
ビジョンは明確なだけでは足りないワケ~チームの力を引き出すビジョンを描くには
前回の記事『チームの力を引き出すビジョンを描く要件』では、いいビジョンの3つめの要件として、いいビジョンは意識の変容を含意していることについてお話しました。今回の記事では、これまでお話ししてきた、いいビジョンの要件をまとめた上で、「一般的に言われているいいビジョンの要件」との違いについて考えたいと思います。
これまでの記事で取り上げてきた、いいビジョンの3つの要件を確認しましょう。
いいビジョンの(原因的)要件
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意識の意識化の観点から、いいビジョンを構想するための要件は、この3つのみとなります。ここで、「一般的に言われているいいビジョンの要件とは違うな」という印象を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
例えば、一般的には、いいビジョンの要件として「明確であること」ということが挙げられます。これも正しい見解だと思います。それでは、一般的に言われているビジョンの要件と、上記の要件は何が違うのでしょうか?
結論から言えば、上記の要件は「原因的要件」であり、一般的に言われている要件は「結果的要件」である(ことが多い)、ということです。
いい悪いという議論ではありません。どちらもいいビジョンの要件であることには変わりありません。ただし、結果的要件だけだと「結果的にそうなっている」ということを記述しているだけなので「では、どうすればいいビジョンが描けるのか」という問いに対して答えることができないという限界があります。
これまでの記事で、いいビジョンの要件を「原因的要件」、すなわち、「意識しようと思えば意識できる、実践できる要件」に絞ってきたのは、「では、どうすればいいビジョンが描けるのか」という問いに答えるためでした。
ここで、いいビジョンの「結果的要件」についてまとめた上で、「原因的要件」とのつながりについて考察していきましょう。
いいビジョンの(結果的)要件
前回の記事『チームの力を引き出すビジョンを描く要件』でも挙げましたが、いいビジョンあるいは、いいミッションと言われる事例をもう一度見てみましょう。
いつの日か、私の4人の子供たちが、肌の色で判断されるのではなく、人格の中身で判断されるような国に住むという夢があります。 「Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです」 「包括的な金融サービスを提供することで、貧困に苦しむ人々が自らの可能性を実現し、貧困の悪循環から抜け出すことができるようにします」 |
これらの事例にも見事に当てはまりますが、一般的に言われているいいビジョンの(結果的)要件としては次のようなものが挙げられます。
いいビジョンの(結果的)要件
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「明確さ」は、いいビジョンの要件としてよく挙げられるポイントです。いいビジョンは、言語的な明快であるということにとどまらず、ありありとした3次元の立体的なイメージを湧かせます。これによって、関わる人々が共通の未来イメージをもつことができ、力を結集することにつながります。
「共通善」というのは、多くの人が「いい」と思えるような「大きな目的」を包含しているということです。実現することで、多くの人の幸せに繋がるイメージが湧くことで、多くの人の共感と協力を得ることができます。
「共感」というのは、一人ひとりがビジョンに共感することで、そのビジョンを「自分事」であると捉えることができるようになり、その人の内なるエネルギーを引き出すことができます。
そして、この3つの要素が相互補完的な関係になっていて、この全てが揃うことで、変革を推進するような大きなインパクトをもたらすビジョンになっています。
▼多くの人の力を1つの方向に結集するための「明確さ」 ▼より多くの人を巻き込むことにつながる「共通善」 ▼一人ひとりの内なるエネルギーを引き出す「共感」 |
いいビジョンを描くには結果的要件だけでは不十分
しかし、先ほど述べたように、これらの3つの要素は、確かにいいビジョンの要件ではあるものの、「結果的に」そのような要件が成立しているという感じがして、どのようにすればいいビジョンを設定することができるのかということについて多くを語ることができません。
これらの「ビジョンの結果的要件」は「ビジョンの原因的要件」が充足されることによって、自然と満たされるという関係になっています。自動的に満たされるほどの一致感ではありませんが、原因的要件を充足させることができれば、結果的要件を満たすことはさほど難しいことではありません。
では、それぞれの結果的要件が、3つの原因的要件とどのような関係になっているかについて確認していきましょう。
「明確さ」という要件については、「何か元となるイメージやエネルギーがある」からこそ、それを明確に描くということができます。「明確さ」が最初にあるのではなく、「元となるイメージやエネルギー」が最初にあります。
「共通善」という要件については、多くの人に共通する目的を掲げれば良いのかといえばそうではありません。共通善としてのビジョンを掲げていても、どこかお題目になってしまっているケースがあります。それは、前回の記事『チームの力を引き出すビジョンを描く要件』でお伝えしたような「内なるエネルギー」とのつながりが欠けていることが多いです。「内なるエネルギーと志」が両立していることが根源的には重要です。
「共感」という要件については、「内なるエネルギー」があること、「野心ではなく志」であること、そして、「意識の変容を伴う」ことの合わせ技によって、生まれてくるものです。「内なるエネルギー」からくる熱量が、人に影響を与えます。そして、「野心ではなく志」であることによって、その熱量が人を動かします。
これに加えて、「意識の変容を伴う」ことによって、一人ひとりの主体的真理との重ね合わせができる広がりや奥行きをもつことができます。現象の原因となっている意識の変容を伴っているため、結果的に現れると想定される事象に広がりがあり、一人ひとりの主体的真理との接点を見出しやすいのです。
このことによって、熱量が人を動かすだけではなく、熱量がその人の主体的真理に共鳴して、「自分ごと」となります。人の熱量によって動かされるというフォロワーシップから、自分の熱量によって人を動かしていくリーダーシップに変わっていきます。
いいビジョンを描きたいなら、原因的要件から始めよう
ここまで原因的要件が結果的要件にどのようにつながっているのかを見てきました。
原因的要件に今一度を目を向けてみると、その全てが「意識」に関わることであり、その「意識」というのは、全ての起点として「いつでも取り組み始めることができる」ことであることにお気づきいただけるのではないでしょうか。
これまでも何度かお伝えしていることではありますが、意識は現象の根源です。
現象
↓ 現象の構造・背景 ↓ 行動 ↓ 決断 ↓ 思考・感情 ↓ メンタルモデル(信念体系) ↓ 直感(主体的真理) ↓ 自己(自意識の主体) |
意識レベルでビジョンと捉えるということは、上図の下の方から上の方に向かっていくようなイメージです。現象レベルでビジョンを捉えるのではなく、意識レベルでビジョンを捉えることによって、いつでも「取り組み始めることができる」ものであり、共感・共鳴を生むインパクトを生み出し得るものになります。
既にあるビジョンが、いいビジョンかそうではないかを見極めるためだけであれば、いいビジョンの結果的要件に注目すれば良いと思います。
しかし、いいビジョンを創り出すため、あるいは、既にあるビジョンを再解釈したり再設定したりするためには、原因的要件から始めることをお勧めします。原因的要件を満たすようにビジョンを創っていき、あるいは、再解釈していき、その後で結果的要件を満たすように表現するというイメージです。
これまで、いいビジョンの要件について、結果的要件と原因的要件に分けて考察してきました。最後に、これまでの内容をまとめておきましょう。
いいビジョンの原因的要件
いいビジョンの結果的要件
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