catch-img

ARCSモデルを用いた新入社員研修の組み立て方

ARCS(アークス)モデルを学んでも、「4要素をすべて盛り込もうとすると注意喚起ばかり派手になって、肝心の学びが薄くなるのでは」「フレームに当てはめただけで満足してしまうのでは」という迷いは残りやすいものです。

研修設計に落とし込むときに問われるのは、4要素を「どの順番で」「どの学習ブロックに」割り当てるかという、具体的な組み立て方(構造化)です。

本記事では、製造業の技術系新入社員向けに実施された2日間の研修事例をもとに、ARCSの「注意→関連性→自信→満足感」を導入講義から実践演習まで順に効かせるカリキュラム設計の中身を紹介します。

業種は製造業ですが、「新入社員が学びを自分ごととして受け止めない」「研修中は盛り上がるが職場に戻ると忘れる」という課題は業種を問わず共通します。この記事を読むと、自社の新入社員研修や階層別研修のアジェンダに、ARCSの4要素をどの順で組み込めばよいかの判断軸が持てるようになります。

この記事でわかること

  • ARCSの4要素と学習ステップ(導入・インプット・実践・転移)の対応関係
  • 「注意」「関連性」を立ち上げる導入講義の作り方
  • 演習で「自信」を折らずに積ませる段階設計
  • 「満足感」を職場接続する転移パートの仕掛け
  • 4要素の優先順位を決める判断軸

だからこそ、まずは全体像を把握できる本記事を起点に、自社の新入社員研修の設計を見直してみてください。より詳しい設計例をまとめた資料もあわせてご活用いただけます。

この記事の監修者

落合 文四郎

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎

1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。

なぜARCSモデルを「知っている」だけでは研修の質が上がらないのか

ARCSモデルを学んだ人事担当者が最初にぶつかるのは、「4要素を全部盛り込もうとしたら、どれも中途半端になった」という壁です。動機づけの理論として理解しているのに、いざカリキュラムに落とし込むと、アイスブレイクを増やすだけで終わってしまう。この落とし穴の正体は、4要素を並列に扱ってしまう設計にあります。

4要素を並列に盛り込むと本題が薄まる

「注意(Attention)」「関連性(Relevance)」「自信(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」を等しく配分しようとすると、導入の興味づけに時間をかけすぎて本題の演習時間が削られる、あるいは全ブロックに動機づけの仕掛けを散りばめてしまい、受講者が「何を学んだのか」を言語化できないまま終わる、という事態が起きます。ARCSモデルの4要素は、並列に置くための項目ではなく、学習の流れに沿って順に効かせるための設計軸です。

たとえば、新入社員研修の冒頭で派手な動画を流して注意を引いたとしても、そのあとの講義が「なぜ今これを学ぶのか」に接続していなければ、興味づけだけが浮いて本題が始まりません。注意喚起は、そのあとの関連性の議論に橋渡しされて初めて効果的です。

「知っている」と「使える」の間にあるもの

ARCSモデルを言葉として知っていることと、研修設計に使えることの間には、「どの学習ブロックにどの要素を主役として置くか」の判断が必要です。この判断は、受講者の状態(何を課題と感じているのか)と、学習ステップの流れ(導入→インプット→実践→転移)の両方を見ないと決まりません。

ARCSの4要素を「順番に効かせる」という考え方

ARCSの4要素は、研修の学習ステップに沿って順に配置すると、それぞれが次の要素の土台になります。導入で立ち上げた「関連性」が、実践演習での「自信」を支え、その積み上げが「満足感」に結びつき、職場での行動につながっていくという流れです。

4要素と学習ステップの対応関係

新入社員研修の学習は、大きく4つのステップに分解できます。ARCSの4要素は、このステップにほぼ一対一で対応させることができます。

学習ステップ

目的

主役となるARCSの要素

具体的な仕掛け

① 導入講義

パート

なぜ学ぶかを腹落ちさせる

注意(A)+関連性(R)

「なぜ今これを学ぶのか」の問いかけ、職業観への接続

② インプット演習パート

基礎知識を入れる

自信(C)の土台づくり

プチ演習(個人ワーク)で「わかった」を体感

③ 実践演習

パート

使える形に組み替える

自信(C)

グループワーク→講師ヒアリング→全体発表の段階設計

④ 転移パート

職場に持ち帰る

満足感(S)

「提案のその後」を考えさせる、勝敗フィードバック

この対応関係を意識すると、「導入では注意と関連性を主役にし、実践演習では自信を主役にする」という設計方針が立ちます。すべてのブロックに4要素を散りばめるのではなく、そのブロックの主役を1〜2要素に絞り、他要素は最小限で担保するという発想に切り替わります。

順番に効かせるメリット

順番に効かせる設計にすると、受講者にとっては「今、自分は何を求められている状態か」がわかりやすくなります。導入では「なぜ学ぶのか」に集中でき、実践演習では「使えるようになる」ことに集中できる。設計者にとっては、どのブロックを厚くするかの判断がつきやすくなり、時間配分の優先順位も決まります。

導入パートで「注意」と「関連性」を立ち上げる

導入講義は、研修全体の動機づけを決める最重要ブロックです。ここで受講者が「なぜ今これを学ぶのか」に腹落ちできなければ、そのあとの演習は「やらされ感」から抜け出せません。逆に、導入で関連性が立ち上がれば、演習が難しくても受講者は自分から取り組みます。

「注意」はアイスブレイクではなく問いかけで作る

「注意」を派手なアイスブレイクや動画で取ろうとすると、本題への接続が切れがちです。おすすめは、「なぜ今これを学ぶ必要があるのか」を問いかける形式のディスカッションです。たとえば製造業の技術系新入社員向けであれば、「技術者が利益を出すことを考える必要があるのか、ないのか」を最初にグループで議論させます。すると、受講者は自分の職業観を語ることになり、そのまま「関連性」の議論に橋渡しされます。

導入講義の型は、30分程度で以下の流れが機能します。

時間

内容

5分

問いの提示:「なぜこの学びが必要か」を挑発的に投げる

10分

グループディスカッション

10分

講師からのメインメッセージ:職業観への接続

5分

本日のアジェンダと学びのゴールの共有

派手さは要りません。「自分たちがなぜここにいるのか」を受講者自身の言葉で語らせることが、注意喚起として最も強く働きます。

「関連性」は職業観と接続させる

「関連性」を担保するには、学習内容を受講者の職業観そのものに踏み込ませる必要があります。製造業の技術系新入社員向けの事例では、「製造メーカーの技術者として働いていくためには、①世の中にない新たな技術革新を追究すること、②会社経営に必要な利益創出を実現し、利益を上げること、の両立が求められる」というメインメッセージを導入講義で明示していました。

技術者志望の新入社員にとって、「利益」は本来遠い言葉です。しかしそれを「技術革新と両立させるべきもの」として提示すると、自分の職業アイデンティティの一部として受け止められるようになります。このメインメッセージの立て方が、そのあとの会計や顧客理解の演習を「自分ごと」に変える鍵になります。

自社で導入講義を組むときには、受講者の職種やキャリアの入り口の職業観を言語化した上で、その職業観と学習内容がどう接続するかを1文で言えるかを確認してみてください。「なぜ営業がロジカルシンキングを学ぶのか」「なぜエンジニアがビジネスマナーを学ぶのか」といった問いに、受講者の職業観から答えられる導入講義を作れれば、関連性は立ち上がります。

研修テーマを、参加者が目の前で感じている課題と紐づける

職業観への接続が「中長期の関連性」だとすれば、あわせて効かせたいのが「目の前の関連性」です。有効なのは、研修の1〜2週間前に事前アンケートで「配属先や実習先で、うまく進められずにモヤモヤした場面はありますか」と一問だけ聞いておき、導入講義の冒頭でその回答を匿名のままスライドに映す仕掛けです。
問題解決がテーマなら、「トラブルの報告をしたら『それは事象であって原因ではない』と指摘されたが、違いがわからなかった」「改善案を出したら『思いつきで動くな』と言われ、何から考えればよいか途方に暮れた」といった生の声が集まります。講師が用意した一般論より、同期の実際の困りごとのほうが「これは自分たちの研修だ」という受け止めを強く作り、職業観という中長期の関連性に「先週のあの場面の話でもある」という実感を重ねられます。
マインドセットを変えて動機づけを高める考え方については以下の記事をご参照ください。
🔗関連記事:なぜマインドセットを変えるのか~成長マインドセットの重要性や変え方がわかります~

実践演習パートで「自信」を段階的に積ませる

導入で関連性が立ち上がったら、次は実践演習で「自信」を持たせるパートです。ここでの落とし穴は、いきなり難易度の高い演習を出してしまい、受講者が委縮して沈黙してしまうことです。階段状の演習設計を行うことで初めて自信は積み上がっていくことを押さえる必要があります。

プチ演習から本演習への階段設計

自信を担保する演習は、以下の3段階で組むと機能します。

ステップ

演習形式

狙い

難易度

① プチ演習

個人ワーク(40分程度)

「わかった」を一人で体感する

② グループ

ワーク

4〜5名のチーム(60分程度)

他者の視点と組み合わせて考える

③ 実践演習

チーム発表+講師フィードバック(120分程度)

使える形に組み替える

いきなり実践演習に入ると、まだ知識が入っていない新入社員は「何を答えていいかわからない」で沈黙します。プチ演習で個人が「わかった」を体感してから、グループワークで他者と組み合わせ、最後に実践演習で総合力を試す、という順番が「自信」を折らずに済む王道の設計です。

さらに、実践演習の途中で「講師へのヒアリング機会」を挟むことも有効です。受講者が行き詰まったときに講師に質問できる仕組みがあると、受講者は「わからないまま放置される」不安から解放され、自信を保ったまま最終発表まで進めます。

実務直結ケースで演習を組む

演習の題材選びも「自信」に直結するため重要な要素です。例えば、抽象的な事例だと、受講者は「これを学んでも実務では使えない」と感じてしまい、演習への集中が続きません。逆に、実務直結のケースだと「自分の仕事で使える形で理解できた」という感覚が生まれ、それが自信につながります。

例えば、製造業向けの事例では、取引先のドラッグストアがコーヒー販売を試験的に始めたというシナリオを題材に、コーヒー関連商品担当への利益拡大策を提案する演習を組みました。「よくあるNG解答例」(コーヒー関連製品だけのデータ分析を行い利益貢献は低いと提案してしまう)と、「顧客の期待を超える解答例」(店舗全体の利益率の変化を分析し、コーヒー関連製品が付随商品の購買につながっていることを提案する)の両方をフィードバックで明示することで、受講者は「浅い提案と深い提案の差」を体験として理解できるようになります。

以上のように、自社で演習を組まれる際は、実際の取引先や商材、業務シーンを題材にできないか検討してみてください。難しい場合は、「NG解答例」と「期待を超える解答例」の対比を用意するだけでも、受講者の学びの深度は大きく変わります。

転移パートで「満足感」を職場接続する

「満足感」は、研修中の達成感だけで終わらせてはいけません。研修室で盛り上がっても、職場に戻った瞬間に学びが消えるのでは、動機づけとしては効果を発揮していないのと同じです。転移パートの設計では、職場に戻ってからの実践の仕組みを考えます。

学びの発揮場面を特定し、上司を巻き込む

職場接続の第一歩は、研修の最後に「学んだ内容を、職場のどの場面で発揮し、どのような変化を生み出したいか」を一人ひとりに言語化させることです。「問題解決のプロセスを意識します」という抽象的な決意では、配属後の忙しさの中で行動になりません。「担当ラインで不良が出たとき、対策を提案する前に、まず事象と原因を切り分けて報告する。それによって、先輩とのやり取りの手戻りを減らす」というように、場面(いつ・どこで)、行動(何をする)、期待する変化(何が変わる)の3点セットで書かせます。

このアクションプランは、本人の手元に置くだけでは効果を発揮しません。配属先の上司に共有し、上司からの支援を取り付けるところまでを研修の設計に含めます。具体的には、アクションプランを本人から上司に提出させ、配属後の初回面談で「研修でこういう実践を宣言しているので、XXという機会に発揮したい。実践場面を見かけたら一言フィードバックしてほしい」と依頼する運用です。新入社員の学びが職場で再現されるかどうかは、本人の意志より、上司が発揮の機会と承認を用意できるかに大きく左右されます。ここを本人任せにしないことが、転移設計の要です。

仕上げとして、配属から1〜3か月後に、アクションプランの実践結果を振り返るレポートを提出させます。書かせる内容は「実践できた場面とその結果」「実践できなかった場面とその障害」「次の1か月で試すこと」の3点で十分です。レポート提出は、受講者にとっては学びを思い出して行動を再起動する契機になり、事務局にとっては効果測定のデータになります。

つまずきやすいポイントと対処

ARCSモデルを研修設計に取り入れるとき、実際に起きやすいつまずきと、その対処を対応表に整理します。自社のアジェンダを点検するときのチェックリストとしても使えます。

つまずきパターン

症状

対処

注意喚起偏重

派手なアイスブレイクや動画で掴もうとして、本題への接続が切れる

「なぜ今学ぶのか」の問いかけ型ディスカッションで注意を作り、そのまま関連性の議論に橋渡しする

関連性欠如

受講者が「なぜやるのか」がわからないまま演習に入り、白けたまま進む

受講者の職業観に踏み込むメインメッセージを導入講義で明示する

自信崩壊

いきなり難問を出して受講者が沈黙する

プチ演習→グループワーク→実践演習の段階設計にし、講師へのヒアリング機会を挟む

満足感の職場断絶

研修中は盛り上がるが職場に戻ると学びが消える

「提案したその後」を考えさせる転移パートを組み込む

4要素の均等配分

どの要素も中途半端になる

対象者の状態で優先要素を1〜2つに絞る

効果検証の欠落

ARCSで組んで満足し、実施後の効果を測らない

動機づけの手応えを何で測るかを設計段階で決めておく

4要素の優先順位を決める判断軸

「4要素を全部盛り」にしないために、対象者の状態で優先要素を絞る判断軸を持っておくと、設計がぶれません。

対象者の状態

厚く配分する要素

最小限で担保する要素

白け型(なぜ学ぶかが不明な状態)

関連性(R)+注意(A)

自信、満足感

自信欠如型(できないと思い込んでいる)

自信(C)+満足感(S)

注意、関連性

職場断絶型(学びを職場に持ち帰らない)

満足感(S)+関連性(R)

注意、自信

新入社員研修は「白け型」の傾向が出やすいので、関連性を厚く設計するのが基本方針になります。一方で、階層別研修(若手や中堅)では受講者の状態が変わるので、優先要素も変わります。この判断軸を持っておくと、受講階層が変わっても同じ設計思想を横展開できます。

製造業向け新入社員研修の事例

製造業の技術系新入社員における「動機づけ」設計

受講者

本研修は、製造業の技術系新入社員を対象に、2日間の集合研修として実施しました。導入研修全体の中では「社会人の基本」「プロフェッショナルスタンス(社会人としての基本姿勢と基本行動)」に続く位置づけで、会社の利益構造を学ぶカリキュラムとして組み込まれています。

課題

企画に至った背景としては、技術系新入社員が「なぜ技術者として利益を出すことを考える必要があるのか」を納得できず、利益創出の原理原則を「自分ごと」として受け止められないという課題がありました。

導入部分での動機づけ設計が弱いと、そのあとに続く会計知識や顧客理解のインプットがどうしても「やらされ感」の漂うものになってしまいます。また、人事・育成担当者側からは以下のような要望も出されていました。「研修はただの手段でしかないので、学んだことを職場で意識させる仕掛けを実施したい」「外部の研修会社に依頼するメリットとして、社会人の先輩として厳しくフィードバックしてほしい」という要望が出されていました。

実施内容

2日間で、多数の実践を繰り返す「100本ノック」型の4ステップカリキュラムを展開しました。

①導入講義:「利益の構造の原理原則」で技術革新と利益創出の両立という職業観に踏み込み、関連性を担保します(講義、グループディスカッション)。

②インプット:「利益を上げるための基本行動」では、会社の経済活動を4つのステップ(お金を集める、投資する、利益をあげる、還元する)と5つの利益に分解して知識をインプットします。さらに、相手の期待を自分から確認するという行動原則を受講者に体感させます(講義、個人ワーク、グループワーク)。

③実践演習:「ビジネスシミュレーション」でお客様に対する提案ロールプレイを実施し、利益を生む提案のための思考プロセス(顧客を幅広く捉える、顧客の期待を捉え直す、利益を点ではなく線で考える、お互いの期待と利益が重なる提案を作る)を試させる実践演習です(グループワーク、発表、顧客役からのフィードバック)。

④転移・定着:「利益創出を深く考える」では、転移パートで利益創出の意味と自分自身の付加価値を接続させ(講義、個人ワーク、グループワーク)、最後に「今後の自分の付加価値をあげるために何をするのか」を行動指針として立案させます。

成果

2日間の研修を通じて、受講者からは以下のような変化や成果が見られました。

①「見えない費用を明確に意識するきっかけになった」「自分一人ではなく組織的にコストを抑える意見を出したい」といった、費用を自分ごととして受け止める発言が多数出ています。

②ビジネスシミュレーションで、複数グループが顧客役からの受注には至らなかったものの、プロセス面において「信頼できる」という評価を獲得しました。受講者が成功体験を積める場面です。

③「相手を具体的にイメージできていなかった」「エンドユーザーに配慮しすぎて利益の確保を忘れてしまった」「抽象的なまま進んでしまったことに気づいた」という気づきコメントが受講者から自発的に出ました。

成果の可視化

動機づけの手応えは、以下の複数チャネルで可視化しています。

①演習ごとの成果物(提案書や分析シート)に対する講師フィードバックで、思考プロセスの深さを評価します。

②実践演習では顧客役(講師)による「受注か未受注か」「信頼レベル到達か未到達か」の絶対評価で、提案の質を可視化します。

③研修終了時の「気づき・学びの振り返り」で、受講者自身が言語化した学びを事務局が収集し、翌年のカリキュラム改善に反映します。

設計のポイント

設計のポイントは3点あります。
①メインメッセージを「利益を上げ続けることの重要性」と「相手の期待に応えて仕事を進めること」の二本柱に据えました。技術者に対して「利益」について単独で伝えると反発が起きやすいため、「技術革新と利益創出の両立」という職業アイデンティティに接続する語り口に組み替えたことで、関連性が立ち上がりやすくなります。
②勝敗判定はクラス内絶対評価で「受注か未受注か」を明確にする一方、負けたチームには「どこを変えれば選ばれる提案になったか」を具体的に示すフィードバックを講師から返す運用にしました。これにより、勝敗は自信を折るのではなく「次にどう改善するか」の学びに変換されます。
③判定にプロセス面における評価も入れることで、未受注だった(成果は要件を満たさなかった)としても、そのプロセスにおける良い点が浮き彫りになるようにしました。これにより、結果だけではなく、プロセスにおいても成功体験を得られます。
自社の新入社員研修でも同じ設計思想を試してみたい場合は、本記事の事例を最初の一歩としてご活用ください。この事例の設計を詳しくまとめた資料もあわせてご参照いただけます。
弊社アルーは新入社員のマインドセット形成から実務直結の演習まで含めた「新入社員研修」を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。

🔗研修サービス詳細:新入社員研修

自社でARCSモデルを研修設計に取り入れる第一歩

ARCSモデルを自社の研修設計に取り入れる第一歩は、既存のアジェンダをARCS視点で点検することから始まります。新しい研修をゼロから作らなくても、いま実施している研修のブロックごとに「このブロックの主役はARCSのどの要素か」を書き出すだけで、設計の課題が見えてきます。

アジェンダをARCSモデル視点で点検する

自社の新入社員研修または若手向け研修のアジェンダを1枚の表にして、次の項目を埋めてみてください。以下は、上述の製造業技術系新入社員向け2日間研修を例にした記入サンプルです。自社の研修に置き換えて埋めてみてください。

学習ブロック

目的

主役のARCS要素

具体的な仕掛け

現状の課題(例)

導入講義

パート

なぜ儲けを学ぶかを腹落ちさせる

関連性(R)+注意(A)

「技術者が利益を出すことを考える必要があるのか」を問いかけ、職業観に接続するメインメッセージを提示

導入で職業観への接続が弱く、演習が「やらされ感」で進んでいる

インプット

演習パート

会計の基本と行動原則を入れる

自信(C)の土台づくり

経済活動を4ステップ+5利益に分解、身近な店舗を題材にしたプチ演習で、用語を実感を伴って理解させる

抽象的な会計用語のまま網羅してしまい、受講者が言語化できない

実践

演習パート

顧客の期待に応える提案を組む

自信(C)

ビジネスシミュレーション(顧客役への提案)、講師ヒアリング機会、NG解答例と期待を超える解答例の対比

いきなり難易度の高い実践演習に入り、受講者が沈黙する

転移パート

職場での付加価値行動を宣言

満足感(S)

「今後の付加価値をあげるために何をするか」を行動指針として立案、勝敗フィードバックで学びを変換

研修中の達成感で終わり、職場での実践に接続しない

埋めてみると、「導入は注意を派手に取っているが関連性が薄い」「実践演習が難易度の階段になっていない」「転移パートが存在しない」といった課題が見えてきます。すべてを一度に直そうとせず、最もインパクトが大きい1ブロックから見直すのが現実的です。

対象者の状態から優先要素を絞る

点検が終わったら、受講者の状態(白け型、自信欠如型、職場断絶型)を判定し、優先要素を1〜2つに絞ります。新入社員なら関連性を厚くする、若手層なら満足感と関連性の両輪、というように、階層ごとに優先要素の型を持っておくと、研修体系全体を一貫した設計思想で組み直せます。

まとめ

ARCSモデルを新入社員研修に落とし込むときの要点を、5つに整理します。

4要素は並列ではなく順番に効かせます。学習ステップ(導入→インプット→実践→転移)に対応させ、各ブロックの主役を1〜2要素に絞ります。

導入で「注意」と「関連性」を立ち上げます。派手なアイスブレイクではなく、受講者の職業観に踏み込む問いかけとメインメッセージで関連性を担保します。

実践演習は階段設計で「自信」を積ませます。プチ演習→グループワーク→実践演習の3段階と、実務直結ケースやNG・期待を超える解答例の対比が有効です。

転移パートで「満足感」を職場接続します。「提案したその後」を考えさせるワークで、研修室と職場の断絶を減らします。

受講者の状態に合わせて優先要素を絞ります。白け型なら関連性、自信欠如型なら自信、職場断絶型なら満足感を厚くします。

ARCSモデルを「使える」形にする唯一の正解はありません。受講者の状態、既存のアジェンダの課題、自社の職業観のどこに手を入れるかで、設計の重心は変わります。だからこそ、自社の状況を踏まえた設計を検討したい場合は、経験のある研修設計者と一緒に組み立てるという選択肢もあります。

≫アルーに相談する

よくある質問(FAQ)

Q

ARCSモデルの4要素は必ず4つとも入れないといけないのでしょうか?

A

4要素すべてに触れる必要はありますが、どれを主役にするかは受講者の状態で決めます。新入社員研修のように「なぜ学ぶかが不明」な白け型の受講者には関連性を厚くし、他要素は最小限で担保するのが現実的です。全部を均等配分すると、どれも中途半端になります。

Q

導入講義で「関連性」を伝えるとき、自社の新入社員にも刺さる作り方はどう考えればよいですか?

A

受講者の職業観に踏み込むメインメッセージを1文で言えるかがポイントです。「なぜこの職種の人がこれを学ぶ必要があるのか」を、受講者のキャリアの入り口の職業観から言語化してください。製造業技術者なら「技術革新と利益創出の両立」、営業なら「顧客の意思決定を助けるための思考」といった形で、職業観に接続する言葉を選ぶと刺さります。

Q

競争型演習で勝敗をつけると、負けた新入社員の自信を折るリスクはないですか?

A

運用の設計次第で回避できます。第一に、勝敗判定を「顧客が選ぶ」形にして、講師や他チームの批判ではなく顧客の期待という基準で決める。第二に、負けたチームにも「どこを変えれば選ばれる提案になったか」を具体的にフィードバックする。この2点があれば、勝敗は「次にどう改善するか」の学びに変換されます。

Q

ARCSで組んだ研修の効果は、人事としてどう社内に見せればよいですか?

A

動機づけの手応えを何で測るかを、設計段階で決めておく必要があります。受講後アンケートの動機づけ関連項目、上司ヒアリングによる行動変容の観察、演習中の発言や提案の質的分析など、複数の指標を組み合わせるのが一般的です。具体的な可視化の方法は、受講者や研修規模、社内の評価文化によって変わるので、設計時に検討することをおすすめします。

アルー株式会社
アルー株式会社
20年以上、企業向けに人材育成コンサルティングや研修を提供してきた。新入社員・管理職といった階層別研修や、海外駐在員やグローバルリーダーなどのグローバル人材育成、DX人材育成に強みを持つ。その実績は取引企業総数1400社以上、海外現地法人取引社数400社以上に及ぶ。京都大学経営管理大学院との産学連携など、独自の研究活動も精力的に行っている。

新入社員に関する記事

タグ一覧

メガメニュー格納セクション
お問い合わせ
無料資料請求

予約受付中のセミナー

人気記事ランキング

ブログ内検索