――貴社の事業内容と今回の新卒社員ビジネス研修についてご紹介をお願いします。
鈴木 パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社は、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を通じて、お客様の業務プロセスを変革し、生産性向上を実現する会社です。具体的には、人と組織が成長できる最適な業務プロセスを構築するという、ビジネスプロセスアウトソーシングを主力事業としています。
新卒社員ビジネス研修では、400~500名規模の新卒社員を対象に、実践を通じた経験学習サイクルの実践を重視しています。研修のテーマは、学生から社会人への意識転換を促す「モードチェンジ」です。
――新卒社員ビジネス研修を実施するにあたって、どのような課題や背景がありましたか?
平沢 受け身になりがちな新卒社員をいかに主体的に動かすかが大きな課題でした。「主体的に動きなさい」ではなく、『セルフリーダーシップ』を伝達し、「これらは日々の業務で行うことだ」と研修の冒頭で伝え、それを随所に盛り込む工夫が必要でした。
ビジネスの場面では答えのないことの方が多いので、『自ら考え行動する』社員はどの組織でも求めていることと考え、新卒社員研修の目的は、『自ら考え行動する』社員への土台形成をすることとしました。
昨今の新卒入社者は、正解を求め、指示を待ってから行動してしまうところがありますが、研修という場だからこそ、まずは自分で考え行動してみるという経験をさせたいと考えました 。
そのために重視しているのが経験学習サイクルです。経験学習サイクルを繰り返すことで、「わかる」から「できる」への移行を図っています。
鈴木 経験学習サイクルの中で「内省」が最も重要な要素だと考えています。新卒社員には、反省と内省の違いを理解し、内省を実践できるようになることに力を入れています。
――反省と内省の違いについて、詳しく教えていただけますか?
鈴木 「反省」は、マイナスのポイントをゼロに戻し、直していくことです。一方「内省」は、よい点を教訓として次に活かしたり、反省した点をプラスにつなげて改善し、よりよくしていくことを指します。
平沢 経験から何を感じるかは人それぞれです。その感情を反省として捉え、「こう感じないようにしよう」と思っても、それは人間の自然な感情であるため、次に繋がりません。経験学習の強みは、感情が生まれることを前提として、次にどう行動するかを考える点にあります。自分の本質を変えられないことを受け入れ、その上で自分自身をどうコントロールしていくかを考え、それを教訓としていく。教訓が多いほど、多様な場面での応用ができるようになります。
――具体的に、どのような状況が課題として見えていたのでしょうか?
平沢 経験学習サイクルにおいて内省を深めることは重要ですが、受講者数が多いため個別にフィードバックできないという問題があります。加えて、受講者数の増加によって、全社共通のプログラムの導入、講師の確保、そして質の維持が課題となっていました。
人材開発グループでは、新卒・中途の導入研修や新任マネージャー研修、公募型チームビルディング研修を通じて、マネージャーやメンバーに学びの機会を提供している。
――課題に対して、どのような施策を講じられましたか?
平沢 研修で提供したのは、「わかる」から「できる」への移行を確実に実現する「学びの方針」です。具体的には、学んだことをすぐにインプットし、アウトプットし、フィードバックするというサイクルを徹底的に繰り返しました。
パーソルビジネスプロセスデザイン様独自の学びの方針を示した資料。
この1枚に研修の内容が詰まっている。
平沢 研修では、例えば名刺交換などのビジネスマナーを学んだ後、その場で講師がお客様役になってロールプレイングを行います。初回訪問での挨拶から始まり、ヒアリング、課題抽出、提案まで、5日間で合計8回の実践を繰り返します。グループでお客様への課題ヒアリングから提案までを一連で経験し、その都度フィードバックを受けて改善します。このプロジェクトワークを通じて、「わかったつもり」から「まだできない」という実感を抱かせ、そこから「復習しよう」「もっと頑張ろう」という意欲が湧くように設計されています。
経験学習サイクルでは内省を深めることが重要です。それを忘れないための仕組みとして日報を用意していますが、人数が多いため個別にフィードバックできないという課題がありました。
鈴木 そこで、AIを活用し、日報を通じて内省を深める施策を行っています。具体的には、経験学習サイクルを日報に組み込み、「今日感じたこと」「学んだこと」を記入してもらい、AIにその内容について内省を促す質問を生成するよう指示します。AIからの質問に対し、受講者が回答することで、より深い内省を促す仕組みです。
――研修運営で特に重視された点はありますか?
平沢 今回の研修で最も重要だったのは、15クラスに一人ずつ高パフォーマンスの講師を配置し、それを5日間連続で同時進行させたことです。各講師は単なる指導者ではなく、デモのお客様役として受講者と対峙し、リアルタイムでお客様役としてのフィードバックも提供する複合的な役割を担いました。
鈴木 さらに、オンラインクラスも含めた15クラス同時運営という高度なオペレーションを実現する必要がありました。15人の高パフォーマンスの講師をそろえられるのは、アルー様だからこそできたことだと思います。
平沢 グループでお客様への課題ヒアリングから提案までを一連で経験し、その都度インプット→アウトプット→フィードバックのサイクルでフィードバックを受けて改善します。このプロジェクトワークを通じて、「わかったつもり」から「まだできない」という実感を抱かせ、そこから「復習しよう」「もっと頑張ろう」という意欲が湧くように設計されています。
――研修の内容やプログラム設計についてはいかがでしょうか?
平沢 研修では、プロジェクトワークを通して、仕事をする、お客様と向き合うという感覚を経験してもらいます。5日間でインプット→アウトプット→フィードバックを徹底的に繰り返します。この感覚を掴むことで、仕事に対する期待だけでなく、健全な危機感を持った状態で送り出すことができます。
――研修の成果はいかがでしたか?
鈴木 この研修の大きな成果は、受講者の顔つきが変わったことです。研修開始時と最終提案の段階では、全員が自信を持って堂々と振る舞っていました。これは、自ら考えて行動するという目標を、受講者が達成できた証拠だと考えています。
新卒社員を対象にアンケートを実施しこの目標に対してどうだったか、理解度や達成度などを尋ねる形式で行い、新卒社員のため高い評価が出やすい傾向にありますが、トップツーボックス(最高評価と次点評価を合計した指標)で見ると97〜98%以上の満足度を示しています。
新卒社員が苦労しながらもワークに取り組む中で、最終的に「大変だったけれど、この研修を受けてよかった」「きつかったけれど、よかった」という言葉を口にしていた点が、非常に良かったと感じています。
――過去に受講した際の受講者としての声を聞かせていただけますか?
神河 入社前はどのような研修を受けることになるのかイメージがついていなかったこともあり、ビジネス研修の大半がプロジェクトワークの時間であったことに驚きました。グループメンバーと協力してアウトプットを出す中で、自分と他のメンバーの意見の違いをどう折り合いをつけるかを学べたのは大きな収穫でした。
研修が終わった時には大きな達成感がありました。最終提案で1位は取れませんでしたが、「大変だったけど、頑張ってアウトプットを出せた」という成功経験ができたことは非常に大きかったです。
鈴木 この研修は、まるで筋トレのように、苦労しながらも負荷をかけ続けることで、最終的に力がつき、やって良かったと感じるものだったと思います。
新卒社員がこの研修に時間をかけることで、内省を深めることにつながった上、さらにAIに慣れるという二重の効果があったと考えています。
――今後の取り組みについてお聞かせください。
鈴木 経験学習の質を高めていきたいと考えています。特に、内省と反省の違いを理解して、内省を深めることで、社員が配属後も経験から学んだことを教訓化し、成長できる環境を整えたいと思っています。
平沢 「わかる」から「できる」への移行の部分で、その「できる」の精度をさらに高めるのであれば、AIが適していると考えます。しかし、現在の新卒社員ビジネス研修の枠組みにおいて、人手を介さずにこの精度を高めるのは困難です。ここをどのように発展させていくかが今後の課題です。
アルー中内 この研修の主な目的は、「わかる」から「できる」への移行と、インプット→アウトプット→フィードバックのサイクル、そして経験学習サイクル、特に「内省」をいかに深く行うかです。現状のよい点を維持しつつ、さらに改善するためにどのような要素が必要かについて、一緒に議論していきたいと考えています。
これからも、社員に「この会社に入社してよかった」と感じてもらうため、
成長できる環境を提供し、成長実感が持てる施策を実現したいと話している。
――アルーを研修パートナーとして選ばれた理由を教えてください。
鈴木 私たちが望む形に柔軟に研修をカスタマイズしてくれる点が最も重要です。私たちの急な要望に対しても、それをきちんと汲み取って、取り入れてくれます。研修会社の中には自社のやり方を変えないところもありますが、アルー様は柔軟に対応してくれるので、そこが非常に大きな決め手でした。
平沢 当社は独自の強いこだわりを持っており、アルー様にご提案いただいた内容をそのまま受け入れるのではなく、アルー様と相談しながら研修を作り上げてきました。15クラスに一人ずつ講師がついて、その講師にデモのお客様役やお客様役としてのフィードバックもしてもらう、という難しい役割を担ってもらい、さらにそれを15クラス同時に進める。15人の高パフォーマンスの講師をそろえられるのはアルー様だけでした。アルー様がいなければ、私たちが考えていたことは実現できませんでした。
――長期間にわたってパートナーシップを築いてこられた背景には何があるのでしょうか?
平沢 この新卒社員ビジネス研修は、パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社として統合する前から長く続けている研修であるため、継続的に改善していけるパートナーが必要でした。アルー様は単に研修を提供するだけでなく、私たちと一緒に、よりよいものを作り上げていこうという姿勢を示してくれたため、こうして続けて来られたのだと思います。
アルー中内 パーソルビジネスプロセスデザイン様の人材育成への熱意とこだわりを感じながら、最適な研修を共に作り上げることができています。特に「わかる」から「できる」への移行という考え方や経験学習サイクルを重視する姿勢は、アルーの研修設計思想とも合致しており、非常に良好なパートナーシップを築けていると実感しています。