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データドリブンな新入社員育成の未来

※本稿は、2021年5月発行の当社機関誌  Alue Insight vol.2  『2021年度新入社員レポート~データドリブンな新入社員育成~』より抜粋したものです。


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コロナ禍への対応で、OJTなどの企業内教育もオンライン化が進んでいます。それに伴い、新入社員の 様子が見えづらいなど、様々な課題が生じています。これまで以上に、新入社員の育成状況を可視化する 必要性が高まっていると言えるでしょう。アルーが提供する新入社員向けのオンボーディング・サーベイ 「自己成長力支援サービス」への関心も高まっており、第17回(2020年度)eラーニングアワードで「集合研修ICT活用特別部門賞」を受賞したほか、IEEE※1の教育工学関連の国際学会(TALE)でも発表を行いました。サービスの中核となる育成の成果のモデル開発をはじめ、様々な共同研究を行っている熊本大学教授システム学研究センター准教授の合田美子氏と、サービスの開発に携わるアルー商品開発部の須藤賢太郎に、Alue Insight編集長の中村俊介が研究の成果と今後の展望を聞きました。


※1:アメリカ合衆国に本部を置く世界最大規模の電気・情報工学分野の学会



熊本大学 教授システム学研究センター 准教授

合田 美子

熊本大学 教授システム学研究センター 准教授。Ph.D. (科学教育)。 専門は、教育工学・英語教育学。台湾・樹徳科技大学専任講師、米国・フロリダ工科大学大学院非常勤講師、青山学院大学客員研究員、大手前大学准教授等を歴任。

須藤賢太郎

アルー株式会社 商品開発部 グループマネジャー

須藤 賢太郎

青山学院大学大学院経営学研究科卒。青山学院大学総合研究所特別研究員を経て、アルー株式会社に入社。商品開発部にて、データを活用した育成プログラム開発に携わる。


中村俊介

アルー株式会社 エグゼクティブコンサルタント Alue Insight 編集長

中村 俊介

東京大学文学部社会心理学専修課程卒。営業や納品責任者などを歴任し、現在はビジネスリーダーの育成やプログラム開発に携わる。著書:『ピラミッド構造で考える技術』



産学連携の理想的な形が実現


中村俊介(以下、中村) 熊本大学と共同研究を始めて、かれこれ2年が経過しましたね。


須藤賢太郎(以下、須藤) もともと私と合田先生は、大学の研究室でつながりがあったんです。そういった縁もあり、「自己成長力支援サービス」のコンセプトを考える段階からチームに加わっていただき ました。


合田美子(以下、合田) アルーさんとの共同研究は、「産学連携」の理想的な形だと思っています。通 常学問の世界では、綿密に検証を重ねてひとつずつ 形にしていくのですが、アルーさんはスピード感がとにかく早い。「それ、もうサービスにしちゃうの?」みたいな(笑)。カルチャーショックを感じたこともありましたが、今はそれも含めて楽しんでいますね。


中村 合田先生が理論面から支えてくださっているからこそ、我々も思い切って走れるんですよ。


合田 研究者としては、ドキドキすることも多いですが(笑)。企業との共同研究はこれまでも行ってきま したが、企業内部のデータはあまり提供してもらえないので、なかなか難しいんです。 アルーさんとの共同研究がスムーズに進んでいるのは、多くの企業からのデータ提供があるからこそ。「教育をよりよくしていこう」という思いを共有したお客様に恵まれている証しだと思います。


中村 ありがたいことです。Alue Insight創刊号でも、「社外のお客様やパートナーと共振しながらありたい姿に向かっていきたい」とお伝えしたばかりですが、共同研究でもお客様と連携して探求を深めていくことができるのは嬉しいです。


合田 一緒にありたい姿へ向かおうとするアルーさんとお客様の関係性に、私は「学」の観点から貢献できればと思っています。


新入社員が自律的に成長していくために 我々は何ができるのか?


中村 改めて、「自己成長力支援サービス」とはどんなシステムなのかを説明してもらえますか?


須藤 「自己成長力支援サービス」は、新入社員が職場での経験から学ぶ力を育むことで、新入社員とOJTトレーナーの効果的な1on1面談を支援するシステムです。 まず、新入社員はシステム上で配信された質問に回答し、振り返りを実施します。 次に、OJTトレーナーも、新入社員に関する質問に回答します。(図1)質問には、新入社員自身のコンディション、能力的成長、精神的成長、育成環境に関する選択式の項目と、日々の悩みや経験からの学びを記述していただく項目があります。 これらに定期的に回答していくだけで、新入社員の内省が深まり、経験から学ぶ力が育まれます。またその回答結果をOJTトレーナーと新入社員で眺めてお互いの認識を確認しながら1on1を進めることで、深い対話が生まれます。


図1

「自己成長力支援サービス」の仕組み


中村 振り返りができるサービスは他にもありますが、ほかにどのような特徴がありますか?


須藤 確かに質問に回答して振り返りが記録されるという仕組み自体は目新しいわけではありませんが、 特徴的な機能としては、10段階で新入社員の能力的成長を判定して可視化することができる機能と、新入社員の状態にあわせてOJTトレーナーへ指導方針がリコメンドされる機能が挙げられます。また、人事担当者様からは、リマインドなどの運用が自動で行われるため負荷が掛からないという点や、一定条件でフォローが必要かもしれない新入社員をピックアップする機能などが、現場のサポートに役立つと評価いただいています。


中村 なるほど。その10段階で新入社員の能力的成長を判定して可視化することができる機能が熊本大学との共同研究の成果の部分ですね。では、次は共同研究についても詳しく教えてください。


合田 一言で言うと、「新入社員が自律的に成長していくために、我々は何ができるのか?」という問いに向き合う研究です。自ら成長していくためには、羅針盤が必要です。そこで最初に行ったのが、「新入社員の成長の5段階モデル」(図2)の研究でした。


図2

新入社員の成長の5段階モデル


須藤 この研究は、あるお客様のご協力があってはじめてできたものです。そのお客様と当社は10年以上お付き合いがあり、すでに数年かけて新入社員の振り返りを蓄積し、そのデータをもとに共に探求をしていたので、今回の研究の大きな助けとなりました。


中村 羅針盤ができると、新入社員自身も育成に関わる人も現在地を適切に把握できるようになり、成長に向けた対話がより深まりますね。


合田 そうですね。そうやってOJTの現場の皆さんのお役に立つというところが一番の意義です。また、 研究という意味でも、羅針盤が明確になったことで、今後「どんな育成の取り組みが成長に有効なのか?」 といった観点で研究を深めていくための足がかりが出来ました。


データを活かして人材育成に貢献


中村 TALEはじめ、多くの学会や論文でも共同研究の成果を発表されていますね。


合田 今回の共同研究は、アカデミックな観点からも大きな意義があると思うのです。というのも、新入社員の成長を大きな流れのなかで扱う研究はあるのですが、認知や行動などに細かく分けてどう変化していくのかを研究しているものはまだ少ない状況です。企業データが手に入りづらいという背景もあるのですが…。アルーさんとの共同研究でこれだけデータが蓄積されているので、データを活かして人材育成に貢献できればと思っています。


合田さん


中村 確かに、もちろんこのシステムの主目的は利用者である新入社員自身の成長のお役に立つことですが、 そのほかにもデータからわかることはありそうですね。


須藤 現在すでに行っていることで言えば、新入社員がぶつかる壁の発見には活用できますね。自社の新入社員が1年間成長する過程で、各時期にどんな壁にぶつかっているかをデータから読み解くことで、導入研修からフォローアップまでの研修プログラムの企画に活用できます。


中村 自社の新入社員の成長パターンもデータから明らかになりそうです。


合田 やってみたいこととしては、リフレクションデータがたまっているので、自己調整学習※2のスキルの ひとつである「自己内省」のスキルを高めるために活用することがあります。何か失敗した時に、初歩の自己調整者は、「自分に能力がなかったからだ(能力帰属)」となります。一方、上達した自己調整者は、「こう いうやり方をしたから失敗したんだ(方略/練習帰属)」と振り返ることができます。蓄積されたリフレクションデータをもとに、内省のやり方も支援できればいいなと思います。


※2:「学習者が,メタ認知,動機づけ,行動において,自分自身の学習過程に能動的に関与していること」(Zimmerman 1986)


中村 それはぜひ挑戦したいですね。内省スキルは変化の激しい時代に求められる中核スキルですから。


須藤 同感です。最近管理職を対象に、毎週リフレクションのファシリテーションをしているのですが、1ヶ月たてば内省力はかなり高まるんですよ。自分で内省 するだけではなく、ファシリテーターや周りからのフィードバックがあると、スキルも高まるし励みにもなるようです。それをシステム上でも実現できるといいですね。


須藤賢太郎


お客様と共にさらなるサービス進化へ


中村 最後に、これからのサービス進化の展望についてもお聞きしてみたいです。


合田 サービスの進化の方向性で言えば、OJTトレーナーも一緒に成長できるようなものにできればいいなと思っています。OJTトレーナーは貴重な時間を割いて新入社員の育成をしているのだから、育成することによってOJTトレーナー自身も成長できるとうれしいですよね。


中村 いいですね。OJT研修を担当していても、トレーナー自身の成長が新人育成に影響していると感じることがよくあります。


合田 トレーナーにとってもいいチャンスじゃないかな。新入社員のリフレクションをサポートする過程で、トレーナー自身に関するリフレクションもしているはずなんですよね。それを、システム上で支援できないかなと思っています。


須藤 私がやりたいのは、個別化の進化です。成長の道筋は人によって違うものだと思うので、個性や資質に関するデータと経験学習のデータをかけあわせることで、それを解き明かしたい。より一人ひとりに寄り添えるシステムに進化させていければと思っています。


中村 それはいいですね。個性によって成長のプロセスが異なるというのは経験上も確信があります。


須藤 今は新入社員が対象ですが、アルーコンピテンシー※3を活用すればその後の成長モデルも形にしていけると思うので、他の階層にも展開できるシステムにしていきたいと思っています。


※3:新入社員から役員クラスまでを8レイヤーに分類し、それぞれに期待される役割と行動をまとめたアルー独自のコンピテンシーモデル


合田 個別化で言えば、業種や企業文化での違いもありそうです。まずはひとつのモデルを作りにいきましたが、業種や企業文化によって成長の仕方も変 わってくるのならば、指標もカスタマイズしていけると いいですよね。


中村 興味深いです。もともと、お客様との探求から 始まったので、個別化についても様々な企業様と探求していくなかで、最適な方法を見つけていけたらいいですね。


合田 私は、引き続きそれらの実現を「学」の観点からサポートしますね。


中村 引き続きよろしくお願いします。読者の皆さま もぜひ探求の旅を共にしていただけたらうれしいです。本日はありがとうございました。



※本稿は、2021年5月発行の当社機関誌  Alue Insight vol.2  『2021年度新入社員レポート~データドリブンな新入社員育成~』より抜粋したものです。

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※記事の内容および所属等は、取材時点のものとなります。


アルー株式会社
アルー株式会社
20年以上、企業向けに人材育成コンサルティングや研修を提供してきた。新入社員・管理職といった階層別研修や、海外駐在員やグローバルリーダーなどのグローバル人材育成、DX人材育成に強みを持つ。その実績は取引企業総数1400社以上、海外現地法人取引社数400社以上に及ぶ。京都大学経営管理大学院との産学連携など、独自の研究活動も精力的に行っている。

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