風土が整っていることの両輪が必要です。

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まとめ

モチベーションアップを組織として実現するには、精神論で個人を鼓舞するのではなく、下げている要因を取り除き、上がる条件を整える設計が必要です。本記事で提示した要点は以下の通りです。

  • 階層ごとのポイントを押さえる:若手と中堅、管理職では低下要因が異なるので、打ち手を切り替える
  • 失敗パターンを避ける:インセンティブ依存・1on1の儀式化・表彰の偏りなど、逆効果になる典型パターンを回避策とセットで押さえる
  • 理論を実務に翻訳する:二要因理論・自己決定理論を、上司の声かけ・1on1運用に落とし込む
  • KPIで説明できる形にする:エンゲージメント・行動変容・結果指標のトライアンギュレーションで経営層に説明する
  • 時間軸で組み立てる:短期(兆候把握)→中期(上司スキル基盤)→長期(制度・風土)の順で着手する

まずは自社の兆候把握から始め、階層別の低下要因を仮説立てし、上司側のスキル基盤整備に着手する——この順序が、組織としてのモチベーションアップを実現する最短経路です。

モチベーションアップについてのよくある質問(FAQ)

Q

モチベーションアップ施策を始めるとき、最初に何から着手すべきですか?

A

まずエンゲージメントサーベイやコンディションサーベイなどで「兆候の把握」を行い、階層別・部署別に低下要因の仮説を立てることをおすすめします。いきなり施策(1on1導入や表彰制度)から入ると、効果が出づらいです。

Q

予算をかけずに始められる施策はありますか?

A

あります。1on1運用ルールの整備、上司の声かけスキルの共有、既存の評価面談の目的再定義など、既存の運用をチューニングするだけで効果が出る打ち手は多くあります。予算をかける前に、既存施策の質を上げる余地がないか検討してみてください。

Q

リモート・ハイブリッド環境でモチベーションアップ施策は機能しますか?

A

機能しますが、対面前提の施策をそのまま持ち込むと形骸化します。オンライン会議でのファシリテーション設計、部下との接点量の意図的な確保、心理的安全性の担保など、リモート環境特有の設計が必要です。

Q

経営層に施策の効果を説明する際、どの指標を使えばよいですか?

A

単一指標ではなく、以下の3つで示すことをおすすめします。

  • エンゲージメントスコアの推移
  • 1on1実施率などの行動変容指標
  • 離職率などの結果指標

特に「若手離職率の改善」は経営層に響きやすい指標です。

アルー株式会社
アルー株式会社
20年以上、企業向けに人材育成コンサルティングや研修を提供してきた。新入社員・管理職といった階層別研修や、海外駐在員やグローバルリーダーなどのグローバル人材育成、DX人材育成に強みを持つ。その実績は取引企業総数1400社以上、海外現地法人取引社数400社以上に及ぶ。京都大学経営管理大学院との産学連携など、独自の研究活動も精力的に行っている。

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