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リーダーの資質を身につけるには~アイデンティティとビリーフの脱・再構築


目次[非表示]

  1. 1.リーダーの資質を磨きたいなら、その人の意識に着目せよ
  2. 2.①特定の意識に偏ることなく「ありのままの自分」を捉える
    1. 2.1.直感意識にどうアクセスするか?
  3. 3.②メンタルモデルの脱構築・再構築
    1. 3.1.メンタルモデルにおけるアイデンティティとビリーフとは何か
    2. 3.2.アイデンティティの脱構築と再構築
    3. 3.3.ビリーフの脱構築と再構築


今回は、リーダーの成長に必要な「一皮むける経験」において、どのような意識の使い方をするのがいいのかについてお話しします。


リーダーの資質を磨きたいなら、その人の意識に着目せよ

まず、最初に確認させていただきたいことは、なぜ意識に注目するのかということです。



現象

現象の構造・背景

行動

決断

思考・感情

メンタルモデル(信念体系)

直感(主体的真理)

自己(自意識の主体)


この図は、目の前におこる現象が起こる原因や背景には何があるかを整理したものです。例えば、行動が起こる原因となるものは決断です。決断をする原因となるものは思考・感情になります。この図において「決断」から「自己」にいたるまで、全て「意識」に関わっていると言えます。意識は、現象の根源なのです。


また、リーダーの成長の鍵は、技術課題ではなく適応課題であるということはこれまでもお伝えしてきました。適応課題とは、既存の思考様式では解決することが難しく、従来の価値観や信念の一部を変更、もしくは手放すことが求められる課題です。したがって、適応課題に取り組むということは、上記の図のメンタルモデル(信念体系)や直感(主体的真理)などを扱っていくことになります。これも、「意識」に注目する理由の1つです。


さて、ここまでの話で意識に注目するのはいいとして、どのような意識の使い方をするといいのでしょうか?

カギとなるのは、意識の自由度を高めることです。より具体的には、以前概要を述べた「3+1意識モデル」の各領域を自在に使えるようになることを指します。

意識の自由度について話をする前に、3+1意識モデルのそれぞれの意識について簡単に補足させてください。




  • 身体意識:この中でも一番わかりやすいのは、身体意識です。私たちは、五感を通じて外部からの刺激を受け取ります。この刺激を受け取っているのが身体意識です。
  • 思考意識:受け取った刺激が何かを知覚して、解釈します。例えば、空にアーチ型にかかる7色の光を「虹」として知覚して解釈をします。この知覚をして、解釈をしているのが思考意識です。
  • 直感意識:直感意識は、「ピンとくる」「インスピレーションが湧く」というときに活性化している意識です。身体で感じたり、言語化できたりするものとは限らないので、少しわかりにくいかもしれませんが、「ピンとくる」「直感が降りてくる」という経験は誰しも持っているのではないでしょうか。
  • メタ意識:メタ意識は、自分を俯瞰的にみる自分の意識です。映画の俳優としての自分を見守る、映画監督としての自分の視点となります。


このように3+1意識モデルで、自分の意識を意識化することによって、それぞれの意識の特徴や強みを活かすことができたり、特定の意識に偏らずに柔軟に物事に対処できたりするようになります。


それでは、意識の自由度を高めるとはどのようなことなのか、それがどのように精神的成熟につながるのかについて、大きく2つに分けて説明します。


①特定の意識に偏ることなく「ありのままの自分」を捉える

リーダーの成長に必要な内面の葛藤の経験とは、「主体的真理に生きることと、周囲と調和して生きることの矛盾」に向き合う経験であるということをお伝えしました。ですから、まずは主体的真理を捉えることから始めましょう。


「あなたの主体的真理はなんですか?」と聞かれたら、どのように答えますか?


実は、この質問に明確に答えられる人は限られています。また、答えられるからいいとか、答えられないからダメという話ではありません。 主体的真理を認識すること自体、簡単なことではないですし、それを言葉という限られた形式で表現することは、かなり困難なことです。

主体的真理は、3+1意識モデルの直感意識に属します。この意味をもう少しかみ砕くと、頭で考えたメリットデメリットや常識(すなわち思考意識)にとらわれることなく、自分が「本当に大切にしていること」を直感する、というイメージです

これは直感ですから、言葉ではうまく説明できないことも多いです。よって、他人にはうまく説明できないが、自分の中では深く納得している場合、主体的真理に近づけている可能性が高いと考えられます。「主体的」 真理という言葉の通り、本人の主観で納得する性質のものであり、「客観的」 真理とは対を成す概念なのです。

例えば、これまでの人生を振り返って、私の主体的真理の1つを敢えて言語化すると「本質探求による大いなるものとの一致感」、もう少し具体的に言えば「物事の普遍の法則を見つけ出す」ことでした。学生時代の物理の勉強も、今の教育研修の事業も、同じ主体的真理の上に成り立っています。

そして、なぜこの主体的真理を追求しているのかと聞かれても、言葉や論理でうまく説明することはできません。ただ、そこに自分のエネルギーがあるだけです。これが、主体的真理の性質です。


直感意識にどうアクセスするか?

直感意識によって感じられる主体的真理は、残念ながらじっと考えて見つかるものではありません。じっと考えるという行為自体が思考意識であるため、むしろ直感意識にアクセスしづらくなってしまいます

現代人は、思考意識に偏りやすい性質があります。思考意識は、言語を扱うことができるため、他者との情報の共有に長けています。ビジネスの世界では特に、説明可能性・共有可能性が重視されますので、思考意識が大切になることは頷けます。

しかしながら、思考意識による言語化や客観的分析は、固定概念を生み出しやすい側面もあります。直感意識にアクセスするためには、固定概念からいかに自由になるかが鍵です。


例えば「自分のやりたいこと」を考えるとき、思考意識を使ったアプローチでは、次のような考え方になります。



  • 外部環境を分析して、機会とリスクで判断する
  • 自分にとってのメリット・デメリットで判断する
  • 評価や年収などの目に見えやすいもので判断する
  • 他人からどう見えるかで判断する


思考意識そのものは大変有効なものです。しかし偏重しすぎると「社会人とはこうあるべき」「上司とはこうあるべき」などの「XXとはこうあるべき」といった固定概念を生み出し、本当に「自分のやりたいこと」が見えなくなってしまいます。


まず、上記のような思考意識による判断を一旦脇に置いておきましょう。そして、過去の自分の体験を振り返り、心から喜びを感じた瞬間を振り返ってみます。

主体的真理は、何をやってきたかではなく、やってきたことの「何に共鳴したか」に現れます。ただ経歴を言葉で書き出すのではなく、体験を振り返ってみてください。そうすると、私の例で言えば、物理と起業のように頭で考えていてはつながらない物事にも、自分なりのつながりが見えてくるかもしれません。そこに主体的真理、つまり、ほんとうの自分の心の声が隠れています。


合わせて重要なのが、身体意識を使うことです。身体意識を使うとは、快・不快の体感覚(≒感情)を無視しないこと。例えば、頭(=思考意識)ではメリットがあるとわかっていても、気持ちが乗らない場合、その感情を無視せずにそのまま受け止めるということです。

過去の体験を振り返るときも、感情が動いたタイミングに主体的真理が現れる可能性が高いです。身体意識からのメッセージをきちんと受け取ることで、思考意識への過度な偏重を防ぎ、直感意識の主体的真理とつながりやすくなります。


そして、これまで述べてきた直感意識・思考意識・身体意識の3つの働きそのものを意識するのが、メタ意識です。3つの意識を一次元高い場所から俯瞰し、いまどの意識が働いているか(働いていないか)をニュートラルに捉えます。

先ほども書いた通り、メタ意識は映画監督の視点に近いです。3つの意識を働かせている自分は映画に出演する俳優であり、それを映画監督として見守っているイメージです。

思考意識の固定概念に捉われることなく、身体意識の快不快を無視せず、直感意識の主体的真理とつながる。さらに、メタ意識を活用してこの3つの意識の全体を見守る。つまり、特定の意識に偏ることなく「ありのままの自分」を捉えることが、成熟に向けたスタート地点となります


②メンタルモデルの脱構築・再構築

意識を自由にして「ありのままの自分」を捉えられるようになると、結果として、自分のメンタルモデル(信念体系・価値観体系)を意識化して、柔軟に調整することができるようになります。

メンタルモデルとは、思考意識に存在する、様々な物事に対する価値観です。「自分とは?」「家族とは?」「 顧客とは?」「仕事とは?」「お金とは?」・・・あらゆる物事に対して、私たちは何らかの価値基準を持っています。


例えば「仕事とは何か?」ということを考えてみましょう。これに対する答えには様々なものが考えられます。




  • 仕事とは、上司の期待に答えることである
  • 仕事とは、お客様の期待に答えることである
  • 仕事とは、新しい価値を創造することである
  • 仕事とは、楽しいものである(辛いものである)
  • 仕事とは、お金を稼ぐためにするものである
  • 仕事とは、自分の夢を実現するためのものである



「仕事とは」というテーマを1つだけとっても、その答えがたくさんありえるように、価値観は多様です。そして、どの価値観が良いもので、どの価値観が良くないものという絶対的な基準はありません。

なぜ、価値観が大切かと言えば、私たちが何かを判断したり、何かを感じたりするときに、価値観が前提となっていることが多くあるからです。先ほどの「仕事とは」という価値観の例で言えば、「仕事とは楽しいものである」という価値観をもっている人は、上司から追加の仕事の依頼をされたときには前向きな感情を抱きやすいでしょう。一方で、「仕事とは辛いものである」という価値観をもっている人は、同様の場面においてネガティブな感情を抱きやすくなります。


メンタルモデルにおけるアイデンティティとビリーフとは何か

ここまでメンタルモデル(信念体系・価値観体系)が大切であるという話をしてきました。ここから、さらに詳細をお話ししていきます。

まず、アイデンティティとビリーフという2つの概念を定義します。自分自身に対する価値観、すなわち「自分とは何か?」を「アイデンティティ」、自分以外に対する価値観「XX(例:仕事、部下、お金など)とは何か?」を「ビリーフ」と呼びます。



アイデンティティ・・・自分自身に対する価値観。「自分とは何か?」という問いに対する自分なりの答え


ビリーフ・・・自分以外のモノ・コトに対する価値観。「XXとは何か?」という問いに対する自分なりの答え。XXには、仕事、部下、お金、などの対象となるモノ・コトが入る


ここで、なぜアイデンティティとビリーフを分けて扱うのかについて、疑問に思われた方もいるのではないでしょうか?

どちらも広義で考えれば、価値観であることには変わりないからです。アイデンティティは「自分とは何か?」についての価値観であり、ビリーフは「XX(自分以外のもの)は何か?」についての価値観という違いに過ぎません。


それでも、やはり、アイデンティティとビリーフを分けて扱うことに意味があります。

それは、アイデンティティがより芯に近く、ビリーフがより表面に近いということです。アイデンティティもビリーフもどちらも価値観という意味では同じカテゴリに入る概念ですし、相互に影響し合うという関係性にあります。その中でも、アイデンティティが因果の「因」となり、ビリーフが因果の「果」となるという構図があります。

例えば、「自分は他者に貢献することで喜びを見出す人」というアイデンティティをもつ人がいるとすれば、「仕事は、他者に貢献すること」というビリーフを持ちやすくなります。「自分は、自分の夢の実現に挑戦する人」というアイデンティティをもつ人がいるとすれば、「仕事は、自分の夢を実現するためのもの」というビリーフを持ちやすくなります。


さて、このアイデンティティとビリーフは、3+1意識モデルにおいては、思考意識に属します。思考意識は、認知して判断するという意識過程と、その前提となるメンタルモデルから構成されており、そのメンタルモデルの要素としてアイデンティティとビリーフがあるという構図になります。

アイデンティティ・ビリーフの形成過程


そして、このアイデンティティとビリーフは、主体的真理から形成される面と、過去の経験から形成される面の両面があります。別の表現をすれば、主体的真理に生きることと、社会との調和を両立させる調整弁として、私たちはメンタルモデル(信念体系・価値観体系)を自分の中に築き上げています。

そして、ここが最も重要な点になりますが、アイデンティティやビリーフは変わりうるものであり、自分で意識的に選択することができます。アイデンティティやビリーフは主体的真理から形成される面がありますから、自分が心の底から願っていることがあれば、その願いにつながったものに調整していくことが可能です。

一方で、アイデンティティやビリーフは、過去の経験から形成される面があり、例えるならば、地層の連なりや、樹木の年輪のように、誕生してからの経験の積み重ねによって形成されていますから、全てを一気に変えることは困難です。また、これまでの経験から、主体的真理に生きることと、社会との調和を両立させる最適点として、今のアイデンティティやビリーフがありますから、変えることが良いというわけでもありません。


主体的真理の社会実装におけるテンションの中で、現時点のアイデンティティやビリーフでは対応できないような矛盾や葛藤に直面する中で、アイデンティティやビリーフの変更や調整することを決断する、あるいは余儀なくされる。

アイデンティティやビリーフの変更や調整を、登山で例えるならば、その場で登る道を変更するというイメージではなく、一度下山してから別のルートで登り直すというイメージに近くなります。一度「手放してから」、「新しいものを試着する」というイメージになります。それを、アイデンティティやビリーフの脱構築と再構築と言います。


このアイデンティティやビリーフの脱構築と再構築を繰り返した結果として、精神的成熟の段階が進んでいるように見え、「リーダーとしての器がひろがった」と言われるようになります


アイデンティティの脱構築と再構築

ここからは、私自身が社長としてうまくいかなかった時期の話を例に説明していきます。


意識の自由度が高まると、主体的真理につながることができ、快不快の感情にも気づくことができるようになりますので、自分の内面と外面の不一致やギャップ、捻れのようなものを感じやすくなります。

そして、自分の思考意識にあるメンタルモデルを自覚化する、喩えるならば、自分がかけているメガネを自覚することができると、アイデンティティやビリーフの脱構築・再構築の準備が整いつつあると言えます。


私の例で言えば、元々の社長としてのアイデンティティとして、




  • 社長とは強くなければならない
  • 社長は自分ひとりで決断できなければならない
  • 社長はわからないことがあってはいけない
  • 社長は、自分のエゴは捨てなければいけない



と考えていました。考えていたというよりも、無意識にそういうものだと思っていた、というニュアンスに近いかもしれません。

うまくいかないことが増え、周りの社員も離れていき、さらに独りよがりになっていく悪循環に陥ってしまいました。独りよがりになってしまった根本的な原因は、上記の「社長たるもの」の固定概念だったのです。

転機となったのは、社員がプレゼントしてくれたコーチングセッションです。後から解釈すると、自分をメタ的に捉え、主体的真理を見つけるきっかけになったのです。

数年の時間をかけて、自分の主体的真理は「普遍的な真理の探究」であること、そして、アルーの社長としてやりたいことは「人の可能性を拓く源泉をつくる」ことだと気付きました。そして、これを実現するためには、「社長たるもの」の固定概念は全く必要ないことに気付き、自然に外れていきました。(アイデンティティの脱構築)


このようなアイデンティティの脱構築が進むにつれて、次のようなアイデンティティの再構築が起きました。




社長であっても・・・

  • 弱さを見せていい
  • 社員と一緒に決断してもいい。むしろ、一緒に決断した方がいい。
  • わからないことは周囲に聞けばいい
  • 自分のエゴがあってもいい(うまく付き合う必要がありますが・・・)



周囲の人から距離を置かれることは少なくなっていきました。実際に、若手社員からは「よそよそしく見えなくなった」と言われたこともあります。

私自身の現時点の社長としてのアイデンティティは次のようなものです。これは、意識の意識化について探求する中で、自分のアイデンティティについて言語化してみようと思い立った時に、たどり着いた表現です。少し大げさな表現になっていますが、自分の中ではしっくりきているので、そのままにしています。




  • SDG4・教育の民主化(全ての人に質の高い教育を)を実現する教育インフラを構築する生態系の主体的存在として生きる
  • 社員がそれぞれの主体的真理に生きることをサポートすると共に、会社が自然なる全体性を体現することに身を委ねる



まとめると、意識を自由にすることで、自分で勝手に思い込んでいた「社長としての固定概念」から解放されました。そして、素に近い自分を出しながら、社長としての立場も全うするという、より自分らしい社長のカタチに近づくことができたのです。

ビリーフの脱構築と再構築

アイデンティティが変わると、ビリーフも変わっていきます。アイデンティティが変わる前の私は、次のようなビリーフを持っていました。




  • 社員とは守るべき存在
  • お金とはビジネスや生活が成り立つために不可欠なもの
  • コミュニケーションとは情報伝達すること
  • 顧客は、課題解決のニーズをもつ存在
  • ビジネスとは、自分の夢を実現するための手段



このようなビリーフは、「社長としての強く完全な自分」というアイデンティティから派生しています。このように書くと、これらの価値観はエゴの要素が強いことがわかると思います。私自身の勝手な「社長とはこうあるべき」という思考によって、周囲の人からすると、「コントロールされてしまう」感覚を持ってしまいます。


アイデンティティの再構築と共に、ビリーフも再構築されていきました。こちらは、アイデンティティの言語化と同じタイミングで、ビリーフを言語化してみたもので、その一部を記載します。




  • 社員とは、それぞれの主体的真理を生きながら、生態系を共同創造する仲間
  • ビジネスとは、自己が主体的真理に生きると共に、仲間や周囲の人の主体的真理と重ね合わせて、生態系を構築していくストーリー



ここまで、アイデンティティとビリーフの脱構築・再構築という話をしてきましたが、最後に注意点をいくつか述べたいと思います。


まず、アイデンティティやビリーフには、正解や不正解というものはありません。自分にとってしっくりくるか、こないか、という話になります。

また、アイデンティティやビリーフの脱構築や再構築は、「目指すべきこと」「やるべきこと」ではありません。あくまでも、主体的真理につながったときに、必要に応じて「おこるもの」と捉えるのがちょうど良いと思います。主体的真理につながらずに「やるべきこと」という考えからスタートしてしまうと、変化のプロセスを経るエネルギーが続かずにうまくいかなくなります。

そして、アイデンティティやビリーフの再構築は価値観の転換を意味しますから、一朝一夕に変えることは難しいですし、やろうとするべきことでもありません。少なくとも数年単位で徐々に進むことが大半です。

価値観とは、いまの自分が寄って立つ土台のようなものですから、手放すのは非常に勇気がいることです。そこに踏み出すための自分のブレない軸として、主体的真理とのつながりが必要という解釈もできると思います。

落合文四郎
落合文四郎
アルー株式会社代表取締役社長

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