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リスクマネジメントとは?実施プロセスや評価基準をわかりやすく解説

リスクマネジメントとは、組織の目的達成に関わる不確実性を体系的に特定・分析・評価し、対応策を講じる一連の活動を指します。実施している企業は多いものの、リスクアセスメントの評価基準が担当者の主観に依存していたり、委員会が報告会化していたりと、運用の壁にぶつかることも多々あります。

本稿ではリスクマネジメントの定義・プロセス・評価基準を整理したうえで、「人がリスクに気づき動ける組織」をどう設計するかまで踏み込みます。「リスクマネジメントといっても、真面目にやっている感を出すための儀式で終わっていないか?」という疑問に、実務で使える粒度で答えていきます。

この記事でわかること

  • リスクマネジメントの定義・目的と、類義語(クライシスマネジメント / BCP / リスクヘッジ / アセスメント)との違い
  • ISO31000に基づく実施プロセス5ステップとリスク対応の手法
  • リスクアセスメントの評価基準を主観から再現性ある物差しに変える具体設計
  • 2024-2025年に押さえるべき新しいリスクカテゴリ(生成AI / サプライチェーン / 地政学 / レピュテーション)
  • 形骸化を防ぐ体制設計と、リスク感度を持った人材の育て方

この記事の監修者

落合 文四郎

アルー株式会社
代表取締役社長
落合文四郎

1977年、大阪府生まれ。 2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストン コンサルティング グループ入社。 2003年10月、株式会社エデュ・ファクトリーを設立し、代表取締役社長に就任。 2006年4月、アルー株式会社に社名変更。京都大学博士(経営科学)。

リスクマネジメントとは——定義・目的と近年重要視される背景

リスクマネジメントの定義と目的

リスクマネジメントとは、組織の目的達成に関わる不確実性を体系的に特定・分析・評価し、対応策を講じる一連の活動を指します。国際規格ISO31000(2018年版、国内対応規格はJIS Q 31000:2019)では「リスクについて組織を指揮統制するための調整された活動」と定義されており、単発の対策ではなく、組織統治の一部として経営プロセスに組み込まれた継続的な仕組みであることが特徴です。なお同規格は、ISO9001などと異なり認証取得を目的としたものではなく、各組織が自らの状況に応じて活用するガイドラインです。

ここで押さえておきたいのが、同規格における「リスク」の捉え方です。ISO31000はリスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しており、この影響には好ましくないものだけでなく、好ましいものも含まれます。同規格が組織における価値を「保護する」だけでなく「創造する」人々のためのものと位置づけられているのは、このためです。

リスクマネジメントの目的は大きく3つあります。1つ目は事業継続の確保、2つ目は損失発生時の被害極小化、3つ目は投機的リスク——取れば損失も利益もありうるリスク——を意図的に取ることによる収益機会の獲得です。特に3つ目は見落とされがちで、リスクマネジメントを「守り」の活動とだけ捉えると、どのリスクをどこまで取るかという経営判断そのものが議論から抜け落ちます。上記の定義に立てば、これは例外的な用途ではなく、リスクマネジメントの本来の射程に含まれるものです。

なぜ今リスクマネジメントが重要視されるのか

近年、リスクマネジメントの重要性が改めて問われている背景には、リスクの複雑化と情報伝播速度の変化があります。生成AIの業務利用による情報漏えい、サプライチェーンの寸断、地政学的緊張、SNSを起点としたレピュテーション毀損など、10年前には主要リスクとして扱われていなかった論点が、現在では経営会議のアジェンダに載っています。

一方、「うちのリスクマネジメントは真面目にやっている感を出すための儀式で終わっていないか?」という疑問を持つ担当者も少なくありません。委員会は開催されリスク一覧表も更新されるが、実際の現場行動が変わらないという状態です。この形骸化を防ぐには、プロセスの整備で満足せず、「人がリスクに気づき動ける組織」を作る視点が不可欠になります。

クライシスマネジメント・BCP・リスクヘッジ・リスクアセスメントとの違い

リスクマネジメントと混同されやすい概念を整理します。それぞれ「時間軸」と「対象範囲」で位置づけが異なります。

用語

対象時点

スコープ

主な活動

リスクマネジメント

平時(事前)

組織全体の不確実性

リスクの特定・分析・評価・対応・モニタリング

クライシスマネジメント

有事(事後)

危機事象への対応

初動対応・広報・意思決定・復旧指揮

BCP(事業継続計画)

有事(事後)+平時準備

事業中断リスクに特化

中核事業の継続手順・復旧目標時間の策定

リスクヘッジ

平時(事前)

個別リスクの回避・軽減

保険・分散投資・契約条項などの個別打ち手

リスクアセスメント

平時(事前)

リスクマネジメントの一工程

リスクの特定・分析・評価(=対応策検討の前段階)

実務での使い分けポイント

実務では「リスクマネジメントの中にリスクアセスメントとBCPが含まれ、危機発現時にはクライシスマネジメントへ移行する」という包含関係で捉えると整理しやすくなります。リスクヘッジは個別打ち手の呼称であり、体系的な仕組みを指すリスクマネジメントとは階層が異なる点に注意が必要です。

社内で稟議を上げる際、「BCP強化」なのか「リスクマネジメント体制の再構築」なのかを言葉レベルで揃えておかないと、経営層と現場でスコープの認識ズレが起きます。企画書の冒頭で用語定義を明記することを推奨します。

【最新版】企業が抱えるリスクの種類

従来のリスク分類マップ

企業リスクは複数の切り口で分類されます。代表的な2軸を押さえておくと、社内でのリスク洗い出し会議で議論が空中戦になりません。

発生形態による分類(純粋リスク / 投機的リスク)

  • 純粋リスク:損失のみを生むリスク(火災・事故・自然災害・情報漏えい等)
  • 投機的リスク:損失と利益の両可能性を持つリスク(新規事業投資・為替変動・M&A等)

発生源による分類例

代表的な整理の一つが、戦略・財務・オペレーショナル・ハザードの4区分(「リスク四象限」)です。これは米国The Institutes(旧AICPCU)が発行する損害保険関連資格ARM(Associate in Risk Management)の公式『Risk Management Principles and Practices』に収録されている分類法で、以下に整理します。なお、「組織がリスクをどう分類すべきかについて業界のコンセンサスは存在しない」と明記されており、唯一の標準というわけではありません。COSO ERMフレームワークは「戦略・業務・財務・コンプライアンス・報告」の5分類、Basel II(銀行規制)はオペレーショナルリスクをさらに7分類するなど、団体によって採用する分類は異なります。自社に合う分類を選ぶか、複数を参考に独自のリスク一覧表を設計することが重要です。

カテゴリ

内容

具体例

戦略リスク

事業戦略の意思決定に関わるリスク

市場撤退判断の遅れ / 新規事業投資の失敗

財務リスク

資金・信用に関わるリスク

為替変動 / 与信悪化 / 資金繰り悪化

オペレーショナルリスク

業務プロセス・人・システムに起因するリスク

システム障害 / 人的ミス / 内部不正

ハザードリスク

外部事象・災害に起因するリスク

自然災害 / 火災 / パンデミック

近年影響度が増している新しいリスクカテゴリ

従来の4分類に加え、直近数年で影響度が急拡大したリスクがあります。既存分類のどこに位置づけるかを整理しておくと、リスク一覧表への追加時に迷いません。

  • 生成AI関連リスク:社員が業務データを外部AIに入力することによる情報漏えい、AI出力の誤情報を鵜呑みにする判断ミス、著作権侵害等。オペレーショナルリスクに分類しつつ、レピュテーションリスクとの連鎖が特徴。
  • サプライチェーンリスク:特定地域・特定サプライヤーへの依存による寸断リスク。従来のハザードリスクに加え、地政学リスクとの複合化が進行。
  • 地政学リスク:輸出規制・経済安全保障・データローカライゼーション要件の変化。戦略リスクとして扱う企業が増加。
  • レピュテーションリスク:SNS拡散による評判毀損。従来は「結果としてのリスク」だったが、近年は独立カテゴリとして管理する動きが加速。

リスクマネジメントの実施プロセスと対応手法

ISO31000に基づく5ステップの進め方

ISO31000は、リスクマネジメントのプロセスを「コミュニケーション及び協議」「適用範囲、状況及び基準」「リスクアセスメント(リスク特定・リスク分析・リスク評価)」「リスク対応」「モニタリング及びレビュー」「記録作成及び報告」で構成しています。このうち中核となるリスクアセスメントからモニタリングまでを5ステップとして整理すると、以下のようになります。各ステップで何を成果物として残すかを決めておくと、次のサイクルで振り返りが可能になります。

ステップ

目的

主な成果物

①リスク特定

目的の達成を助ける、または妨げる可能性のある不確実性を洗い出す

リスク一覧表(リスクID / 事象 / 発生源)

②リスク分析

発生頻度と影響度を推定し、リスクの性質を理解する

分析シート(頻度スコア / 影響度スコア / 根拠)

③リスク評価

分析結果をリスク基準と照らし、対応に関する意思決定を裏付ける

優先順位マトリクス / 対応要否の判定結果

④リスク対応

選択肢から手法を選び、実行計画を作る

対応計画書(手法 / 責任者 / 期限 / KPI)

⑤モニタリングとレビュー

対応の有効性を検証する

モニタリング報告書 / 見直し議事録

ここで見落とされやすいのが、①の手前に置かれる「適用範囲、状況及び基準」の工程です。どの範囲を対象とするか、そしてリスク基準(結果と起こりやすさをどう定め、どう測るか、どこまでのリスクなら取ってよいか)を最初に決めておきます。この基準がないまま洗い出しから始めると、部門ごとにスコアの意味が食い違い、後で並べて比較できなくなります。③のリスク評価が何と照らして判断するのかも、ここで決まります。

なお、⑤のモニタリングとレビュー、そして表に含めていない「コミュニケーション及び協議」は、順番に実施する段階ではなくプロセス全体を通じて継続的に行うものです。期末に一度だけ実施するものではありません。

進め方のチェックリストを以下に示します。

  • 着手前にリスク基準(評価の尺度とリスク許容度)を定義し、関係部門で合意している
  • リスク一覧表の粒度が部門横断で揃っている(1事業=リスク10件のみ、といった粗い状態を避ける)
  • 分析時のスコアリング根拠が定量・定性の両方で記録されている
  • 評価結果を経営層が承認するプロセスが組み込まれている
  • 対応計画にKPIと期限が明記されている
  • モニタリング頻度が四半期に1回以上で定期化されている

リスク対応の手法(回避・低減・移転・受容・取得)

リスク評価後の対応は、複数の手法から選択・組み合わせを行います。

手法

概要

選択判断の目安

具体例

回避

リスクを生む活動自体を止める

影響度・頻度ともに高く、見合うリターンもない場合

特定国からの撤退 / 事業ラインの終了

低減

発生頻度または影響度を下げる

影響度は高いが完全回避は困難な場合

情報セキュリティ対策強化 / 業務手順の見直し

移転(共有)

第三者とリスクを分担する

発生時の損失を自社で吸収しきれない場合

保険加入 / 業務委託 / 契約条項での責任分担

受容

リスクを認識したうえで保有する

影響度・頻度が共に低い、または対応コストが過大な場合

対応せず監視のみ / 引当金の設定

取得・増加

機会を追求するため、意図的にリスクを取る、または増やす

想定されるリターンがリスクに見合い、許容度の範囲内に収まる場合

新規事業への投資 / 新市場への参入

5つ目の『取得・増加』は抜けがちな観点ですが、ISO31000:2018(JIS Q 31000:2019)が明記する重要な選択肢です。同規格はリスク対応の選択肢として、回避・除去・変更(低減)・共有(移転)・保有(受容)と並び、『機会を追求するためにリスクを取る、又は増大させること』を挙げています。ISO31000がリスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義し、その影響に好ましいものと好ましくないものの両面を認めている以上、「機会を追求するために意図的にリスクを取ること」は、リスクマネジメントの逸脱ではなく正規の選択肢です。

実務では「回避か低減か」の判断で議論が長引くケースが多く見られます。ただし、これをリスクスコアの閾値で機械的に決めるのは適切ではありません。回避とは活動そのものを止めることであり、実質的な事業撤退の判断です。高リスクでも高リターンなら低減や取得が正解になり、リターンのない高リスクなら小さくても回避が正解になります。リスクの大きさだけでは決まりません。

事前に定義しておくべきは、回避と低減を分ける閾値ではなく、どこまでのリスクなら取ってよいかというリスク許容度です。これは前述の「適用範囲、状況及び基準」で決めるべきもので、ここが定まっていれば、個別の判断は「許容度の範囲内か、リターンは見合うか」という2つの問いに収束します。

リスクアセスメントの評価基準

「うちのリスクアセスメントは、担当者の主観で色分けしているだけではないか?」という疑問は、多くの企業で共有されている論点です。ここでは、評価基準を再現性のある物差しに変える具体設計を提示します。

影響度×発生頻度のスコア設計

評価の物差しをスコアとして明文化することが第一歩です。影響度・発生頻度をそれぞれ5段階で定義し、判断根拠を記録項目に組み込みます。

影響度スコアの定義例(1〜5)

スコア

財務影響

事業影響

レピュテーション影響

5:甚大

純利益の50%超の損失

中核事業の1か月超の停止

全国メディアで報道される規模

4:重大

純利益の10-50%の損失

中核事業の1週間程度の停止

業界メディアで報道される規模

3:中程度

純利益の1-10%の損失

一部事業の数日停止

SNSで一時的に拡散される規模

2:軽微

純利益の1%未満の損失

部門業務の一時停止

顧客・取引先内での認識に留まる

1:無視可

特定できない程度

業務への実質影響なし

社内での認識に留まる

発生頻度スコアの定義例(1〜5)

スコア

目安

5:ほぼ確実

年に複数回発生する / 1年以内にほぼ確実に発生

4:高い

数年に1回発生 / 数年以内に発生する可能性が高い

3:中程度

10年に1回程度

2:低い

20〜30年に1回程度

1:稀

過去に発生例なし、または50年に1回程度

優先順位マトリクスと評価シートの入力項目

スコアを掛け合わせた優先順位マトリクスで、対応要否と手法を機械的に判定できるようにします。

頻度5

頻度4

頻度3

頻度2

頻度1

影響度5

最優先(回避)

最優先(回避)

高(低減)

高(低減)

中(低減/移転)

影響度4

最優先(回避)

高(低減)

高(低減)

中(低減)

中(受容/監視)

影響度3

高(低減)

高(低減)

中(低減)

中(受容/監視)

低(受容)

影響度2

高(低減)

中(低減)

中(受容/監視)

低(受容)

低(受容)

影響度1

中(受容/監視)

中(受容/監視)

低(受容)

低(受容)

低(受容)

評価シートに含めるべき入力項目は以下の通りです。

  • リスクID / リスク事象名 / 発生源カテゴリ
  • 影響度スコア(1-5)と判断根拠(定量・定性の両方)
  • 発生頻度スコア(1-5)と判断根拠
  • スコア合計値と優先順位判定
  • リスクオーナー(部門・役職名)
  • 想定される対応手法(回避/低減/移転/受容)
  • 前回評価との差分と変動理由
  • 次回評価予定日

判断根拠を記録項目に含めるのが最大のポイントです。「なぜ影響度4と判断したか」を書かせることで、担当者交代時にも評価の再現性が担保されます。

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リスクマネジメントの体制設計と人材育成

役割分担マトリクス(経営層・リスクオーナー・事務局・現場)

リスクマネジメントを機能させるには、4つの役割を明確に分けたRACIマトリクスの設計が有効です。

活動

経営層

リスクオーナー(部門長)

事務局(リスク管理部門)

現場

リスクマネジメント方針の決定

R/A

C

C

I

リスクの特定・洗い出し

I

A

R

R

リスク評価と優先順位付け

A

R

R

C

対応計画の策定

I

R/A

C

R

対応策の実行

I

A

I

R

モニタリング報告の集約

I

R

R/A

R

委員会での意思決定

R/A

R

C

R=実行 / A=最終責任 / C=協議 / I=情報共有

このマトリクスを作らないと、「誰が何を決めるのか」が曖昧になり、有事に意思決定が停止します。特に事務局とリスクオーナーの責任分界を明文化することが重要です。

リスク感度を持った人材を育てる

体制図とマトリクスを作っただけでは、現場でリスクは発見されません。ここで問われるのが「人がリスクに気づき動ける組織」をどう作るかという設計思想です。

具体的には以下の3層で育成を設計します。

  • 経営層・リスクオーナー層:自部門のリスクを構造化して経営会議で説明できる力、有事の意思決定訓練(クライシスマネジメントのシミュレーション研修)
  • 管理職層:現場のリスク兆候を捉える観察力、部下からの報告を引き出す1on1スキル、リスク一覧表の見直しをファシリテートする力。加えて、リスク・コンプライアンス委員会での対策報告そのものを、影響度の高いリスクへの対応力を鍛える実践的トレーニングとして位置づける運用も有効です
  • 現場層:自業務のリスク発見感度、報告・エスカレーションの判断基準、生成AI等の新技術利用時の注意点。個人情報漏洩・ハラスメント・贈収賄といった個別リスクは、四半期に一度のeラーニング等で定期的にリマインドし、実施率をKPIとしてフォローアップする仕組みで底上げする方法もあります

管理職層の育成は特に投資対効果が高い領域です。現場からのリスク報告が上がるかどうかは、直属管理職が「悪い報告を歓迎するか」で決まります。指導スキル・傾聴スキルの底上げが、リスクマネジメント全体の血流を左右します。

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弊社アルーは現場のリスク兆候を捉える観察力や報告を引き出すマネジメントスキルを育成する「管理職研修」を提供しています。詳しくは以下のページをご覧ください。

管理職研修

リスクマネジメントの失敗パターンと対処

形骸化を招く3つのアンチパターン

「ISO31000のプロセスを回しても、実際にリスクが減っている実感がない」——この状態の背後には、典型的なアンチパターンが潜んでいます。原因・兆候・対処策を3列で整理します。

アンチパターン

兆候

対処策

①委員会の形骸化

議事が「今期の実施報告」で埋まり、新規リスクの議論時間が5分以下

議事フォーマットを「意思決定案件」中心に変更 / 報告事項は事前資料化 / 委員会前半30分を新規リスクディスカッションに固定

②リスク一覧表の陳腐化

一覧表の最終更新が半年以上前 / 同じリスクが5年間掲載されたまま

四半期ごとの棚卸しを義務化 / 変動理由の記録を必須項目に / 発生実績と評価スコアの照合を年1回実施

③現場の他人事化

「リスクは管理部門が見るもの」という認識 / 現場からのリスク報告が年間ゼロ件

現場評価項目にリスク発見件数を組み込む / 良い報告を表彰する制度化 / 直属管理職の傾聴力強化

アンチパターンごとの対処策

3つの中で最も根深いのは③現場の他人事化です。①②は仕組みで解決できる余地がありますが、③は組織文化と管理職のマネジメントスタイルに根ざしています。

対処の優先順位としては、まず①②を仕組みで整えたうえで、③に対して「現場が悪い報告を出しやすい環境作り」に取り組むのが現実的です。具体的には、リスク報告を評価項目に加える、管理職の1on1でリスク兆候を必ず聞く設問を組み込む、といった打ち手を組み合わせます。

リスクマネジメントを機能させた企業の取り組み事例

中堅サービス業において、経営陣から現場・組織全体までを対象に4層構造でリスクマネジメント教育を体系化した事例を紹介します。単発の研修ではなく、階層ごとに目的と手法を分けたうえで、日常運用の中に教育の仕組みを織り込むことで、リスク感度と対応力を文化として定着させた点が特徴です。

中堅サービス業における4層のリスクマネジメント教育

規模・対象者

中堅サービス業において、経営陣・マネジメント陣・全社員・組織全体という4つの層を対象に、階層別のリスクマネジメント教育を運用しています。

課題

リスクマネジメントは方針や体制図を整えるだけでは機能せず、経営陣の危機対応力、マネジメント陣のリスク感度、現場社員の個別リスクへの理解、組織全体での学習共有がそれぞれ揃わないと形骸化しやすいという課題認識がありました。単発の研修や年1回のeラーニングでは、リスクが実際に起きた際の初動や、現場での日常的な気づきに結びつきにくかったのです。

実施した施策

4層それぞれで目的と手法を分けた教育を運用しています。

1層目の経営陣に対しては、年に一度、クライシスマネジメントのためのシミュレーション研修を実施しています。海外における重大事故をテーマに、初動対応からマスコミ対応までをシミュレーション形式で体験し、専門家からのフィードバックを受ける構成としています。

2層目のマネジメント陣に対しては、年に一度の自部署のリスクの洗い出しを行うとともに、影響度の高いリスクについてはリスク・コンプライアンス委員会における対策報告を通じて、リスク感度とリスク対応力を高めるトレーニングとして位置づけています。委員会そのものが実践型の育成の場になっている点が特徴です。

3層目の全社員教育としては、四半期に一度、個人情報漏洩・ハラスメント・贈収賄などの個別リスクについて、eラーニングを通じた教育を実施しています。eラーニングの実施率は人事部のKPIとなっており、95%超になるまでフォローアップする運用を徹底しています。

4層目は組織全体を対象とし、社内で実際に起こったヒヤリハット事例を、全体会議の議事録を通じて適時共有する仕組みを取っています。個別の失敗事例が組織横断の学習資源となる設計です。

成果

リスクマネジメントの取り組みが毎年のルーチンとなり、文化として定着しています。個別リスクについての発生頻度も減少傾向にあり、階層ごとに設計された教育の積み上げが、組織全体のリスク感度と対応力の底上げに繋がっています。

設計のポイント

「教育を独立した研修に閉じない」ことが最大のポイントです。経営陣にはシミュレーション、マネジメント陣には委員会運用そのものを育成機会に、全社員にはKPIで担保するeラーニング、組織全体にはヒヤリハット共有——というように、日常のリスクマネジメント運用の中に学習の仕組みを織り込んだことで、単発の施策では得られない継続性と定着を実現しています。

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まとめ

リスクマネジメントは、ISO31000のプロセスを回すだけでは機能しません。定義・類義語との違い・実施プロセス5ステップ・4つの対応手法という基本を押さえたうえで、リスクアセスメントの評価基準を主観から再現性ある物差しに変え、体制設計の役割分担マトリクスを明文化することが第一歩です。

そのうえで最大の分かれ道になるのが、「人がリスクに気づき動ける組織」を作れるかどうかです。委員会の報告会化・リスク一覧表の陳腐化・現場の他人事化という3つのアンチパターンを避け、経営層・管理職層・現場層の3層で育成を設計することが、形骸化を防ぐ現実解になります。まずは自社のリスクマネジメントが「儀式化していないか」を、本稿のチェックリストで棚卸ししてみてください。

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よくある質問(FAQ)

Q

リスクマネジメントとBCPはどちらから着手すべきですか?

A

リスクマネジメントが上位概念で、BCPは事業中断リスクに特化した下位の仕組みです。原則としてリスクマネジメントの枠組み(リスク特定〜評価)を先に整え、その中で優先度の高い事業中断リスクに対してBCPを詳細化する順序が現実的です。ただし業種によっては先にBCPが求められる場合もあるため、業界規制や取引先要求を確認してください。

Q

リスクアセスメントの評価基準は毎年見直すべきですか?

A

スコア定義そのものは3〜5年に一度の見直しで十分ですが、個別リスクの評価スコアは四半期ごと、または重要事象発生時に見直します。定義を頻繁に変えると過去との比較ができなくなるため、定義の安定性と個別評価の機動性を分けて運用するのが実務的です。

Q

リスクマネジメント委員会が形骸化していますが、どこから手を付けるべきですか?

A

議事フォーマットの変更から着手するのが即効性があります。「今期の実施報告」中心の議事を「意思決定案件」中心に切り替え、報告事項は事前資料化して委員会前半30分を新規リスクディスカッションに固定してください。それでも改善しない場合は、委員のメンバー構成と権限範囲の見直しに進みます。

Q

リスク感度を持った人材はどのように育成すればよいですか?

A

経営層・管理職層・現場層の3層で育成テーマを分けることが有効です。特に管理職層の「現場のリスク兆候を捉える観察力」「部下からの悪い報告を引き出す傾聴スキル」の底上げが、組織全体のリスク発見力を左右します。座学だけでなく、実際の1on1やリスク議論のロールプレイを組み込んだブレンディッド設計を推奨します。

アルー株式会社
アルー株式会社
20年以上、企業向けに人材育成コンサルティングや研修を提供してきた。新入社員・管理職といった階層別研修や、海外駐在員やグローバルリーダーなどのグローバル人材育成、DX人材育成に強みを持つ。その実績は取引企業総数1400社以上、海外現地法人取引社数400社以上に及ぶ。京都大学経営管理大学院との産学連携など、独自の研究活動も精力的に行っている。

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