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リーダーの精神的成長を促す成人発達理論~矛盾との葛藤を乗り越えて


目次[非表示]

  1. 1.精神的成熟とは、ジブンと周囲の矛盾の両立
  2. 2.成人発達理論における成長の4つのステップ
  3. 3.成熟が進むと「器が広がる」
  4. 4.成人発達理論は “どうすれば成熟できるか” の詳細までは教えてくれない
  5. 5.精神的成長には、矛盾に葛藤する経験が必要
  6. 6.矛盾との葛藤を乗り越える共通のストーリー
    1. 6.1.ジョセフ・キャンベルの「英雄の旅」
    2. 6.2.禅の「十牛図」
  7. 7.人の内面の葛藤とその克服というストーリーが示す人間の精神的成長のあり方


人の価値観が変わるのはどんなときでしょうか。私は、人の精神(内面)が成熟することと、価値観の変化は同時に訪れると考えています。今回はこの「精神的成熟」について述べていきたいと思います。


精神的成熟とは、ジブンと周囲の矛盾の両立

最初の記事「経営とは何か~アルー代表が語る経営哲学」で「経営とは矛盾の両立」と述べました。矛盾はジブン・コト・ヒトの3つの領域で常に発生しています。

経営とは

様々な矛盾の解決の起点は、ジブンに関することです。そして、ジブン領域の矛盾を両立していくこと(止揚・アウフヘーベンすること)が、精神的成熟であると言えます。


ジブン領域の矛盾とは、自分の内面と、自分の外面となる周囲の人々やビジネスの現実との間の矛盾です。自分がやりたいことと、周囲の人々がやりたいことのギャップや、本来のありたい自分と、本来の意図に反して振る舞ってしまう自分とのギャップなどが挙げられます。

私たちは、ジブン領域の矛盾を両立しながら大人になっていきます。例えば、プロ野球選手やプロサッカー選手になりたいという夢を持った小学生。このような夢を持つ子供たちは多いですが、実際に夢を叶えられる人はごく一部です。つまり、多くの人が、自分の夢と、実力・環境・運などに影響を受けた現実とのギャップに直面するのです。

このとき、夢に固執して現実を無視する、場合によっては逃避してしまうのは、精神的に成熟していない人の行動です。また、夢を捨てて、現実に沿った形でのみ生きるというのも、精神的に成熟していない人の行動になります。そのどちらでもなく、自分が固執していた夢を手放しながらも、新たな夢を見つけながら、自分の得意なことや、周囲から求められることと調和させていくのが、成熟に向けたステップです。

そして、このプロセスの中で、最初は自分だけの中に閉じた夢であったものを、周囲にもいい影響をあたえるような、より大きな夢に発展させていったり、周囲の人と夢やヴィジョンを共有したりすることが成熟につながります。自分のためだけの夢を「野心」とよび、自分だけではなく周囲の人のためにもなるようなものを「志」とよぶならば、最初は野心であったものが、志に変わっていくということも精神的な成熟の大切な要素になります



野心:自分だけの中に閉じた夢であり、自分のためだけの夢

志:自分だけではなく周囲の人のためにもなる夢


成人発達理論における成長の4つのステップ


精神的成熟をより俯瞰的に理解する上では、成人発達理論が役に立ちます。成人発達理論とは、人間の成人以降の成長・発達に焦点をあてた心理学の理論です。人の知性・意識は段階的に成長していくとする点に特徴があります。


次の図は、成人発達理論における意識の成長段階を説明したものです。ここでは、意識の成熟の4つの段階について、大枠を説明します。



①利己的段階
沸き上がる衝動や欲望が自分自身という世界観。欲望をストレートに表現することで周囲を動かそうとする。
例えば、お菓子がほしいときに泣くことでそれを叶えようとする。




②環境順応型知性
周囲との関係性や周囲への成果で自分を定義する世界観。周囲から期待されている自分と、自分自身(エゴ)の両立を図る。
例えば、親の期待に応えることによって(例:習い事をちゃんとやる)、お菓子をもらえるように振舞う。
①利己的段階では、自分の欲望をストレートにぶつけるだけではうまくいかない(お菓子を我慢しなさいと怒られる、友達とうまく関係を作れない、等)現実に直面することになる。そこで「周囲の期待を満たす」という方策により、現実との両立を図っている。



③自己主導型知性
自分自身を超えた「本当に大切なもの」に従って行動する世界観。自分の信じる理想に従って、現実を変えていくことで両立を図る。
例えば、誰かから具体的に期待されていないとしても、組織のビジョン実現に向けて、周囲の人を巻き込み行動していく。
②環境順応型知性では、周囲の人がまだ期待していない・気づいていないものは実現できなくなる。例えば、本当はやるべきことを、周囲の人が目先の仕事に捉われて手伝ってくれない場合に、行動できなくなってしまう。そこで、あるべき理想を拠り所とし、たとえ周囲が反対したとしても、理想を発信し、周囲の期待を変えていくことで、両立を図っている。



④自己変容型知性
自分の掲げる理想すら一定のものではなく、変化する器が自分自身という世界観。世界と自分の境界が薄くなる、自分は「無」である、とも言い換えられる。これから起ころうとする未来を感じ取り、現実との両立を図る。
③自己主導型知性では、あるべき理想を拠り所とするが、それ自体はその人の内面から出てくるものであるため、周囲を動かす際に孤立する場面も出てくる。そこで、自分の掲げる理想すら可変のものと捉え、世界との共存を図る。


以上が成人発達理論で考える4つの意識段階です。先ほど、精神的成熟とはジブン領域の矛盾の両立と述べましたが、より正確に定義するならば、精神的成熟とは、本来の自己と周囲・社会との調和という矛盾の両立に向けた段階的な変容と言えるでしょう。


成熟が進むと「器が広がる」

意識の段階一つひとつも大変奥深いのですが、今回は各段階の深掘りはあえてせずに、成熟という現象自体の重要な点をお伝えすることに絞りたいと思います。それは、その意識段階では両立できないものを両立しようとするときに、意識が次の発展段階に移行する(=精神的成熟が一段階進む)ことです。

このとき、結果として起こる最も根本的な変化とは、ジブンと捉える範囲が広がるという現象です。自分は文字通りの自分でしかないと閉じていたのが、周囲も含めて自分と捉えられるようになるのです。

成熟している人は、「外部との調和が自分の喜び」と認識しています。そして成熟が進むほど、この「外部」の範囲が、身近な周囲の人(家族や親友など)⇒自分が所属する身近なコミュニティ(近隣の地域など)⇒より大きなコミュニティ(会社や学校など) ⇒ 地球システム全体、と広がっていきます。

別な見方をすれば、成熟するほどエゴが弱まり器が広がる、と表現することもできるでしょう。リーダーは様々な人たちとかかわっていきます。かかわる範囲が増えたとき、リーダー自身のエゴが強ければ、共鳴する人は限られてしまいます。リーダーは多くの人を巻き込む立場であるからこそ、精神的な成熟が必要になります。


成人発達理論は “どうすれば成熟できるか” の詳細までは教えてくれない

さて、成熟に向けて意識を段階的に発展させることの意義をお伝えできたかと思いますが、これはあくまで意識の発展段階の結果を類型化したものであって、プロセスには言及されていません。

意識段階の移行は、知識や技術で解決できないのはもちろん、「XX段階的に振舞おう」といった態度で解決するものでもありません。意識の段階は、その人のモノの見方/生きる上での「世界観」のようなものです。実際には、後になって「XX段階にいたのかな」と気づく形で、いつの間にか移行していることが多いのです。

しかも、実は意識の段階を移行するには、少なくても数年、場合によっては10年単位の時間がかかることも珍しくありません。

意識の発展段階の類型を理解したところで、実際にどうすれば移行できるのか、直接的な答えを教えてくれるわけではありません。だからといって無意味というわけではなく、自分の意識構造の現在地を知るという点において、意味があると個人的には思います。

では、成熟していくにはどうすればよいのか。この具体的なプロセスについてここからお伝えしていきたいと思います。


精神的成長には、矛盾に葛藤する経験が必要

リーダーの成長の多くは「経験」から生まれると言われます。リーダーシップ研究の調査機関である米国ロミンガー社は、リーダーの成長の70%は経験、20%は他者からの薫陶、10%はトレーニングと言っています。他者からの薫陶やトレーニングなどの要素もあるものの、経験がリーダーを育てるということについてはみなさんも実感値に合うのではないでしょうか。


それでは、何らかの経験を積んでいればリーダーは成長するのか?と言えば、必ずしもそうではないことがわかります。皆さんの身の回りでも、経験を積むことで成長していくリーダーもいれば、経験は積んでいるけどあまり成長できていないリーダーも思い浮かぶのではないでしょうか。

上記で、精神的成熟とは矛盾の両立に向けた「段階的な変容」であると述べました。本来の自分と周囲との調和をする中で、生じる矛盾に対して向き合い、その矛盾を統合していく過程において価値観レベルの変容が起こります。

ですから、精神的成熟につながる経験とは、「矛盾に葛藤する経験」である必要があります本質的にはどのような矛盾かといえば、「主体的真理に生きることと、周囲と調和して生きることの矛盾」であると言えます

平たく言えば、「自分のありたい姿と現実の矛盾」「自分のありたい姿と、周囲のありたい姿の矛盾」「自分のありたい姿と会社から期待されるあるべき姿の矛盾」ということになります。

このような「矛盾に葛藤する経験」は、それを克服することができると、精神的成熟=器の広がりや人間力の高まり、を伴いますので、「一皮むける経験」と表現されることもあります。



リーダーとしての成長(の根幹)

精神的成熟を伴う成長

器の広がりや人間力の高まり

価値観レベルの変化を伴う成長

技術課題ではなく、適応課題への対応を伴う成長




リーダーとしての成長を促すために必要なこと(の主要なもの)

一皮むける経験

矛盾と葛藤する経験

「主体的真理に生きることと、周囲と調和して生きることの矛盾」

に向き合う経験



矛盾との葛藤を乗り越える共通のストーリー

私自身、起業をしてから、矛盾と葛藤する経験を乗り越えながら今に至ります。その中でも大きかったものとしては、「多額の個人保証を抱えながら、最後は自分でやるしかないと一人で背負いこんで生きようとする自分」と、「周囲と調和しながら、一人一人の思いを紡いで、チームとして価値創造したいと思う自分」との矛盾でした。


矛盾との葛藤に向き合っていく中で、その時々の矛盾の内容が違っていても、それぞれの矛盾との葛藤を乗り越えるストーリーには共通のものがあるなと思い始めてきました。

そのときに出会ったのが、ジョセフ・キャンベルの「英雄の旅」と、禅の「十牛図」です。


ジョセフ・キャンベルの「英雄の旅」

「英雄の旅」は、神話学者ジョセフ・キャンベルが、世界各地の神話を研究する中で、神話には共通するパターンがあることを発見したものです。そのパターンとは、大まかに言えば、冴えない現実にいる主人公が、未知との遭遇の旅にでかけて、メンターや仲間からの支援を得ながら、幾多の試練を乗り越えて新しい力を獲得していき、旅の終盤で最大の試練を克服することで栄誉と栄光を手に入れ、元の場所に新しい自分として還ってくるというものです


英雄の旅(出発フェーズ)

英雄の旅(冒険・探求フェーズ)

英雄の旅(帰還フェーズ)


この「英雄の旅」は、神話において共通しているストーリーの原型というだけではなく、ヒットした映画のストーリーの原型としても活用されていると言われています。例えば、ジョージ・ルーカスが、スターウォーズのストーリーを考える際に、英雄の旅を一部参考にしたというエピソードがあります。

禅の「十牛図」

もう1つの「十牛図」は、中国の栄の時代における禅の入門書です。一匹の牛が登場しますが、普段はおとなしいけれども暴れ出すと凄い力をもつ牛を、人の心に喩えています。牛を見つけて、牛を飼い慣らして、牛と一体化していくプロセスを記述することで、悟りに近づく道を示したものです。

十牛図①

十牛図②

十牛図③



人の内面の葛藤とその克服というストーリーが示す人間の精神的成長のあり方

どちらにも共通しているのは、「(本質的には)人の内面の葛藤を描いており、その葛藤を克服するプロセスを記述している」ということです。


「英雄の旅」においては、試練の場面にでてくるものは、主人公とは別の怪物であったり、悪者であったりしますが、それが本質的に描写しているのは、主人公の内面です。主人公の内面における葛藤を、主人公と悪役との対決という形で描写しているのです。


「十牛図」においても、内面の葛藤を、牛(=自分のこころ)を探して、見つけて、手なづけて、一体化するというプロセスで描いています。


なぜ、矛盾との葛藤を乗り越えるストーリーについての話をしているかと言えば、このような共通ストーリー、あるいはストーリーの原型というものをイメージしておくことによって、内面の矛盾の葛藤と向き合いやすくなるからです。

「自分は、XXというテーマの旅路にいて、次は△△という展開が待ち受けているのだろう」、というようなイメージで、心の準備をすることができます。「なんで、こんなことが自分に起こるのだろう?」とパニックに陥るリスクを軽減することができます。

内面の矛盾と葛藤するときには、その矛盾と葛藤している映画俳優としての自分と、その葛藤を見守っている映画監督としての自分の2つの自分を意識するのがよいということを以前お話しました。

「英雄の旅」や「十牛図」をイメージすることによって、ストーリーの俳優・主人公としての自分は、よりストーリーに没頭できるようになり、ストーリーの監督としての自分は、より俯瞰的に、落ち着いて、そのストーリーの成り行きを見守ることができるようになります。

その結果として、主人公として葛藤するプロセスは、より深く、より芳醇な経験となり、監督として葛藤を見守るプロセスは、より落ち着いて、より確信をもったものになるのです。


このようなストーリーの原型をイメージするもう1つの利点は時間軸にあります。成人発達理論で記述されている精神的成熟の段階の変容が起こるには、数年単位、場合によっては10年以上かかる場合もあるというお話をしました。

人の感覚はそれぞれではあるものの、数年単位・10年単位の成長というのは、日々意識するには、長すぎるように私は思います。成人発達理論で記述されている段階が無意味と言っているのではありません。精神的成熟の全体を示す地図としてとても有効ですし、その中で自分の意識の現在地点を知るという意義が大きいと思っています。

ただ、先ほどお伝えした通り、成人発達理論の発達段階は、日々意識するには、時間軸として少し長すぎるのではないかという課題意識を私は持っています。そのようなときに、「英雄の旅」や「十牛図」という共通ストーリーは、時間軸として数ヶ月から数年として捉えることができ、「XXというテーマの旅路にいて、次は△△という展開が待ち受けている」というイメージを持ちやすいのではないかと思います。

(「十牛図」については、「1つ目の「尋牛」から7つ目の「忘牛存人」までのプロセスは数ヶ月から数年と捉えることができると思っています。8つ目以降については、時間軸では語りきれない要素があるように思います。)


この記事では、リーダーが精神的に成熟するためには、内面の矛盾と葛藤する経験が必要であるということと、その葛藤のプロセスについて、ストーリーの原型を意識しておくことで、乗り越えやすくなるという話をしました。

落合文四郎
落合文四郎
アルー株式会社代表取締役社長

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