
育成体系刷新を進める豊田通商株式会社では、社員が自ら学び続ける土台づくりに取り組んでいます。若手社員には内省機会を通じた経験の意味づけを、管理職には学び方の次元上昇を促し、組織全体で「ラーニングアジリティ※を高める」実践を進めています。今回は、その取り組みについてお伺いしました。
※ラーニングアジリティ:新しい環境や経験から素早く学び、未知の問題に応用していく能力
-今回の育成体系刷新の中で、「学びを広げる」というテーマが出てきた背景を教えてください
淺野 今回の育成体系刷新では、単に研修メニューを見直すというより、自律的なキャリア形成も含めて社員一人ひとりが自ら学び続けられる状態をどうつくるかを重視していました。これまでも会社として必要な研修は用意してきましたが、どうしても「会社が決めたものを受ける」という意味合いが強かったと思います。そこから一歩進めて、社員自身が自分で必要な学びを得て、広げていけるようにしたいという考えが、今回の出発点にありました。今回の施策も、単独の研修としてではなく、そうした育成体系刷新全体の中で、自律的に学ぶための土台をつくる取り組みとして位置づけていました。
山邑 学びたいときに学びたいものを選べる仕組みを整えることも大事ですが、それだけでは十分ではありません。本人の中に、経験から学びを見つける感覚や、自分にとって何が学びになるのかを捉える力がなければ、制度を整えても活かしきれないと感じていました。そのため、制度の話だけではなく、その前提にある「学びそのものをどう捉えるか」に踏み込む必要があると考えました。
淺野 背景には、豊田通商として求められる役割の変化もあります。 従来はトヨタ自動車の関連会社としてグローバル展開を支える“縁の下の力持ち”的な存在でしたが、「未来の子供たちにより良い地球を届ける」というミッションの下、自ら意志を持って価値を生み出していくことが求められる中で、 日々の経験から意味を見出し、自分なりに学び続けられる人財を増やしていく必要がありました。 そうした問題意識があって、「学びを広げる」というテーマが育成体系全体の軸になっていきました。
-こうしたテーマを形にするにあたって、アルーを選ばれた理由を教えてください
山邑 今回のテーマは、「学び」というかなり抽象度の高いものだったので、既存のプログラムをそのまま当てはめるのではなく、こちらの問題意識を一緒に整理しながら、0から形にしていけるパートナーであることを重視していました。その点で、アルーは単に研修を提供する会社というより、こちらの考えを受け止めながら一緒に具体化してくれる存在だと感じました。
また「両立思考」に高い知見を持っていることも大きな魅力の一つでした。事業成長と自己成長(自己研鑽)は一見すると二者択一にも見えるが、捉え方次第で両立しうるものだ、という話は、育成体系見直しのベースとして構想してきた「豊通の成長エコシステム」と合致しており、こちらが大事にしていることにきちんと寄り添っていただきながら、提案を返してくれる安心感もありました。反応の速さや、抽象的なテーマでも一緒に言語化していけるところに、他社にはない強みを感じていました。

-若手社員向けにはどのような点を重視されましたか?
山邑 若手社員向けでは、「自分らしい学び」として、日常の業務経験をきちんと学びとして受け取れるようにすることを重視しました。若いうちはどうしても目の前の仕事をこなすことが中心になりやすく、ひとつひとつの経験を自分の成長と結びつけて捉えるところまでいきにくい面があります。うまくいかなかったことや、地道に積み重ねていることも含めて、本来は学びの材料になり得るので、そこを自分で意味づけできるようにしたいと考えました。
何か特別な機会だけが学びなのではなく、日々の仕事や人との関わりの中にも学びはある、ということを受け取ってもらうことが大きかったと思います。自分の経験を自分で意味づけできるようになると、その後の成長の仕方も変わってくる。その土台をつくることを意識して設計しました。
-管理職向けにはどのような点を重視されましたか?
淺野 管理職向けでは、「学びの深化」として、新しい知識を足すというより、自分の見方や考え方を問い直し、視座をアップグレードしていくことを重視しました。管理職の方々は、これまでの成功体験や専門性をしっかり持っている一方で、それが強みであるからこそ、見方が固定化しやすい面もあります。そこで、自分がどのような前提で物事を捉えているのかに気づき、違う視点も新たに獲得できるような内容を意識しました。
山邑 若手社員には経験の意味づけを、管理職には視座や学び方の次元上昇を促す。アプローチは異なりますが、どちらも「自分で学びを広げていけるようにする」という点でつながっています。同じテーマを、それぞれの立場や状態に合わせて設計し分けた感覚でした。
-内容を形にしていく上で、工夫された点があれば教えてください
淺野 「学び」という言葉はどうしても抽象的になりやすいので、そのままだと参加者にとって遠いテーマになってしまいます。そこで、できるだけ現場の実感に引き寄せて、自分ごととして考えられる形に落とし込むことを意識しました。本番前にはトライアルも行い、内容が重すぎないか、伝え方が指示型のメッセージと取られないかも見ながら調整を重ねました。
山邑 参加者が自分ごととして受け止められるか、日々の仕事とのつながりを感じられるかを特に重視していました。トライアルを通じて見えた反応を踏まえながら、言葉の置き方や進め方を調整していったことで、本番ではより腹落ち感を持って受けてもらえる形に近づけたと思います。

-実施後、受講者にはどのような変化や反応が見られましたか?
山邑 全体として、「学び」を単なる知識習得ではなく、もっと広く捉えてもらえた感触があります。日々の仕事や人との関わり、うまくいかなかった経験も含めて、自分にとっての学びとして見直してみようという反応が出てきたのは印象的でした。
若手社員では、自分の経験を振り返って意味づけしようとする姿勢が見られましたし、何か一つのスキルが身についた、というより、学びという言葉の定義が広がった感覚です。もっと自分の枠、可能性を広げたいという思いが高まった感があります。
高桑 「自分らしい学び」「学びの深化」いずれのアンケートでも「時間が長い」というコメントがなかったのは意外でした。特に管理職系の研修で3時間実施して「長い」と書かれないのは本当に珍しいことでした。直近のアンケートでは、特にメンタルモデルや、技術的課題と適応課題、知識やスキルを横に増やすだけでなく、視野を広げたり掘り下げたりする学びが印象に残ったという声が多く、まさに伝えたかったものが届いた感覚がありました。変革には時間も伴うので、すぐに数値に現れるような成果ばかりではありませんが、自律的に学ぶための土台づくりとしては、確かな手応えを感じています。
-特に印象に残っている受講者の反応やコメントがあれば教えてください
山邑 若手社員では、これまで何気なく過ごしていた日々の業務の中にも学びがあるのだと捉え直す声が見られました。特別な経験でなくても、自分の成長につながる視点を持てたことが大きかったのではないかと思います。
淺野 管理職では、自分がこれまで当たり前だと思っていた見方や前提を改めて振り返るきっかけになった、という反応がありました。学び方そのものを見直す良い機会になったという声もあり、そこは狙っていた部分でもありました。

-今後、この取り組みをどのようにつなげていきたいとお考えですか?
淺野 今回の取り組みは、あくまで入り口だと思っています。研修の場で一度考えて終わりではなく、日々の仕事の中でも学びを見つけ、それを対話しながら広げていけるような状態につなげていきたいです。学びが研修の場だけにあるものではなく、日常の中で自然に循環していくことが理想です。
山邑 まずは、今回やったことを着実に続けていくことだと思っています。それに加えて、MBO(目標管理制度)やキャリアビジョンに関する対話ももっと促進していきたいです。上司に対して、「自分はこういうことを学びたい」「こういう姿を目指しているから、こういうアサインをしてほしい」と言えるような対話が増えていくといいなと思っています。学べる場も拡充している中で、そこにどう人を引き寄せ、関心を持ってもらうかは今後も仕掛けていきたいです。
高桑 私としては、この研修は実務経験を積んだ方により響く内容だと感じています。「そういった方々こそ、自身の経験を振り返る意味でも早く受けた方がいいよね」と口コミで広がっていく状態になるといいなと思っています。「べき」という言葉はこの研修にはあまり合わないのですが、自然にそういう位置づけになって、みんなの自律性が上がっていくのが理想です。
-最後に、アルーは皆さまにとってどのような存在ですか?
淺野 アルーには、既存のプログラムを当てはめるのではなく、こちらの問題意識を一緒に整理しながら、抽象度の高いテーマを具体化していく伴走者のような立ち位置で関わっていただいた感覚があります。「学び」という広くて曖昧になりやすいテーマを、対話しながら少しずつ形にしていけたのは大きかったです。
山邑 0から1を立ち上げる段階で、同じ目線で考えながら進めてくれる存在だったと思います。単にサービスを提供するというより、テーマの難しさも含めて一緒に悩みながら形にしていくパートナー、という印象があります。
高桑 私たちの中では、アルーは「同志」という言葉がいちばんしっくりきています。実際に3人で打ち合わせをしていたときにも、そういう言葉が自然に出てきました。既製品をただ薦めてくる単なる研修ベンダーというより、同じ方向を見ながら一緒に形にしていく存在だと感じています。